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星の王子さまが転生した少年の話「バウバウ大臣」初回3作品一挙紹介!

今では考えられないほどに、1970年代の藤子F先生の執筆量たるや尋常ではなく、毎月かなりの本数の作品を発表していた。

小学館の学年別学習誌では、「小学一年生」から「小学六年生」の6冊に「ドラえもん」を連載していたことは知られているが、さらに並行して別の作品も連載していた。

例えば1971年・72年度は「新オバケのQ太郎」を学年誌6冊で連載していた。ただし、この時は「ドラえもん」は4誌の連載だった。

1974年度では「幼稚園」「小学一年生」で「モッコロくん」、「小学二年生」「小学三年生」で「バケルくん」、「小学四年生」「小学五年生」で「みきおとミキオ」と連載している。

学年別学習誌では、毎月藤子F作品が2本も読める、何とも幸せな年代であったのだ。

さらに言えば、ここに並行して「キテレツ大百科」や「パジャママン」「ポコニャン」「エスパー魔美」なども執筆している。一体全体どういう思考回路と体力があれば、そんなことができるんだろうと驚くばかりである。


そんな多忙な真っただ中の1976年に学年別学習誌3誌(「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」)で同時連載された作品があった。それが「バウバウ大臣」である。

「バウバウ大臣」と聞いて、パッとキャラクターやストーリーを思い浮壁かぶ人は、おそらく皆無であると思う。僕も子供の頃から「藤子不二雄ランド」のリストで作品名は知っていたものの、実際に読んだのは「藤子F・不二雄大全集」が発売された後である。

本稿では、そんなマイナーな作品である「バウバウ大臣」の3誌の初回を並べてみて、作品の傾向と対策(?)を考えてみることとしたい。


「バウバウ大臣」全23作
「小学二年生」1976年6月号~12月号(7作)
「小学三年生」1976年5月号~12月号(8作)
「小学四年生」1976年5月号~12月号(8作)

一般的に学年が上がれば上がるほど、読者の理解度が上がるので、ストーリーも設定も複雑にできる。「バウバウ大臣」も、その傾向通りなので、まずは、設定がしっかりと紹介されている「小学四年生」の初回からじっくりと検証していこう。


『ぼくが王子さま』「小学四年生」1976年5月号

まず冒頭、主人公らしき少年が犬小屋を完成させたところから始まる。器用に作り上げているところから、できの悪いだけののび太タイプでは無さそうだ。

犬小屋ができたことを両親に報告すると、パパが「そのうち知り合いに子犬が産まれたら貰ってくる」と悠長なことを言い出すので、少年は「今すぐ捨て犬を拾いに行ってくる」と言って家を飛び出す。

藤子作品では、ほとんどの場合で母親が動物嫌いなので、ペット不可となることが多いわけだが、この家庭ではペットを飼うことが許されているようである。藤子作品としては、レアケースと言って良いだろう。


少年は「子犬を下さい」と書いたポスターを作成し、家の外の壁に貼る。ここで主人公の名前が「星野大二(ほしのだいじ)」だということが判明する。ちなみに住所は岡上町一丁目2-7である。

なお、「大二」という名前は、「おおじ」とも読めるのだが、これが「王子」という意味のシャレとなっている点を押さえておきたい。

ポスターを張り終えると、ガールフレンドと思しきウララさんが「何しているの」と声をかけてくる。ここで、二人がいくつかの会話を交わすのだが、そこでは重要な設定も語られている。

ざっくり、星野大二にとって犬を飼うことは夢だった、団地に住んでいたので飼えなかったが、引っ越してきたので飼っても良いとママに言われた、という二点。

これも藤子キャラでは珍しく、星野は団地から一軒家に引っ越してきたのである。つまり転校生なのであって、まだこの町での人間関係が固まっていないことを意味する。


ウララから原っぱでノラ犬とノラ猫を見かけたという情報を聞き出し、さっそく見に行く大二。すると確かに、どこか異世界の雰囲気に漂う犬と猫が原っぱにいる。しかも表情豊かに、大二を見てニヤニヤしてくる。

大二は「こんなのだめ、もっとかわいいの探すよ」と、小さな山へと入っていく。すると二人組の男の子が何かを探している。「君らも犬を探しているの」と声を掛けると、二人は「こないだ転校してきたやつだな」と返してくる。

