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よくわかってないがお芝居はしたいQ太郎『ぼくが主役だ』/藤子Fの演劇しよう②

大人になってしまうと見事に忘れてしまうけれど、子供の頃はお芝居をすることが多かった。幼稚園のお遊戯会から始まって、小学校では毎年のように学芸会の出し物として演劇が用意された。

その中で毎年のように主役を演じる達者な子供もいれば、大道具作りなどに命を燃やす子も出てくる。僕はと言えば、脚本に興味を持ちつつもそれほど関与せず、一言二言の端役を担当することが多かった。

道具や背景を描くなどにも興味が沸かず、かといって主役級の役どころに立候補するわけでもない。滑舌が悪かったので(今もだが)、セリフを言うのも好きではなかった。たった一言のセリフを言い淀んで、その後何年にもわたって冷やかされた記憶もある。


兎にも角にも、お芝居をすることは、子供たちにとって日常的なことであり、当然子供心を掴むことで知られた藤子先生が、それをマンガの題材にしないわけがないのである。

そこで、「藤子Fの演劇しよう」と題して「お芝居」をテーマとした作品群を取り上げていく。第一弾として、前回の記事では、のび太がシナリオを書いた疑似西部劇についてのお話『ライター芝居』という作品を紹介した。


本稿では、「オバケのQ太郎」から、Q太郎が正ちゃんたちの学芸会の練習に加わって大騒ぎするお話を見ていきたい。

「オバケのQ太郎」『ぼくが主役だ』
「小学五年生」1965年11月号/大全集10巻

正ちゃんたちがクラスメイト7人で劇をやることになる。脚本も配役も自分たちで決めるということで、正ちゃんの家に集まって題目などの相談ををすることに。その話を聞いたQちゃんは、「僕も出てやる」と、関わりたくて仕方がない。

さっそく、キザオとよっちゃんがやってくるが、キザオは「うるさいのでQ太郎も出してやろう」と提案。喜ぶQ太郎に、正ちゃんは「消えて黙って立っている役」だと言って、しばらく黙らせるが「インチキだ」とすぐに気付く。

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他のメンバー4人がいつでもたっても姿を見せないので、「何かやらせろ」とうるさいQ太郎に、まだ来ない連中を集めてくるよう命じる。渋々応じるQちゃん。

ところが二人は学習塾、ゴジラは野球、ハカセは一心不乱に勉強中ということで、これ以上誰も来ない。仕方がないので3人でやろうと決めるが、Qちゃんは「4人だよ」と自己アピール。とにかく、加わりたくて仕方がない。


まずはお題目をどうするか。

キザオは少ない人数なので「ウサギとカメ」を提案する。キザオがカメでよっちゃんがウサギ、正ちゃんは始めに用意ドンと声を出す係、Qちゃんはウサギであるよっちゃんが昼寝するまくらの役・・。当然、Qちゃんは納得しない。

よっちゃんは衣装も用意してきたので「白雪姫」をやりたいと言い出す。それを聞いた正太・Q太郎は、自分たちも衣装を探してくると言って別の部屋に行き、正ちゃんは背広姿で「007だぞ、スリルとサスペンスの劇を作ろう」、Qちゃんは着物姿で「時代物でいこう、チャンバラは面白いよ」と言い出す。

キザオは「スリラーや時代物だったら白雪姫が良い」とよっちゃんの肩を持ち、題目は白雪姫に決定

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キザオが王子様でよっちゃんが白雪姫。正ちゃんは一人で七人の小人を担当する。正ちゃんは四つん這いとなって、大きな紙に7人の小人の絵を描いたものを丸めて被って「小人たち」を演じる。

