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一挙4本!「透明人間」作品から学ぶ藤子先生の作風/透明人間現る現る⑤

「透明人間現る現る」と題して、透明人間を扱った4作品を検討・考察してきた。

身体が透明になる → そして何する? という古典的なSFのモチーフを藤子先生も好んでおり、色々なパターンで作品内に取り込んでいることが見えてきた。

本稿では、シリーズ最終回として、残された「透明人間のお話」を一挙にご紹介していきたい。前回の記事は下にリンクから。(他の作品にも繋がっています)


「バケルくん」『透明人形』「小学二年生」1975年3月

「バケルくん」は須方カワルが宇宙人から譲り受けた変身できる人形を使って、大活躍(?)するお話。

カワルは、色々な特殊能力を備えたバケルくん一家の人形を使って、実際にバケルくんの家庭を作ってしまう。

最初の頃はカワル→バケルというように、一対一の変身が基本だったのだが、シリーズ中盤以降は同時に複数の人形に変身して、家族いっぺんに動かすことも可能になる。

本作では冒頭でバケル一家5人(バケル・パパ・ママ・姉・犬)でテレビを見ているシーンから始まる。


家族みんなでトリブターズの番組を見て大笑いしているのだが、実はカワル一人が5人に変身しているに過ぎない。

そこへカワルの母が訪ねてくる。夜になってもカワルが帰ってこないので、こちらの家にお邪魔しているのではと言うのだ。

ここでもカワルのママに対して5人いっぺんで対応しているが、実質カワル一人での対応である。

すっかりテレビに夢中になり、帰るのを忘れていたカワル。自分の姿に戻って帰宅しようとするのだが、自分の体が見つからない。

今日一日を振り返ると、バケルの姿で友だちの家を三軒回っている。どこかで自分の人形を落としてきたに違いない。

そこで人形がしまってある棚から「透明人間」になれる透明人形を使って、友だちの家を回ってみようと言うことに。


「透明になったら何かいたずらをしたい」と考えるのが世の常だと思うが、本作では私欲ではなく、やむを得ない理由で透明になる

これまでの記事でも書いてきたが、大人が透明人間になれば、決まって悪いことをするのだろうが、子供向け漫画なので子供の主人公たちは、透明になっても良い子のままなのである。


「ウメ星デンカ」『とうめい太郎』
「小学一年生」1969年3月号/大全集3巻

「ウメ星デンカ」は祖国ウメ星が爆発してしまい、逃げ出してきた国王一家が平凡な中村一家に居候するという「異世界キャラ居候型」タイプの作品となっている。

ウメ星の科学力は地球よりも遥か上で、デンカたちは不思議な道具を使いこなす。よく「ドラえもん」のプロトタイプというような言われ方もする作品である。


本作では「体の色を吸い取る(=透明になる)鏡」を使った太郎の騒動を描いている。

太郎がデンカから透明になれる鏡と聞いて、故障中だという制止を聞かずに使ってしまう。

透明になるとデンカも太郎の居場所が分からない。太郎は透明人間となり、これで「誰にも見つからずに何でもできるぞ」と少年たちの夢を代弁する。

ただ、何でもできると言いつつ、実際にやることは、いかにも子供のいたずらレベルなのが、読んでて安心である。

いじめっ子のフグ田を懲らしめたり、みよちゃんの家に入って本を読んだり、通行人たちの顔にいたずら書きをしたりする。いたずらには違いないが、まあ、犯罪レベルではなさそう。


何か素晴らしい道具があったとして、最初にメリットを出した後はデメリットも示すのがF流

透明になったは良いが、車が気づかず突っ込んできたり、道端で水を掛けられたりする。「これは危ない」ということで帰宅する太郎。

ところが家族には透明お化けとして追い回されたり、色を戻すボタンが壊れて戻れなかったりと散々な目に遭ってしまうのであった。


「すすめロボケット」『見えなくなるくすり』
「小学一年生」1964年7月号/大全集3巻

「すすめロボケット(ろぼけっと)」は、小学館漫画賞の受賞対象作となった、初期の代表作の一つ。

主人公はすすむくん。パートナーとなるのは、ロボットとロケットが組み合わさったロボケット。すすむにはガールフレンドのみっちゃんがいて、みっちゃんのお兄さんは科学者である。

