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TV局ものの原点? ドビンソン漂流記『横丁チャンネル大混戦』/TV局をはじめたよ③

「TV局をはじめたよ」と題して、「ドラえもん」の中からTV局を開局するお話を2作品取り上げて2本の記事にした。

この2作品はおよそ1年半の間で描かれている。
『のび太朗 テレビ出えん』(74年2月号)
『のび太放送協会』(75年10月号)

2作品とも同一テーマであり、その内容面も非常によく似た展開だったので、その内の1作はてんとう虫コミックに収録されなかった。

2つの記事は下記。

そして、『のび太朗 テレビ出えん』から遡ること2年半。実はTV局を作るお話の元ネタとなる作品が存在している。「ドビンソン漂流記」という作品の『横丁チャンネル大混戦』というお話てある。

本稿ではその作品に焦点を当てる。


「ドビンソン漂流記」『横丁チャンネル大混戦』
「こどもの光」1971年7月号

「ドビンソン漂流記」という作品は、割とマイナーな存在で、かつこれまで藤子Fノートでは取り上げてこなかったので、まずはその概要を簡単に説明しておこう。

「ドビンソン漂流記」は、「キテレツ大百科」が連載されていたことで有名な、家の光協会が発行していた月刊誌「こどもの光」にて、1971年1月号から2年間、24作品が執筆された。

ドビンソンという宇宙人の少年が宇宙で事故に遭って、チキューに漂流してしまうというお話。藤子F先生が子どもの頃から大好きだったという「ロビンソン漂流記」のモジリとなっている。


ドビンソンは科学の発達したポッド星という星で育っており、地球人のことを文明の遅れた人々だと決めつけている。地球人からすれば生意気な少年なのだが、実際はパパやママのことを思い出しては、早く故郷に帰りたいと打ちひしがれてしまう子供だ。

ドビンソンの相棒は事故に遭ったときに乗り込んだロボート(ロボットボート)。そしてドビンソンが居候することになるマサオ君とそのパパとママ。なおマサオの苗字は作中確認できなかった。

作品としてはポッド星の進んだ科学技術を用いたドビンソンの発明だったり持ち物を使って騒動を起こしたり、どうにかして地球から脱出しようとするドビンソンの奮闘が描かれる。


前置きはそんなところで、本作を詳しく見ていこう。

一家団欒でテレビを見ているマサオ一家とドビンソン。夜も遅くなって、マサオたちは寝てしまうが、ドビンソンはそのままテレビを見続ける。が、夜中になって放送が終わってしまう。この時代、テレビは深夜に終了してしまうものだった。

画面が砂嵐になったのでドビンソンも寝ようとすると、ドビンソンのパパとママの映像が突然流れ出す。本作は「ドビンソン漂流記」の7話目だが、パパとママはこの時が初登場となる。

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パパとママはドビンソンを宇宙中探していて、捜索の一環で電波を送り続けているのだという。放送の返信をするため、急いでロボートにカメラを作らせるが、地球の部品では強い電波を飛ばすカメラを作ることができない。

そうこうしているうちに、「宇宙パトロールが探しているから希望を捨てないで」とママがしゃべると、放送は終わってしまう。砂嵐に戻ったテレビに向かって「ママ・・」と涙を流すドビンソン。まだまだ両親に甘えたい子供なのだ。


そして翌朝。ロボートが作った即席カメラはテレビの前に置きっ放し。寝ぼけて起きてきたマサオがカメラの前に座るのだが、ボリボリとデヘソの回りを掻いたり、ママに耳を引っ張られて早く学校に行くよう急かされる様子が、カメラを通じて近所の家のテレビに放送されてしまう

学校でその話を聞いて赤っ恥を掻いたマサオは、帰ってきてドビンソンにどういうことかと詰め寄ると、カメラの電波が近所に届いたのだと言う。ドビンソンにとってはカメラは失敗作だが、マサオはこのカメラを使って放送局を作って番組を流そう、と思いつく。

ドビンソンは「放送局ごっこは幼稚園で飽きた」と言って盛り上がらないのだが、マサオは「スポンサーをつければ儲かるので、それでいいカメラを買おう」と提案すると、ドビンソンとロボートは一転「やろうやろう」と賛同する。

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ここまでがテレビ局を始めるまでの導入となる。ここからスポンサー探し~番組会議と話が展開していくが、後の「ドラえもん」の放送局作品2作とほぼ同じネタが使われているので、そのあたりを捕捉していく。