この二人、キャラとしてはジャイアンタイプのガキ大将と、スネ夫タイプのその子分という関係性に見える。藤子ワールドでお馴染みのキャラ配置である。

二人は星野大二に対して、「オージ」と読めるから「星の王子さま」とあだ名を付けようとする。大二は少々不服そうだが、大二が本当にとある星の王子さまである、という設定への布石となっている。

この二人は昨晩、二つのUFOがこの付近に落ちていくのを見かけたので、それを探しに来ているという。UFOを聞いて大二は「くだらない」と言い捨てたため、二人の怒りを買ってしまい、逃げ出す羽目に・・・。

ちなみにガキ大将は、本名川口で、カバ口と仲間内では呼ばれている。陰口のようにカバ口と言われている時もあれば、本人に面と向かってカバ口と呼んでいる場面も出てくる。スネ夫キャラの男の子の名前は、作中では登場していなかった。


大二が帰宅すると、ママが「あんまり欲張っちゃだめよ」と意味の分からないことを言ってくる。何と、大二の知らぬ間に、原っぱで見かけた怪しい犬と猫が、大二の作った犬小屋に入っているのである。

ママは大二がいっぺんに犬と猫を拾ってきたと勘違いして、「欲張り」と言ったのだ。

大二は犬と猫に対して、「イメージに合わない、すぐに出ていってもらいたい」と語りかけると、犬が「あいにくそうはいかんのです」と人の言葉を喋り出す。しかも猫と二人で会話を始めて、何やら大二に何か言いたげな様子もわかる。

犬と猫は「家の中を一通り見ておこう、御主人にも挨拶しなくちゃ」と言って、家の中へと入っていく。この間大二はあんぐりと口を開けて、犬猫がしゃべっている現実に衝撃を受ける。


「早く追い出そう」と追っていくと、犬と猫はパパの部屋へと入りこみ、お茶を出して、キセルに火を点けてあげたりしている。「君たち気が利くなあ」とパパは大層ご満悦である。

パパの机の上の様子を見ると、漫画を描いていることがわかる。パパの名前は星野一夫で、売れない漫画家さんなのである。

そして、どうやらSFを得意とする漫画家らしく、犬と猫が人間の言葉を喋ることにまるで違和感を覚えない。逆に大二に対して、「動物が喋らないと思う方がおかしい、なので怪しむことはない」と説得してくる。


パパが現実に起こったSF設定を受け入れてしまったので、大二も犬と猫が喋る事態を認めてしまう。しかし、「何か企んでいるよ」と警戒心は解かずに、お風呂に入る大二。すると、犬と猫が風呂の中を覗き込んできて、裸の大二を見て、「あった」と叫ぶ。

怒る大二に対して、犬と猫は「王子様!お懐かしや」と抱きついてくる。そして一言、

「あなたは間違いなくアマンガワ王国の王子様であらせられます」

と、何やら感動しているようである。


ここでようやく、犬猫の設定や大二の秘密が明らかとなる。

①額と両手とおへその十字になったほくろを持っているのが王子である証拠
②100年も前のことなので、大二は王子であることを忘れてしまっている
アマンガワ王国は100年前に大きなすい星が衝突して滅びてしまった
④ありし日の王国は「花は歌い鳥は咲き乱れる」美しい星だった
⑤科学者ピンピン博士が発明していた「生まれ変わり装置」によって、王子様は地球人(大二)に生まれ変わった
⑥犬は大臣バウバウの生まれ変わり
⑦猫は女官のミウミウ
⑧バウバウとミウミウもそれぞれ他の星で転生した

少し補足をすると、③については「ウメ星デンカ」とほぼ同じ設定を引き継いでいる。④の星の様子については、「ミラ・クル・1」でのUFOの故郷の星の設定に引き継いでいる。⑦でミウミウが女官だという設定は「小学三年生」の初回で描いている。


さらにはバウバウとミウミウに三万年の歴史あるアマンガワ王国の王冠を戴せられそうになり、大二は逃げ出してしまう。自分が星の王子だという突然の展開についていけてなくなったのだ。

家の外に出ると、先ほど怒らせてしまったカバ口に出くわしてしまう。「これから子分になれば許してやるぜ」と言われるのだが、「バカバカしい」と率直に答えたものだから、「もう勘弁ならねえ」と再激怒されてしまう。

