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偶然を操るロボット ゴンスケ@『ドジ田ドジ朗の幸運』/ゴンスケ大活躍③

藤子作品を横断して出現するキャラクターはチラホラいるが、きちんとしたレギュラーとして2作に出演しているのはゴンスケくらいではないだろうか。

初出の「21エモン」では、もともとイモ掘り用に開発されたが今はホテルのボーイをしているロボット役で登場。口が悪く態度も大きいが金儲けは上手で、何よりイモ作りを愛しているという非常に濃いキャラクターであった。

「21エモン」が連載を終了した数か月後に、「ウメ星デンカ」スーパー召使いロボットのゴンスケとしてスライド登板を果たす。イモ掘りロボットではなかったが、召使いに相応しくない偉そうな言動や金にさとい性格は引き継がれていた。

さらにその設定に加えて、「ウメ星デンカ」では、太郎のガーフルレンドみよちゃんを好きになる恋するロボットとして存在感を発揮する。

それらの活躍については、以下の記事をご参照下さい。


上の記事で注目しておきたいのは、「ウメ星デンカ」の中でゴンスケは、ゼネラル・ロボッツカンパニー製の「ゴンスケ・タイプ」という大量生産型ロボットだったという事実である。

この事実から類推するに、「21エモン」でのゴンスケも「ウメ星デンカ」のゴンスケと同時期に開発されたロボットだと思われる。21世紀には流行らないイモ掘り用ロボットという設定もそれで頷ける。

なおゴンスケ・タイプは初期タイプでは重大な設計ミスがあったようなので、21エモンでのゴンスケもそのミスが修正されなかったバージョンだったようだ。


そして今回見ていく異色SF短編『ドジ田ドジ朗の幸運』では、ゴンスケが三度(みたび)登場となるのだが、言葉使いは荒いが不良品とは思えない賢い役柄となっている。設計ミスが修正されたゴンスケ・タイプだと思っておいてよいだろう。(ただし本当にロボットかどうか怪しい点もあるが)


『ドジ田ドジ朗の幸運』「S・Fマガジン」1970年11月増刊

ゴンスケは手塚治虫先生が発明したとされる「スター・システム」に則ったキャラクターで、すなわちゴンスケを一人の俳優のように見立てて、色々な作品に「出演」していく形を取っている。

なので掛け持ち出演はしっかりと避けられていて、「21エモン」と「ウメ星デンカ」は連載期間が重なっていた時期は「21エモン」のみの出演だった。そして「21エモン」が1968年いっぱいで連載を終えた後に「ウメ星デンカ」へと出演を果たすのである。

この2作品を通じてゴンスケのキャラクターは深掘りされ、魅力が爆発したところで「ウメ星デンカ」も1969年度をもって終了となる。

そしてそこから一年も経たずに、ゴンスケは本作へ出演することとなった。


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では作品を検討していこう。
本作の主人公はドジ田ドジ朗。運やツキからトコトン見放された男で、もはや自分の運の悪さを淡々と受け入れるほどとなっている。

麻雀では常に当たり牌を振り込み、いつも脱いだ靴は犬に持っていかれ、タクシーを止めようと思えば轢かれてしまう。交差点では必ず赤信号で止められ、朝の通勤電車では一番前に並んでいても座れない。

何から何までうまくいかず、ツキのない生活をしているのである。

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そんなドジ田が自分のろくでもない日々を振り返りながら寝転がっていると、天井に何かが現われ、それが大きくなっていく。やがて目玉のようなものも見えてくる。ロボット(=ゴンスケ)のようである

どうでもいいや、などとボンヤリ見ていると、そのロボットが「ドジャーン」とドジ田の上に降ってくる。寝ている時までこんな目に遭うのは理不尽だと、ついに堪忍袋の緒が切れて、落ちてきたロボットを何度も何度も踏みつける。

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するとロボットが目を覚まし、ドジ田に対して命の大恩人だと感謝の念を示す。そして早く眠りたいドジ田に、ロボットは一方的に自己紹介を始める。要点を下記に書き出そう。

