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ゴジラと化したロボット『あのロボットをうて』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介⑳

1951年、盟友・安孫子先生との合作『天使の玉ちゃん』で漫画家デビューを飾った藤子F先生の、初期作品を発表順で紹介していく「藤子F初期作品をぜーんぶ紹介」シリーズは、本稿で20本目となる。

これまで19本の記事を書き、1957年の作品まで紹介が進んでいる。本稿では、発表順で記事化する原則から外れてしまうが、1959年に発表された『あのロボットをうて』という作品を紹介したい。

先日、『ロボットの反乱』と題した全6本のシリーズ記事を書き終えたのだが、本作はその系譜の源流にある作品となっている。人間の操作(言うこと)を聞かなくなってしまうロボットのお話だ。


『あのロボットをうて』 32P
「漫画王」1959年2月号別冊付録

本作を語る上で、特撮映画の不朽の名作「ゴジラ」の大いなる影響を受けている点を指摘しておきたい。

ご存じ、今や日本を代表するIP、「ゴジラ」(監督・本多猪四郎、特殊技術・円谷英二)の第一作目が公開されたのが、1954年11月だった。その前年の米映画「原子怪獣現る」にインスパイアを受けて作られたと言われているが、両作とも怪獣の出自が「水爆実験」だという設定がインパクト大だ。


水爆は、原爆に次いで開発された大量破壊兵器だが、1950年代は、米・ソ・英が次々を水爆実験を行い、軍拡競争を推し進めた他、環境への著しい悪影響を与えている。

日本は人類史上唯一の原爆被爆国だが、1954年のビキニ環礁で行われた大規模な水爆実験でも、近くを航行していた第五福竜丸が被爆している。核爆弾へのトラウマを抱えた民族なのである。

そうした核への恐怖を具現化したのが、「ゴジラ」であったのだ。


本作に登場するロボット・ゴーレムは、原子力を動力源とする巨大ロボットということになっているが、なぜ自我を持って勝手に動き出したのかは明らかにされない。その不気味さはまるで怪獣であり、理由もわからぬまま東京へと直進してくるゴジラを彷彿とさせる。


ところで、戦後我が国は、核への恐怖心を残す一方で、「核の平和利用」というキャッチフレーズの元、原子力を使った発電所の建築計画を進行させていく。

世界を見渡せば、1950年代後半には、米英ソで原発の実用化が始まっており、日本においても1957年に、原発建設を目的とした「日本原子力研究所」東海村に設立された。

本作では、こうした原発開発の現実を踏まえて、ゴーレムが東海村ならぬ「西海村」の原子力研究所のウラニウム(ウラン)を狙う展開とする。

ゴジラ同様、核兵器や原発などの核利用に対する警告の意味合いが込められているのかもしれない。

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ここで補足情報をいくつか。

タイトルの『あのロボットをうて』だが、これはこの頃よく使われた言い回しで、国策映画「あの旗を撃て」(1944)や西部劇「あの馬車を撃て!」(1958)などが知られている。

またロボットの名前となっている「ゴーレム」は、様々な伝承に登場する土(粘土)で作られた自ら動くことのできる泥人形で、それはそのまま「ロボット」を彷彿とさせる。

ドラクエの「ゴーレム」が、もはや一般的なイメージだろうか。伝承によれば、ゴーレムを使いこなすのは難しいとされ、時に狂暴化するという。まさに本作のロボットを象徴する名前だが、最初からこのような物騒な命名は止めておいた方が良かったような・・。


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物語を簡単に追っておこう。

主人公の男の子の名は五郎、銃も使えるしヘリコプターや車の運転もできるスーパー少年である。五郎は友だちと共に、おじさんの呂保(ろぼ)博士の研究所があるロボット島へと遊びにいく。

すると着陸寸前で怪光線を浴びて墜落、ヘリを出ると歩行型の「ロボットZT号」が襲い掛かってくる。光線銃で返り討ちにしたものの、島は荒れ果ててまるで戦争の跡のよう。

研究所に入ると、呂保博士が倒れており、早く警察を呼ぶように指示を出す。原子力ロボットのゴーレムが急に暴れ出したのだという。

ゴーレムは海に潜り、船を大破させるなどしながら、東京へと向かっていく。まるでゴジラそのものだ。

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一足早く東京に戻る呂保博士と五郎たち。政府(?)での会議室で、呂保博士は状況を説明する。

・ゴーレムは鋼鉄の数千倍の強度を持つ特殊合金で包まれている
・よって、飛行機や大砲では倒せない
・動力はウラニウムだが、試運転の時ほんの少し入れただけ
・時間を稼げばひとりでに止まる

かくして、ロボットの前進を遅らせる作戦が発動される。


ゴーレムは百里ヶ浜に姿を現わす。数十機の航空隊が編成され、ゴーレムを足止めすべく攻撃するが、あっという間に全滅させられてしまう。驚くべきパワーである。

なお、百里ヶ浜は「九十九里浜」をイメージした海岸だと思われる。ゴーレムはここから、東京を目指さずに、北東へと向かっていく。千葉から東北方面へのルートと考えていいだろう。

博士はゴーレムの進む方向を考えると、その先には原子力研究所がある「西海村」があることに気がつき、慌てる。研究所にはウラニウムがあり、ゴーレムは自らの動力源を狙っているのだ。

ここまでで、ゴーレムは既にロボットの枠を超えた存在となっていることがわかる。知能があり、生物のような生存本能を持ち合わせていることが伺える。

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またも原子力研究所に先回りする呂保博士と五郎たち。ゴーレムを近づけさせないために、建物の周囲を電線で囲み、そこに百万ボルトの電圧をかける。

この作戦は成功し、ゴーレムは電線に接触すると電圧効果でひっくり返ってしまう。近づくことができないとわかったゴーレムは、博士たちに気付かれないように自分の腕を一本外す。すると腕がそのまま一つのロボットとなり、これがモグラのように砂をくぐって研究所へと忍び込んでいく。

腕ロボットは、電圧を作動させる部屋を襲って通電を止めてしまう。そして遮るものがなくなったゴーレムは、研究所へと近づいてくる。ゴーレムが大暴れして、もう研究所は持たない。

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そこで五郎は、ウランをトラックに積んで持ち出すことにする。呂保博士は、ゴーレムに捕まってしまうと警告するが、五郎には何かいい考えがあるようだ。

五郎はトラックを走らせて逃げる。追うゴーレム。何とか逃げ回るのだが、ついにトラックは捕まってしまい、丸ごと呑み込まれてしまう。五郎の命はいかに??

すると、五郎が博士たちの前に現れる。途中でトラックから飛び降りたのだ。そして五郎は、「こうなるのはわかっていた」と余裕の表情を浮かべる。あのトラックにはウランではなく、ダイナマイトをどっさり積み込んでいたのである。

ゴーレムの体内でダイナマイトが爆発し、ついに怪獣の進撃はここで終焉したのである。

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典型的な「ロボットの反乱」ストーリーだが、本作では反乱する理由が明らかにならない点が不気味である。扉(表紙)には「熱血ゆかい漫画」と表記されていたが、全く愉快ではない・・。

なぜ博士がゴーレムを作ったのかも不明。作中で博士に「何で作ったんだろう」と言わせている。

藤子先生は実質的なデビュー作である『UTOPIA 最後の世界大戦』で、ロボットの反乱をテーマの一つにしていたが、その後も常に頭の中にあったテーマであった。

本作では人間の言うことを聞かなくなるロボットと、これも大好きだった「ゴジラ」を掛け合わせて、物語を創造したのではないかと思われるのである。


初期作品の考察・紹介を行っています。


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