まずはスポンサー探しから。のび太放送協会』でもスポンサーを探して商店街を回ったが、すぐには見つからなかった。本作ではそれとは逆に順調にスポンサーを獲得していく。一枠(30~60分)を100円という格安で売り歩いていく。

ちなみに「ドラえもん」2作ではどんな番組を作ろうかと考えた結果、お金が必要だと気付いてスポンサーを募ることになる。展開の順番が逆である。

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続けて肝心の放送内容をマサオとドビンソンたちで協議していく。ここで出てくるアイディアは以下。

・ドラマ→難しい
・クイズ→賞金を出すのが惜しい
・料理番組→母さんが作っているところを写せばいい

こうした編成会議も、後の「ドラえもん」でも登場してくるシーンとなる。


最初の番組「今晩のおこんだて」の放送開始。ところが母さんはまだ夕飯の支度に取り掛かっていない。早く作るようせっつくと、夕べのカレーやお昼の味噌汁が残っていると言ってのんびりしている。

さらにテレビに映っているとは知らずに、お隣のご主人が釣りに出掛けたので、「釣れたら2、3匹くれるでしょ」と勝手なことを言っていると、その発言を聞いていた隣の主人が訪ねていて、「今日は一匹も釣れませんで」と謝ってくる。

料理番組で家庭の恥を晒すパターンは、『のび太朗 テレビ出えん』にそのまま引き継がれている。

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そこへ最初の枠のスポンサーである二河屋酒店のオヤジが現れて、コマーシャルを早く流すようクレームをつけてくる。そして出たがり屋のオヤジが自ら二河屋のPRをするのだが、開業時からの歴史を長々と語り出し、なかなか終わらない。案の定、近所の評判はすこぶる悪い

マサオがCMを終わらせるよう伝えるのだが、俺の買った時間をどう使おうと勝手だと言って開き直る。こうしたモノ言うスポンサーが番組に介入してくるパターンも、そのまま「ドラえもん」2作へと引き継がれていく。


続けて登場してくる「テンプラ堂時計店」の奥さんと娘。この親子も「自分が買った時間ざます!」と言って、娘のピアノ独奏を始めてしまう。こちらも評判悪く、抗議の電話が鳴りやまない。

ついに我慢できなくなった近所の子供たちがマサオ宅に集結してきて、こぞって自分を使えと売り込みをしてくる。そして、「落語」「歌」「手品」「バレエ」と思い思いの発表を一斉に始めてしまい、カメラの前は大混乱に陥ってしまう。

この大騒ぎについては、『のび太朗 テレビ出えん』のオチでも使われている。

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本作そこからもう一段進む。家の中で大騒ぎをしているマサオに、母さんが「遊んでばかりいないで宿題をやれ」と𠮟りつける。これにて放送は中止となるのだが、既にスポンサー料を払っている魚屋の主人から「放送して貰おうじゃないか」と抗議の電話が掛かってくる。

そこでドビンソンは、宿題をしているマサオにカメラを向けて、教育番組「今日の宿題」を放送しようとする。「やめろ」と慌てふためくマサオの姿で本作は終了となる。

宿題解説を番組の有力コンテンツとするエピソードも『のび太朗 テレビ出えん』で再利用されている。


ここまでをまとめると・・

『横丁チャンネル大混戦』(71年7月号)→『のび太朗 テレビ出えん』(74年2月号)→『のび太放送協会』(75年10月号)

子供たちによる「テレビ局開設」という同一テーマが描かれている。このうち、最初に描かれた「ドビンソン漂流記」で使われたネタや構成が後のドラえもん2作の内容に大きく影響を与えている。

具体的には
①番組の編成会議
②スポンサーの番組介入
③料理番組ネタ・宿題番組ネタ
④出たがり子供たちが大挙押し寄せる
といった点が、ドビンソン漂流記に登場し、そのままドラえもんでリメイクされている。

本作のユニークな点としては、テレビ局を始めるきっかけが、ドビンソンのパパやママへの想いからカメラを作ったことだった。郷愁が時々漂うことのある「ドビンソン漂流記」ならではの展開と言えるだろう。


予定では、本稿でさらに時を遡って、同一テーマを描いた別の作品を紹介していく段取りだったのだが、本稿が膨らみすぎたのでひとまずここまでとしておきたい。


メジャーからマイナーまで、藤子作品の考察やっております。

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