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藤子Fモチーフ勢ぞろいの冒険漫画「しゃぼんだまぽんちゃん」/ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品⑪

本稿でご紹介するのは、短編主体だった初期時代から、徐々に連載作品が増えていく頃(1960年)の作品。この当時は、「海の王子」「ろけっとけんちゃん」に代表される少年向け冒険物語と、「てぶくろてっちゃん」などの幼児や小学校低学年を読者にした日常系の少し不思議作品が混在している。

本作は「たのしい幼稚園」という講談社の幼児向け雑誌に半年間だけ連載されたものだが、一見、後者の日常系と思いきや、実は冒険主体のお話だという、藤子先生の二つの持ち味が融合した作品となっている。


毎話3ページだが、基本的に毎号お話が続いていく「つづきまんが」形式となっていて、藤子先生の大好きなモチーフが散りばめられた、初期タイトルとしては押さえておいて損はないタイトルである。

なお、「つづきまんが」形式は、この頃の藤子作品に時々見られた連載パターンで、「海の王子」がその典型である。ただし、改めて「つづきまんが=連載ストーリータイプ」の作品を読むと、藤子先生にはあまり適さない形のように思えるのも事実。

基本的に一話完結型の短編形式に、藤子先生の才能は発揮されるのだと思った次第である。


「しゃぼんだまぽんちゃん」
「たのしい幼稚園」1960年7月~12月号

それでは本作について簡単に解説をしていこう。

主人公は、男の子のぽんちゃんと、女の子のぴんちゃんの二人。博士のような風貌のおじさんに不思議なしゃぼん玉を貰い、そのしゃぼん玉に乗って、色々な場所へと冒険をする・・・というのが基本的なストーリーラインである。

ぽんちゃんたちが使うしゃぼん玉は、どんな形にも作れるし、大きく膨らませて中に入って空を飛ぶこともできる。子供たちにとってしゃぼん玉は身近で手軽なおもちゃであり、日常の延長線に不思議な出来事があるという、藤子先生らしい、夢の詰まったお話だ。


『しゃぼんだまで海へいこう』1960年7月号

ぽんちゃん、ぴんちゃんで遊んでいると、遠くからしゃぼん玉に包まれて空を飛んでくるおじさんを見つける。いかにも科学者だという白衣姿の男の人から、「おもしろいしゃぼんだまをあげよう」と言って、二人に液体の入ったケースを渡す。

二人はさっそくしゃぼん玉を膨らませて、ウサギやネコなどの動物や魚の形を作る。さらに、しゃぼん玉を大きくして中に入ると、空に浮かぶことができる。二人は「海へいこう」と言って、空を飛び立っていく。

なお、しゃぼん玉を渡してくれた博士も、そのままどこかへと飛び立っていき、本作中において二度と姿を見せない。彼は一体何者であったのかは、永遠の謎である・・。


海へ出ると、一羽のカモメがぴんちゃんのしゃぼんを突いて割ってしまう。ぴんちゃんはそのまま海へと落下(!)、ぽんちゃんが助けに入ると、なんとぴんちゃんが、巨大なタコに捕まってしまっている。

ほのぼのしていたお話が、いきなり風雲急を告げ、そして「さあ、どうなるでしょう」と、いきなり次回へ続くとなってしまう。子供たちにとって、次の号が出るまでの一ケ月は、いたく長く感じたことだろうに・・。


『かいぞく船とクジラとライオン』1960年8月号

前号からの続き。海中で巨大なタコにつかまったぴんちゃん。このままでは呼吸もできない! ぽんちゃんは、しゃぼんだまで大きなクジラを作り出し、タコを脅して救出に成功する。

ぴんちゃんもしゃぼん玉の中に入れて、海上へと浮上。すると、目の前にはタイミング悪く、海賊船が航行中であった。急に海中から飛び出してきてしゃぼん玉を見て、「おばけだ」と驚き、拳銃で撃ってくる。

それによってしゃぼん玉が割れてしまい、二人も海賊に捕まってしまう。ぽんちゃんのしゃぼん玉も取り上げられてしまうのだが、それを海賊が膨らませると、ライオンになってしまう。

逃げ出す海賊たち、そしてライオンの鋭い眼光は、縛られているぽんちゃんたちに向けられる・・・。と、今月はこれでおしまい、次号へ続く、となる。この号もまた、ハラハラいい所でお話が区切られている。


『かいぞくたいじ』1960年9月号

しゃぼん玉で作られてライオンに狙われる・・というところから始まる。ぴんちゃんの持っていたしゃぼんだまを、ぽんちゃんが口を使って取り出し、ランプの魔人のようなしゃぼんを作り出す。

