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探偵対決!ドラえもん対スネ夫 Fワールドは迷探偵だらけ②

「ドラえもん」
『連想式推理虫メガネ』

「小学四年生」1982年3月号/大全集11巻
『のび太のへそくりが消えた!?』
「小学三年生」1983年3月号/大全集13巻

前回の記事で、どらえもんの『シャーロック・ホームズセット』をテキストに、「ホームズセット」を身に纏った迷探偵のび太について見てきた。その中で。犯人は自分、という藤子F作品の「謎解き」エピソードに頻出のパターンとして、じっくりと考察を行った。

記事はこちら。

続けて、ドラえもんの『連想式推理虫メガネ』を見ていく。

本作は「シャーロック・ホームズセット」から8年後に発表された作品だが、ここではスネ夫が探偵のライバルとして登場する。

昼寝をしていたのび太は、スネ夫に自宅に来るよう電話で呼び出される。渋々出かけると、工事現場で水たまりに足を突っ込み、犬に吠えられて逃げるようにしてスネ夫に家に辿り着く。

スネ夫の家ではしずちゃんとジャイアンがいて、待ってましたとばかりにスネ夫は、ここまでののび太の行動について推理を始める。

①昼寝をしていた
②医院の前で水たまりに踏み込んだ
③犬に追いかけられた。

「見ていたのか」と驚くのび太たち。スネ夫は種明かしをする。

①のび太の口のまわりによだれのあと → 寝ていた
②靴に赤土が付着 → 工事中の医院の前
③息を弾ませてきた → のび太が走るのは遅刻しそうな時か怖いものに追いかけられた時

「天才だわ」としずかちゃん。しずかは『シャーロック・ホームズセット』でものび太に対しても天才と言っていたので、推理する男を尊敬しやすい体質かもしれない。

スネ夫は、「推理術入門 きみも名探偵になれる」という本を取り出し、これで勉強したのだと言う。スネ夫はこの才能を活かして、探偵事務所を開くことにするという。

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この展開に羨ましくなったのび太は、家に帰ってドラえもんに自分もやりたいので「シャーロック・ホームズセット」を出してと要望するが、ドラえもんは「あんなのとっくに壊れたよ」と素っ気ない。8年の月日の間に故障してしまったらしい。

代わりに出したひみつ道具が「連想式推理虫メガネ」である。一見難しそうな道具だが、機能は簡単で、メガネに写ったものから次々と連想していくと真相がわかる、という連想ゲームのおもちゃのような仕掛けとなっている。

例えば、のび太がドラえもんのどら焼きを隠す。隠し場所は、

「どら焼きは丸い」→「丸いは月」→「月はテストの0点」→「0点はのび太」→「どら焼きはのび太の腹の中」

と連想していって、答えに辿り着くという仕掛けである。

これを使ってのび太も探偵事務所を開業する。そこに事件が発生。しずかちゃんが、財布を落としたというのである。スネ夫とのび太で客の取り合い状態となったが、互いに推理をし合うことに。

スネ夫はしずちゃんから、財布を落とした状況を詳細に聞き取る。推理は正確なデータの上に組み立てるのだと、探偵の鉄則を語る。のび太はもっと手っ取り早くわかる、ということで連想式推理虫めがねを使うことにする。すると、

「しずちゃんの財布」→「しずちゃん」→「お風呂好き」→「お風呂は英語でバス」→「バス停に財布が落ちている」

となる。早速バス停に向かうのび太だが、どこにも見当たらない。

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一方のスネ夫は、しずちゃんの辿った道は人通りが多いので、きっと拾われて交番に届けられると推理。見事、交番で財布が見つかるのであった。これでスネ夫の株が一気に上がり、「シャーロックホームズみたいだな」と噂される。ますます悔しがるのび太。

ドラえもんに話し、スネ夫の様子を遠隔モニターで見てみると、世にも不思議な密室盗難事件の依頼が舞い込んでいる。鍵のかかった部屋から貴重な金貨が煙のように消えてしまったのだという。名探偵スネ夫は、依頼人と共に現場へと向かう。

