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Qちゃんのクセも凄い!『天才教育』/フニャコフニャオを探せ②

藤子F作品に何かと登場する売れっ子マンガ家のフニャコフニャオ。外見はF先生がモデルだったり、A先生に似ていたり、二人が合わさったようなときもあって一定しないのだが、ともかく色々な作品に姿を見せている。

そこで、「フニャコフニャオを探せ」と題して、途方もなく広いFワールドからフニャコ先生が出ている作品を見つけ出して、次々と紹介していくことにしたい。

前回の記事では、「ドラえもん」の隠れた名作(迷作)『まんが家』を紹介した。

一般的に「ドラえもん」におけるフニャコフニャオは、『あやうし!ライオン仮面』が最もメジャーだが、実はその1年前に、既に作品の中に登場している。その記事は以下。

ちなみに、『あやうし!ライオン仮面』の記事はこちら。


本稿では、引き続き別のF作品でのフニャコ先生を探していくのだが、明らかに「ドラえもん」のフニャコフニャオと同一人物だと思われる作品があるので、こちらを紹介したい。

「新オバケのQ太郎」『天才教育』(初出:天才を育てよう)
「小学三年生」1971年8月号/大全集2巻

本作は『あやうし!ライオン仮面』からわずか二カ月後に発表されている。内容的には『まんが家』とよく似たお話となっているので、その辺の比較も含めて見ていこう。


冒頭、突然見ず知らずの男の子が「たすけて」と言いながら大原家に駆け込んでくる。この男の子はバイオリンを習うのが嫌で、母親から逃げてきたのだった。Q太郎は押し入れの中に匿ってあげると、母親が現れて、

「隠すとためになりませんわよ」

と脅してくる。このセリフはこの後何度か出てくるので、ご注目いただきたい。

Q太郎は「嫌がっているのにバイオリンを習わせるのは酷い」と抗議をするが、この母親は「余計なお世話だ」と一喝し、

「天才教育は子供のうちから始めないと遅いのです」

と、自説を述べる。

対するQちゃんは、「子供は伸び伸びと遊ばせなきゃ」とすかさず反論。しかし母親もまったく引かない。

「もしもあの子にバイオリンの才能があるとすれば手遅れになる。一人の芸術家が埋もれて、人類の大きな損失になる」

と大げさな理論を振りかざし、

「ぶっ叩いてもでも引きずり回してでもあの子の才能を伸ばすざます。あの子は私を恨むでしょう。でもやらねばならないざます。」

と言って泣き出してしまう。

これを聞いたQ太郎は「なんと美しい親の愛」と感動して涙をこぼす。そして押し入れから少年を引っ張り出して、この母親に引き渡してしまうのであった。

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突然降って湧いた天才教育論に感涙したQ太郎は、O次郎に対して急に「お前の才能を伸ばしてやるぞ」と言い出す。「バケラッタ」と嫌がるO次郎を捕まえて、「ああ、恨むなら恨め!なんと美しい兄の愛!!」と一人で悦に入り、強引によっちゃんの家へと連れていく。

よっちゃんは時々バイオリンを弾いているので、安上がりな先生として最適という判断である。よっちゃんがまずは曲を弾くと、Q太郎は「素敵だったなあ、今のが名曲メダカの学校」とO次郎に解説するが、実際に弾いた曲はトロイメライであった。。

そして、よっちゃんのバイオリンをO次郎に貸すのだが、手が極端に短いためにバイオリンを弾くことができない。それを見たQちゃんは、

「頑張れ!!才能を伸ばすんだ。腕くらい伸ばせなくてどうする」

と無茶苦茶なことを言い出す。

そして、「天才教育だぞ、ぶっ叩いてて引きずるぞ」とO次郎を棒で殴り、そのまま大喧嘩に発展。よっちゃんのバイオリンと弓で殴り合い始めたので、よっちゃんは大激怒して、二人を外へと放りだす。

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外でも二人が言い争っていると、正ちゃんが通りがかってワケを聞き出す。そして「才能も色々あるので、何が向いているのか見抜いてやらないと」と、まともなアドバイスを送る。

