『あやうし!ライオン仮面』の姉妹編?『ファイターZ』/フニャコフニャオを探せ③
膨大な藤子F作品の中から、作者の分身とも言えるフニャコフニャオを探していこうという一大企画「フニャコフニャオを探せ」シリーズの第三弾。
前回までの記事で「ドラえもん」『まんが家』と、「新オバケのQ太郎」『天才教育』というフニャコフニャオ先生が登場する2作品を紹介した。そしてこの二作品は、話の構成が良く似ていて、その共通点を整理するとともに、まるで姉妹のような関係にあると考察した。
記事は以下。
この藤子Fノートでは、昨年、フニャコフニャオが最もフューチャーされている「ドラえもん」『あやうし!ライオン仮面』も記事にしている。
このお話は、「ライオン仮面」の作者であるフニャコフニャオ先生が、後先考えずに主人公をピンチにして「次号に続く」とやってしまったばかりに、次回の内容を考えるのに悪戦苦闘する、というものだった。
続きが気になって仕方がないドラえもんが、「タイムマシン」で来月号を買ってきて、その内容をフニャコ先生が写すという技を使って、次号のお話を完成させるという「タイムパラドックス」全開のお話である。
本稿で紹介する「バケルくん」の『ファイターZ』という作品は、この『あやうし!ライオン仮面』と実によく似た悩みを抱えたフニャコフニャオ先生が登場する。
タイムマシンは出てこないが、バケルくんの能力を使って、何とか次号のストーリーを作っていくお話で、『あやうし!ライオン仮面』と大筋はそっくり。すなわち、『ファイターZ』と『あやうし!ライオン仮面』もまた、対となる姉妹編なのだ。
本稿では、この2作品の構成を読み比べて、考察を深めていきたい。
「バケルくん」『ファイターZ』(初出:アイディアマンになる!)
「小学三年生」1974年7月号
事実上フニャコフニャオ先生が主人公である「ドラえもん」『あやうし!ライオン仮面』と瓜二つの本作は、その約3年後・1974年に執筆された作品である。
この年は藤子先生が生涯で最も多忙だった一年で、多数の連載を同時並行で抱えていた。そのことが影響している可能性があるが、この年に発表された「バケルくん」「みきおとミキオ」「キテレツ大百科」では、「ドラえもん」などで使ったネタを転用しているエピソードが散見される。
本作もそうした「転用」作品の典型のようなお話となる。
本作では「ファイターZ」という作品が子供たちの中で大流行。「少年少女」という雑誌の6月号では、主人公のファイターZが、敵の熱線を浴びて体をバラバラにされてしまう。主人公はどう見ても死んだ(壊れた)としか思えないが、ここで7月号へ続く、となる。
『あやうし!ライオン仮面』では、ライオン仮面が敵に捕まって熱線攻撃を受けて次回続くとなっていた。まるで同じである。
読者であるカワルたちは、早く次号が読みたくて仕方がない。そこにゴン太(ドラえもんにおけるジャイアン)が、「少年少女」編集部にいるおじさんから入手したという7月号を出してきて、ファイターZがいかに大ピンチから逃れたかを得意気に説明する。
ちなみにその方法とは、バラバラにされたファイターZは実は囮のロボットだったというものであった。
カワルはゴン太が好意を抱くバケルのお姉さんに変身して、ゴン太から来月号を借り受ける。先月号のピンチは逃れているのだが、この7月号では人の心を読める「サトリ」という強敵が登場してくる。
ファイターZの心の内を読めてしまうため、あらゆる攻撃がかわされてしまう。そして崖の上へと追い詰められ、絶体絶命となったところで8月号に続く、となるのであった。
6月号のモヤモヤが晴れたと思えば、7月号を読んでまたモヤる。このパターンもまた「ライオン仮面」と一緒だ。
カワルは「早く続きが読みたい、気になって眠れない」と騒ぐが、作者本人に聞けばいいのだと思いつく。そして人形でバケルに変身して、近くに住んでいる作者のフニャ子フニャ夫の家へと向かうのであった。
続きは作者本人に聞こうという思い付きもドラえもんと一緒。そしてフニャコ先生の家が歩いていけつ距離にあるのも一緒である。
なお、このことから、カワルとのび太は家が近くだということになる。「バケルくん」と「ドラえもん」のコラボ作『ぼく桃太郎のなんなのさ』、で何の説明もなくのび太とバケルが集まっていたので、かなりのご近所さんであることは間違いない。
