「助けに来ましたよー!」→「雪女!!」『雪の中の少女』/雪とスキーと遭難と④
雪やスキーや雪山遭難に関する藤子作品を集める「雪とスキーと遭難と」シリーズの第4弾。
今回は「エスパー魔美」の魔美が、雪山遭難者を救助する『雪の中の少女』というお話を紹介していくのだが、本作には元ネタとなるエピソードが存在している。
それが前回の記事で取り上げた「ドラえもん」の『雪山遭難を助けろ』というお話である。
この記事を読んでもらうのが早いが、この作品は、ドラえもんが未来の国から来たことは秘密であるという設定を前面に打ち出した作品となっている。
未来からやってきたロボット・ドラえもんの存在は、本来ならマスコミが放って置くはずのない大ネタだが、実際のところ騒がれることはない。その代わりに、ドラえもんもニュースで事件や事故を知って、ひみつ道具を使って積極的に解決したりもしない。
これを僕は「世間とドラえもんの相互不干渉」と呼んでいる。
『雪山遭難を助けろ』が異色なのは、この「相互不干渉」の原則を一歩踏み超えた作品だからなのである。
この「ドラえもん」と全く反対の立ち位置にある作品が、「エスパー魔美」である。
「エスパー魔美」では、魔美が超能力を目立って使えばマスコミに追われてしまうし、その一方で魔美が世の中の困っている人を見つければ、積極的に助けようとする。
世間と魔美とは「相互干渉」の関係にあるのだ。
『雪山遭難を助けろ』は、ドラえもんのエピソードに関わらず、世間との「相互干渉」をテーマにした作品だったため、奇しくも「エスパー魔美」の題材としてもピッタリであった。
『雪山遭難を助けろ』は、「ドラえもん」の単行本には収録されなかったが、「エスパー魔美」の一遍としてリメイクされ、陽の目を見ることになったのである。
「エスパー魔美」『雪の中の少女』
「マンガくん」1978年2号/大全集2巻
まずはざっくりと本作の大枠から。
冬休みを利用して両親とともに二泊三日のスケジュールで青倉スキー場に来ている魔美。スキー場からほど近い矛ヶ岳で、二人の男性が遭難する。魔美はマスコミに騒がれないように、二人の男性の安全を確保しなくてはならない。
魔美は今回での活躍を手紙にしたためて、高畑君へ送るという構成になっており、要所要所で魔美のモノローグが入る。
ちなみに、「青倉スキー場」は妙高高原の「赤倉スキー場」から取ったもの。「矛ヶ岳」は「槍ヶ岳」のモジリである。
本作のポイントとしては、下記の5点ほどが挙げられる。
①高畑不在
②Fキャラはスキーを滑れない
③魔美、超能力でスキーを滑る
④魔美がなぜマスコミを意識したのか
⑤怪しまれない遭難者の救助方法とは
おまけ
⑥コンポコ、タヌキに間違えられるギャグ
⑦魔美の両親は仲良し
ポイントとオマケ、合わせて7点を順番に解説していく。
①高畑不在
本作の特徴として、高畑君を不在にして、魔美自身が知恵を絞る展開としていることが挙げられる。いつもは事件の解決に一役買う高畑だが、今回は佐倉家だけでスキー旅行に行っているので、魔美を助けることはできない。よって、本作は魔美が一人で工夫をしなくてはならないという流れである。
ただ、そのまま不在で終わらせるわけにはいかないので、魔美が自身の活躍を手紙で高畑に知らせる展開としている。
②Fキャラはスキーを滑れない
下の記事で書いているが、藤子作品に登場するキャラクターたちは、こぞってスキーが滑れない。
のび太は当然のこと、Q太郎、正ちゃん、ドロンパ、「チンプイ」のエリちゃん、みつ夫など、枚挙に暇がない。これほどみんな滑れないのは、藤子先生が幼少期にスキーが滑れなくて笑われたり、苦労された経験があったからではないかと勝手に想像している。
そして魔美もご多分に漏れない。
魔美はスキーを履いて一歩でも動こうとすると雪に倒れ込んでしまう。両親は「やはりね・・毎日のように階段から落っこちる魔美だもの」と、諦め顔。しばらく練習に付き合うが、魔美の方から二人で滑りに行ったらと、両親をスキーに行かせてしまい、魔美は練習を止めてしまう。
③魔美、超能力でスキーを滑る
魔美は雪上で動けば転ぶので、かっこよく突っ立っていると、周囲から滑れないのではと声が聞こえてくる。そこで魔美は、テレキネシスでスキーの板ごと少しだけ空中に浮かせて、まるでスキーを滑っているかのように動き回る。
板を微かに雪に触れさせると、ザザッと白雪が舞って、それっぽい。そして人とぶつかりそうになったので、飛び上がって避けると、その様子を見ていた人たちに、「人間技と思えない」と騒がれてしまう。
少し目立ち過ぎたために、この後、魔美は窮地に追い込まれることに・・! なお、このスキーシーンは子供の頃読んで憧れたものである。
④魔美がなぜマスコミを意識したのか
ロッジでの夕食。早めに練習を切り上げた魔美に、両親はもっと練習しろ、苦手なことから逃げ出す傾向がある、とダメ出しされる。
するとそこに新聞記者が魔美に声を掛けてくる。立読新聞運動部貴社の「木地尾塔郎(きじおとうろう)」という男だ。彼は、日中の人間離れしたスキーテクニックを見せた魔美に取材を申し込んできたのである。
記者は、魔美の両親に「まさに天才だ」と魔美を褒める。両親からすれば、一歩動くだけの魔美が、天才的なスキー・テクを見せられるわけがない。この大いなる矛盾をどう説明したら良いのだろうか?
