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パーマンの魅力揃い踏みの傑作『エベレスト決死行』/エヴェレスト決死行②

1953年にイギリス隊によるエヴェレストの初登頂が成し遂げられると、その後は立て続けに各国の登山隊が登頂に成功していく。その中で、昔からその存在が噂されていた雪男(イエティ)の足跡や目撃情報が多く見受けられるようになった。

UMAを愛する藤子先生は、すぐさまその状況に反応し、雪男を題材とした作品をいくつか執筆した。その中で1965年に「オバケのQ太郎」に雪男を登場させたが、この時は無邪気な生き物として描いていた。

UMAを捕まえて見世物にしようとする人間から雪男を守る話である。


ところが面白いことに、この作品から二年半後「パーマン」において再び雪男を登場させるのだが、描き方が全く異なっているのである。すなわち、雪男を狂暴な人間の敵として、パーマンたちと戦わせているのだ。

藤子作品では、同一テーマでも二方面からアプローチすることがよくあって、例えば宇宙人を味方として描いたり、敵として戦わせたりする。他にも同じテーマを、シリアス/コメディ、虐げる側/虐げられる側、前向き/破滅的、などと描き分けることも多い。常に多面性を意識された作家なのである。


ということで、「オバケのQ太郎」とは全く異なるアプローチで雪男を描く作品を見ていこう。

「パーマン」『エベレスト決死行』
「小学館コミックス」1967年10月号

ヒーローものでありギャグマンガでもある「パーマン」は、その硬軟のバランスが常に絶妙である。わりあいにシリアスな描写も出てくれば、非常にバカバカしいお話で終わってしまうこともある。

また日常をテーマにしながら、時おりスペシャルな舞台設定が用意されることもあって、活躍の幅が広い。家の近所から本作のようにヒマラヤ山脈まで移動することも可能なのだ。

さらに「パーマン」の主人公はみつ夫だが、仲間が4人いる。群像劇の側面を持っていて、各人のキャラクターが魅力的なのも「パーマン」の強みであり、作品の幅を持たせる一助となっている。

こうしたパーマンの魅力が全て揃った奇跡的な作品が『エベレスト決死行』である。ハッキリ言ってかなりの傑作であり、本作をきちんと紹介したいがためにあまり読まれない可能性のあるオバQの『ヒマラヤの雪男』を記事を書いたというのが本音である。

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では冒頭から見ていこう。

みつ夫は明日の遠足を楽しみに準備をしている。千国峠に登ってキャンプをするのだ。ところがそこにパーやんから事件の連絡が入る。しかも何日もかかる仕事になるという。

明日の遠足が楽しみなみつ夫は「冗談じゃない」と文句を言うが、パーやん曰く「こっちの用事も山登り、行先はエベレスト」だという。日本の雪男調査団がエベレスト山中で行方不明となったので、探しに行こうというのである。

パーマンは仲間たちと合流し、4人ドッキングしてエベレストへ向かう。4人だと時速728キロ出るので、約四千キロ離れているネパールまで5時間あまりかかる計算となる。遠いようだが、パーマンが集合すれば結構あっと言う間に着くのだ。

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飛んでいる途中で、パーマンは「雪男って何」と聞くと、パーやんは「噂では人間よりもサルに近い化け物みたいなやつだ」と答える。サルと言えば、パーマン仲間にも一匹いるのだが・・・。そこでパー子が禁句を一言。

「サルに近い?じゃあやっぱりバケモノね」

これを聞いてブービーはすっかり気を悪くしてしまう。本作はどちらかと言えばシリアスな展開なので、序盤でギャグをうまく挟み込んでいる。

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ヒマラヤ山脈のエベレストに到着。そこでまずはキャンプを張って腹ごしらえ。パーやんは雪山ということでサングラスを準備しているし、パー子も防寒具を用意している。完全な準備不足なのはパーマンとブービー。そこで純毛を着ている(?)ブービーを襟巻代わりにしてお互い温め合おうとする。この辺りも非常にバカバカしい。

