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本物か、インチキか、町の『発明王エジサン』/オバQ世界の発明王①

トーマス・アルバ・エジソン。発明王の異名を取り、生涯に1200以上の発明や技術革新をした人物である。主な発明品は「蓄音機」「電話」「電球」そして「映画」

それらの発明は、既存の発明品を改良したものだったり、本当にエジソンが最初に考案したか分からないものも含まれる。事業家の側面も強く、現在もコングロマリット大企業であるGE社を設立した人物としても知られる。

子供の頃から小学校にも行かず様々な実験をしていたなどの逸話が残され、偉人として伝記にもなっているわけだが、発明家のライバルたちを蹴落とすために、苛烈な工作もしていたとされ、必ずしも聖人君子ではない。。

そのあたり、ベネディクト・カンバーバッチがエジソンを演じた『エジソンズ・ゲーム』(2017)がとても分かりやすく描いているので、気になる方はチェックしてもらいたい。


さて、なぜ前置きでエジソンについて書いたかというと、これからご紹介したいFキャラクターがエジソンを意識した、とある町の発明家だからである。

このキャラクター、実は何回も藤子F作品に出てくるのだが、よっぽど通じていても、知らない人が多いだろう。今回はそんな、マイナーなキャラのお話である。


『発明王エジサン』「小学六年生」1965年5月号/大全集11巻

「オバケのQ太郎」では名物オバケキャラクターが大勢登場しているが、魅力的な人間のキャラクターもいる。その中で、正ちゃんの町に住む自称天才発明家のキャラがいることをご存じだろうか。しかも登場は一回や二回ではない。確認できているだけで6回登場し、さらに別のF作品にも顔を見せている。

ご紹介しよう、正ちゃんの住む町の発明家・江地三助(エジサンスケ)、通称エジサンである。一時期の「オバケのQ太郎」では、準レギュラーと言えるほどに出演している。本稿では、その初登場回をじっくりと見ていく。


すぐに何かに影響される正ちゃん。この日は「エジソン物語」という伝記を読んで、「こうしちゃいられない」と立ち上がる。電球もレコードプレイヤーもエジソンの発明品。エジソンは子供の頃から科学の実験を熱心にしていたということで、自分も今から研究を始めようと言うのである。

さっそく壊れた扇風機の改造に着手する正ちゃん。Qちゃんはその様子を見て、

「ふうん、頭は良くないけど熱意はあるんだな、見直した」

と貶しつつも、褒める。

そしてQちゃんも、自分も何か発明しようと考える

「人間にとって最大の悩みは何であるか。それは病気である。どんな病気でもなおす薬を作ろう」

と思い立つ。考え方はなかなか立派なものだ。


ところがここからが安直。薬箱からあらゆる薬を取り出して混ぜて、さらに調味料で味付けしていく。ひと舐めして酷い味だが、そこは良薬は口に苦しということで、まずは隣家の飼い猫を使った動物実験

寝ているところをみて、病気だと判断し無理やり薬を飲ませるが、「ウギャウフーッ」とボロボロに引っ掛かれてしまう。

一方の正ちゃんも「電気皿洗い機」を完成させる。自動食洗機のなかった時代としては画期的な発明品だが、実際に皿を入れてみるとガチャガチャと割ってしまう。

ママの皿を大量に割ってしまったので、それ逃げろと靴を履くのだが、この靴底にはQちゃんが車を付けており、まるでローラーシューズにようになっている。これを履いて町に繰り出すが、坂道で勢いがつきそのまま、どこかの家へと突っ込んでいき、入り口のドアを壊してしまう。


するとそこにホウキを持ったロボットが現れ、適当ではあるが掃除を始める。さらにそこへ、「騒がしいな」と言って一人の男性が姿を見せる。風変わりな髪型と怪しげな口ひげ。白衣っぽいものを着ている科学者のような風貌である。

この男、名前はエジサンだと名乗る(本名はエジサンスケ)。掃除しているロボットは自分の発明だというから、自分のことをエジソンと重ね合わせているのも頷ける。正ちゃんは「凄いんだなあ」と感心し、助手に雇って欲しいと申し出、快諾される。