すると遠くから同僚記者が木地尾を呼ぶ。矛ヶ岳で遭難者が出て、明朝の捜索隊に同行することになったのだという。取材いずれまた、と記者は行ってしまう。
残された魔美の両親は、人違いにもほどがあると大笑い。魔美がピンチを逃れることができたが、一瞬でもマミが?と思ってほしかったと思うのだった。
ただ、ここで新聞記者に目を付けられたことで、この後遭難者を救助するに当たって、世間に騒がれない形で解決しなくてはならなくなるのである。
⑤怪しまれない遭難者の救助方法とは
この⑤の部分は「ドラえもん」『雪山遭難を助けろ』を元にしている。
ドラえもんも魔美も、目立って遭難者を救助してしまうと、マスコミに嗅ぎつかれて大騒ぎとなってしまう。これを避けるべく、遭難者自身が自力で下山した形にしなくてはならない。
「ドラえもん」では以下の展開であった。
① のび太が見られてしまうが、幻と思われる
② ラーメンを届けてあげるが、これも幻だと勝手に思い込まれる
③ 「夢遊ぼう」を使って遭難者が自力で下山するように見せる
本作ではこの①と②の流れを踏襲する。
魔美は、15キロ離れた矛ヶ岳から、遭難者の念波がまるで高山からのサイレンのように聞こえてくる。そこで部屋着のまま念波の発信源に向かうと、雪山のテントで男二人が互いを励まし合っている。
「助けに来ましたよー!!」
と軽い感じで声を掛けると、遭難者二人は「雪女!」「これは幻覚だ!」と大騒ぎになる。テレポートで連れて帰れたはずだが、魔美は新聞記者に取材の申し込みされていることを思い出して、置いて帰ってしまう。
翌朝は猛吹雪で、スキーはもちろん、遭難者の捜索隊も出ることができない。魔美は捜索隊が出るまでの間、遭難者の安全を確保することを考える。遭難者二人の元に向かうと、吹雪でテントが飛ばされていて、「もう死ぬと」すっかり弱音を吐いている。
そこで魔美は近くの吹き溜まりに、テレキネシスで雪を吹き飛ばして穴を掘る。コンポコを使って二人を穴へと誘導して、ビバークする場所を確保。飛ばされていた寝袋やリュックも見つけてあげて穴に放り込む。
これで万全と思いきや、「腹ペコで死ぬ」とまだ文句を言っているので、ロッジに戻って暖かい食事と飲み物を調達して、穴の二人へとテレキネシスで届ける。
「ドラえもん」同様、遭難者の二人は目の前の奇跡を受け止めきれないのだが、これは幻覚だと自分に言い聞かせながら、食べ物を美味しくいただく。
魔美の至れり尽くせりの援助によって、遭難者は体力を維持して、奇跡的に救助されたのであった。
ここからはオマケの考察。
⑥コンポコ、タヌキに間違えられるギャグ
コンポコは犬以外の動物に見られがちで、間違われるたびにコンポコはいたく傷つく。本作では、スキー場のシーンでタヌキと勘違いされ、それにより犬の連れ込み禁止ルールからお目こぼしをもらう。コンポコはショックを受けて泣いてしまう。
これは、後のシーンの伏線にもなっている。
雪山で遭難者二人を魔美が掘った穴へとコンポコが誘導する係となるのだが、キツネかタヌキかと見間違えられてまたしてもショックを受ける。でもこのおかげで、遭難者はタヌキ穴でも潜り込めれば、とコンポコについて行くことになるのだった。
⑦魔美の両親は仲良し
そもそも魔美を連れてスキー旅行に来ているところからして仲が良い。魔美を放って二人で滑りに行ってしまうが、おそらく結婚前にもデートでスキーに行っていたことを伺わせる。
ロッジでの夕食後、両親だけでバーに寄っていく。子供抜きでウイスキーでも飲みながら語ろうということで、魔美は「どうぞごゆっくり」と見送っている。二人で旅行に行ったりした時に、夜に一杯飲むというのが、若き日のデートコースだったのだろう。
なお、翌日には二人でホテルのゲームコーナーに行く。この時は魔美を誘っていたが、あとで合流すると言われてしなかったので、結局二人きりで長い時間を過ごしたようである。
「魔美」の中でもそれほどメッセージ性が強い作品ではないが、細かく見ていくと考察しがいのある見所が多く含まれていることがわかる。これだから「エスパー魔美」は何度も読めてしまうのである。
藤子作品の考察たくさんたくさんやっています。
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