・3.5次元の世界を漂流していたがドジ田に蹴られて直った
・名前と肩書は「宇宙合目的調整機構 統計局均整課 偶然係長 ゴンスケサン」
・職業柄、受けた恩は返さないといけない
・仕事は平たく言えば「地ならし屋」。確率上現れるデコボコを平らにして、貸し借り無しのトントンにすること

ゴンスケは、ドジ田の運勢についてカチコチと計算すると、「ドシャー」と驚いて跳ね上がる。ゴンスケの言うことには、ドジ田ほどの大きな悪運偏差は初めて計測されたという。

ドジ田のこれまでのツキの悪さを思って、ゴンスケは可哀そうだと泣き出す。自分の職務怠慢であったと、これから埋め合わせをしてやると。

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ゴンスケは少しどころか、馬鹿ツキにつくという。それを聞いて嬉しくなったドジ田は、一杯飲もうとビールを冷蔵庫から取り出そうとすると、ビール瓶が勝手ピョンと飛び出し、栓も抜けてひとりでにグラスへとビールを注ぎ込む。

物理的にあり得ない光景だが、ゴンスケは自由運動しているビールの分子に号令を掛けて動く方向をまとめたのだという。そしてこれは超天文学的にはあり得ると。

しかもそのビールは、冷蔵庫が壊れていたのにも関わらずキンキンに冷えていた。これもゴンスケが作り出した偶然なのだという。そのカラクリはややこしいのでここではカットしたい。


「偶然、万歳」とドジ田とゴンスケでベロベロになって飲んでいると、ゴンスケは「偶然は無限ではない」と語る。「どこかで埋め合わせがつくものだ」と。そこで窓の外を見ると、遠くで火事が発生している。会社の同僚・ツキ山ツキ吉の家の方角である。

ツキ山ツキ吉は、ドジ田と違ってツキに恵まれた男である。ドジ田の捨て牌にロンをしたり、ドジ田の後ろから満員電車に乗り込んだのに座れたりする。会社の同僚の女性にもちゃっかりデートの誘いをして喜ばれている。

そんなツキ山の家は火事で全焼してしまっている。冷蔵庫から出火したのだという。これまでツイていた埋め合わせが始まったのである。。

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翌朝、ドジ田ドジ郎の幸運が幕を開ける。
家を出ると目の前に高級財布が落ちているのでそれを拾って交番に届けようとすると、交番に着くまでに次々と大量の財布を拾ってしまう。ほぼあり得ないことだが、交番の警官は「絶対にないとは言えない。たまたま一人の拾い主に集中することもあり得る」と、理解を示す。

会社に向かうと交差点の信号はタイミング良く青になり、満員電車ではなぜか空いた一席に座ることができる。さらに満員の車内で前に立っていた女性が揺れて、その胸がドジ田の顔へとギュッと押し付けられる。思わず「ついてる!」と呟いてしまうドジ田・・。

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会社に着くと、なんと出勤者はドジ田と、ツキ山がデートに誘っていた女性の二人だけ。他の社員は食中毒やら階段から落ちたやらが偶然重なって、欠勤してしまったのだという。社員の大量欠勤に怒った社長は、ドジ田たち二人には次のボーナスは悪いようにしないと告げる。

自分の幸運をはっきりと自覚したドジ田。そこで勇気を出して同僚の女性に声を掛け、今度の日曜のデートに誘う。そして偶然が重なり、次の日曜日、海水浴に来ていたのはドジ田と女性の二人だけなのであった。


ゴンスケの登場は途中まで。どう見てもロボットの動きであるが、ビールを飲んで酔っ払ったり、宇宙全体の官僚機構の役人をしていたりと、一企業が作ったロボットとは思えない面を見せる。

改良を加えられた「ゴンスケ・タイプ」のロボットだと考えるのが妥当だが、その優秀さから人造人間のような可能性もあり得る。残念ながらその結論は、僕には出せそうもない。。


SF短編も数多く「考察」中です。


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