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Qちゃんには親戚も家族もいたのだ『オバQ一家勢ぞろい』/広がる!オバケの世界①

卵から産まれたオバケのQ太郎は、生まれてすぐにオバケのQ太郎だと名乗る。なぜ生まれた側がすぐに名乗れるのかは謎だが、このあたりの説明は特にない。

やがて、大原家の居候となって、正ちゃんたちと毎回バカ騒ぎを繰り広げるQちゃんだったが、ある日自分に家族がいないことに落ち込む。その時のお話の記事はこちら。

ここでは、正ちゃんたちがニセの家族に扮してQ太郎を慰めようとするが、それを見抜いたQちゃんが、騙されたフリをした上で、「正ちゃんたちがいるから寂しがらない」と語る。涙無くしては読めない秀作である。


ところが、連載が進んでいくと、天涯孤独なオバケだと思われたQ太郎には、親戚もいて、家族もいて、オバケの国もあることが判明する。この設定追加によって、オバQの世界が一気に広がり、物語も幅を広げることに成功。人気はますます強固なものになっていく。


そこで本稿から3回に渡って、初期のオバQが世界をグッと広げるきっかけとなったエピソードを紹介していきたい。具体的には・・

①おじさん登場
②家族登場
③オバケの国登場
④ドロンパ登場

本稿では①と②のエピソードを取り上げる。


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『オバケのおじさん』
「週刊少年サンデー」1965年19号/大全集2巻

Q太郎以外にもオバケがいる!

そんな衝撃的な事実が判明する重要回。ただし、その後あまりフューチャーされていないマイナーエピソードでもある。

冒頭から、Q太郎を探しているオバケのおじさんが登場。「僕に親類があったのか」と目を細めるQちゃんに、おじさんは「お前のお父さん、お母さんも心配している」と教えてくれる。

このセリフによって、近いうちに家族やオバケの国を出す計画があることが匂わされる。


この事実を知ったQ太郎は当然の疑問をぶつける。

「お父さんやお母さんはどうして会いに来てくれないの」

するとおじさんオバケは、「色々難しいことがあっての」と、あまり要領を得ない答えをする。Qちゃんは次なる疑問を出す。

「どうして僕だけ人間の中に生まれたの」

その答えはさらりと、「タマゴを運ぶ時落っこちた」と説明される。落っこちたという表現から、どこか空を飛んで移動していたのだろうと考えられる。でも落としたとわかっていて、なぜ拾いに行かなかったのか疑問は残るが、色々と難しいことがあったのだろう・・。

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このおじさんオバケの特徴は、色々なものに変身できるということだ。消えることしかできなかったQ太郎が、出来損ないのオバケであることも逆説的に判明する。

おじさんは人間の世界を訪れるのは100年以上ぶりだと言っている。このセリフによって、オバケの寿命が長いこと、しばらくオバケと人間とは没交渉であることが判明する。

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さて、おじさんが存在に言及していたオバQの家族とは、どういう人たちなのか?

『オバQ一家勢ぞろい』
「週刊少年サンデー」1965年27号/大全集3巻

ある日突然、大原家の2階に郵便が届く。文字の書かれた木の葉が部屋に舞い込んできて、Q太郎がそれを読み上げると、明日Qちゃんのパパとママと妹が尋ねてくるのだという。いきなりの展開だが、おじさんオバケが、段取りしてくれたのだろうか。

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さて翌日。家族の到着を待つQちゃんと正ちゃんの目の前に、突然新幹線が走ってくる。そして、ボウンと姿が変わり、パパ、ママ、妹の3名が現れる。そして感動の初対面を果たす4人。

ちなみに新幹線は「ひかり号」と紹介されているが、本作が描かれた前年の1964年10月1日に開通したばかりで、ホットな話題なのであった。


3名のオバケを大原家にお連れする。その間、犬に吠えられ全員ビビる。オバケは総じて犬嫌いなのである。

正太の家族との対面となり、ここでそれぞれの名前が判明する。パパとママの名前はあまり知られていないので、紹介しておくと・・

パパ=X蔵
ママ=おZ
妹=P子

である。P子ちゃんは有名。

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挨拶(20分間)が終わった後、彼らが人間世界にやってきた理由が明らかとなる。それは、Q太郎をオバケの国に連れて帰るためなのであった。もはや本当の子の気がしている正ちゃんの両親は残念がり、正ちゃんも当然嫌がる。