「フニャ子」という表札のある門をくぐると、売れっ子漫画家とは思えない普通の一軒家。呼び鈴を鳴らすと「うるさいな、留守だよ」という声が聞こえてくる。留守と言いつつ声がするので、庭に回ってみるとフニャ子フニャ夫が、草を刈っている。
「バケルくん」におけるフニャ子フニャ夫は「ドラえもん」と風貌が違っているが、ベレー帽を被っているのと口や目の形はよく似ている。強引だが、同一人物だと言えなくもないだろう。
バケルが「ファイターZ」の続きが聞きたいんですと質問すると、「なんでそんなことを聞くんだ」と怒って、手にしていた草刈りハサミで攻撃してくる。
子供では話を聞いてもらえないということで、バケルのお母さんに変身してフニャ子先生を呼び出し、重大な用があると言って家の中へ通してもらう。そしてまずは
「ずうっと漫画を書いていらっしゃると、やはり先生みたいに、漫画みたいな顔におなりになるのでございましょうねえ」
と本筋とは関係ないメタな雑談を始める。
続けて本題の、ファイターZの続きを聞くと、またまたフニャコ先生は嫌なことを思い出させたと激怒する。どうやら現実逃避をしているご様子。
「それ(続き)がわかってるぐらいなら、わしゃこんなに困っておらん! 面白くしようと思って、相手を強くしすぎた。Zの考えをいちいち先回りされるんじゃ、やっつけようがないじゃないか!」
こちらのフニャ子先生も、「ライオン仮面」同様、後先を考えずに主人公を大ピンチに陥らせてしまったのである。自ら苦労を背負い込むこの人はMなのではないだろうか。
締め切りが過ぎたというのに一頁も進んでいない。そこへ編集者がすぐに原稿を取りに来るという。「だれか助けて」とジタバタし始めるフニャ子先生に、バケル一家が知恵を出してあげることにする。
バケルファミリーのアイディアは以下のような感じ。
パパ「平和的に解決すべき。怪獣に優しく言い聞かせる。愛の力で悪の道を救う」
カワル「ファイターZは諦めて殺して、代わりにZ2というのを出す」
姉さん「魔女っ子ユメちゃんがサトリをタワシに変える」
犬「サトリが食いつこうとしたら、おあずけ!おあずけ!と言う」
代わる代わる押し入れで変身して現れるので、フニャ子先生は「人の家に大勢で上がりこんで!」と怒り、押し入れからバケルくんを引きずり出そうとする。すると、その拍子に押し入れに仕舞われていた布団が雪崩れてきて、フニャ子先生を押しつぶす。
そこで、聡明キャラのバケルは、あるアイディアが思い浮かぶ。それは、Zの乗っていた岩がサトリの上に崩れ落ちる、というもの。意図して起こしたことではないので、サトリは事前察知することができなかったことにするのである。
「君はわしの恩人だ!」
と、バケルに抱きつくフニャ子先生。
早速、急ピッチでお話を描いていく。なお、フニャ子先生の作業部屋の隣室にはアシスタントが5人暇そうに待機していて、ようやくアイディアがまとまったらしいと、のんびり動き出すのであった。
アシスタントのキャラがモブにしては個性的に描かれているので、もしかしたら本物のF先生のアシスタントの方々を模しているのかもしれない。
バケルはフニャ子先生のアイディアマンとして採用され、これから毎月のアイディアを考えてあげることになる。
そしてゴン太たちに、「ファイターZ」の続きをペラペラと開陳し、みんなの続きを読む楽しさを奪ってしまうのであった。
「続きが読みたい!」と思っても、実際に知ってしまうと興ざめしてしまうもの。結局は続きを待つ行為自体が面白いのである。
本作と同じような後味の「ドラえもん」『まんがのつづき』という作品がある。この作品もフニャコ先生が登場してくるので、また別の稿にてご紹介したい。
では、ここまでのまとめ。
・「ドラえもん」『まんが家』と「新オバケのQ太郎」『天才教育』は姉妹編の関係。
・「ドラえもん」『あやうし!ライオン仮面』と「バケルくん」『ファイターZ』も姉妹編。
・そして全てにフニャコフニャオが登場する。
フニャコ先生特集はまだまだ続きます!
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