さて、ここからは、エジサンの発明がどうにも胡散臭いことが、少しずつ分かっていく。

家に入るといきなり動く廊下。凄い仕掛けだが、廊下の先の部屋のドアの開閉は故障していて、そのままドアにぶつかってしまう。室内は世界的な科学者とは思えない程にみすぼらしい内装。

「お茶をごちそうしよう」と言ってボタンを押すと、自動的に3杯のコーヒーが出てくる。しかし、インスタントコーヒーが切れていたらしく、それはただの白湯

さらに別のボタンをQちゃんが押してしまうが、それは部屋中をいっぺんに掃除する機械を作動させるボタンで、Qちゃん正ちゃんはゴミの部屋へと吸い込まれてしまう。


特別に研究室を見せようということで、別室に向かうのだが、先ほどの動く廊下を逆走しなくてはならず、駆け足が必要となる。この動く廊下は一方にしか進まないのであった。

と、ここまでのエジサンの発明の数々は、凄いところもありつつ、情けないところもある。果たして彼は「本物」なのだろうか。


研究室は汚い物置のよう。

何人かが入れそうな箱が置いてあるが、これはガソリンも要らない未来の車なのだそう。ではどうやって動くのかというと、「坂道に置けばいい」というエジサンの答え。道路が坂ではない場合は、積んであるクワで道路を掘り下げていくのだと言う・・・。

次なる発明品は、飢饉の時に雨を降らせる薬品(未完成)。これを燃やすとガスが発生し雨雲になるらしいが、試すと単に煙いだけ。・・・すると、本当に雨が降ってくる。

エジサンは「ついに研究は完成した」と大喜びだが、先ほどのロボットが現れて、雨ならさっきから降っているという。つまり、部屋に降り出した雨は、雨漏りであった。


雨漏り修理を命じられる助手の正ちゃん。傘に風船を付けて両手が使える発明品(?)を装着して作業をするが、突風に飛ばされ地面に激突。続けて雨を止ませる機械(=箱)を持ち出すが、中を開けるとてるてる坊主が3つ括られている。

これが決め手となってエジサンはインチキ発明家だと愛想をつかした正ちゃんは家に帰ることにするが、Qちゃんだけは気になって残ることに。


エジサンはお米屋さんの支払いも滞るほどに貧しく、代金の代わりに発明品の「エンジンのない車」を没収されてしまう。用途はゴミ箱である。気の毒に思ってきたQちゃんは、自分だけが味方になってあげようと、手伝いを申し出る。

気を取り直して次なる新発明に取り掛かるエジサン。エジサンが使っていたマジックハンドでQちゃんが遊ぶと、またもツケの溜まっているクリーニング屋さんを引っ張り込んでしまう。

エジサンは支払いの代わりにと、服のシミや汚れを溶かしてしまう薬を上げようと言って試すのだが、クリーニング屋さんの服の汚れだけでなく、服が丸ごと溶けてしまう。エジサンは自分の着ている服を渡して、裸状態に。


そんなエジサンを見たQちゃんは、自分の服を取ってきてエジサンに着せると、まるで二体のQちゃんに。夜になると、電気代を払ってなかったために、真っ暗になる。さらに聞けば、もう4日間もご飯を食べていないという。

Qちゃんは、ご飯を食べさせるためにエジサンを大原家に連れて行く。エジサンがQちゃんの格好をしていることを利用して、「物体倍増機」を作って自分が二人になってしまったのだと、家族に説明するのであった。


発明にはお金がかかるし、発明品ができるまでは一銭にもならない。得てして町の発明家は、かくも貧乏なのだ。トーマス・エジソンが会社を立ち上げて事業化したり、ライバルを一生懸命に追い落とそうとしていた気持ちもわからないでもない。

エセ発明で騒がせたエジサンは、藤子先生にとって使い勝手が良かったキャラだったとみえて、この後何度かサブキャラとして登場させる。次回はそんな作品をさらに紹介する。



「オバQ」の考察も続々しています。


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