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「ドラえもん」最大の謎キャラ、ガチャ子とは?/考察ドラえもん㉑

突然だが、「ドラえもん」の対象年齢はご存じだろうか?

F先生は、連載していた学年誌の理解度に合わせてストーリーをカスタマイズしていたので、対象年齢は掲載誌によって変わる、が正解かもしれない。ただ、一般的には単行本ではのび太を小学四年生と設定していたと言われている。

実際、ドラえもんが楽しめるのは、小学校低学年よりは、中学年・高学年ではないか思っている。

理由としては、例えばドラえもんの最重要アイテムであるタイムマシンを使って過去・未来を行き来するといった話が、低学年だと理解が難しいだろうという点が挙げられる。

そしてもう一つ重要な理由として、低学年の子供にとって、身の回りの道具自体がひみつ道具のようなものなので、ドラえもんのひみつ道具を求めていないのではないか、ということである。

例えば電動鉛筆削り機があったとして、低学年の子供からすれば、鉛筆の芯がさっと削れる魔法のようなひみつ道具に見えるかもしれない。テレビやネットはもちろん、ラジオですら不思議な道具であると受け止めるかもしれないのだ。

つまり、低学年から幼児においては、ドラえもん(の道具)をそれほど必要としていないという、作品の根幹に関わる問題が横たわっているのだ。

これは、連載を始めてすぐに藤子F先生はその問題に突き当たったと思われる。実際、幼年向け雑誌「幼稚園」「めばえ」の連載は一年と少しで連載を止めてしまう。その後復活するが、それもすぐに連載は終わってしまうのだ。

また、低学年誌に描かれた作品は、そのまま単行本未収録となっているケースが非常に多い。傑作選の色合いが濃い、てんとう虫コミックへは積極的に収録していない。

さらに、低学年向け作品を個別に読んでいくと、お話作りにすごく苦労されている節も垣間見える。

低学年の読者に対してどのような作品を作っていくべきかという試行錯誤があり、その流れの中に今回取り上げていく「ガチャ子」のシリーズがあることを押さえておきたい。


「ドラえもん」の連載が開始されたのが1970年1月号だが、その年の5月に早速ガチャ子という新キャラクターが登場する。

ガチャ子は、全部で5作だけ描かれたアヒル型ロボットのキャラクター(♀)で、この後詳細を見ていくとわかるように、基本的にドタバタした落ち着きのない性格。のび太を助けるというよりは、困らせる方向に物語を牽引してしまう、使い勝手の難しいキャラクターだ。

彼女の登場回は、他のドラえもんとは何か別の作品のようにも思えてくるほどで、要はドラえもんに対してキャラ勝ちしてしまっているのである。そのせいか、F先生は数回使ったのち、見事にガチャ子の存在を消去してしまっているのだ。

ただ、実際に見たことはないが、ドラえもんの最初のTVアニメ化では、ガチャ子もメインのキャラクターとして登場していたらしい。原作から消えた後で、アニメで再登場するという流れはよくわからないが、そこには旧版のアニメの闇を感じてしまう。

いずれにせよ、ガチャ子は初期ドラの設定が固まりきらない頃に登場し、すぐに姿を消し、当然てんとう虫コミックにも収録されないまま、伝説的な幻のキャラクターとして、忘れ去られてしまっていたのである。


それでは、ガチャ子が初めて登場する「小学二年生」と「小学一年生」の1970年5月号を見ていこう。

まずは「小学二年生」の『ロボットのガチャ子』から。

雨男のレッテルを張られたのび太は、明日の遠足には来るなとスネ夫たちに言われてドラえもんに相談する。するとドラえもんは、そんな奴らと遠足なんかに行くな、もっといい所、外国に行こうと言い出し、一人で勝手に旅行の準備を始めてしまう。

雨を何とかして欲しかったのに、行き先を外国にするという無茶苦茶な行動に対して、のび太はセワシ君に助けを求める。するとセワシ君が、ロボットのガチャ子を呼び、「ガース」という鳴き声と共に、未来からやってくる。

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ところがガチャ子は、やってきてすぐに、前の日なのに遠足先のみどり山にのび太を連れて行ってしまうというあわてんぼうぶりを発揮する。夜は、ドラえもんと遠足の行き先について口論を始めてのび太を寝かそうとしないし、翌朝もドラえもんと一緒に寝坊してしまう。

みどり山でも、ガチャ子とドラえもんは、アメリカ行きかかみどり山かでまた口論となり、じゃんけんで決着しようということになってのび太を空から地上に落としてしまう。

終始ガチャ子とドラえもんは喧嘩をしてのび太を困らせるのだが、ここで注目すべきは、ガチャ子の行動の酷さと同等以上にドラえもんの言動もとても浅はかさだということである。アメリカ行きにずっとこだわり続け、雨男問題もガチャ子に解決を委ねてしまって全く役に立っていないのである。

