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理屈じゃないんだよ、人を信じるってことは。『魔女・魔美?』/考察エスパー魔美⑨

『魔女・魔美?』「マンガくん」1977年12号/大全集1巻

「エスパー魔美」は、第一話で超能力を開花させた魔美が、話数を重ねるごとに、高畑の協力のもと、少しずつエスパーとしての能力を開花させていく。今回考察する『魔女・魔美?』は連載開始から12作目の作品となるのだが、この頃になるとだいぶ魔美も超能力を自在に操ることができるようになっている。

しかし、何事も慣れた頃に、思わぬ油断が出るものだ。慢心や慣れが、自らを追い詰める原因となる。

本作は、これまで順調に成長してきた魔美が、エスパーとしての能力を隠すことを怠ったため、困難な状況へと追い込まれるお話である。この大ピンチはどのように生まれたのか? そしていかにして脱したのか? 高畑くんの言う「信じる」ということはどういうことなのか? そのあたりをたっぷりと検証していきたいと思う。


「エスパー魔美」は1~9話までが、テレポート・テレキネシス・困った人ベルなどの超能力を獲得するまでのお話となっていて、いわば設定が固められていく時期に該当する。これまでの「エスパー魔美」の考察8回は、この部分を詳しく見てきたものである。

10話目からはいよいよ超能力を使って大活躍していくわけだが、本作への伏線が張られていく。まず『未確認飛行物体?』で、ラストで魔美が空飛ぶ少女という写真を撮られて全国ネットで放送されてしまう。

続けて第11話目『ただいま誘拐中』では、誘拐された女の子に家に入り込むなどしたため、「事件に絡む謎の少女」と新聞で報道されてしまう。(本作で判明)

このふたつを踏まえて、本作では高畑くんは魔美に対して、最近超能力を大っぴらに使い過ぎているのではないかと注意をしているのである。

そうした背景をまず押さえておきたい。

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本作は冒頭から不穏な始まりとなっている。魔美の友人である幸子のもとに脅迫状が届く。「またきてる!」と呟いていることから、こうした手紙が届くのは初めてではないらしい。

手紙の中身は、幸子が竹長君とデートをしたり仲良くしたりすることを止めろという内容と、幸子の家での詳細な行動が書かれている。幸子は自分プライベートが覗かれているようで、当然のことながら気味悪がる。


さて、ところ変わって草野球場。高畑が野球に参加しているが、どうもチームのお荷物になっている様子。ところが、守備についていた高畑が、危うく落球しかかったのに、いつの間にかボールをグラブに収めていた。

続けてバッターボックスに立つ高畑。なんと最終回二死満塁という劇的場面。チームとしては彼に引っ込んで欲しいわけだが…。

「あのなあ高畑よ。君は頭のいいやつだ。俺たち尊敬している。しかし、野球の才能だけは別だ。ここはやはり、ピンチヒッターを送るべきだと・・・、頭のいい君ならわかるだろ」

何とかして気を悪くしないように代打を送りたいチームメイトたち。そこへの高畑の答え。

「安心してくれ。今度は必ず打つから。僕の打率が0.03、つまり32打席に一本の割りだ」

これまで31打数無安打なので、今度はヒットを打てるという、高畑らしからぬ甘い見通しなのである。チームメイトは目を覆い、相手チームもバカにしている。

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なにくそとバットを振る高畑だが、空振りすると思いきや、ボールはなぜか大ホームラン。皆に名選手だのいつの間に力をつけたんだなどとベタ褒めされる。

褒められて嬉しいものの、釈然としない高畑だったが、そこにおめでとうと声を掛けてくる魔美を見て、すぐに全てを察する。魔美が超能力で高畑の活躍を導いたのである。

お礼のつもりという魔美だが、実力で勝ち取らなければ意味がないという高畑。この辺りに魔美の慢心が見て取れる。高畑はこの流れで、超能力を大っぴらに使うことを注意するのである。

ここで改めて、超能力者であると世間にバレたときに起こることを説明する高畑。最初はチヤホヤされるが、いずれその反動が来る、と。「気をつけるわ」とうなだれる魔美だが、テレポートを使って帰ってしまう。ちっともわかっていないのである。

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そんなテレポートをしている一瞬を見かける女の子・日上(ひがみ)。スネ夫っぽい風貌と名前からして、今回の悪役?と思ってしまう。日上は竹長の家にフラっと遊びに来たのだが、部屋に上がると幸子もいる。

日上は竹長と幸子から、脅迫状のことを聞く。手紙は竹長と幸子しか知らないことが書かれており、幸子はエスパーの仕業ではないかと言う。竹長は合理的に「望遠鏡とリップ・リーディング(読唇術)を使っているのでは?」と考える。日上は、「そういえば屋根の上に(魔美がいた)」と、二人に話しかける。

