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人生は生きるに値するのか?『マミを贈ります』/クリスマス特集2021

昨年末から始めたnoteは既に2年目に突入しているが、そういえば昨年もクリスマスの記事書いたなあと思い出し、時の流れの速さを痛感する。

昨年はクリスマス特集ということで、4本の記事を書いたが、その中で「ベスト・クリスマス・ストーリー」の第一位として「エスパー魔美」の『エスパークリスマス』を取り上げた。

「エスパー魔美」は読者年齢層が比較的高めで、「ドラえもん」では描かれない大人の人間模様をテーマとする。『エスパークリスマス』は、辛い現実に潰されている大人と、奇跡を信じる子供とが交錯する非常に泣けるお話である。

良ければ、以下の記事をご覧ください。

この作品が傑作すぎるために、実はもう一本ある「エスパー魔美」のクリスマスエピソードは忘れ去られがち。それが『マミを贈ります』という可愛いタイトルの作品である。

もちろん、大人の人間ドラマを目指す「エスパー魔美」において、そんなにハッピーな可愛いエピソードではない。むしろ、人間のダークな部分を表出させる作品となっている。

ただ、こちらも『エスパークリスマス』に匹敵する感動作となっているので、今年のクリスマスは本作をご紹介したい。


『マミを贈ります』
「少年ビックコミック」1980年24号/大全集5巻

超能力者である魔美は、今年のクリスマスは自分の能力を使って、たった一晩、一人でいいのでメルヘンの体験をしてもらおうと考える。

やり方としては、ボール紙に銀紙を貼った星を夜空に飛ばし、この星を拾った人の望みを叶えてあげようという原始的な方法。魔美はこの星を「しあわせのサンタの使者」だと名付ける。

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この話を聞いた高畑はミレニアムパルコのプラモデルが欲しいと言い出すが、それに対して魔美は、

「幸せって物質的な意味ばかりじゃないのよ。私は真心と超能力で、できるだけのことをするつもりなの」

と答える。高畑は「いかにもマミくんらしい」と評するが、確かにその通りで、魔美はこれまでも超能力と、何とかしてあげたいという気持ちを加えて、色々な事件を解決してきたのである。


クリスマスの晩は家族で祝った後、魔美はすぐ寝ると言って部屋に戻る。魔美のパパからは「早々とベッドに入って、サンタさんを待つのかね」と笑われる。

魔美は夜空へと飛び出し、星に「オートエンドレステレキネシス」という超能力をかける。勝手に夜空をぐるぐると星が回り出す。そして一声掛けると、星は町へと落ちていく。

落ちた場所は、案外と近所の路地。魔美はどこのどんな人が拾っても全力でその人を幸せにすると覚悟を決めている。しかし星は誰も拾ってくれず、酔っ払いに踏まれそうになる。

結局酔っ払いに星を投げられて、それが風に乗って高級マンションの一室に飛び込んでいく。魔美としては恵まれない人に拾って欲しかったのだが、この際選り好みはできない。


星を拾ったのは、マンションの室内で寝転がっている男性。魔美はそこへ「パンパカパーン、おめでとう!!」と言ってテレポートで乗り込んでいく。明らかに不審がる男に対して魔美は、「あなたの望みを何でも叶えてあげるわ」と申し出る。

ところがこの男、望みなどないと答える。確かに室内はテレビ・巨大アンプ・スキー・ギターが設置してあり、何不自由無い様子。そればかりか、うるさいので早く帰ってくれとつれない。

ここで引き下がるわけにはいかない魔美は、部屋の掃除を始めてその間ゆっくりと願いごとを考えるよう告げる。すると部屋の中から高畑が欲しがっていた「ミレニアムパルコ」のプラモデルが埃を被っている。買ったけど面倒くさくてそのままにしてあるのだという。

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部屋がきれいになっても男は願いごとが浮かばない。そこで魔美は男の手を握り、テレパシーで心の中を読もうとする。しかし、心の中は真っ黒な空洞だけ。そこに首吊りの縄が浮かぶ。

魔美は「自殺なんて絶対にいけないわ」と驚き、なぜ死にたいのか聞くが男は「生きている理由がないから」とあっけらかんとしている。魔美は泣いて自殺を踏み止まるよう懇願するのだが、すると男は「君が欲しい。君みたいな人がそばにいてくれたら、生きていけるかもしれない」と答える。