「海の王子」から始まった科学冒険SFの子供版といった作品で、敵との戦いがベースではあるが、日常的なストーリーが展開されることもある。


本作では、みっちゃんのお兄さんが「見えなくなるくすり」を開発。これを使って遊んでいると、ギャングの一味に見られて、くすりを奪われてしまう。

前回の記事では「パーマン」の敵として透明人間が登場するお話を取り上げたが、この時の透明人間はインチキだった。本作は本物である。

悪者たちは透明になって、分かりやすく悪事を働いていく。白昼堂々物品を盗んだり、警官をやっつけたりする。そして、もっと薬を手に入れようと、みっちゃんのお兄さんを誘拐する。

すすむたちは「見えなくなるくすり」が放つ特殊な香りを伝って、悪党のアジトを突き止める。突入するも、敵の方が一枚上手で全員捕まってしまう。しかしみっちゃんが落ちていた透明薬を見つけて透明となり脱出。

この後、敵も味方も透明になってしまうのだが、泥水を上からかけて泥だらけにして、捕まえることに成功するのであった。


「てぶくろてっちゃん」『とうめい人間』
「たのしい二年生」1961年4月号/大全集1巻

「てぶくろてっちゃん」小学館漫画賞の受賞対象作となった初期のヒット作。つまり「すすめロボケット」と同時期に描かれていた作品である。

「すすめロボケット」がSF冒険ものだとすると、「てぶくろてっちゃん」は日常系SFに分類できる。

何かを作ると、それが効果を発揮するという不思議な手ぶくろを使って、てっちゃんが色々なものを発明する。そして、友だちのようこちゃんと一緒に、その道具を使って色々と遊ぶというストーリーである。系譜としては「キテレツ大百科」に連なる作品である。


本作ではてっちゃんが「透明人間」の漫画を読んで、自分も消える薬を作ることに。何でも作れるてぶくろがあるので、透明薬を作ろうと思っただけで、作れてしまうのである。これ、最強。

ところが全身に薬をかけても、服しか消えない。裸になってしまったので、服をお母さんに出してもらうと部屋を離れたすきに、ようこちゃんが遊びに来る。

ようこちゃんは、てっちゃんが透明薬の前に作ったタコ型ロボットにスミを吐かれて、顔が真っ黒になる。そこで、洗面器に入っていた透明薬で顔を洗ってしまい、顔だけが消えてしまう

絵心のないてっちゃんが顔を書くのだが、変ちくりんな仕上がりとなってしまってようこちゃんは激怒。たまたま絵描きのおじさんがいてくれたので、元通りの顔にしてもらう。


透明薬は失敗ということで、今度は「天狗の隠れ蓑」を作ることにする(そして簡単にでき上がる)。透明になっていたずらをしていくのだが、同じようないたずらが、この後の藤子作品に何度も登場する。

・ママの用意したおやつが宙に浮く
・ガキ大将に対して犬を操作して、驚かす

特にイヌが喋りだす場面は、「ウメ星デンカ」「ドビンソン漂流記」などにも使われている。

また、本作でも、良いことの後は悪いことを描いてバランスを取る。透明のまま丸太に座って休んでいると、存在を気づかれずに自分の上に大きな荷物を乗せられてしまう。透明人間も楽じゃない、といういつものオチなのである。


さて、本稿では時代を遡りながら4作品の「透明人間」を紹介してきた。これまで紹介してきた作品と合わせて、同じようなネタが使い回されていることが確認できる。

もちろん、ちょっとずつ作品によって展開も違っているし、キャラクターによって行動パターンも変わる。

同一パターンを繰り返しつつ、少しずつアップグレードさせていく藤子先生の作風が「透明人間」ものを読み比べると、よくわかるのである。



様々な藤子作品を取り上げています。


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