お弁当を食べていると、遠くからその様子を見ている猿の化け物の姿がある。目が血走っており、完全に人間を敵視していることがわかる。パーマンたちはそれと気づかず、手分けして調査団を探すことにする。

この時パーやんが「例によって東西南北に手分けしよう」と言っているのだが、これは本作の二カ月前に発表した『潜水艦見つけた』で同じように四方に四人が分かれて行動したことを踏まえている。

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まずパーやんが荒れたキャンプの跡を見つける。落ちていた日記から日本の雪男調査隊だとわかる。すると、そこから少し小高い場所に大勢のサルの影が見えたと思うと、大雪崩がパーやんを襲う

一瞬バッジが鳴ったので、他のパーマン3人が集合するが、みんな目が痛くて涙が出てくる。雪崩の跡まで行くが、そこで三人ともついに目が全く見えなくなる。そして3人を取り囲むように、大勢の雪男たちが姿を現す。噂どおりに猿に近い化け物であった。

大勢に襲われ、何とか対抗するが目が見えないので戦えない。たまらずパーマンは空へと逃げ出すが、大きな雪玉をぶつけられて落下し、雪の斜面を転がり落ちてクレバスへと落ちてしまう。パー子とブービーは雪男たちに捕まって連れて行かれてしまう。

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夜。空には満月が浮かぶ。不気味な太鼓の音を響かせる雪男たち。失神したパー子とブービーと一緒に3人の男たちが岩穴に閉じ込められている。男たちは雪男捜索隊員であるようだ。彼らが言うには、雪男たちは満月の晩に生贄を捧げる習わしがあるという。今日はちょうどその日なのだ。

そして雪男たちが現われ、5人は連れ出されていく。


その頃、クレバス内で倒れていたパーマンのバッチが鳴って、目を覚ます。パーやんからの通信で、雪崩から何とか這い出して連絡を入れてきたのだ。あちこちくじいて身動きできないでいるらしい。

パーマンは相変わらず目が見えない。パーやんからの信号に導かれて、何とか合流する二人。目の見えないパーマンと動けないパーやん。二人はタッグを組んで、パー子とブービーの救出へ向かう。


パーやんからの信号で、ようやく目を覚ますパー子。捜索隊たちと共に柱に縛られて、生贄に儀式が間もなく始まろうとしている。しかし目が見えないので、何が起こっているかわからない。大ボスっぽい雪男の掛け声を合図に、襲い掛かってくる化け物たち。

その瞬間、パーマンとパーやんが飛んでくる。一人視力が生きているパーやんの指示でパー子たちを救出し、雪男たちも倒していく。そして隊員たちも救助して、そのまま日本へと帰還することにする。

ここで無駄に雪男たちを倒したりせず、そのまま逃げ帰る形となっている点には注目しておきたい。雪男たちは狂暴だったが、彼らの巣窟に勝手に入り込んだのは人間側であって、人間世界における敵ではない。人間世界と異世界をきっぱりと分けるのがF流であると思われる。

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さて日本に戻っていくうちに、視力が回復する。サングラス無しに雪山で行動したので極度の雪目になっていたのである。ちなみに雪国育ちではない自分が雪目について知ったのは、本作がきっかけである。

パーマンは今からでも遠足に合流しようと千国岳に向かう。ちょうど帰り道で、最後の上り坂に差し掛かっていたところだった。最後尾のコピーを見つけ、遠足気分を味わうために交代するみつ夫。

ところがもともと山歩きが苦手なみつ夫。最後尾をゼイゼイしながら歩くみつ夫に対し、カバ夫たちはだらしないなあとバカにする。

「チェッ、チェッ、何言ってんだい。たった今エベレストに登ってきたところなんだぞ」

非日常的なヒーロー活動から、極めて日常的なみつ夫に戻ったことを示す、素晴らしいセリフとラストシーンであるように思う。

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「パーマン」考察たくさんやっております。


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