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魔土博士のリベンジ達成か?『パーマン生きうめ作戦』/魔土災炎博士の珍発明④

何を隠そう(というか全く隠してはいないが)、僕の一番のお気に入りの藤子F作品は「パーマン」である。

好きな理由はいくつもあるのだが、その一つに日常とSFの微妙な匙加減にある。

藤子作品は日常をベースとしながらも、そこにSF(すこし・ふしぎ)要素を加えることで、日常の喜怒哀楽が強調されるということをやっている。言い換えれば、単なる日常ものではないが、SF設定があるからといって、日常で感じる喜怒哀楽から大きく離れることはない。

「パーマン」で言えば、空を飛んだり、力が強くなったりするが、そこで描かれるのは、身を粉にすることの大変さだったり、怠けたくなる気持ちだったり、仲間を思う気持ちだったりする。

あくまで地に足の着いた作品なのである。


が、その一方で、読者としては、パーマンが戦う相手が普通の悪党だったり、よくある事件を解決しても面白くはない。日常ベースと言いつつも、敵や事件については非日常要素をできるだけ取り入れて欲しいものである。

藤子先生もそんな読者の要望は百も承知で、「パーマン」については、全悪連だったり、怪人千面相だったり、魔土災炎博士といった、少しトリッキーな敵キャラを導入することで、適度な「非日常」を描いているのである。


さて、「非日常」部分を担当している魔土災炎博士の登場作をじっくりと検証していくこのシリーズでは、既に下記の3本の記事を書いている。このうち、初登場回となる『ブル・ミサイル』は、本稿と直接的につながった作品なので、こちらは事前チェックを願いたい。


ちなみに魔土災炎の4回目の登場作は、既に別の切り口で記事化している。それがこちら。

この作品は、記事を読んでいただくと分かるが、それまでもギクシャクした関係だった魔土博士と全悪連のドン石川が、ついに仲間割れを起こしてしまうお話となっている。

「透明人間になる薬を作れ、作れなきゃ大ほら吹きだ」と挑発された博士が、別の発明品を使ったトリックで透明人間の薬ができたと見せかけて、ドン石川たちを陥れるというエピソードであった。


本稿では魔土博士5回目の登場作品を見ていくが、ここでは魔土博士は全悪連からの依頼もなく、独自にパーマンに対峙をしようと試みる展開となる。もちろん、全悪連の方もパーマン撃退の策を練ってくる。

一方のパーマンは、魔土博士や全悪連が自分を狙っているとは露知らぬままに行動している。知らぬ間にピンチに追い込まれ、そして勝手にピンチは解消されてしまう。まあ、いつもの流れである。

三者三様の意思・行動が乱れるお見事な構成のお話を、十分にご堪能いただきたい。


『パーマン生きうめ作戦』
「月刊コロコロコミック」1984年4月号/大全集7巻

魔土博士が初登場した『ブル・ミサイル』では、パーマンの真っ赤なマントを標的にした誘導ミサイルを開発したが、パーマンが煙突の煙に巻きこまれて真っ黒になってしまい、標的が自分たちが乗った赤い車となってしまった。

本作ではその失敗を踏まえて、魔土博士が新しい追跡ミサイルを開発する。今度のミサイルは「形状識別レーダー」を装備しており、パーマンの特徴的なマスクとマントの形を記憶し、見分けることができるという。

パーマンを模したラジコンを飛ばし、新ミサイルを発射すると、たとえ標的を一瞬見失ったとしても、レーダーでパーマンを見つけ出し、どこまでも追い詰めていく。地面の中にも突っ込んでいける高性能レーダーとパワーを持つミサイルなのである。

魔土博士はミサイルを完成させて「恨み重なるパーマンの最期は近いぞ!」と喜ぶ。ついでに助手のロボットPマンも「さすがは魔土博士、天才」と誉めてくれる。

これまでの4本を読み返すとわかるが、魔土博士は一方的にパーマンに攻撃を仕掛けているが、全部、半ば自爆的に返り討ちにあっている。なので、「恨み重なる」というのは、まるで言いがかりのように思えるが・・。


さて、パーマンはというと、日夜働き詰めで、ヘトヘトになって仕事から帰って来るのだが、昼寝をしているとママからゴロゴロしていると注意を受けてしまって、おちおち休めない。

仕方なく空き地の土管の中をベッドにして休むしかない。パーマンは「誰にも邪魔されない僕だけの秘密基地が欲しい」と口に出して休むのだが、偶然同じ土管に隠れていた「全悪連」の会員にその一言を聞かれてしまう。

