藤子マンガの大スター登場!?『死ンデモイモヲ作ルダゾ』/ゴンスケ大活躍①
マンガの神様・手塚治虫氏が切り開いた画期的なことは無数とあるが、そのひとつに「スター・システム」がある。スター・システムとは、ハリウッドで発展したスターありきの映画の作り方のことを指す。
手塚先生は自分が生み出したキャラクターを、別の役柄で別の作品に登場させる仕組みを発明する。すなわち、キャラクターをあたかも俳優のように見立て、作品を飛び越えて使い回そうという考えである。これをスター・システムと呼んでいたのだ。
だから「鉄腕アトム」のアトムは、その後別の作品に幾度も姿を見せる。特に長期連載となった「ブラックジャック」では、別の役で数回登場していたりする。
作品ごとに全く新しいキャラクターを生み出す手間が省けるので、凄く便利なシステムのように思えるが、これは繰り返し見るに耐えうる魅力的なキャラクターを作る必要があるので、実は簡単なことではない。
よって、この手塚先生の発明を後継する作家も、赤塚不二夫先生などを除きほとんど現れなかった。
藤子F先生は、手塚先生を尊敬して作家デビューした方なので、このシステムを自分も取り入れようと一度は考えたと思う。しかし、キャラクターを次々と生み出す能力において抜群のセンスを発揮するF先生は、スター・システムが必要ではなかった可能性がある。
またスター・システムとは異なるが、「のび太型」「ジャイアン型」「スネ夫型」「しずちゃん型」と類型的なキャラを使い回すのがF流であったので、手塚先生とはまた別のやり方でキャラクターの活用を図ることのできた作家だとも言える。
そんな中、作品を超えて登場してくる「スター」がいないわけではない。もっとも代表的なスターは小池さんだろう。F先生だけでなくA(安孫子)先生も登場させている藤子不二雄横断キャラとなっている。
そしてもう一人、大事なスターが存在する。それがロボット(役)のゴンスケである。ゴンスケは「21エモン」において、口が悪く金に欲目を眩ませるイモ掘りロボットという強烈なキャラクターを持ってデビューした。そしてその後「ウメ星デンカ」に家臣役で再登場し、その後SF短編でも活躍する。
なお、「21エモン」の二番煎じ(F談)の「モジャ公」においては、ゴンスケ型のロボットとしてドンモというキャラクターが登場している。ちなみに、アニメの「ドラえもん」で今年に入って二度ほどゴンスケを意識したキャラクターが登場していた。藤子プロ内でのゴンスケ再発見があるように思える。
そこで、F作品では珍しく「スター」として扱われるゴンスケを、3回に渡って紹介し、その魅力を再確認していきたい。なぜ藤子先生がゴンスケをスターにしたのか、そういう部分を考察してみよう。
まずはゴンスケの代表作「21エモン」から、ゴンスケのキャラクターが良くわかるエピソードをざっと見ていきたい。
『ホテルつづれ屋』
記念すべき初回において、ホテルのボーイとは思えない汚い言葉使いで登場。そもそも山奥でイモ掘りするために作られたロボットだったが、ポンコツ寸前の所を20エモンに買い取ってもらったと自己紹介している。
『銀河の間へごあんない』
お金をためてイモ畑を買う夢を持っていることが判明。生まれつきの使命を忘れていないゴンスケ。ボーイの仕事は腰掛けに過ぎなかったのだ・・。
『モンガーがしゃべった』
ゴンスケはモンガーと仲が悪く、モンガーが一週間に一言しか話せないのを良いことに馬鹿にする。注意をされると「他に何の楽しみも無いもの」と答える。暇つぶしで苛められてはモンガーが可哀そうだ。
『客間にイモ畑』
遂にイモを育てる土を購入し、雨漏りのする部屋でをイモ作りを初めてしまう。ゴンスケはついに夢をかなえてしまうのである。(後ほど詳細)
『死ンデモイモヲ作ルダゾ』
これまで貯めてきたチップを使って部屋を借りて、イモ作りを続けるゴンスケ。自分は客だからと色々と増長が始まり・・・。(後ほど詳細)
『ゴリダルマ氏来る』
ゴンスケのイモを使った料理がバカ受け。
『宇宙オリンピック』
地球で初めてイモ掘り競技の金メダルを貰う。
物語後半(=宇宙篇)では、たまたま貴重な鉱物の埋まる山を入手し、転売して大金持ちとなる。この資金を使ってロケットを購入して21エモン、モンガーと共に伝説の種イモを求めて宇宙へと飛び立っていく。この「宇宙篇」でもゴンスケは嫌な性格を前面に出して強烈な印象をもたらす。これはまた別の機会でじっくりと紹介したい。
また、『宇宙オリンピック』については、既に記事化させているので、そちらをご覧いただきたい。
本稿では「21エモン」前半(=ホテル篇)で、ゴンスケに最も焦点が当たった2作『客間にイモ畑』『死ンデモイモヲ作ルダゾ』を詳しく見てみよう。
『客間にイモ畑』「週刊少年サンデー」1968年27号
相変わらず客の来ないつづれ屋。20エモンは自分が客の役となって、従業員たちの接客訓練を実施する。従業員とは21エモン、モンガー、オナベ、そしてゴンスケである。
ゴンスケは心ここにあらずで、なぜか泥んこまみれ。何かを隠している様子である。そこへ先日届けたという「土」の代金をもらいに集金人がやってくる。1トンで料金が5万円だという。
