見出し画像

何気ないまた明日を願って-『鬼滅の刃』より

好きな人や大切な人は漠然と明日も明後日も生きてる気がする。それはただの願望でしかなくて、絶対だよと約束されたものではないのに。人はどうしてか、そう思い込んでしまうんだ。

大切な人が笑顔で天寿を全うするその日まで幸せに暮らせるよう、決してその命が理不尽に脅かされることがないよう願う。例えその時自分が生きてその人の傍らにいられなくとも、生きていて欲しい。生き抜いて欲しい。

俺たちは仲間だからさ、兄弟みたいなものだからさ、誰かが道を外しそうになったら皆で止めような。どんなに苦しくてもつらくても、正しい道を歩こう。

好きな食べ物は何?好きな色は?そんな誰かの話を聞くのが好き。人生は物語だから、僕の人生は僕が主人公の僕だけの物語。百年前も二百年前も千年前だって、人の数だけ物語があったんだ。僕の家族にも、僕の知らない人にも、きっとたくさんあったんだよねぇ。

きっと義勇さんは自分が死ねば良かったと思っているんだなあ。痛いほどわかる。自分よりも生きていて欲しかった大事な人が、自分よりも早く死んでしまったり、それこそ自分を守って死んだりしたら、抉られるようにつらい。

昨年大ヒットした鬼滅の刃。アニメ漫画映画その全てで老若男女を魅了し、グッズも爆発的な売り上げを誇った。
その多種多様なキャラクターだけではなく、鬼になってしまった自分の妹を人間に戻すために、主人公が鬼狩りである鬼殺隊に入隊して、身近な人の死を痛いほど経験するその過程こそ、この作品の魅力である。
彼が出会う周りの人も、それぞれに大事な人を喪くし、過ちを犯し、暗い過去を抱えている。
もしあの時別の行動をとっていたら。もしあの時もっと自分が強くて鬼に立ち向かえる存在であったなら。そういう後悔の念を抱えて生きている。
これは主人公と敵対する、数え切れないほどの人間を喰らってきた鬼にも当てはまる。
鬼殺隊と鬼。守る側と喰らう側。立場は違えど、行くべき道を誤っていても、根本的な人間の悲しみは一緒なのである。
だからこそ、主人公たちは、鬼たちの気持ちを揺り動かし、彼らは最後には優しい気持ちで、思いで、成仏することができるのである。
一つ一つの巻に作者が紡いだ言葉が思いが散りばめられていて、今、私は本当にジャンプ漫画を読んでいるのだろうか、ベストセラーの感動小説を読んでいるのではないか、そう思わざるを得ない。
私が主人公の立場であったなら、自分が自分でなくなって、どうやって生きてゆけばいいかわからなくなるのだろう。
漫画でこれだけ「もし自分が」と考えさせられる作品に出逢えて、心の底から良かったと思う。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?