肝心のQ太郎の気持ちはどうか。Qちゃんもやはり正ちゃんと一緒にいたい。するとオバケの両親が、オバケの国がいかに素晴らしいかを語り出す。

・オバケは嘘つかない
・病気も戦争もない
・泥棒や交通事故もない
・犬もいない

これは、オバケの世界と人間の世界がまるで違うことを意味している。おじさんオバケが100年以上人間世界に来ていなかったという説明があったが、オバケからすると、人間世界は戦争や病気や泥棒や犬がいて、危なくて近寄れなかったのである。


Q太郎は理想郷に誘われたわけだが、それでもこの人間世界に留まりたいと意思表示する。するとQちゃん一家の3名はわりとあっさり「仕方がない、諦めるか」と相談して、「じゃこれで失礼します」と言って、引き留めも聞かずに飛んで帰って行ってしまう。

3名を見送ったQちゃんは、途端に悲しくなって、今度は「やっぱりパパやママと暮らしたい」と号泣する。すると、「それを聞いて安心した」とオバケ3人が姿を現わす。Qちゃんの真意を掴むため、一芝居打ったのである。

そうなると、今度は「やっぱり行きたくない」と言い出すQ太郎。すごく迷うところなので、しばらく考えることにして、Qちゃんが決意するまで家族も大原家に泊まることになる。

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Qちゃんが迷える間、パパのX蔵が「お世話になった大原家にお礼をしたい」と言い出し、家族それぞれが兼ねてから欲しがっているを贈ることにする。ただ、人間世界の物を全く知らないパパなので、毎回雑誌を参照してプレゼントをしていく。

まず戦車(のプラモデル)が欲しい正ちゃんには、本物の戦車を出してしまい、びっくり仰天される。

ビートルズのレコードが欲しい伸ちゃんにレコードを渡すと、プレイヤーの機械が回りだす。伸ちゃんは「プレーヤーが回りだした!ヤーヤーヤー」と驚く。

本作が描かれた1965年はビートルズ人気の絶頂期で、その前年に「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」というタイトルのアルバムが発売され、同名の映画も公開されている。ちなみにビートルズの来日はこの翌年である。

新しい服が欲しいママには、オバケの服をあげたり、子供服を出したりするが、最終的にドレスを贈って、勝手に服を作ったと言うことでパパと喧嘩になる。

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続けて正ちゃんのパパの欲しいものを尋ねるX蔵。それはウイスキーであった。しかし、断りもなく水道の水をウイスキーに変えてしまったために、何も知らずにお酒を飲んでしまった大原家は全員酔っ払い、庭で踊り回ってそのまま眠ってしまう。

Qちゃんのパパは、そんな大原家を見て、人間なんてだらしないものだと、オバケの世界に来るよう説得する。酒を飲ませたのはこの人のせいなのだが・・。


するとQちゃんは、意外な決心をする。

「人間がだらしないなら、なおさら僕がそばについていてあげなくちゃ。僕は人間が好きなんだ。本当の人間になりたいと思っているほどだよ」

と力強く語るのであった。

Qちゃんの本当の気持ちを受け止めた家族3人は、「立派な人間になれよ」と讃えたあと、「化け方入門」という本を置いて、オバケの国へと帰っていく。今度は「また遊びに来る」と一言添えて。

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Qちゃんは、僕は人間になるんだと決意を固め、それなら化け方入門は必要ないということで、燃やすことにする。ところがその火がQ太郎の服に延焼して、大騒ぎとなる。

そんなQ太郎を見た大原家の面々は、「Qちゃんはわしらが付いていないと何するかわからん!」と呆れるのであった。


Qちゃんはオバケでありながら、人間として生きていく道を選択する。念願だった家族に会っても、結局その意志は変わらなかった。

一方で、人間とオバケの世界では、大きな断絶があることも明らかとなった。過去100年以上没交渉であったし、オバケが気軽に人間世界にやってくることはできなかった。

そう考えると、Q太郎の存在は、人間とオバケを繋ぐ役割として、非常に大きいものがある。たまたま人間世界で生まれ、人間の正ちゃんと出会って親友となる。Q太郎がいたからこそ、オバケの世界からパパやママやP子がやってきたし、この先、色々なオバケ仲間が人間世界に住みだすことになる。

オバケと人間世界の橋渡しをしたのは、Qちゃんであり、その親友の正ちゃんなのだということが、本作を読むとわかるのである。

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「オバケQ太郎」考察も増えています!


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