するとそこへ、耳をブルンと回してバウバウ大臣が現われ、長い耳でガバ口を張り倒す。「王子様に手出しは許さぬ」と言うのである。

するとカバ口を見たミウミウが、アマンガワ星で王子が乗っていたウマのカバカバではないかと言い出す。鼻の頭の三つぼくろが証拠であるらしい。ドガアと怒りを爆発させるカバ口に、ミウミウが目から発したビームを浴びせる。

「思い出しなさい、100年前のことを」

するとカバ口はヒヒヒーンと嘶いて、馬となってしまうのであった。

けっこうな情報量が詰め込まれた第一話となっている。ページ数は扉含めて13ページである。



他の学年誌の初回についても軽く触れておきたい。

『バウバウとミウミウ登場』「小学三年生」1976年5月号

一軒家に引っ越してきて、犬を飼っても良いと言われる大二。犬を拾いに近くを散策すると原っぱにバウバウとミウミウの姿が見える。普通ではない風貌で、様子もおかしいので「見なかったことにしよう」と無視する。

この後のウララさんとの会話で「いいとこだね、空気がおいしいよ」と喋っていることから、大二は都会の真ん中のマンションなどに住んでいて、そこから郊外の一軒家に引っ越してきたということがわかる。

バウバウとミウミウは大二を先回りして、家の中へと入りこむ。ママは「いっぺんに犬と猫もなんていけませんと怒り、どっちかを選びなさい」と大二に告げる。「小学四年生」版ではすぐに両方OKとなっていたが、本作は別の展開となっている。

バウバウとミウミウが言葉を喋る事実を知って、驚く大二。二匹を追い出すのだが、すぐに部屋と戻ってきて、寝ている大二のへそを覗く。そこで二匹は「間違いないわ」となって、「小学四年生」版のような設定説明を始めるのである。

ここでの新事実は、アマンガワは天の川の真ん中辺で栄えた星であること、ミウミウは女官だったことの二点。


いきなりの展開にこちらの大二も付いていけず、ふらふらと家から出掛けていく。原っぱで頭を冷やしていると、カバ口たちがUFO探しをしていて、手伝えと声をかけてくる。

「そんなものに構っている暇はない」と拒否すると、ガバ口が激怒。殴られそうになると、そこで耳を巧みに使ってバウバウ大臣が救助に入る。

バウバウは空を飛ぶことができて、家まで運んでくれる。そして「他にも色々できる」と言う。二話目以降に期待が持てる発言である。


二人が気に入ったと大二。するとバウバウとミウミウは「立派な王子に育てなければなりません」と教育熱を高めて、大二に無理やり勉強をさせようとする。その様子を見たママは、「二人とも置いてあげましょう」と、こちらも気に入った様子なのであった。

「小学四年生」版と良く似た展開で、こちらも全13ページを使って、しっかりと設定も説明している。


『アマンガワ星からきたバウバウ』「小学二年生」1976年6月号

「小学二年生」版は一ケ月遅いスタート。こちらは扉を入れて8ページということで、細部の設定は省いたお話となっている。

展開としては、捨て犬を探している大二が、UFOを見つけようとしているカバ口たちに掴まって、裏山にUFO探しに帯同させられる。ページ数の都合もあり、とても素早く本題へ移っていく。

大二は山でバウバウとミウミウを目撃し、「もっとカワイイのを探す」と無視するのだが、空を飛んで二匹が追いかけてくる。驚いた拍子に大二は川に落ちてしまい、二人に救助される。


服を乾かすために裸になっている大二を見て、大二がアマンガワ王国の王子であることを二匹は確信し、大二が王子の生まれ変わりだと説明してくる。

話が理解できず、フラフラと立ち去る大二。するとUFOが見つからないカバ口に因縁を付けられて殴られるのだが、そこにバウバウが助けに入ってくる。

そういうことで、バウバウとミウミウを家へと連れて帰ることになり、パパとママに紹介したところでお話は終わる。二人はいきなり人間語をしゃべっているが、少々の驚きで受けれいてしまうのは、いつもの藤子ワールドという感じ。


さて、ざっと3本の「初回」を見てきたが、他の藤子作品同様、設定やキャラクターの紹介が、端的で流れるような展開の中で描かれている。

「バウバウ大臣」は、短命に終わってしまった作品ではあるのだが、全23話もエピソードがあり、それぞれ見所も多いし、他の藤子作品と通底するテーマも描かれている。

今後、いくつかの「バウバウ大臣」も紹介していくつもり。さらに「最終回」も3学年分存在しているので、こちらもいずれまとめて取り上げる予定である。



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