「見抜くぞ、そして伸ばすぞ」とO次郎をつけ回すQ太郎。すると道端でボーリングをしている子供たちを見て、「Oちゃんよ、プロボーラーになるのだ!!」と思い立つ。

・・・そしてこれもうまくいかない。


O次郎は一体何に向いているのか。野球選手、タレント、レスラー、作家・・と想像していくがよくわからない。そうこうするうちにO次郎は飛んで逃げていく。

Q太郎は後を追って、O次郎が逃げ込んだ家へと入っていく。そしてこの家こそが、フニャコフニャオ先生の自宅なのである。門構えの様子が「ドラえもん」に登場したフニャコ先生の家とほぼ一緒となっている。

ちなみに本作では「フニャコフニャオ」表記で登場しているが、これは「ドラえもん」二作に登場している名前の表記と少し違う。(ライオン丸→フニャコフニャ夫、まんが家→フニャ子フニャ雄)


ここまで、O次郎に何の才能があるのかを探っているうちに、漫画家の家へとたどり着いたわけだが、前回の記事で紹介した『まんが家』でものび太が将来何の仕事をするのか考えて、結果的に漫画家になろうということになった。

どんな職業になるかを考えた結果、二作ともマンガ家を選択する展開は、興味深い。

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Qちゃんはフニャコ先生の部屋へと入っていき、「隠すとためになりませんよ」と、冒頭の母親と同じセリフを吐く。するとマンガを書いているのがフニャコ先生だと気がついて、「先生のファンです、サインを下さい」とお願いする。一目で漫画家の顔が判別できるQちゃんは、案外博識なのである。

するとこのフニャコ先生はO次郎が化けたニセモノ。本物が現れて、馬脚を現してしまう。この時、適当にいたずら書きをしていたO次郎の絵を見たフニャコ先生が、「これは面白い」と意外な反応を見せる。

「これを元にしてタリランという主人公を作ろう」

と、フニャコフニャオはO次郎のイラストからアイディアを頂いた模様。

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この様子を見たQちゃんは、「O次郎には絵の才能があったのか」と感心し、「よし決まった、Oちゃんをまんが家に育てよう」と心に決めたのであった。

そしてO次郎に無理やり漫画を描かせて、「出来たら兄さんが雑誌社に持っていく」と言い出す。この展開は前回記事の「ドラえもん」の『まんが家』とほぼ一緒。


さらにQちゃんが原稿を待っている間に、漫画が売れたあとのことを先走って空想して勝手に盛り上がる。雑誌社で編集者に絶賛され、たちまち大人気作品となり、別の雑誌の編集者たちがなぜか食料を持って、O次郎への原稿依頼にやってくる。

さらに人気が出たところを想像し、Q太郎が町を歩いていると「有名なO次郎先生のお兄様、素敵」とQちゃんまでチヤホヤされるという都合のいい空想をする。

「ドラえもん」『まんが家』では、のび太が売れっ子マンガになったつもりで先走って喜ぶドラえもんの姿が描かれたが、本作とまるで同じ展開なのである。

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そうこうしているうちにO次郎の漫画が完成する。Qちゃんは早速をそれを持って、意気揚々と雑誌社へと原稿を持ち込む。この雑誌社の名前は小学館ならぬ「中学館」

ところが、「あのね、ここは幼稚園じゃないの」と相手にしてもらえず、Qちゃんも「原稿料負けとくけど」と食い下がるもこれも通用しない。

『まんが家』ではドラえもんが、編集者に採用しなくても原稿料を払えと無茶な要求をしていたが、本作のQちゃんの方がまだまともな反応と言える。

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Oちゃんは一体何が得意なのか? O次郎は化けるのが得意だと言い出して、Qちゃんのパパに変身する。そして「バケラッタ」(=Qちゃんに天才教育を)と言ってQちゃんを脅かす。

さらに「バケラッタ!!」と大声を出すのだが、これは「隠すとためにならない」と言っているのだそうである。。


改めて、本作と「ドラえもん」の『まんが家』は展開が良く似ている。その点をまとめてみると、

・のび太もO次郎も、何に向いているのかを考えているうちに、「漫画家」が有力候補となる
・現役漫画家として、フニャコフニャオ先生が登場
・漫画を描かせるドラえもんとQ太郎は、ともに売れたあとのことを先走って想像する
・出来上がった作品は、全く面白くない

という主に4点が一緒である。このことから、この二作は対になる作品であり、姉妹編と言っていいだろう。


さてフニャコフニャオ先生探しはまだまだ続きます~。

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