ちなみにこの空き地のすぐ近くでのび太とドラえもんが会話をしているカットが挿入されており、ここは「ドラえもん」でもお馴染みの空き地であることがわかる。


パーマンの秘密基地願望を聞いた悪者は、さっそく全悪連本部へと報告を入れる。その時全悪連本部では、ガス・水道料金を払えず、お茶も沸かせないくらいに困窮を極めていた。

理事長のドン石川は「これというのも、あの憎むべきパーマンのせいだ!!」と涙ながらに激昂している。そこへ秘密基地の話題が持ち込まれ、実際にパーマンに秘密基地を与えてみる作戦が提案される。

取り壊しかけているかなり頑丈なビルがあるので、その地下室をパーマン用の秘密基地に改装する。ここへパーマンを誘い込んで出入口をコンクリートで固めて生き埋めにしてしまおうというのである。


さあ、ここまでで役者は全て揃った。
①パーマンの形状を追って地の底までも迫るミサイルを開発した魔土災炎博士
②疲れた時に自分だけが休める秘密基地を持ちたいパーマン
③秘密基地を探すパーマンを地下室に誘い込み生き埋め作戦を計画する全悪連

この三者三葉の思惑が、思わぬ方向へと絡み合うことになるのである。


パーマンはじゅうたんや家具ばかり盗む泥棒を追って、夜通し捜索していたが、手がかりもないまま朝を迎える。ヘトヘトになりながら帰宅するが、学校に行く時間なので眠ることができない。

仕方なく学校はコピーに任せて、ウツラウツラといつもの空き地の土管に寝に行くが、土管の中には「パーマン用地下秘密基地御案内書」と書かれた手紙が置いてある。

こんなに都合よく秘密基地を提供してくれる人が現れる訳がないが、「ま、一応行ってみるか」とパーマンは、この話に乗ってしまう。疲れて思考回路が鈍っているためか、「一生懸命働いてるんだから、このくらいのことあってもいい」と信じこもうとしてしまうのである。


秘密基地を目指して飛んでいるパーマンを、魔土博士のミサイルレーダーが標的に捉える。「追え、ミサイルよ、空の果て、地の果てまでも! 憎いパーマンぶっ飛ばせ!」と気合十分な博士。

パーマンはボロボロのビルの地下室にあるきれいな部屋に感動している。ベッド・テレビ・マンガと至れり尽くせりで、「ユメじゃないかしら」と大喜び。

パーマンが満足そうに声を上げているのを聞いたドン石川たちは、さっそくあちこちの工事現場からかっぱらってきたコンクリートミキサー車を使って、出入り口にたっぷりのコンクリートを流し込む。

あっと言う間に口が塞がり、「ここがパーマンの墓穴になったのだ」と気勢を上げる全悪連の悪者たち。ところが喜んだのも束の間、巨大なミサイルが向かってきて、埋めた出入り口を貫通して地下へと潜っていく。


地下室のパーマンは、休むためにマスクとマントを外してベッドへと潜り込む。そこへ天井を壊してミサイルが突入してくる。ミサイルの先端が目のようなレーダーとなっているが、パーマンセットをみつ夫が外してしまったので、ウロウロと目標を見失ってしまう。

「パーマン形状」をターゲットにしたのは良かったが、パーマンセットを取ってしまうとまるで機能しなくなる。考えればすぐにわかりそうなことだが、魔土博士の盲点となってしまったようである。


目標が消えたため、ミサイルは地底深く掘り進んでいき、高温のマグマへと到達する。天井に大穴が開いたところに、タイミング悪くどしゃ降りとなってしまい、大量の雨が降ってくる。「こんなとこに住めるものか」と、パーマンはここから脱出・・。


三者三様の結果はこうなった。

①パーマンは素敵な秘密基地を貰い損ねて悔しがる
②全悪連はパーマン生き埋めに成功したのに穴が開いてしまって悔しがる
③魔土博士は新型ミサイルがパーマンを撃墜間近だったの逃して悔しがる

それぞれ誰も得をしない悔しい結果に終わってしまったのである。


魔土博士の視点で振り返ると、本作は全悪連の依頼とは関係なく、以前の失敗の借りを返すつもりで、新型レーダーを開発した。それは科学者としてのリベンジであったに違いないが、今回も偶然「パーマンの形状」が解かれてみつ夫に戻ってしまったことで、作戦は失敗する。

繰り返すが、魔土博士は才能溢れる科学者であることが間違いないが、残念ながら詰めが甘いのと、運の悪さも重なって、いつまで経っても結果を出せないでいる。

だんだん可哀想な気もしてくるが、果たして彼に成功体験は巡ってくるのだろうか? 次稿では、彼の発明の足跡を大まとめしてみたい。




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