魔美が疑われ始める。

それを冗長するように、魔美は映画のロケを屋根の上から見てしまい、それを大勢の人間に目撃されてしまう。魔美はここでようやく超能力の使い過ぎを深刻に反省するが、時すでに遅し。

日上が学校中で、魔美が竹長たちを監視しているのだと噂を吹き込んで回る。魔美は露骨にクラスメートたちに無視され、距離を取られてしまう。いつもクラシック鑑賞に誘う富山さえも魔美から逃げ出す。

魔美は富山の手を捕らえて、そこから流れ込む思念によって、自分がのぞき見して脅迫状を送っているのだと疑われていることを知る。

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一人呆然とする魔美。頼れる人は、あの人だけ

高畑はかつてテレキネシスの訓練用に作ったピッチングマシーンを使って野球の特訓をしている。魔美の超能力で名選手の評判をとったので、実力を追いつかせるために練習をしていたのである。

魔美は自分についての噂をどう思うかと、高畑に聞く。高畑はすぐに答えず、「密室の会話を聞き取るなんてエスパーでもなければできない」と見解を述べる。魔美はそう思われても仕方がないと肩を落とすが、高畑は練習しながら魔美を呼び止める。

「真犯人を探る方法について一つ考えがある」と。それを聞いて魔美は、

「犯人は私じゃないと? あらゆる証拠が不利なのに? それでもあたしのことを信じてくれるの!?」

高畑は相変わらずバットを振りながら答える。

「理屈じゃないんだよ、人を信じるってことは」

涙を流す魔美。そして読者の僕も必ずここで泣いてしまう。

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高畑は魔美に指令を出す。三時に竹長、四時に幸子に電話をして、できるだけくどくどと言い訳しろと。訳が分からない魔美だが、高畑に寄せる信頼は分厚い。

「高畑さんの言う通りにしてれば、間違いないんだもの」

この一連の魔美と高畑のやりとりは、既に二人に強い絆が生まれていることを強く印象付ける。正直な魔美、誠実な高畑。ピュアな二人は友情を超えた運命共同体のような結びつきを見せる。

高畑の作戦は、まんまと当たる。

四時に幸子に電話をして、長々と自分が盗み聞きなどしていないと訴える。既に三時の竹長への電話は終わっていたようだ。

電話口で幸子は「魔美が竹長のことを好きなので、自分たちの関係を妬んでいるのでは」と勘繰る。魔美は「冗談じゃないあんなヒョーロク玉!」と言い捨て、これで二人が決別。

これで良かったのか心配になる魔美。怒って部屋に戻る幸子。するとなぜか高畑が部屋で寛いでいる。高畑が何しに来たのかわからない幸子。高畑は時間を潰したいだけだと言う。

そこに突然、日上が部屋に入ってくる。高畑は「いいところに来た」と言って、「散歩してくるのでしばらく留守番をして欲しい」と、何故か幸子を無理やりに外に連れ出す。

「散歩なんかしたくない」と文句を言う幸子を制して、高畑は説明を始める。

実は幸子が電話をしている間、部屋を調べた。机のかげに高性能の盗聴器が仕掛けてあった。300メートル以内ならFM電波で聞き取れる。先に竹長の部屋に寄り、同じものがあった。発見と同時にスイッチを切ったので、犯人が気づけばどうしたのかと思って探りに来るはず・・・。

部屋に戻ると、手にドライバーを持ち、机の下で何かを探る日上の姿。予想されていた結末とはいえ、衝撃的なラスト一コマで、物語はブツリと終わる。

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明示されていないが、日上は竹長のことが好きだったのだろう。自業自得とは言え、日上はこの先どのように学校生活を送ったのだろうか。

幸子と竹長は、この事件をきっかけにしたのか、魔美・高畑の二人と仲良くなり、4人で別荘に泊まりに行く仲となる。災い転じて福となす。でも、竹長をヒョーロク玉呼ばわりした過去は消せないが…。

魔美はこの事件を反省して、超能力を控えめに使うようなった。・・・とはいかないようで、この後も不用意な行動がたたって、何度かエスパーではないかと疑われることになる。

ちなみに少なくとも転校、最悪自殺しかねない日上であるが、アニメ版では彼女の罪を帳消しにするような終わり方となっている。最初見たときは、原作改変!といきり立ったが、今見直すと、これはこれで良くできた終わり方となっている。おそらくF先生もご理解の上での改訂であったように思う。


「エスパー魔美」の考察たっぷり。初回からじっくり記事にしています。是非こちらから。


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