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空想に生きる子供・監視の目・ドジな子守『グランロボが飛んだ』/狙われた魔美②

前回の記事で魔美が超能力者であることを暴こうと、佐倉家に一方的に恨みを持つ陰木夫人と、陰木にそそのかされた細矢とその甥によって、監視されたお話を紹介した。(『のぞかれた魔女』)

陰木に恨まれる原因を作ったのは高畑にも責任の一端があったのだが、代わりに高畑の作戦によって、事態は解決に向かうことになった。
内容が気になる方は下記の記事をご一読のほど。


さて、次なる刺客は映研の先輩・黒沢である。魔美のことをすっかり気に入って、好意を隠そうとしない黒沢は、『魔美が主演女優?』にて魔美のテレキネシスの現場を目撃してしまう。証拠映像を押さえられ、執拗に魔美に真相を迫るが、覚えたての「念写」を使って映像を消して難を逃れた。

こちらのエピソードも既に記事化しているので、こちらもご一読のほど。


一度は誤魔化された形となった黒沢だが、その後も魔美がエスパーだと疑い続けていたようで、本作はその続編的作品となる。

『グランロボが飛んだ』
「少年ビックコミック」1979年20号/大全集4巻

一応最初に書いてしまうと、本作では黒沢の監視活動は少なめで、対黒沢の問題決着は次作に持ち越される。黒沢の行動が気になりつつも、本題は魔美がアルバイトとして取り組んだ「子守」をテーマとした感動作となっている。

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作品冒頭で黒沢を軽く紹介した後、魔美は帰宅して厳しい懐事情についてパパに直談判することにする。魔美はアルバイトとしてパパのモデルを引き受けており、これが魔美のお小遣いの源泉であった。ところが最近は仕事をさせてもらっていないのである。

パパにそう問い詰めると、「旅行のスケッチがだいぶ溜まっている」という理由と共に、

「君をモデルにした連作は、ちょっと行き詰っているんだ。当分書くことはないと思う」

とショックなことを言い出す。財政面にて魔美もガーンとなっていたが、読者にとっても魔美のヌードが当面見られないという意味合いで衝撃的である。

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部屋で落ち込んでいると、急に黒沢が家を訪ねてくる。魔美の気持ちを代弁するコンポコは、さっそくフヤンフヤンと警戒して吠える。

偶然を装い図々しく部屋へと上がり込み、室内に飾ってある魔美のヌード絵をいやらしく見て自分も絵を描きたいとか言い出す始末。そこからは、魔美の気持ちも考えぬままに、自分の話題を一方的に話し続ける。

魔美は途中から相手にしなくなるのだが、「すごく割のいいバイトがあったけど一日で懲りた」という気になる話題が耳に入ってきて、急に話に飛びつく。無理だと黒沢は言うが、魔美はお金のためならなんだってやるわ!と息巻くのであった。

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そのアルバイトとは、幼稚園児の子守りであった。共働きの両親が帰ってくるまでの間、2~3時間遊び相手になればいいという内容。魔美は子供好きなので自分にピッタリだと決意を述べる。

黒沢がすっかり話をつけてくれたので、魔美はさっそく家に行くと、呼び鈴を鳴らしても誰も出てこない。テレポートで中に入ると、子供部屋に一人、少年がロボットのおもちゃで遊んでいる

部屋にはテレビがあり、壁にはウルトラマンのようなポスターと、ドラえもんのポスターも見切れて貼られている。魔美は少年に自己紹介をするが、相手にせずに一人遊びを続ける。

魔美がロボットを見せてと言うと、「ベー」と拒否。少年はその後テレビをつけて「グランロボ」という特撮番組を熱心に見始める。少年が遊んでいたロボットは、このグランロボのおもちゃなのであった。

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魔美は名前を聞いたり、幼稚園のことを尋ねたりするが、全く応答が無く、イライラしてくる。そこへ電話が掛かってきて、取ると黒沢の声。黒沢はまるで覗いていたかのように、魔美がアカンベされて手こずっている様子を語る。

黒沢の家は、この家から空き地を隔てた裏側に位置しており、そこから望遠鏡で覗いていたのである。黒沢はひょっこり現われ、チビを放って遊びに来いと誘ってくるのだが、責任感のある魔美は断って、再び子守りに戻る。


引き続き少年は魔美を相手にしない。手持ち無沙汰の魔美は分解してあるグランロボを合体させようといじると、少年は「僕のロボに触るな!!」と激怒して、魔美におもちゃを投げつけてくる。

