全179話!名作ばかりの宝の山「Uボー」/ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品⑭

これまでもちょっぴりマイナー(もしくはかなりのマイナー)な藤子作品で、とりわけ幼児向けの作品を記事にしてきたが、今回はその中でも完成度が高いのに、ほとんど世に知られていない名作を取り上げる。

その気になるタイトルは「Uボー」。なんと週刊連載で3年半、オールカラーで、全179話も描かれているが、これまで一切単行本化されてこなったので、知る人ぞ知る作品に留まっている。

知名度が低い原因の一つには、連載媒体がある種マニアックだからである。本作は「毎日こどもしんぶん」という子供向け週刊新聞に、創刊号から連載された。「毎日こどもしんぶん」は、歴史ある「毎日小学生新聞」の弟妹版として発行されたもの。

本紙は変型のタブロイド判で、毎週土曜日に発行されていた。読者層は幼稚園の年長組から小学二年生ぐらいまでを想定したとされる。毎週、見開き2ページのやや大きめの原稿だったらしい。


「毎日小学生新聞」と聞いて、おっと思った方は藤子通。藤子不二雄のコンビで初めて連載を持ったのが本紙・大阪版の「天使の玉ちゃん」であった。手塚先生が描いていたマンガが終了したので、その代わりと言うことで二人が頼まれもせずに原稿を送ったという伝説の作品・媒体である。

「毎日こどもしんぶん」の創刊にあたり、こうした歴史的事実を知っていた編集者(加藤嘉明氏)が、おそらく引き受けてくれるはずだと考えて、藤子先生に原稿依頼をしたという。

なお、「毎日こどもしんぶん」は2000年に廃刊になっている。「毎日小学生新聞」は健在である。


「Uぼー」
「毎日こどもしんぶん」1976年3月27日付~1979年8月25日付

本作の内容面での概要をまとめてみる。

主人公となるUボーは、おしゃべりなUFO型の生物(ロボット?)で、変形すると車輪のついた一本足で直立移動することができるようになる。平凡な少年・天川進(すすむ)とUボーが出会って、一緒に暮らすことになる。

他にもしずちゃんの立ち位置となる若山まり子、ジャイアン的なガキ大将ゴンタ、スネ夫に該当するダンゴなどもしばしば登場してくる。ただ、多くても25コマ程度の作品なので、すすむとUボー以外の登場シーンは少な目かもしれない。

Uボーは空を飛んだり、壁を透視したりする特殊能力と、大きな口から取り出す不思議な道具を使って、すすむと遊んだり、すすむを助けたりする。元来、おっちょこちょいな性格なようなので、失敗も多いのは、いかにも藤子キャラクターという感じだ。


では、具体的にどのようなエピソードが展開されるのか。超短編とは思えない作品の密度を是非とも感じて欲しい。

『円ばんはともだち』1976年3月27日付

せっかくなので、まずは初回については詳細に見ていく。本作は3段組見開き2ページで構成されているが、よく見るとそれは初回のみ。2話目以降は4段組となっており、何らかの理由で変更となった模様。なので、本作はコマ数が二話目以降よりも少な目となっている。

冒頭、主人公のすすむとまり子、ゴンタに、ダンゴがハイキングに行った時に撮ったという空飛ぶ円盤の写真を見せる。羨ましく思ったすすむは、自分も円盤の写真を撮ろうと夜更かしすると、ママに「いるわけない」と叱られる。

パジャマに着替えて寝る準備を始めると、窓の外に円盤が飛んでいるのが見える。慌ててカメラを構えるが、円盤は既に去ってしまっている。

・・・と思いきや、円盤と思っていたものは円盤型の生命体で、カメラを手にしたすすむに気が付いて「写真撮るの、写して写して」と言って引き返してくる。どうもミーハーな性格の円盤らしい。

この自分から写真を撮られにくるというUFO型の生命体こそ、Uボーである。「小さくなろう」と言って尻尾を引っ張ると、車輪のついた一歩足のコンパクトな形に変形する。

Uボーは「このうち気に入った、ここで暮らそう」と一方的に告げて、すすむの布団で寝てしまう。ミーハーかつ強引な性格であるらしい。

さて翌朝。すすむが朝ご飯を残して部屋に持っていこうとすると、不穏な動きをママが察知し、「また犬か猫拾ったのね」と呼び止める。すると、二階からUボーが降りてきて、空気も読まずにパクパクとご飯を食べ始める。呆気に取られるパパとママ。

するとパパが会社に遅れそうだと慌て出す。するとパジャマ姿のパパを背負って「送ってあげる」とUボーが飛び立っていく。このチャンスとばかりに、すすむは「Uボーがいると便利でしょ」とママにUボーとの同居を認めさせるのであった。

本作、わずか20コマ。初回ならではの出会いと同居までの流れをあっと言う間に描き切っている。その中ですっとぼけたUボーのキャラクターも印象付けているし、すすむとすすむの友人や家族も全員登場させている。

短編を描かせたら天下一品の藤子先生が、いかに一コマ一コマを大事にしていることがわかる一本と言えるのではないだろうか。


『花見にとんでゆけ』1976年4月3日付

続けて二話目も詳しく見ていこう。キャラクター紹介などは一本目で終えて、早くも通常のストーリーが展開していく。テーマは4月の発行号ということで「お花見」である。

花見に行きたいとか、花見に行くお話は藤子作品の定番テーマの一つ。まだ藤子Fノートでは特集記事を書けていないが、来年の春こそはと考えているネタである。

すすむ一家で花見に行こうと言うことになる。Uボーは「はなみ」と聞いてすすむの鼻の中を覗いて、「鼻くそたまってる」とはな違い。

バスに乗って山桜を見に行く。さっそく桜の花に囲まれてシートを敷いて食事タイム。野菜を食べるのを渋るすすむに対して、Uボーは何でも食べると言ってお皿もかじってしまう。

と、ここまではUボーの世間知らずぶりを描いている。藤子F作品では異世界から平凡な家庭にやってきた人物が、常識とズレた行動を取って笑いを誘うという構造が多い。本作もまた、そのど真ん中の構成を取っている。

後半。パパがカメラを忘れたということで、Uボーがすすむを乗せて飛んで取ってくることに。ここでUボーの飛行速度が速いこと、遠い星から来たことなどが明かされる。

ところがスピードを自慢したばかりに、誤ってアメリカ・ワシントンの桜並木まで飛んで行ってしまう。そのため、その後パパとママに合流した時に、「遅かったわね」と言われてしまうのであった。

アメリカにも桜があるというウンチクも披露しながら、Uボーのおっちょこちょいぶりと驚異的な能力も示すという、これまた全23コマとは思えない濃密な作品となっている。


さて、この調子で全179話を見ていくといつまでも終わらないのだが、その一方で他の作品も検討していきたい。

ということで、引き続き次稿にて「Uボー」の魅力を探っていこう。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?