ライオンを弾き飛ばし、次は海賊も捕まえようとするのだが、突然の強風にあおられて、海上へと飛んで行ってしまう。しゃぼん玉の天敵は風なのだ。


海賊は今がチャンスと襲い掛かってくるが、二人はしゃぼん玉で自分たちと同じ形をたくさん作りだし、どれが本物か見分けがつかなくなってしまう。ギュウギュウ詰めの船を下に、二人は再びしゃぼん玉に入って飛んでいくのであった。

この号は区切り良く終了。安心して子供たちは眠れたに違いない。


『飛行機ときょうそう』1960年10月号

この号辺りから、藤子先生の大すきなモチーフが頻出していく。

しゃぼん玉に乗って浮かんでいると、1機のロケットが飛んできて、「速いだろう」と言いながら追い越していく。「負けるもんか」としゃぼん玉で高速のロケットを作り出し、あっと言う間に追い越してしまう。

相手のロケットは、真っ黒な弾幕を張って、ぽんちゃんたちの視界を閉ざすのだが、いい気になって前方不注意となって、陸上の恐竜(!)にぶつかって、ロケットを食べられてしまう。

前号までの海賊といい、本作の恐竜といい、時代設定がなんともカオスだが、藤子先生が大好きな物は全て揃っている世界なのだろう。

ぽんちゃんたちは、うんと長いしゃぼんを作り、恐竜をグルグル巻きにして、ロケットのパイロットを救出する。この号も、ほぼ1話完結のお話であった。


『あばれだしたロボット』1960年11月号

海賊、恐竜ときたら、次はロボットの登場である。

先月号でロケット型のしゃぼん玉を作って飛んで行ったぽんちゃんたち。目の前に機械仕掛けの鳥が羽ばたいている。ある家に入っていくので追って降りると、今度はワンワンとロボットのイヌがやってくる。

すると、家の中がドタンバタンと騒がしくなり、中から博士と思しき男性が、「ロボットが暴れ出した」と叫びながら家を飛び出してくる。そして、後から巨大なロボットが、家の壁を破壊して追いかけてくる。

作ったロボットが暴れ出すという展開は、本作だけでなく、藤子ワールド全体の「あるある」。「ロボットの反乱」というシリーズ記事も書いているので、お暇な方は「目次」から探してみて下さい!


対抗してぽんちゃんも、しゃぼんでロボットを作り出すも、あっさりパチンと割られてしまう。本物のロボットにはしゃぼん玉では通用しないようだ・・。

ロケットに乗って逃げ出すが、ロボットも空を飛んで追ってくる。そこで柔よく剛を制すとばかりに、今度は手の形をしたしゃぼん玉を大量に作って、ロボットの目を隠して。体中をくすぐったりする。

「くすぐったい」とおよそロボットらしからぬことを言い出して、ロボットは地上に落下して目を回してしまう。ロボットの反乱はあっと言う間に収束となったようである。


『サンタをたすけよう』1960年12月号<最終回>

最終回は12月号ということで、クリスマスネタ。こうした時節に関わる題材を描くのも、藤子作品の特色の一つである。

ロケットに乗っていくと、空から大量のおもちゃが落ちてくる。雲の上ではトナカイのそりに乗ったサンタクロースが鳴いている。白い大きなサンタの袋が、破れてしまっておもちゃを全て落としてしまったらしい。

そこでぽんちゃん、ぽんちゃんで、しゃぼん玉を使って色々なおもちゃを作り出す。急いで子供たちに届けようということで、サンタをロケットに乗せて町まで飛んでいく。

すると大雪が降ってきて、ロケットは雪まみれとなって地上に落下。その弾みでサンタクロースは足を挫いてしまい、「おもちゃがクリスマスに間に合わない」と言って泣き出す。よく泣くサンタである・・。


そこで今度は、羽をたくさんしゃぼん玉で作って、おもちゃにくっ付けて、ひとりでに飛んでいく仕掛けを作成。羽根の付いたおもちゃは町へと飛んでいく。

「足が痛い」と情けなくぐずるサンタをしゃぼん玉の救急車に乗せて病院へと走らせる。病室から松葉杖をついたサンタは、望遠鏡で町の様子を覗くと、子供たちにおもちゃが渡って、大喜びの様子が見える。

この冬は、ぼんちゃんたちがいてくれたので、みんなにクリスマスプレゼントが届いたんだよ、という、とってもいい終わり方と共に、本作も最終回となるのであった。


「ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品」の王道のような作品であった。まだまだこういう作品は埋もれているので、さらなる発掘を行います。お楽しみに・・・。



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