たまらず庭に逃げ出す魔美だが、少年は外にもおもちゃを投げる。すると、そのおもちゃを空き地で遊んでいた子供たちが取っていってしまう。魔美は返してと追いかけるが、子供たちは「吸血皇帝の家来だ」と言って逃げ出していってしまう。

おもちゃを持っていかれたと少年に話すと、「また買ってくれるもん」と気にしていない様子。ここまでで、少年が幼稚園の友だちとうまくやっていないらしいということ、おもちゃをすぐに買ってもらえる家庭環境にあることがわかる。


一人遊びを続ける少年に、何もできない魔美はベッドに転がるとそのまま居眠りしてしまう。暗くなって電気が付いて、魔美は目を覚ます。すると少年の母親が帰宅していて、魔美は大慌て。

母親が言うには少年は魔美のことが気に入ったらしい。嫌いな人だったら30分以内に追い出したと。「何の役にも立たなかった」と言う魔美に、きちんと謝礼を払う母親。「恥ずかしい~」と赤面させて飛んで帰る魔美なのであった。


アルバイト二日目は、高畑にヘルプを求め、コンポコも連れていくことに。黒沢には「今日も昼寝しに行くの?」と皮肉られながら、少年の家へと向かう。すると到着して早々に、コンポコは「悪の使者ゴーポン!!」と何やら敵キャラ扱いされて、グランロボを持った少年に追い回される。

魔美は少年を捕まえると、少年の心の内が見える。グランロボが魔獣ゴーポンと戦っている映像で、そのボスが吸血皇帝であるようだ。この子はほとんど空想の中に生きているのである。

思えばわが息子も幼稚園時代は、ほぼ空想に入り浸る子であった。共働きの家庭ではない。けれど、現実の中に虚構が常に織り交ぜられているようだった。想像世界と現実世界の折り合いを、少しずつ、子供ながらにつけていく。そういう過程を見ていけることは、今思えば幸せなことのように思える。

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少年の両親は忙しく、子守役はテレビとおもちゃだった。それによって自分の殻に籠り、友だちと関わってこなかった。そこで、魔美と高畑は超能力とグランロボを使って、子供の興味を引いていこうと考える。

そこで邪魔となってくるのが、隣の家から望遠鏡で様子を伺ってくる黒沢である。部屋の中では望遠の死角を使って、グランロボにケーキを運ばせたりして、少年と交流させることに成功するが、外で遊ばせるとなると超能力がバレてしまう。

そこでここでも高畑のアイディアが役に立つ。紙飛行機を飛ばして、魔美のテレキネシスを使って、なるべく自然に周囲の家の近くを飛ばすようにする。黒沢は超能力で飛ばしているものと疑って、望遠鏡で紙飛行機の後を追うのだが、ここで近所から黒沢家にクレームが入る。

黒沢が近所を覗き見ているというクレーム内容である。これによって母親に黒沢は睨まれ、以後望遠鏡を使うことができなくなる。見事な高畑の一計なのであった。

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そこでさっそくグランロボを魔美が外へと歩かせていく。少年は「鬼ごっこするつもりだな」と一緒に庭へと飛び出していく。しばらくロボと遊んでいると、トンボが目にとまり、思わず後を追って空き地へと進んでいく。高畑は「好きなようにさせとこう」と送り出す。

「友だちでもできれば」と思っている魔美たち。ところが少年は同じ幼稚園の子供たちに、吸血皇帝呼ばわりされて苛められてしまう。普段から一人で行動しているので、「世界征服を企んでいるんだ」と責められたのである。レベルは違えど、幼児たちが空想世界に生きていることを描いたシーンとなっている。

少年の念波を感じ取った魔美は、高畑の助言を得て、グランロボを飛ばして少年たちに間に割って入らせる。少年を苛めていた子供たちは、グランロボが味方に付いている少年に対して「正義の味方か!」と思い直す。

そうであるならばと、子供たちは「あれ教えてやろうか」ということで、少年を遊びに誘う。

「俺たち、幼稚園の床下に、ロボの秘密基地を作ったんだ。見せてやる」

少年は「ほんと!? うん」と答えて、子供たちと走って行ってしまう。そんな少年たちを、グランロボが暖かく見送っている。

「あの子にとって、新しい世界が開けてきそうだね」

高畑と魔美もまた、今まさに成長しようとしている少年の姿をそっと見守るのだった。

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空想に生きていた少年は、その空想を通じて友だちと仲良くなる。少年たちがそっと外の世界へと踏み出していく様子を描いた秀作である。

本作では途中退場となった黒沢は、なおも魔美をつけ狙う。次回の記事でその決着となるお話を考察する。


「エスパー魔美」絶賛考察中。


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