初期のドラえもんは、後のしっかり者のイメージからすると信じられない程大雑把な性格なのだが、ここに同じようなドタバタキャラのガチャ子が加わわり、お話はカオスとなってしまっている。後にF先生が認めるように、ドラえもんとガチャ子の取り合わせは失敗なのであった。

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ちなみに本作で雨男のレッテルをスネ夫に貼られたのび太だったが、1984年2月発表の『雨男はつらいよ』で登場する「雨男晴れ男メーター」によって、マイナス2.5、軽い雨男という数値が出されている。ここではスネ夫の数値も図るのだが、なんとマイナス7。雨男はスネ夫の方なのであった。

さらにちなみにドラえもんはプラス1.5、しずちゃんプラス9、ジャイアンプラス10、のび太のパパがマイナス8.5であった。


続けて「小学一年生」の『ドラえもん対ガチャ子』も、ドラえもんとの対決のお話。「小学二年生」でセワシ君が呼んだのでOKしたのか、こちらの話では普通に部屋に現れて、「あっ、ガチャ子。何しに来たの」と説明もなく、輪に加わってくる。

この話でも、ドラえもんは程度が低く、「2+3は6に決まっている」と答えるなど学力ものび太並み。ガチャ子とドラでどちらが上手にのび太の面倒を見ることができるのか、勝手に対決が始まり、悉くピントの外れた対応を取っていく。あまりの酷さに、最後はのび太はセワシ君に助けを求めている。

本作を読んでいると、初期のドラえもんは、ナンセンスコメディの傑作「オバケのQ太郎」とかなりイメージが似通っていることがわかる。

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残りの登場回をざっと見ていく。
「小学一年生」6月号「きょうりゅうが来た」では、恐竜の本を読んで「本物が見たいなあ」というのび太の発言を真に受けて、ガチャ子は恐竜をタイムマシンでのび太の部屋に連れてきてしまう。恐竜は町へと飛び出しで大騒ぎとなる、まるで「ジュラシック・パーク2」のようなお話であった。

ちなみに「小学三年生」の5月号「恐竜ハンター」では、恐竜を捕まえに過去へと行く話を描いており、恐竜が二カ月連続でテーマとなっている。

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「小学一年生」7月号「まほうのかがみ」では、ガチャ子はのび太のおやつのロールケーキを食べようとして、のび太がドラえもんに助けを呼ぶところから始まる。有益ではなく、無益を通り越して害悪ですらある。

ふえるミラー(らしきもの)を使ってケーキを増やすのだが、ガチャ子はこの鏡を使って、自分を次々分身させていき、部屋中ガチャ子で埋まってしまうという後先考えないオチとなっている。

ここでガチャ子はいったん姿を消す。使えるパターンを数回で使い切ってしまったようにも思える。

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そして四か月後の1970年11月号で再登場するのだが、これが最後の出番となった。タイトルは藤子・F・不二雄大全集では「おかしなでんば」としているが、初出では「クルパーでんぱ」という放送禁止用語レベルの題名であった。そしてそのヤバいタイトルに相応しい(?)ヤバいお話となっている。

この作品は、語るべきところが多いので、記事を分けて執筆する。


ガチャ子についてまとめると、

①低年齢層向けのドラえもんは、お話作りが難しい
②初期のドラえもんはしっかり者とはかけ離れた頼りないキャラであった
③低年齢層向けのアイディアの一つとしてガチャ子を投入したが、思うように話が作れず数話で使用を断念した

ということになるだろうか。


ただ、このような失われたキャラクターが、藤子・F・不二雄大全集で復活して、一読者として楽しむことができたのは喜ばしい限りである。できれば旧ドラアニメもどこかで復活して、動くガチャ子を見てみたいものではある。

次回は、「おかしなでんば」を単独で検証します。


参考文献:
『ロボットのガチャ子』
「小学二年生」1970年5月/藤子・F・不二雄大全集2巻
『ドラえもん対ガチャ子』
「小学一年生」1970年5月/藤子・F・不二雄大全集3巻
『きょうりゅうが来た』
「小学一年生」1970年6月/藤子・F・不二雄大全集3巻
『まほうのかがみ』
「小学一年生」1970年7月/藤子・F・不二雄大全集3巻
『クルパーでんぱ(おかしなでんぱ)』
「小学一年生」1970年11月/藤子・F・不二雄大全集3巻

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