Q太郎は魔法使いの女王役。鏡と話しているところから劇が始まると説明を受けるが、

「バッカじゃなかろうか。鏡がしゃべるわけないや」

白雪姫の筋を全く知らない様子。「魔法の鏡よ、世界で私より美しいものがいるだろうか」とセリフを指示されると、

「テヘヘよせやい照れちゃうよ。いくら僕でもそこまで自惚れてない」

と、全く話にならない。


次の場面。狩人が姫を森へと連れ込むシーン。キザオが二役で狩人役も担う。「寂しいところへ来たわね」と白雪姫。「あたりに誰もいないな」と狩人。するとQ太郎が

「ぼくがいるよ」

と、演劇のルールを無視する発言。

「お姫様覚悟してください。女王の命令であなたを殺さねばなりません」とキザオ。脇で見ていたQ太郎は、「木佐君はあんなひどいやつだったのか」と憤り、鞍馬天狗に扮してキザオを打ちのめしてしまう。現実と演技の区別が全くできていないようだ。

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次のシーン。姫は森の中を彷徨う。「ここはどこかしら」とよっちゃん。Qちゃんは「正ちゃんのうちだよ」と本気のボケ。

白雪姫は一軒の小屋を見つけて、中で眠り込んでしまう。7人の小人役の正ちゃんが四つん這いで歩いてくる。「ここに寝てるのはどこの馬の骨だ」と言葉遣いが悪い正ちゃんに、よっちゃんは怒る。

よっちゃんは「助けて下さい、女王が私を狙っているの、私があんまり美人だから」とセリフを繋ぐと、「ビヒャハハハ」とQちゃんは大笑い。よっちゃんは泣き出してしまう。


Q太郎は「白雪姫」のお話を知らないばかりか、演劇と現実の区別もついていない。それなのにチャンバラの主役をやりたいという意欲もあるので、非常に質が悪い。ここからさらにヒートアップ。

白雪姫は小人たちに「私を殺そうとしたの」と告げると、Qちゃんは「酷いやつだ。この丹下左膳がやっつけてやる」と言って、刀を振り回す。「悪い女王は君だぞ」とツッコまれると、

「僕は悪いことが大嫌いなんだ、正義の女王が悪い王子をやっつけることにしよう」

と、無茶苦茶なことを言い出す。

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困ったキザオは、毒リンゴが必要だと思いつき、Qちゃんにリンゴを買ってくるようお願いして、平穏な稽古の時間を作り出す。

ところが、小人の絵を横型から縦型に書き直したりしているうちに、Qちゃんは帰ってきてしまう。そして自分の出番を急かし、リンゴ売りとして舞台に登場。

姫にリンゴを渡す役どころだが、肝心なリンゴはQちゃんが食べてしまっていて、芯しか残っていない。よっちゃんは「これを私がかじるの」と躊躇するが、話が進まないと言って無理やりかじらせる。

するとQ太郎が

「ヤーヤー、芯を食べてる。いやしんぼ」

とよっちゃんの気持ちを逆なでする暴言。お前が食べたせいだろと思うが、Qちゃんは全くその辺の空気が読めない

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その後、リンゴの芯を巡って、Qちゃんと正ちゃんが掴み合いの喧嘩に発展。キザオは「どうせ小人と女王は戦うからまあいいだろ」と投げやり。

これでは話が締まらないということで、正ちゃんは007に扮し、Qちゃんは宮本武蔵となって、舞台に再登場。制止するキザオをふたりで叩きのめして、

「ついに悪い王子は滅びた」

と、大喜びの二人。

「こんな白雪姫ってあるかしら」とよっちゃんのボヤキでお話は終了となる。

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Q太郎は楽しそうなことに参加したいだけで、芝居のことをよく理解していない。その一方で、時代劇スターを演じたい気持ちもあって、作中では「鞍馬天狗」「丹下左膳」「宮本武蔵」という3大剣戟ヒーローを名乗って登場している。

木佐君は皆をまとめようと動いたのにも関わらず、悪の王子として最後は撃退されてしまう。非常に可哀そうな立場であった。


さて、オバQ絡みでは、「新オバQ」でも人魚姫の芝居を題材にしたエピソードがあるので、これも少し先にてご紹介する。


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