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読書家のための将棋本・7選

あのスポーツ雑誌「Number」が、9月にまさかの将棋特集を組んで、これがバカ売れ。雑誌重版という珍しい現象も起きました。そして、節操なくとは言葉が悪いですが、4か月後の今月、早くも第二弾の将棋特集号が発売されました。

前回初版を買い逃した経験から、今回は書店に並んだと同時に買いに行きましたが、数か所に分けて大量に陳列してされていました。売れ筋なんだなあと感心した次第です。

数年前、これほどの将棋ブームが来るとは夢にも思いませんでしたが、長年の将棋ファンからすると、マイナーからメジャーに躍り出た嬉しさでいっぱいです。週刊将棋が廃刊になって嘆いた頃から、たった数年しか経っていないのに隔世の感があります。


さて、今回は、「読書家のための将棋本」と題して、メジャーどころを中心に将棋関連本を紹介したいと思います。コミックから小説・ノンフィクション・自己啓発本まで、ジャンルはあえて多岐にわたるようにしました。どれか今の自分にフィットしそうな本を選んで貰えれば幸いです。(だいぶ前に読んだ本が多いので、紹介文の記憶違いがあればご容赦下さい)


①『聖の青春』大崎善生
映画化もされた、もっとも泣ける将棋本。国民栄誉賞受賞のスーパースター羽生善治と同期で、羽生と互角以上に渡り合った天才・村山聖(さとし)の、太く短い棋士人生を素晴らしい文章で綴っていくノンフィクションの金字塔。語り出すと止まりませんが、闘病生活と勝負師たる棋士生活を何とか両立させようとする怪童村山の、力の限りの生涯が、読者の心を揺さぶってきます。何か将棋本を一冊ということであれば、本作を推挙します。

②『三月のライオン』羽海野 チカ
「ハチクロ」の羽海野先生の次回作がまさか将棋をテーマとした、しかもずしりと重ための青春漫画になるとは驚きました。アニメ化も実写映画化もしましたが、現在も連載は継続中です。
孤独な天才中学生棋士・桐山零の、トラウマ脱出とタイトル挑戦、三姉妹の住む川本家との交流などが並行して描かれます。将棋の世界を知らない方でも、入りやすい漫画ではないかと思います。

③『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』先崎学
「三月のライオン」の将棋監修を務める先崎九段の、最近出された実録ウツヌケエッセイ。年末には安田顕主演でドラマ化もされました。誰でもなってしまう可能性のあるうつ病の体験記として、読み応えあります。頭脳でメシを食っている棋士が、その思考がまったく動いていかないその辛さが、淡々と描写されていく凄い本だと思います。

④『決断力』羽生善治
将棋は、一手先、三手先と手が進むごとに無数に指す手が枝分かれしていきます。そのため、先の手を全て読むことは絶対にできないわけですが、羽生はそれを枝ごと切り捨てて、狙いの筋に読みを集中させていきます。無数の手から一つの手を選択する「決断」と、それを促す「決断力」をたっぷりの持論で語る一冊。ビジネス書・自己啓発本としても読めるので、将棋がさっぱりわからなくても刺激的に読めます。

⑤『真剣師 小池重明』団鬼六
アウトロー作家の団鬼六は相当将棋が強かったと聞きますが、本作は将棋界切ってのアウトロー、小池重明の生涯を追う、戦いと破滅のノンフィクションです。真剣師というのは、将棋をギャンブルとして生業にする者のこと。小池は、切れ味鋭い将棋を指し、アマチュア将棋界のトップに上り詰めます。そして、プロ棋士とも対局、次々と負かしていきます。勝負の世界に身を投じた、令和の世界では存在できないような男の物語。ヒリヒリとした読後感を保証します。

⑥『将棋めし』松本渚
一転、ライトな漫画となります。藤井聡太が、将棋の対局中に何を食べたかが時に話題となりますが、そんな棋士たちの勝負めし、「将棋めし」をテーマとしたドラマです。女性のプロ棋士峠なゆたを主人公に、勝負事とグルメを融合させたほのぼの漫画として始まりますが、彼女の棋力向上、タイトルへと挑戦していくストーリーもしっかりと考えられていて、全然バカにできない将棋本です。

⑦『盤上に君はもういない』綾崎隼
昨年出たばかりの小説で、こちらも女性棋士を主人公としています。プロ初の女性棋士となった二人の天才と、藤井聡太を想起させる青年棋士とが織りなす、青春+将棋の物語。プロ初の女性棋士となった直後に姿を消してしまう千桜の意外な真実とは? というミステリ要素も加えて、最後の真実が明かされると、それが深い感動を呼び起こす素晴らしい構成となっています。将棋の世界を業界外部の記者の視点で追っていくので、初心者に読みやすい一冊です。

おまけ『羽生善治全局集』
これまで「デビューから竜王獲得まで」「名人獲得まで」「7冠達成まで」のシリーズ三冊が刊行されています。希代の天才・羽生のデビューからの棋譜を7冠達成まで全て収録し、詳細な解説が加えられています。将棋が強くなるためには、棋譜並べは必須と言われますが、羽生の棋譜を並べると、何だか一段と強くなったと錯覚してしまうので要注意。数年前、二週間ほど入院したことがあって、この本とミニ将棋盤を病室に持ちこんで、ひたすら棋譜並べをやった記憶があります。ええ、余談です。


以上ですが、7選に漏れてしまった作品もタイトルだけ並べておきます。どれもお勧めです。
『盤上の向日葵』柚月裕子
『将棋の子』大﨑善生
『月下の棋士』能條純一
『将棋の渡辺くん』伊奈めぐみ
『証言 羽生世代』大川慎太郎

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