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ドラえもんの原点をまた一つ発見『かばんのぱっく』/ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品⑦

「ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品」と題して、一般的に知られていない幼児向けの藤子作品を紹介していくこのシリーズ。今回は1961年に発表された隠れた名作を取り上げる。

まずは1961年という年が、藤子先生の作家史においてどのような位置づけにあるかを解説しておこう。

藤子先生は1951年12月、18歳で「天使の玉ちゃん」でデビュー。1954年、20歳で上京し、有名なトキワ荘に入居。その後紆余曲折あるが、少しずづ作家としての力を蓄えていき、短編を中心に様々なジャンルの作品を発表している。

1959年4月に「週刊少年サンデー」が創刊され、オープニングメンバーとして藤子不二雄は「海の王子」の連載を担当する。初めての長期連載となり、人気も博して連載は約二年続いた。

1960年に入ると小学館の児童向け雑誌で、主に「海の王子」の弟分的な科学冒険漫画を数多く連載し、講談社系では「てぶくろてっちゃん」に代表される児童向け漫画を中心に作品を発表していた。

この頃になると単発の短編はほとんど描かなくなる。藤子Fノートでは、1960年までの短編時代を「初期」、1961年からは「連載」時代と区分している。


本稿で紹介する「かばんのぱっく」は、1961年、連載時代の幕開けとなる作品で、講談社系で発表された日常系SF(少し不思議な)漫画となる。

「かばんのぱっく」「たのしい一年生」1961年4月号~6月号

主人公の男の子の名はじろちゃん。彼の相棒となるのはランドセルの形をしたかばんのぱっく

「たのしい一年生」という新しく小学生となった児童を対象とした作品で、小学生が最も身近に感じるランドセルをキャラクター化させている点において、子供心をしっかり捉えた作品と言える。

かばんのぱっくはしゃべることができ、空が飛べたり魚が釣れたりと、何かとじろちゃんのお世話をしてくれる。じろちゃんとぱっくの関係は、その後の「ドラえもん」に通じているように思う。


本作のアイディアは抜群だったとは思うが、残念ながらたった3本だけで終わってしまった。「たのしい一年生」では、すぐに後継作品「ろぼっとろぼちゃん」が連載されていることから、本作の人気は伸び悩んでいたのかも知れない。

それでは、せっかくなので、全3作を細かく紹介しておこう。


『ふしぎなかばん』「たのしい一年生」1961年4月号

第一話ということで、じろちゃんとぱっくの出会いが描かれる。

まず冒頭、近所のお兄さん(おじさん?)のげんちゃんに釣りに誘われる。連れて行く代わりに道具を持たされ、川に到着。釣らせてと約束していたのにも関わらず、見ているだけだと言って一人で釣りを始めてしまう。意地悪なげんちゃんなのだ。

げんちゃんは魚ではなく、ランドセル型のかばんを釣り上げる。「汚いカバンだ」と言ってそのまま川へ蹴飛ばしてしまうが、じろちゃんはそれを拾って川の水できれいに洗ってあげる。

するときれいになったカバンが「どうもありがとう」と感謝の言葉を口にする。突然カバンがしゃべりだしたので、驚くじろちゃん。ぱっくと名乗ったカバンは、川の底に引っ掛かって困っていたのだという。


ぱっくは「お礼に魚を取ってあげよう」と言う。釣り竿にぱっくを括りつけて川に垂らすと、カバンの中にたくさんの魚が入る。嬉しくて大声を上げるじろちゃんに、げんちゃんはうるさいと文句を言う。魚が釣れないので八つ当たりをしているのだ。

それなら帰るよと気分を壊したじろちゃん。すると背に背負ったぱっくから巨大なプロペラが伸びる。大きいタケコプターのような動きで回転し、なんと空を飛ぶ。まさしく「タケコプター」の原点である。


友だちの女の子が住む隣の家に降りたつじろちゃん。女の子の名前は作中では明らかにならない。(雑誌の枠外などに記載してあった可能性はある)

取ってきた魚を分けてあげると、そこへさっぱり釣れなかったげんちゃんが帰ってくる。魚が詰まったかばんを見て、意地悪なげんちゃんはかばんごと取り上げるのだが、中からカエルが飛び出して、げんちゃんの顔にひっつく。

「カエルは嫌いだ」と言って逃げていくげんちゃん。まるでのび太に意地悪したジャイアンをひみつ道具で打ち負かすという「ドラえもん」の原点のような展開なのであった。

◆ぱっくの機能(第一話)
・魚を捕る
・空を飛ぶ


『パパをおむかえ』「たのしい一年生」1961年5月号

じろちゃんがテレビで大相撲を見ている。この年の秋には大鵬と柏戸が同時に横綱昇進を果たした大相撲人気爆発の年で、小学一年生のじろちゃんも、釘付けなのである。

そんな中雨が降り出してきて、ママから「傘を持ってパパを迎えに行って欲しい」とお願いされる。「お腹が痛い」と仮病を使おうとするが、かばんのぱっくが、「注射をしてあげよう」と言い出したので、すぐに治ったと言って立ち上がる。

ぱっくが、じろちゃんの仮病の話を本気で信じたのか、敢えて脅したかは謎である。

「仕方がない」と言って出掛けていくが、街頭のテレビで相撲を中継しており、道草してしまう。

ぱっくは空を飛んで駅までじろちゃんを連れて行き、「テレビが見たかったらここで見なさい」と言って、顔をテレビにする。すると「珍しいテレビ」だと言って、周囲から通行人が集まってきてしまう。

その後、なんやかんやあってパパと合流するが、肝心の傘を先ほどのテレビ騒動で無くしてしまう。すると、ぱっくが傘を出す。しかもこのぱっくの傘はボタンを押すと大きく広がり、何人もの人たちを入れてあげられるのであった。

◆ぱっくの機能(第二話)
・注射を出す
・テレビになる
・大きく広がる傘を持っている


『おもちゃのゆうえんち』「たのしい一年生」1961年6月号

三話目にして早くも最終回。とはいえ、終わる雰囲気がないので、突然の打ち切りだったのだろう。

じろちゃんはママにおやつを出してもらうが、それは小さなケーキ。するとぱっくの右の目から光が出てるとケーキが大きくなる。これは面白いと、パパの吸っているタバコを巨大化させる。

左目からの光は反対にものを小さくする。外へ出て怖いイヌに唸られるが、光線で小さくしてしまう。右目がビックライト、左目がスモールライトというわけだ。


これで良いことをしようと、大荷物を背負っている男性の荷物を小さくすると、これは「おはらいもの」だったため、ありがた迷惑ということで怒られる。なお、現代っ子は知らないと思うが、「おはらいもの」とはくず屋が買ってくれる品物のことだ。

逆に大きくしてあげようとするのだが、効き目が強すぎて男は巨大化した荷物に潰されてしまう。慌てて「スモールライト」を投射するも、今度は男性を小さくしてしまう。もはや混乱の極み。


じろちゃんは、あることを思いつく。家から積み木や乗り物のおもちゃを空き地へと持っていって並べて、ビッグライトを当てる。するとそこは遊園地に早変わり。みんなを集めて遊んだのでありました。

◆ぱっくの機能(第三話)
・右目からビッグライト
・左目からスモールライト


たった三作品ではあるが、その後のドラえもんに通じる、不思議な道具のお話であった。あくまで子供目線から、子供が欲しいもの、やりたいことが詰まっている。まさしく「隠れた名作」を発見した気分である。


マイナーな藤子作品も全部紹介していく!!


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