「宙犬トッピ」完全解説/少しマイナーだが、油の乗り切った傑作F作品!!

藤子Fノートでは、藤子F先生の作品全てにレビューをしていくことを大目標にしているが、まだ全く紹介できていない作品が残されている。

今回はその一つ、1984年という藤子F先生の油の乗り切った時期に、半年間だけ連載された隠れた傑作である「宙犬トッピ」を取り上げてみたい。


「宙犬トッピ」
「別冊コロコロコミック」1984年1月~6月号

まずは本作が連載された1984年の、周辺状況について整理してみる。この年は、藤子先生50歳の年にあたり、まさに円熟味を増した作品が数多く発表されている。

「ドラえもん」は相変わらず「小学一年生」から「小学六年生」まで同時連載しており、加えて夏から春にかけては、「大長編ドラえもん」が集中連載されている。

「宙犬トッピ」の裏側では、「大長編ドラ」の最高傑作「のび太の魔界大冒険」が発表されていた。

また新「パーマン」が1983年4月から毎月3作品を連載している時期とも重なる。他にも「T・Pぼん」やSF短編なども描かれている。信じられないくらいの多忙さなのである。

そんな中、「別冊コロコロコミック」の月刊化を記念して、その前年に「宙ぽこ」という作品が連載開始となったのだが、それほど話題にならずにたった3作品で終了してしまっていた。

本作「宙犬トッピ」は、そのリベンジともいうべき作品で、藤子作品の王道たる要素が惜しげもなく投入されていることからも、本作への意欲を感じるところである。

ただし、「宙ポコ」ほどではないにせよ、本作も全6話で終了となってしまう。同じく短期間で終了となった「宙ぽこ」や「ミラ・クル・1」とは異なり、きちんと最終回が描かれている点はせめてもの救いである。


では具体的に本作の概要をまとめておこう。

お話のタイプとしては、異世界キャラクターとの交流を描く「ドラえもん」型なのだが、主人公の少年は自ら道具を作り出すことのできる「キテレツ大百科」タイプとなっている。

すなわち、藤子先生が得意としたパターンの良い所取りのような作品というわけなのである。

主人公はおそらく中学生の少年、卓見コー作。「おそらく」と書いたのは設定がはっきりしないからだが、詰襟の制服を着ているし、小学生とは思えない工作技術を持っているので、中学生と考えて良いだろう。

のび太とキテレツの中間のような風貌で、こちらも良い所取り(?)ということなのだろうか。

性格は、ひとたび発明に熱中してしまうと、部屋に閉じ籠って他のことに目をくれずに集中してしまうタイプで、完全にキテレツと一緒である。


もう一人の主人公であるトッピは、どこかの高度な文明を持った星のペット犬なのだが、第一話の冒頭で、飼い主に地球まで連れてこられて捨てられてしまう。かなり可哀そうなワンちゃんなのである。

ただし犬とは言え、人の言葉を話すこともできるし、進んだ科学技術の知識も豊富で、知能レベルは地球人の遥か上をいく。自ら「ひみつ道具」を作ることはないが、コー作に知恵を授けて作らせる役割を果たすことになる。

つまりトッピは、ドラえもんのようにひみつ道具を与えるだけキャラでもないし、「キテレツ大百科」のコロ助のような主人公を補助するだけの役割でもないのである。

高等動物なのは間違いないが、見た目は完全にただの犬なので、コー作のママにはペットフードを出されてしまい、その点は大いに不満。菜食主義で好物は松茸とタケノコやフルーツだが、ほとんど食べさせてもらっていない。


他の登場キャラクターは、いつもの藤子作品お馴染みの役割が与えられた人々となる。

しずちゃんに対応するヒロインは「青山みどり」で、見た目もしずちゃんに酷似している。コー作との間柄は、キテレツとみよちゃんのような互いに気になる幼馴染みという関係で、少しだけラブなお話も出てくる。

スネ夫に似ているのが「ネズミ」で、ジャイアン似が「カバ口」。ネズミはスネ夫と同じく金持ちの息子で、性格は意地悪。みどりちゃんのことを気にしている様子も見られる。カバ口とは対等か、上位の関係を築いており、初期ドラのスネ夫とジャイアンのような感じ。

カバ口は、名前の通りカバのような口をしている乱暴者。ジャイアンと比べるとかなり印象が薄めなキャラとなっている。


コー作の家族は、ママとパパ。ママはペットがそれほど好きではないとのことだが、しゃべるトッピにビビりながら、コー作のために飼おうとしてくれる。ガミガミ言うだけではない、優しいママのようである。

パパはあまり登場回数も多くないが、友人の借金の連帯保証人となり、あやうく5000万円の借金を押し付けられそうになるお話で、強い印象を残す。


お話としては、毎話トッピの知恵・知識を吸収したコー作が、素晴らしい発明品を作り出すことで転がっていく。この後、全エピソードをかいつまんで紹介しつつ、コー作の発明品についても触れていく。