まず家の周りに足跡はない。部屋の中の窓にも鍵が掛かっている。夜中に喧嘩しているような大声が聞こえて、部屋を覗いたが何も変わりなく、朝になって見るとテーブルの上から金貨が消えていたのだという。

さすがのスネ夫も推理に苦戦する様子。しかし、一つの答えを導き出す。

「実に簡単な推理です。締め切った部屋で自由に出入りできる人間が犯人だ。そいつは「どこでもドア」を持っていて・・・」

と、ここまでモニターで聞いていたドラえもんは、たまらずどこでもドアで、「失礼なことを言うな!」とその部屋に割って入る。スネ夫は「ほ~らね」と余裕の表情。

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そこでドラえもんは、連想式推理めがねを使って、犯人を捜すことにする。

「金貨はお金」→「お金持ちはスネ夫」

スネ夫が犯人と思いきや、

→「スネ夫は短足」→「もっと短足はドラえもん」→「金貨はドラえもんが持っていった」

と結論付けられる。それを見たドラえもんは、「ジャジャーン、犯人は僕だそうです」、「ウソウソ僕じゃないよう」と、流れるようなノリツッコミが完成してしまうのであった。前回の記事で書いた「シャーロック・ホームズセット」ののび太とまるで同じ展開なのである。

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きっと真犯人を見つけるということで、怪しまれつつその場を離れるドラえもんとのび太。「落とし物つりぼり」で探そうとするが金貨は釣れない。これでは金貨は世界中のどこにもないということになる。

そこで、タイムマシンを使って、金貨の無くなる前の部屋に向かうことに。ところが見張っていても犯人は現れない。その内、寒い眠いでのび太とドラえもんは二人で大喧嘩となり、家の住人を起こしてしまう。慌ててタイムマシンの穴へ逃げ込む二人。

その後、朝まで部屋で見張るが金貨は残されたまま。せめて金貨を持って帰って持ち主に返そうということにする。タイムマシンで帰ってきたドラえもんたち。そこでドラえもんは気付く。自分が持って帰ってきたから、金貨は無くなったのだと。

結局、スネ夫の推理通り、連想式推理虫めがねの結論通り、金貨を取ったのはドラえもんなのであった。

前回見てきた「シャーロック・ホームズセット」と同様、探偵役が犯人というパターンが、今回も採用されているお話であった。

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犯人は自分!というこの黄金パターンは、さらに『のび太のへそくりが消えた!?』でも登場している。本作は、『連想式推理虫メガネ』から一年後の作品なのだが、「シャーロック・ホームズセット」が再登場を果たす。連想式推理虫メガネ』でスネ夫に負かされたのが悔しくてこの一年で買い直したのだろうか。前回の登場時と帽子のデザインが若干変わっているので、新製品であろう。

のび太が「小学三年生」を買うために、貯金を明日の発売日まで天井裏に隠すことにする。その部屋には所用でしずちゃんや、ジャイアン、スネ夫が出入りした後に、へそくりが消えてしまった事に気が付く。へそくり盗難事件の発生である。

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そこで「シャーロック・ホームズセット」の再登板となる。しずちゃんたちを空き地に集めて、ステッキやパイプを使って犯人捜しをするのだが、のび太が犯人だという結論が導き出される。

納得がいかず部屋に戻ったのび太は、推理ぼうを使うと、頭がスッキリ。
このままだと、明日の「小学三年生」は買えない。なのでタイムマシンでお金が無くなる前の時間に戻ってお金を確保しなければならない。・・・つまり、犯人は未来からやってきたのび太なのであった。

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ちなみに『タイムマシンで犯人を』(1971年4月発表)でも、教室のガラスを割った犯人を捜しにタイムマシンで過去に戻るのだが、結局割ったのは未来から来たのび太だったというオチだった。

このように、ドラえもんにおける謎解きストーリーは、犯人捜しをする者が犯人という結論ばかりなのである。


次回では、「ドラえもん」以外のF作品での迷探偵たちの活躍を見ていきたい。

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