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冬のアサガオ 10

突然だった。
突然と事で訳が分からなかった。
ただ、朝凪が倒れた。その時僕は何も出来ず、ただ立ち尽くしていた。
その間、佐々岡が救急車を呼び周りに助けを求めた。

しばらくして朝凪の様態が回復したとの報告を受け、
佐々岡、武林と共に病院へ向かった。

神田「朝凪!」

朝凪「あ、神田くん。それに、芽久里と武林君も。お見舞い、来てくれたの?」

佐々岡「あんた、体調は?」

朝凪「うん、もう大丈夫。何ともないよ」

武林「いやー、急に倒れたって言うからよ、ビックリしたよ。何事もなくてよかったぜ、ホントに。」

朝凪「心配かけてごめんね」

神田「朝凪……」
朝凪「神田くん……」
神田「ごめん、俺、朝凪が倒れた時、なにも……出来なかった。ただ立ち尽くして、佐々岡が全部対応してて……俺……」
朝凪「気にしないで。今こうやって普通に話せてる。神田も、ありがとうね。」

朝凪はいつものように落ち着いた喋り方で、心配をかけないようにしていたのが分かる。

武林「これ!お見舞いのフルーツ買ってきたから、また余裕が出来たら食べてな」
朝凪「あ、ありがとう。武林くん。」
佐々岡「じゃ、私たちもう行くから。早く治しなよ」
朝凪「うん。ありがとうね。」

病室を出ようとした時、朝凪の祖母であろう人が入ってきた

朝凪祖母「あら、沙耶のお友達?芽久里ちゃんもいるね。男の子二人は、前に沙耶が言ってた子かい?」

佐々岡「あ、おばさん、お久しぶりです。」
神田 武林「こ、こんにちわ」

朝凪「あ、おばあちゃん。ごめんね、忙しいのに」
祖母「いいんだよ。あ、そうだ。」

朝凪のおばあちゃんが少し深刻そうな表情をした後、佐々岡を病室の外に呼び出した。

なんだろう。少し気になるな。

しばらくした後、佐々岡が戻ってきた。
その時の佐々岡の表情に、寂しさを感じた。

佐々岡「沙耶、私たちもう行くね。2人とも、行くよ。」

神田「あ、ああ。」

その後、3人で病室を出たあと佐々岡は僕を呼び出した

神田「なんだよ。」
佐々岡「沙耶がね……」

その佐々岡の悲しげな表情で、これから何を言うのか何となく察することが出来た

佐々岡「あと、2年だって。」
神田「あと2年…それって……」
佐々岡「うん、沙耶があと生きていられる時間」

「……そっか。」

朝凪の残された時間があと2年。
高校3年生の夏頃……

朝凪はきっとこの事を知らない。
本来ならば残り残された時間は3年間。

1年も減ってしまったことなんて伝えてしまえば、朝凪の気持ちは計り知れない程、辛くなるだろう。

今の僕達には何が出来る。
今の僕が、朝凪に出来ること。
考えて導き出さなければならない
朝凪が、満足して、楽しんで残りの人生を歩めるように


武林「よ、よお2人共。話し終わった?」
神田「うん、もう終わった。待たせて悪かったな。」

武林「……なぁ倫也。なんか隠してるか?」
神田「……え?」
武林「お前のそんな顔みたら、誰でも察せるっての。朝凪の事だろ?まぁ、今まで俺に言ってきてない事だから、きっと俺にも言えない事なんだと思う。深く聞いたりしないよ」
神田「武林……」

武林「まぁ、いつかまた話せる日が来たら話してくれよ。そんときは力になるからよ」
神田「……ありがとな。」

あれから3日が経った。

僕は1人で朝凪のお見舞いに向かった。

病室の扉をノックしたが、返事がなかった。

神田「朝凪?入るぞ?」

朝凪が寝ていた。
病室から差し込む太陽の光が、朝凪の寝顔を光らせていた。

……綺麗だ。

思わずそう呟いた。

朝凪「ん、んん……」
神田「ごめん!起こしちゃった……」
朝凪「あ、神田くん……来てくれてたんだ」
神田「あぁ、体調はどうだ?ゼリー買ってきた。」
朝凪「嬉しい、ありがとう。体調はもう回復したよ。もうそろそろ退院できそう」
神田「そっか、良かった。」

朝凪「……神田君。おばあちゃんから何か聞いた?」
神田「え?」

反応に困った。
正確には佐々岡から聞いた話だが、この話を朝凪が知っているのかすら分からないし、知っていると伝えれば、朝凪は僕に気を使ってしまうだろう

神田「……いや、特に何も。」
朝凪「そう。」

太陽が雲に隠れた。その瞬間が朝凪の心を表しているようだった

朝凪「私ね、何となくわかるの。自分の寿命が少しづつ近づいている感じ……」
神田「そっか、」
朝凪「ごめんね、こんなこと話して。なんか自分が自分じゃないみたい。最近すごく不安で怖いの」

この時、僕はどんな言葉を掛けるのが正解なのか分からなかった。
自分の命の終わりが近づいているのに
慰めや同情などしても何もいい結果は生み出せないし、いい言葉をかけられるほど、僕は頭は良くない。

だからこそ出た言葉だと思う

神田「人は誰でも死ぬのは怖いよ。いつ死ぬか分からないし、死が近づく事を実感してしまえば、不安にもなると思う。でも不安や恐怖を感じている時間は物凄く勿体ないと思う」

朝凪「神田くん。うん。そうだよね。不安になってても結局死んじゃうし、悩んでても意味ないよね」
神田「ち、違うよ!そんなつもりで言ったんじゃ!」
朝凪「ふふ……あはは!ごめんごめん冗談。ちょっとからかっただけ。要は、人生楽しまなきゃって事だよね」

神田「……うん。まぁ、そういう事。」

ふと朝凪のベットの横を見ると、アサガオが置いてあった。
朝凪「あ、これ?おばあちゃんが持ってきてくれたの。そろそろ夏も終わるのに、なんでだろうね」
神田「さぁ。どうだろ。きっと朝凪が一番好きな花だからだよ」
朝凪「ふふ……そうだね」

もうすぐ夏が終わる。まだ残暑が残るが
少し涼しさを感じられる9月中旬に入った。




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