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Q太郎VS大中小の雪男『ヒマラヤの雪男』/エヴェレスト決死行①

ご存じ世界で一番標高の高い山「エベレスト」(チベット語で「チョモランマ」)。最新の計測による標高は8848メートルである。

「そこに高い山があるから」と、国家の威信を背負った名うての冒険家たちがエベレストの頂上目指して果敢にアタックし、多くの命を失いながらも、ついに1953年イギリス隊のエドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイによって初登頂が成し遂げられる。

その後1960年には中国隊、1963年にはアメリカ隊が登頂に成功した。本邦では1970年、松浦輝夫と植村直己が見事の頂上にたどり着いている。

本稿で紹介する「オバケのQ太郎」の『ヒマラヤの雪男』は1965年の作品だが、こうしたエベレスト登頂に沸き立つ中で描かれた作品であることを念頭に置いておきたい。


続けて「ヒマラヤ山脈」についても確認しておく。ヒマラヤ山脈はエベレストを頂点にした、極めて標高の高い山々が連なる全長2400キロの巨大山脈である。7000メートル以上の高さの山が100峰以上も存在し、世界中の高い山が集中している地域となっている。

このヒマラヤ山脈の登頂が増えていく中で、雪男(イエティ)の存在がまことしやかに囁かれた。全身毛に覆われた二足歩行の怪人で、古くから巨大な足あとが見つかったりしていたが、50年代に入って目撃情報もちらほら出てくるようになった。

典型的なUMAである。

ちなみに最近でもイエティの足跡だという写真をインド軍が出してきたりしている。現在進行形中のUMAなのである。

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藤子F先生は根っからのUMA好きなので、当然のことながらヒマラヤのイエティには思い入れがあった。色々な作品で登場してくるのだが、今回は1960年代の短期間で、「オバケのQ太郎」「パーマン」という二大人気作においてヒマラヤの雪男をテーマとした作品が描かれているので、この二本を二回に渡って記事にしていく。題して「エベレスト決死行」


「オバケのQ太郎」『ヒマラヤの雪男』
「週刊少年サンデー」1965年春の臨時増刊/大全集2巻

1965年は「オバQ」が「週刊少年サンデー」から小学館の学年学習誌に一気に連載が広がっていき、TVアニメ化もされた大ブームの始まりの年である。来る日も来る日もオバQが執筆されていたころの一作である。


本作はわりと良くある始まり方。パパが新聞を読んでヒマラヤの雪男の目撃情報を話題にすると、Qちゃん正ちゃんで捕まえに行こうと家を飛び出していく。

いきなり本題に入るのがオバQのパターンだが、本作は増刊号のSP版なので、ヒマラヤへの移動でもひと騒動を起こす。ジャンボジェットの屋根の上に家を建てて入り込み、ヒマラヤまで乗せてってもらうのだが、Q太郎がたびたび機内に入り込むので、パイロットたちが怖がって猛スピードを出してくれて、思ったより早く到着する、というもの。

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ヒマラヤに着くとすぐに、他の雪男捜索隊と合流するQちゃん正ちゃん。彼らは雪男を捕まえて見世物にして儲けようという不届き者たちであった。

日が暮れてきたのに、捜索隊のテントに入れてもらえず、仕方ないので一枚しかない毛布でQ太郎を包み、正太がQ太郎の服の中に潜って暖を取る。

翌朝は快晴だが、捜索隊のテントは中で火を焚いたので、雪の中に穴が空いて沈み込んでいた。バカバカしいシーンだが、この穴がこの後のストーリーで最大限に利用されていく。その第一弾として、これを落とし穴にして雪男を捕まえようと考える。

雪男を探して歩いていると、眺めのいい小高い丘があり、ここで記念写真を撮ろうと考えていると、カメラを取ってシャッターを切ってくれる人が現れる。・・そう、これが雪男であったというお約束ギャグである。

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雪男を落とし穴に誘き出そうとするが、逆に雪の塊を転がされて、それに追いかけられる正太。何とか自分が落とし穴に入ることでその雪玉から逃れることができる。これが穴の活用第二弾である。

捜索隊も雪男を見つけて麻酔ガンを撃ち込もうとするが、雪男に銃口を捻じ曲げられて、逆に隊員の方が眠らされてしまう。

正太は雪男から逃げ出すが、その先のテントの前で巨大な足あとが見つかる。テントの中にも雪男がいるのだろうか? ハンマーでテントの上から殴りつけると、出てきたのはQ太郎。足は霜焼けで膨張してしまったのだという。この辺りもかなりのお約束ギャグである。

するとそこに雪男がテントの中に入ってくる。無邪気に荷物で遊び始めるが、空気まくらのしぼむ様子を見て、なぜかこれを怖がり、どこかへと逃げていく。雪男はフワフワとした形状のものが苦手のようだ。

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麻酔ガンの眠りから覚めた捜索隊コンビ。テントが壊されている様子を見て、いよいよ怒り出し、巨大な歯型の付いた罠で雪男を捕らえようと考えだす。あまりに残酷な装置なので、正ちゃんたちが反対すると、銃口を向けて脅してくる始末。最初から胡散臭い男たちだったがここで完全な悪玉だったと、正ちゃんたちも読者も認識する。

正ちゃんたちは食べ物もないのでまた飛行機に乗って撤収しようとするが、吹雪となってしまい、偶然別の登山隊が残したテントの中に避難する。

缶詰やソーセージが残されており、これを食べようとすると、今度は子供の雪男が現れてソーセージの取り合いとなる。「子供なら怖くない」と追いかける正太とQちゃん。すると、今度は巨大な雪男が姿を現す。これで大中小の3人の雪男がいることが判明する。

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Qちゃんたちは逆に捕まってしまうが、子供の雪男がフーセンガムを膨らませて、それにビビって巨大雪男は目を回してしまう。立場逆転、Qちゃんたちは失神した雪男を縛り上げて捕獲に成功。ところが、その様子をみた子供イエティが泣き出し、「可哀そうだ」ということで大雪男を解放してあげることに。

さらにこのままでは捜索隊の罠にかかってしまう可能性もあるので、彼らの目を欺くことにする。そこで、Q太郎を雪男にコスプレさせて、捕まえたことにして捜索隊に引き渡す。鉄製の箱に閉じ込められるが、壁をすり抜けることのできるQ太郎は、あっさりと脱出する。

陽気に帰っていく捜索隊を空から眺め、

「雪男だって平和に暮らす権利はあるんだものね」

と、あくまで雪男=UMAを大事に思う終幕なのであった。

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内容としては、SPならではの特別感のある舞台背景と、少しほっこりするラストが印象的であった。

さてこの話からわずか2年半。今度は「パーマン」でイエティが登場する。全く違う描かれ方なので、是非本作と読み比べて欲しい。(そんな人いないか・・)


「オバケのQ太郎」の考察もたくさんやっています。


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