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全く新しい国家のかたち『ぼくら共和国』/緊急SP・国家とは?③

総選挙に便乗した藤子Fの「国家」シリーズ記事は、本稿でひとまず終了。これまでは「オバQ」「ドラえもん」の二大代表作から、同一テーマである為政者の独裁を描いた作品を見てきた。

これまでの記事はこちら。

本稿では、前の二本とガラリと代わり、少し変わった「共和国」を描くSF短編を見ていく。

本作では斬新な国家像が描かれのだが、正直よくこんなお話を思いつくものだと、心から感心してしまう。ようやくこの作品を記事にできる喜びを噛みしめながら紹介していきたい。


『ぼくら共和国』
「小学五年生」1975年8月号/大全集3巻

物語は、ひと夏の奇妙な出来事である。

主人公は平凡な小学五年生の男の子、小森。原則、小森の視点で進行し、時おり彼のモノローグが入る構成となっている。

小森曰く「この出来事の主役は花田まさるだ」と語られる。花田は一学期の終わりに転校してきた男の子で、団地の外れのプレハブに住んでいる。決して元力士で元ちゃんこ屋のオーナーではない。


花田が現れて、小森の周囲に何か変化が起きているような気がしている。特に変わったと思うのが、幼馴染の女の子、葉山みどりである。プールに誘うのだが、予定があると断られ、その予定の中身を聞いても教えてくれない。

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プリプリする小森に対して「その内話してあげられると思う」と何やら意味深の言葉を残して、姿を消してしまう。代わりに「ボクラ共和国 国民証」という紙が落ちている。

そこにダンプ(本名:大木宇土)という同級生が歩いてきたので、小森は葉山が変わったことを相談する。そして先ほど拾った国民証を見せると、ただの白紙じゃないかと突き返される。

一体何が起きているのだろうか?


夏休み。一人プールに向かう小森だったが、同級生のフトマムシハリガネに絡んでいる様子を見かける。喧嘩の弱い小森だが、押さえきれない正義感から、二人の間に入って、ハリガネの代わりにフトマムシに殴られて、伸びてしまう。ちなみにハリガネの本名は瀬野信夫、フトマムシは不明。

倒れ込んだ小森が目を覚ますと、同級生4人が集まっている。これまでに登場していた、花田・葉山・ダンプ・ハリガネである。花田は唐突に「ボクラ共和国第五番目の国民になってくれる?」と声を掛けてくる。

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ボクラ共和国とは何か?
かなり奇抜なアイディアなのだが、下記の要点を列挙しよう。

・ボクラ共和国は、ボクラ国民のいる場所が領土となる
・共和国発展のために国民は「大臣」に任命されて働く
・共和国の目的は「戦争のない世界」を作るため
・国民の資格は他人の思いやりがあること

世界平和を標榜する何とも壮大な国家プランである。小森は身を挺してハリガネを救おうとしたので、国民の資格を得ることができたのであった。


さらにここで、花田が構想する「国家」についてまとめてみる。
この新しい国家像は、本作のアイディアの中核を成す重要な部分であり、F先生の国家と戦争についての考え方が色濃く反映しているように思われる。

なぜ戦争が起きるのか?
→悪い国が勝手なことをするから
戦争をしている国はどっちも自分たちが正しいと信じている
「国」は生き物。自分の意志を持って動き出し、時には嫌がる国民を引きずって戦争に巻き込む
→「国」という形で固まってしまうからいけない
→国土のない国を固まらず、世界中に散らばった国を作る
→国民が国民を作り、やがて世界中がボクラ共和国に包まれる
大きな一つの国が生まれる

本作を読み返して、このアイディアは「イスラム国」と酷似しているように思われた。「イスラム国」は原理主義的なイスラム教徒の国家を作ろうとした「運動」で実際に国家を形成するに至ったが、当初は国民=国土の発想を持っていた。

ただし「イスラム国」の思想は「ボクラ共和国」と真逆の暴力性に満ちている。ボクラ共和国の国民になるためには「思いやり」が必要十分条件となっている。F先生は平和の条件とは、人への思いやりだと指摘しているのである。

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小森は花田の理想に共鳴し、5番目の国民として仲間入りを果たす。国民それぞれの大臣の椅子が決まっているので、それも抜粋しておこう。