またまた飛び上がって驚く魔美。そんなの無理に決まっている。男は「じゃ死ぬしかない」と寝転がるのだった。


深夜。魔美は高畑の枕元に現れる。魔美は自分をプレゼントすることはどうなのか、高畑に相談する。高畑は魔美の質問の真意がわからないまま、自己犠牲を説いた説話を紹介する。(「今昔物語集」の「三獣行菩薩道兎焼身語第十三」からの引用らしい)

昔、ウサギとサルとキツネがいた。ある時お腹を空かせた死にそうな老人がやってくる。猿とキツネは木の実や魚を採ってきて老人に与えた。ところがウサギだけは何もとってこれない。そこでウサギは火に飛び込んで自らの肉を焼いて与えた。この老人は神さまで、ウサギを天に連れていき、月のうさぎにしたという。

この話を聞いた魔美は、マンションの男が自殺を止めるまで付いててあげようと決意を固める。高畑は説話と現実をごちゃまぜにする魔美に対して、待てというが聞いてもらえない。


高畑は魔美から聞き出していたマンションへと単身向かって、魔美を返せと男に掴みかかる。

「汚いぞ! 自殺するなんて脅して、単純な・・・いや、純真な乙女心を!!」

と高畑君らしからぬ取り乱し方で男へと迫る。逆に冷静沈着な男は、騒ぐと近所迷惑だからといって、高畑を中へと通す。

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魔美はこの時、家族へ当分留守にするという手紙を書いていた。ただならぬ空気を察してコンポコはうるさく吠えている。


男は高畑に対して、これまでの人生を説明し、なぜ死を選ぼうとしているのかを語り出す。

・いわゆる受験戦争に幼稚園の頃から巻き込まれた。
・一流幼稚園から小学、中学、高校と上がった。
・めでたく一流大学に合格した。
・気が緩んであたりを見回したら、人生の先の先まで見えてしまった。
・やがて一流企業に入って、そこの歯車の一枚になる。
そんな一生が溜まらなく虚しいものに思えた

高畑は歯車をバカにしてはいけないと反論する。男はムキになる高畑に言う。

「人生なんて、ユメみたいなものさ。つかの間の、はかないユメ」

高畑はムキになるのを止めて、ポツリと語り出す。

「それはそうかもしれないけど。でも、どうせユメを見るなら、僕は充実した美しいユメを見たいと思うな」

高畑は言葉を尽くして男を説得するが、受け入れてもらえない。


しかし、しばらくして男は高畑に告げる。死ぬのをやめた、と。

「不思議な人たちだ。見ず知らずの僕のことで、こんなに夢中になって・・・。君たちのような人がいるだけでも、この世の中、まんざら捨てたものでもない気がしてきたんだ」

思ったより、あっさりと心が動かされた男。けれど、これは高畑の説得だけが通じたわけではない。最初にお節介なまでの魔美の自殺を止めて欲しいという懇願があったからである。

魔美と高畑。ピュアに人生を美しく捉えるコンビネーションによって、空虚な心を満たしていた男の心を揺り動かしたのである。

「マミくんは君に返すよ」

と言って高畑を見送る男。これは「マミを返せ」と掴みかかってきた高畑へのアンサーである。

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魔美はどうせなら豪華なプレゼントになりたいと考えて、大きな空き箱と包装紙とリボンでプレゼントボックスを作り、その中に入って、男の元へとテレポートしてくる。

「お待ちどうさま」

魔美の言葉が切なく響く。男はバツの悪さを、笑って誤魔化そうとする。そして「あんな冗談を真に受けるなんて」と続ける。冗談と聞いた魔美はへたりこんで、

「あんなに悩んで、苦しんで・・・やっと覚悟して来たのに・・・それが冗談・・・」

ワーと泣き出す魔美。男は土下座して謝る。「もう死なないと約束する」と。

男は魔美が気にしていたプラモデルを取ってくる。「受け取ってくれないと死ぬよ」と言いながら魔美に手渡す。魔美は泣き止んで「じゃ、いただきます。ありがとう」と答える。

魔美はプラモデルを抱えながら夜空へと飛んでいく。男は言う。

「こちらこそ、素晴らしいプレゼントをありがとう。かわいいサンタさん」

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魔美はほんの少しの超能力と、精一杯の真心で男の幸せを叶えたのである。もちろん、名パートナー、高畑君の力も借りて。。


皆さま、メリークリスマス!!良きひと時を。


「エスパー魔美」の徹底解説行っています!


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