第一話『飼い主をさがせ』1984年1月号

冒頭でどこかの星の宇宙人に捨てられてしまうトッピ。地球で新しい飼い主を探すことにする。この時「イヌにも選ぶ権利があるもんね」と飼われる権利を口にしている点がユニーク。

一方自作でラジコン飛行機を作ったコー作がテスト運転していると、ネズミの巨大な特注戦闘機ラジコンに衝突させられてしまう。落下したラジコンを探すと、トッピにぶつかっていて、ここで二人は運命的な出会いを果たす。

トッピは前の飼い主の犬嫌いのママの反対で捨てられてたトラウマがあるので、その点をコー作に確認するのだが、犬嫌いのママがいると聞いて残念がる。

コー作はこっそりと庭の離れにある物置を改造した工作室にトッピを連れ込む。そこでトッピから、ラジコン用に「反重力物質」を作ればいいとアドバイスを受け、作り方を伝授してもらう。これが記念すべき第一の発明品となる。

トッピは地球に着いてすぐに日本語をしゃべり、百科事典もスラスラと読める知能を示すが、コー作がそれを不思議がると「説明すると長くなる」と言って答えてくれない。結局最終回まで、知能の高さの理由は明かされないままであった。

反重力を作り出すチップと、それを制御する「重力コントローラー」も制作。それ自体に乗り込めるラジコンを作って空を飛ぶことができるようになる。やはり藤子作品において、「飛行」は基本中の基本の能力であるのだ。

本作では、青山みどりさんが可愛く性格も良く、コー作のことを気にかけていること描かれる。

またコー作が一つのことに熱中しがちな性格を是正する目的で、ママが犬を飼うことを勧められて、これによりトッピを飼うことができるようになる。

扉含めて全24ページで、本作の設定が手際よく語られていき、第二話目以降はすぐに本題に入っていく形となるのである。


第二話『反重力チップで空の旅』1984年2月号

冒頭でトッピの好物がマツタケとタケノコであることが判明する。

本作では反重力チップを身に付けることで自由に空を飛び回ることができるようになる。この技術に目を付けたネズミとカバ口に特許を取って金儲けをしようと迫られるが、トッピの幻を見せる能力によって、二人を脅して断念させる。

この時「地球人は信用ならん、原子力で殺人兵器を作るようなやつらだからな」と、幻の宇宙パトロールに言わせており、藤子先生のお考えがチラリと垣間見ることができる。


第三話『ベツジンボディマスク』1984年3月号

冒頭で角砂糖を加熱する方法でダイヤモンドを作り出す。価値は少なく見積もって5000万円。本作はこの5000万を巡るお話となるのだが、「ドラえもん」ではあり得ないような高額なお金のやりとりが発生しており、本作の読者層が高めであることを示している。

ネズミとカバ口にフランケンシュタインのマスクで脅かされた仕返しとして、「ベツジンボディマスク」という手軽に変身できるスーツを開発する。

このスーツと5000万のダイヤが絡み合うお見事な物語なので、こちら是非読んでもらいたい。


第四話『「タイムグラススコープ」でお花見』1984年4月号

本作では24時間以内の未来を見ることのできる「タイムグラススコープ」を開発する。このアイテムとお花見と、みどりちゃんとの淡い恋話を組み合わせたお話が展開する。

個人的には「宙犬トッピ」6話の中での最高傑作だと考えており、近く個別の記事を作成予定なので、ここでは詳細を割愛する。


第五話『尾荷山伝説』1984年5月号

本作冒頭で、トッピは念願のタケノコ(しかも缶詰ではなく採りたて)を大量に食べることができる。6作の中では唯一好物を食べることのできたシーンとなっている。

本作は時間移動を可能にする「タイム手帳」を使った「タイムマシンで大騒ぎ」なお話。尾荷山というかつて鬼が出たと言う伝説のある山でのハイキングと、タイム手帳が絡み合う見事なお話で、本作も別途記事を書く予定。

また、本作では唯一トッピが自分の星から持ってきたと思われる道具が登場する。「散歩首輪」という、散歩を怠ける飼い主を無理やり散歩に連れて行かせる道具である。


第六話『トッピ、星へ帰る』1984年6月号

本作では「重力コントローラー」と雨を分解する装置を使って「晴れ雲」を作り出す。この道具と、コー作の運動不足解消のためのジョギングの話題と、トッピの帰還に関する話題が絡み合う。

感動的なラストも用意されており、本作もいずれ「最終回特集」にてたっぷりと語る予定である。


さて、以上で「宙犬トッピ」の全体像の解説は終了。6作品しかないが、今回改めて精読して、その完成度の高さに驚いた。発明と日常とキャラクターの魅力という複数のネタを組み合わせた、お見事な短編作品に仕上がっているのである。

強いて言えば、青山みどりちゃんとコー作の今後も見てみたかったとは思う。つまりもっと読みたい作品なのである。

藤子・F・大全集以外だと読む機会の難しい作品なのだが、是非とも多くの方に原作を読んでもらいたい。




この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?