「寄生獣」の元ネタ? 『侵略者』と共に地球を征服せよ!/藤子Fの未知との遭遇⑧
藤子先生の作品を除き、人生でドはまりした漫画を挙げるとなると、真っ先に思い浮かぶのは岩明均先生の「寄生獣」である。(その他には「ナウシカ」「AKIRA」「カレカノ」・・・ってキリがない!)
また、岩明均先生と言えば、「ヒストリア」で藤子F先生が初代受賞者である手塚治虫文化賞を受賞されている。
「寄生獣」の詳しい説明は割愛するが、宇宙から飛来したと思しき謎の生命体に体を「半乗っ取り」された少年と、少年に寄生したミギーの交流や、他の寄生した個体(寄生獣)との大バトルを描いた作品である。
雑誌連載中に読んでいたが、この先どうなってしまうんだろうというドキドキと、戦闘シーンの斬新さと、哲学めいたメッセージが深く突き刺さる、完成度のすこぶる高い作品であった。
ただ、その時から思っていたが、異星人が体を乗っ取る話としては、藤子F作品の『侵略者』も忘れてはなるまいと言うことであった。何なら「寄生獣」の元ネタではないか、とも思う次第である。(←!)
ただし『侵略者』は、地球侵略を画策する宇宙生命体に寄生されてしまった少年が奮闘するというプロットは「寄生獣」とそっくりだが、作品のテイストがまるで違う。
「寄生獣」とは異なり、非常に箱庭的なスケールのミニマムなお話だし、地球侵略という言葉が躍る割に、全編に渡って牧歌的なのである。
どちらかを未読の方は、是非ともこの機会に、読み比べをしていただきたいと思う。
主人公は大学受験を控える高校生の堺章介。残念ながら両親の期待及ばず学業の成績が悪く、担任の先生からは「お前の入れる大学などこの世に存在せんぞ」と呆れられている。
居残りさせられていた章介を待ってくれていたのが、同級生の小夜子。章介を慰めて気分を明るくしてくれる、とっても優しい女の子である。
章介と小夜子が仲良さそうに帰宅する様子を、番長の風貌の男と子分のような男が見ている。「小夜にベタベタして気に入らん」と番長。この男は小夜のことを好きなようで、簡単に言えば章介に嫉妬しているのである。
以上、たった2ページで主要な登場キャラクターの紹介と関係性を説明してしまっている。いつもながらの手際の良さである。
一人になった章介が、空に流星が飛んでいるのを見つける。すると流星と思しき光がシュルシュルと不規則な動きを見せて、章介へと向かってくる。たまらず逃げ出すのだが、追いつかれてパカーンと衝突してしまう。
粉のようなものが舞い上がり、クシャミが一発出て鼻がムズムズするもののい、特段体に別条はない。今のは何だったのだろうか??
家に帰ると、章介は部屋で飼っている亀のマンネンに話しかける。「お前はのんきで良いよな、大学行かずにエサ食ってりゃいいんだから」などと、まるで友だち相手のような口ぶりだ。
ちなみに亀の名前のマンネンは、「亀は万年」から取られているが、さりげなく後の軽い伏線になっている点を押さえておきたい。
そんな亀と会話する姿を見て、ママが怒る。亀としゃべっているほどのんびりした身分ではないというのだ。
するとここで章介に異変が発生。急に顔が真っ赤になり、高熱が出てしまう。解熱剤は飲ませても熱は下がらない。ただ、章介は苦しくもなんともなく、この分だと明日のテストを休める、などと呑気である。
ところが翌朝、ケロッと熱は下がる。テストを受けなくてはならないが、まるで自信がない。それならば今日はサボってしまおうと思うのだが、なぜか体が言うことを聞かず、意に反して学校へと向かってしまう。
いつものようにテストに太刀打ちできない・・・かと思いきや、出された問題がとても易しく感じる。スラスラと5分で解いてしまうが、後ほど小夜から聞くところによれば、かなりの難問であったらしい。
小夜子から「あなたの実力がやっと発揮され始めたのね」と大いに見直される。そして、ますます仲良さそうな二人を見て、番長は「あの野郎殺してやりたい!!」と目を血走らせる。
番長のお付きの男は、「さっきも小夜子にヒジテツ食らわされていたので、見込み無いと思う」と感想を述べるのだが、番長は意地でもあの女をものにしてみせると意気込む。
何か手はないかと聞かれたお付き男は、「そんなことでしたら」と、何やら怪しい策を思いついた様子。今晩それを決行することにする。
急に頭が良くなったことを不思議がる章介。亀のマンネンに「この分だとそこそこの大学に入れるかもしれない」と話しかける。
するとまたここで、章介に異変が起こる。何と勝手に口が動き、「そこそこでは困る。一流大学を主席で卒業してもらわねば」と、何者かの言葉を伝えてくるのである。
まず章介の言葉を借りて、「自分は宇宙最高の知性体オーバーロードである」と名乗る。昨日章介に乗り移り、身体組織の隅々まで浸透して支配するメカニズムを完成させたのだという。
昨日ぶつかってきた流星は、胞子のようなもので、宇宙を旅する仮の姿であったという。そして目的はなんと地球征服で、彼ら種族はこれまでもあらゆる惑星を征服してきたのだと説明する。
ちなみにオーバーロードとは、「支配者・君主」という意味合いがある。章介の君主であり、世の中全体の支配者にならんとする種族ということなのだろう。
ここから一人二役で、章介とオーバーロードの「格闘」が始まり、その過程でさらなる設定が明らかにされていく。
今や二人は二心同体。章介には人間の機能の限界内で最高の頭脳と肉体を与えられる。しかしその実態は、乗り手のための優秀な馬になるということである。
自分自身を殴ったりしてオーバーロードを止めようとするが、それは無駄な抵抗で、ただ自分がボロボロになるだけ。もう完全に乗っ取られてしまったようである。
この二人の関係などは完全に「寄生獣」だと思うがいかがだろうか。
場面変わって、小夜子の家に章介から電話が掛かってくる。急用ができてすぐに会いたいので、雑木林あたりで落ち合おうというのだ。今ボコボコにされた章介が、オーバーロードの目を盗んで電話を掛けたのだろうか?