結構な高値だが、高度な都市化され地面がコンクリートやアスファルトに覆われた21世紀において、土は貴重品なのだ。
誰がそんなものを買ったのかとなったその時、ゴンスケが奥から出てきて5万円を支払う。ゴンスケは今までずっとチップをため込んでおり、結構な額の貯金があったのだ。その後も、謎の大型商品を13万円で購入する。
ゴンスケは一体何をしているのか? 後をついて行くと、雨漏りで使えなくなっている客室を勝手に改造し、なんとイモ畑にしていたのである。
みんなに畑を見つかってしまったゴンスケの熱いセリフは以下。
「オラハ、モトモトイモ掘リロボットダ。ドウシテモイモヲ掘リタイダ。ソレデ、貯金ヲ全部ツギコンデ、イモヲ作ル決心シタダ」
以前からゴンスケが夢見ていたイモ掘りへの情熱が抑えきれなくなったのである。ゴンスケは、ロボットにも関わらず、何とも人間味溢れる夢追い人なのだ。
ところが20エモンはホテルで勝手にイモを作ることに大反対。すぐに片付けろと厳しく命じる。ゴンスケはそれを聞くとカッとなってホテルを飛び出していく。
するとひょっこり戻ってきて、20エモンに大金を渡す。これは宿泊代の前金で、自分は客として雨漏りの部屋を借りてイモ掘りを継続させるというのである。イモ掘りロボットとして生まれてきた本能ともいうべき情熱が、ゴンスケには燃えたぎっているのだ。
『死ンデモイモヲ作ルダゾ』「週刊少年サンデー」1968年28号
その続編がこちら。つづれ屋の客となったゴンスケは、何かと金に物を言わせる嫌味な面をたっぷりと見せつけてくる。
ゴンスケは大手を振ってイモ掘りを続けている。「イモ掘りホーイ」と鼻唄まじりに陽気に作業をして「コンナニ生キガイヲ感ジタコトハ、ナイダゾ」と青春を謳歌している様子。ただ作ったイモはそのまま積み重ねてあり、作ることだけに意義を感じているようだ。
ゴンスケは金を払った客として、21エモンたちに応対を求めてくる。まずロボットなので必要もないのに「人間のご飯が食べたい」と言い出して、ご馳走を持ってこさせて、塩を大量にかけて食べ尽くす。ゴンスケには舌が無いので味が分からないのだ。
風呂に入ってモンガーに背中を流せと命じてくる。調子づいたゴンスケにモンガーは腹を立ててヤスリで削ってしまう。
20エモンの吸っている葉巻を取り上げて吸い出す。だいぶポンコツなので煙が方々から漏れではいるが…。
いばり散らすゴンスケに「そろそろ元通りに働かないか」と20エモンは言うが、全く聞く耳を持ってくれない。怒る20エモンだったが、ゴミ引き取りの集金が払えなくなって、逆にゴンスケに頭を下げてホテル代の前借りをお願いする始末。
その翌朝、別の支払いが発生し、またゴンスケにお願いにいくが、そこでとうとうゴンスケの資金が底をついたことが判明する。20エモンは「イモ掘りを忘れてボーイとして戻ってほしい」と告げるが、ゴンスケは「後3時間は客だ」と言って部屋に籠ってしまう。
ところが3時間立っても部屋から出てこないゴンスケ。ついに実力行使に出て、籠城するつもりなのである。モンガーのテレポートで部屋に入っても、作ったイモを投げつけてきて、追い返されてしまう。
しばらく交戦があった後、ゴンスケが巨大なイモを投げようとした瞬間に動きが止まってしまう。昨晩塩を大量にかけた夕ご飯を食べたのでサビてしまったのだ。
修理を呼んでもらうゴンスケ。目を覚ますと、人生が終わったかのようなセリフを吐く。
「アア…オラの夢ハ消エタダ…。ハカナイ虹ノヨウニ。イモガ掘レナキャ、生キテテモシヨガナイダヨ」
潰えた夢を虹のはかなさに例える名言である。
ところが、畑を片付ける前にゴンスケの作ったイモを食べた21エモンたち。合成食品ではない本物のイモだったこともあり、とにかく美味しかったようなのである。
ということで、イモ畑の撤去は中止。ゴンスケをイモ作りの主任として、みんなで手伝ってイモ畑を残していくことになったのであった。
このゴンスケのイモは、さらに次の話『ゴリダルマ氏来る』で、つづれ屋の危機を救い、大人気ホテルとなるきっかけを作る。ちなみにゴリダルマ氏に出されたイモ料理は以下。この時は電力も止められていたので全部生イモを使っている点も要注目である。
・さいの目に刻んだイモ
・タンザクに刻んだイモ
・すりおろしたイモ
・イモのつると葉っぱのサラダ
生イモ全開の料理をゴリダルマ氏は黙々と食して、後にこれをガイドブックに取り上げている。さぞかし美味しいイモだったに違いない。
ここまでをまとめると、性格の粗暴さが出ているゴンスケだが、生まれてきた自分の役目を全うしようとする、青春ど真ん中のキャラクターであった。清濁併せのむ俳優だったら演じてみたい曲者である。F先生がゴンスケを気に入っている点は、そうした二面性のあるキャラクターだからなのかもしれない。
ゴンスケのお話は、次回に続く!
他の藤子作品の考察は、こちらから~。
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