花田まさる=総理大臣
葉山みどり=外務大臣
瀬野信夫=文部大臣
大木宇土=農林大臣
小森=厚生大臣

ちなみにボクラ共和国の国旗は渦巻き状になっているデザインだが、これには「ゼロから出発して外へ外へと限りなく広がっていく」という意味が込められている。


さて5人がコソコソ何かをしていると、フトマムシが気にしだす。ボクラ共和国というフレーズだけをこっそり聞き取るが、実態はわからない。仲間外れされていることもあって、邪魔してやろうと画策する。

さて、その頃国民5人は「国会」を開いている。議題は「国家財政」についてである。国の発展にはかなりの資金が必要で、それをどうやったら稼ぎ出せるのか?

様々な意見が出る中、近くの金角山に時価30兆円もの黄金が隠されているという伝説があるので、それを探し出そうという突飛な意見が出され、なぜか花田は賛同する。皆で力を合わせることは何でもやろうということで、ハイキングも兼ねて黄金探索に行くことになる。


その晩、小森は忘れ物を取りに花田の家に向かうと、花田がお父さんと思しき人と会話をしているようだ。「ここでの時間はもうあまりないの?」と、かなり意味深なやりとりが聞こえてきて、小森は家に立ち寄らず帰ってしまう。


金角山での埋蔵金探し(=ハイキング)に出発する国民たち。その後ろからこっそりとつけていくフトマムシ。花田はすぐに存在に気づいたようだが、ここでも「ちょうどいいチャンスかもしれない、時間もないことだし」と謎めいたセリフを吐く。

さらにさらに、昼食休憩中には

「きれいだな地球は・・・。いつまでもここにこうやっていたいね」

と、何とも含みのありそうな発言をしている。

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花田は小森にフトマムシを国民に加えたいと提案する。反発する小森に対し、花田は上っ面で人を判断しては駄目だと諭す。ピンチになった時に人間の本当の姿が現れるのだと。

花田の号令で宝探しを始めることにする。それぞれ出まかせに探すというノープランだが、始めてすぐに花田は人工的に掘られた穴を見つけて、ここを探そうと言う。

穴に入っていく5人と、後からこっそりと付いてくるフトマムシ。しかしこの穴はどうやら、隠し金山の跡ではないかとハリガネが思いつく。郷土史の本に出ていたことを思い出したのだ。

この会話を聞いていたフトマムシが、30兆円を嘘だったのか、と怒って姿を現す。驚くみんな。するとこのタイミングで地鳴りがして落盤が発生する。慌てて逃げ出すみんなであったが、出口をふさぐように天井が落ちてきて、すぐにでも崩れそうな支柱の下にわずかな隙間が残されている状態となる。

するとフトマムシが支柱の下に入って、肩で支えようとする。そしてその隙にみんなは脱出しろと男気を見せるのである。残りのみんなは脱出に成功するが、フトマムシは身動きできなくなってしまう。

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すると一人後からゆっくりと花田が歩いてくる。「よく頑張ったね」と指を鳴らすと、落盤がピタリと止まるのであった。ここで花田が異能力者であるがはっきりと明らかになる。

無事に花田とフトマムシが穴から出てきたので、大喜びのみんな。そこで花田が、フトマムシも国民証を贈りたいと提案し、みんなの賛同を得る。フトマムシは労働大臣に任命されたようである。


夏休みも終わり近く。
いつものように「国会」に出勤すべく花田のプレハブに向かうのだが、なぜか留守のよう。小森がドアの前に落ちている手紙を見つける。内容は別れの挨拶である。

「残念ですが、お別れの時が来ました(中略)みんなの力でどんどん国民を増やしてください(中略)君たちと過ごした楽しい二カ月は忘れません。さようなら」

引っ越しすることになったので、時間がもうないと花田は呟いていたのだ。しかし、突然どこへ行ってしまったのか?

呆気に取られている国民5人が見上げた空に、UFOらしき物体が飛んでいる。花田は宇宙人で、宇宙へと帰っていったことが示唆される。

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本作で描かれる国家像は、極めて俗人的な仕組みである。国土がベースではなく、国民が国家の土台とする画期的な考えである。今ではネット空間での仮想国家や、初期イスラム国のような思想を持った人を国民とする考え方は散見できる。

元ネタがあるのかはわからないが、とても良くできな国家構想であるような気がする。


奇抜なアイディア満載・SF短編の考察やってます!


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