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放送局ものの原点!『オバQ放送局』/ラジオ局をはじめたよ

「テレビ局をはじめたよ」と題して、子供たちが自前のTV局を開設して、好きな番組を放送するというお話をシリーズで特集してきた。

これまで3つの作品を記事にしてきたが、3作とも内容がよく似ている。詳しくは以下の記事にてご確認ください。

取り上げた3作品を時系列で並べ替えると

「ドビンソン漂流記」『横丁チャンネル大混戦』1971年7月
「ドラミちゃん」『のび太朗 テレビ出えん』1974年2月
「ドラえもん」『のび太放送協会』1975年10月

となる。

同じテーマではあるが、それぞれTVを始めるきっかけは異なっているのと、終わり方も微妙に違う。ただし、全く同じようなシーンもあるので、読み比べるとF先生のこだわりだったり、気持ちの変化が読み取れてとても興味深い。


本稿では、TV局ではなくラジオ局を開設して、好きな番組を流そうとするお話を紹介したい。それが、「オバケのQ太郎」の『オバQ放送局』である。この作品は1966年3月頃に発表されており、「ドビンソン漂流記」『横丁チャンネル大混戦』の約5半前にあたる。

『オバQ放送局』にも、その後のTV局3作品に連なっていく元ネタ的なアイディアが詰まっており、この際、4作品を全部ひっくるめて「放送局4部作」と命名しておきたい。


「オバケのQ太郎」『オバQ放送局』
「週刊少年サンデー」1966年11号/大全集4巻

本作はQ太郎が部屋でラジオを見つけるところから始まる。何気なく伸びているコードをコンセントに入れると、機械から音が出てきて驚くQちゃん。「絵の映らないテレビ」を見つけたと言って正ちゃんに報告する。Qちゃんは前から何の箱だろうと思っていたという。

Q太郎はこれがラジオだと教わり、放送局から流れてくることを知る。Qちゃんは「ラジオは仕事しながら聞けるからいいな」と感想を述べたので、正ちゃんは「仕事なんてしないくせに」とツッコむ。これは藤子先生の感想をQ太郎に言わせたのだろう。

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Qちゃんはチャンネルを変えてみると、ニュースや歌番組や落語が流れてきて、すっかりラジオが気に入ってしまう。その様子を見ていた正ちゃんのお兄さん伸一が、こっそりとイヤホーンをラジオのPU(ピックアップ)端子に繋ぎ、ラジオをスピーカーにしてQちゃんの名前を呼んで驚かせる。
*PU端子は今は滅多に見られない真空管ラジオに付いている端子

これを聞いたQ太郎は、僕らで放送局を作ってみんなに聞かせようと思いつき、正ちゃんに相談する。さらにみんなから聴取料を貰い、番組にスポンサーをつけて広告料を貰おうというアイディアを出す。本日初めてラジオを知ったとは思えないビジネス脳の持ち主である。

なお、これまでの「テレビ局をはじめたよ」で取り上げた3作品は、全てスポンサーの存在が重要なポジションを得ていたが、本作ではスポンサーの名前が出てくるだけで、実際に登場したりはしない。

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疑心暗鬼だった正ちゃんもだんだん乗ってきて、ラジオに詳しい人を仲間にしようと思いつき、Q太郎がカドの電気屋さんを巻き込もうと考える。本作のQちゃんは何か一味違う。

電気屋の主人は放送局のアイディアには賛同するが、参加の条件として自分をアナウンサーにするよう要求する。かなり活舌が悪そうだが、本人は自信満々。

渋々その条件を飲むと、電気屋さんは早速、よっちゃんやハカセ、小池さんの家など7軒のラジオにコードを繋いでいく。ただしゴジラには「お前たちの放送なんか馬鹿らしくで聞けるか!」と拒否されてしまう。


電気屋を連れて家に帰ると、正ちゃんがラジオ局の名前をOBAQ/オバQ放送と命名しており、最初の番組はシンプルに電話リクエストにしようということになる。

番組が始まると、さっそくよっちゃんから「おとめの祈り」のリクエスト電話が掛かってくる。この曲はおそらくザ・ピーナッツの「乙女の祈り」のことだと思われる。しかし、レコードが家にないので、オルゴールで誤魔化す。

小池さんからも「佐渡おけさ」か「ソーラン節」を聞かせろと要求されるが、これもレコードが見つからない。今ならデジタルで曲を準備しておけるが、少し前まではレコードかテープやCDが必要だった。ラジオ局を始めるのも楽ではなかったのだ。

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ラジオ局を始めたQちゃんたちに対抗すべく、ゴジラとキザ夫が手を組んで自分たちもラジオ局を作ろうと画策する。K・I・Z・A局と命名して、正ちゃんたちから電気屋のオヤジを引き抜く。

そして「賞金100円の当たるワンダークイズ」を放送し、いきなり大人気。やはり番組作りには元手が必要なのだ。正ちゃんたちは、電気屋主人にコードを外されたので、キザ夫たちに抗議すると「スイッチで切り替えられるようにして、どっちを聞くかは視聴者に決めてもらおう」と提案される。

これによって、OBAQ局とKIZA局とで視聴者獲得競争が始まるのであった。

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では、各局どのような番組を放送していくのか。。
OBAQ側は「ためになる教養番組」を狙って、通りがかりのお坊さんを掴まえて宗教講座を流すが、内容が重たくて辛気臭くなってしまう。
KIZA局は草野球の中継。

正ちゃんはスポーツ中継に対抗し、「ニュースショー」を思いつく。どこよりも早いニュース、話題の人を迎えての対談、正確な天気予報・・。アイディアは確かに素晴らしい。

このアイディアに沿って、Qちゃんは早刷りの夕刊を入手してこれを読み上げる。天気予報はQ太郎が下駄を飛ばして「雨」となる。

話題の人はみんなが同情するような悲しそうな人を探そうということになり、そういう顔の女性を連れてくる。悲しみの理由を聞くと、愛犬が家出し三日間帰ってこないのだという。「犬なんかいない方がいい」と犬嫌いのQ太郎が言い出して、この女性にギタギタにされてしまう。

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一方のKIZA側は、みんなを集めてノドじまんの公開放送をしてこれが大人気。OBAQの放送を聞いている人は全くいなくなってしまう。ヤケクソ気味となったQ太郎は大声で町中に「OBAQ」と叫んで宣伝するのだが、声がデカすぎて抗議殺到。これにてラジオ局ごっこは強制終了となる。


このあとのオチは、Qちゃんが大原家の夕食のおかずがコロッケだとニュースを流しておしまいとなる。ちなみに家庭のご飯が放送されるというネタは『横丁チャンネル大混戦』『のび太朗 テレビ出えん』で再び登場する。

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作品の中で、番組作りにはお金が必要だったり、ニュース番組で新聞を読み上げたり、歌番組が人気だったりと、その後も使われる小ネタが登場している。


4回に渡って、個人発信のTV局やラジオ局を作る話を紹介してきたが、今藤子先生がご存命であったら、きっとYouTubeのような動画サイトでの人気者になる話を描いただろうと思わされた。

藤子作品を読み返すことで、自分たちのメディアを持ちたいという欲求は、いまから50年以上前の子供たちも抱えたいたことが良くわかるのである。


「オバケのQ太郎」考察・紹介もやっています。


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