・・・いやそうではなく、電話の声の主は番長のお付きの後輩くんであった。声帯模写の特技を使って、小夜子を誘き出したのである。もちろん、近くには番長もいる。
落ち着きを取り戻した章介が、オーバーロードの狙いについてさらに聞いていく。
ここでのポイントは、あと一回だけ別の種族に乗り移れるということである。そして、慎重な調査をしたと言っているが、この後すぐに調査が甘かったことが明らかとなる!
オーバーロードは、地球人の増殖法について聞いてくる。そのためには、男女の有性生殖が必要であること(宇宙では流行らない非能率的な増殖法らしい)、一度に一人しか生まれてこないこと、成体になるまでおよそ20年かかること、人間の寿命は80年ほどである等の情報を伝えられて、急にうろたえる。
とても子孫繁栄を見届けることは不可能というのである。そうなると寸刻も無駄にできぬということで、すぐに取り掛かれと命じてくる。
体内機能と深層意識を調べたところ、章介の体は既に性行為は可能で、対象とする女の心当たりもあるという。もちろん対象の女とは、小夜子のことである。抵抗空しく、夜道を走り出す章介。
雑木林のあたりで、番長とその後輩に小夜子が襲われている。ここに合流してきた章介は、ついに番長たちと対峙することになる。ビビる章介に対して番長は「ギタギタにしてやる」と、殴りかかってくる。
しかし人間の中で最高の肉体パフォーマンスを獲得している章介には、番長のパンチなど全く通用しない。逆にあっさりとパンチ一発で撃退してしまうのであった。
救われた小夜子は「章介さん」と言って手を握る。ところが寄生された章介の目的は、小夜子との合体である。「始めるのだ」と言って、小夜子の体を押し倒す。
ここで悲鳴が聞こえたという通報を受けた警官が現れる。これで難を逃れ、小夜子との行為に及ばなくてもよくなる。
さすがの寄生生物も警官が怖かったのかと思いきや、「今日の所は騒ぎを起こしたくなったので、敢えて引き下がった」というのだ。その証拠に、「私に怖いものはない」と目を光らせて、近くの木を一閃で焼き倒してしまう。
酷く落ち込み部屋に戻り、いつものように亀に話しかける。オーバーロードは「その動物とは会話が成立するのか」と尋ねてくる。「長いこと飼ってるから」と答える章介。
ここ、実際にところ、章介とマンネンに本当の意味での会話は成り立っていない。一方的に章介が話しかけているに過ぎないのだが、ここで寄生生物は亀が会話できると勘違いしてしまう。
さらにマンネンという動物かと聞いてくるので、亀は万年というから命名したと答えると、一万年も生きるのかとこれまた勘違い。何かと早合点な知的生命体なのである。
そして章介がハクションとクシャミをする。亀も釣られてハクションと言う。・・・これは一体??
翌朝。章介の体から支配者は去っており、マンネンも姿を消した。オーバーロードは、会話もできて一万年も生きると勘違いして、マンネンに乗り移っていったのである。
しかも二度目の寄生なので、今後やり直しのチャンスはない。このまま亀の体で精一杯子孫を増やして、気長に地球征服をしていくことになる・・・。
章介が唯一残念なの心は、せっかく入手した素晴らしい知力と体力も消えてしまったのかということ。ところが試しに問題集に取り掛かってみると、なんとスラスラ解けるではないか。素敵な置き土産を残してくれていたのである。
その後、物言いたげに口をパクパクする亀を見たという目撃情報を聞く。将来進化して地球を征服するかもしれないが、それこそ何万年もあとのことだろう。
「宇宙最高の知性体」と自称していた「侵略者」は、調査も甘く、早合点な行動を起こしやすい不出来な生命体であったようだ。
人間最高の知力体力を手にした堺章介のその後が見たいと思わせる、非常に気持ちのいい「寄生獣」なのでありました。
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