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シャーロック・ホームズに憧れて Fワールドは迷探偵だらけ①

「ドラえもん」
『シャーロック・ホームズセット』

「小学五年生」1974年2月号/大全集2巻

映画やドラマや小説やマンガなどにおいて、人気「ジャンル」というものが存在する。「恋愛」「コメディ」「感動ドラマ」あたりが間口が広い「ジャンル」といえるだろうか。実はこの「ジャンル」について、色々とリサーチをしたことがあるのだが、その時に、老若男女が好む最も幅広い層に受けるジャンルというものがあることを知った。それが「ミステリ」である。

藤子作品は、このミステリジャンルに真っ向から挑戦したような作品はあまりないのだが、「ドラえもん」などの作品の中では、「謎解き」をテーマとした作品は実はかなりの数があって、これが実に面白いものばかり。

そこで今回は、藤子F先生が描いた「迷探偵たち」に焦点を当てて、いくつかの作品を紹介しつつ、そこから見えてくる傾向を掴みたいと思う。


まずは「ドラえもん」の人気ひみつ道具「シャーロック・ホームズ・セット」に関するエピソードから見ていこう。

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『シャーロック・ホームズセット』(1974年2月発表)

冒頭、のび太が歩きながら、珍しく熱心に本を読む耽っている。その本のタイトルは「シャーロックホームズ」。夢中になって歩いていると、路上でやってきたドラえもんと出会う。そして、「面白いんだから」とのび太。

ここで珍しく、作中作の形で名探偵ホームズの推理シーンが描かれる。ホームズは、自分を訪ねた来た男が置き忘れていったパイプから、この持ち主の特徴をズバズバと当てていく。

のび太は、「と、まあこんな調子!」と、ホームズの推理力の素晴らしさを説き、

「要するに注意深く観察することが大事なんだ。そして考える」

と、のび太らしからぬとても良いことを言う。やはり読書は学びに繋がるのだなあと一人納得。


すっかりホームズ気分となって帰宅したのび太だったが、自分のカバンが無いことをママに指摘され、さっきまで遊んでいたしずちゃんの家にあるはず、と誰でもわかる推理をする。

しずちゃんの家に戻ると、何やら大事なものが無くなったらしく、しずちゃんとママが一生懸命に探している。のび太は、「事件だ!ダイヤか何かが盗まれたのだ」と興奮して、自分が推理で解決すると言い出す。ドラえもんは、それは無理だと言うことで「ホームズセット」を取り出す。

ホームズセットは、「手がかりレンズ」「推理ぼう」「レーダステッキ」「ズバリパイプ」の4点セットとなっている。「手がかりレンズ」は、事件の手がかりになるものだけを映すレンズ。「推理ぼう」はつばを弾くと、頭が冴えて推理力が発揮される帽子。「レーダーステッキ」は、犯人のいる方角に倒れてくれる優れもののステッキ。「ズバリパイプ」は、吹くとシャボン玉が現れ、犯人の頭の上で爆発するというパイプだ。


名探偵のび太の推理の始まりである。まず犯行現場であるしずかの部屋に入ると、書類などが散らばっている。「だいぶ散らかしていったな」とアドリブを入れると、「私とママが散らかしたのよ」としずかちゃん。

まず手がかりレンズで部屋を覗き込むが、何も見えない。どうやら犯人は手がかりを残さなかったらしい。部屋は窓に鍵、入り口はドア一か所。しずかちゃんが、友だちからの電話を受けに30分ほど席を外したらしい。その時、遊びに来ていたのび太は、待ちくたびれて帰ってしまっていた。

のび太は推理ぼうのつばを弾く。ピンピンピンと頭が冴えていく。そしてのび太は推理する。

「犯行の時間はしずかちゃんがいなかった30分に限られる。その間に出入りした者はただ一人! つまり犯人は僕以外ありえない!」

「何を言わせるんだ」と、のび太は帽子を脱いで叩きつけるが、ダチョウ倶楽部のコントのようなノリツッコミがバシッと決まる。

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次に「レーダーステッキ」を使うことに。すると、今度ものび太の方向へと倒れる。のび太が慌てて移動すると、倒れたステッキの向きも合わせてのび太方向へと向きを変える。

遂に逃れられなくなったのび太は、しずかちゃんに泣きつく。

「本当!僕ダイヤなんて取らない」

するとしずかちゃんは、「誰がダイヤなんて言った? 無くなったのは学校図書館から借りた「シャーロックホームズ」」だと、言い出す。勝手にダイヤ盗難のように事件を大きくしていたのは、のび太たちであったのだ。そして、本を取っていたのものび太で間違いなかったのである。

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しずかの家をすごすごと出るのび太とドラえもん。今度はドラえもんがホームズセットを身につける。のび太とドラえもんが道で出会ったときには、本はのび太が持っていた。でも一度家に帰った時にはもう手元にはなかった。であれば、その道すがらに手がかりがあるはずである。

ひとまず家までの道を辿って戻る。するとスネ夫とジャイアンがじいさんに怒られている。関係ないと通り過ぎるのび太たち。結局それ以外に何もなく、家へとたどり着いてしまう。

ここで再び「ホームズセット」の出番である。まずステッキを立たせると、どこにも倒れない。つまりまだ本は拾われていない、ということだ。次にレンズを覗き込みながら、再び元来た道を返す二人。すると、先ほどからジャイアンたちに怒っているじいさんが写り込む。どうやら重要な手がかりであるようだ。

聞き込みをすると、じいさん曰く「庭で植木の手入れをしている時、塀越しに石をぶつけられた。飛び出すとジャイアンとスネ夫がいた」と。ジャイアンたちは偶然通りがかっただけだと弁明する。ステッキを倒すドラえもん。スネ夫とジャイアン(とのび太)の方向に倒れて、犯人がはっきりしない。そこで、いよいよ「ズバリパイプ」の出番となる。ていうか、最初からこれを使えば…と思わなくもない。

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プカーと浮かぶシャボン玉。それはなんとのび太を追いかけて、ボカと爆発する。ここでも犯人はのび太なのか? そこで「推理ぼう」で推理すると…。

のび太がドラえもんと出会い、シャーロックホームズの魅力を夢中になって説明していると、その勢いで本を投げ出してしまい、それが庭いじりをしているじいさんの頭に直撃したのである。

無事本を見つけることができたのび太たち。しずかちゃんは、「のび太さんは天才ね!」と大喜び。また頼むわ、と言われるが、「探偵ごっこはもう懲りたよ」というのび太であった。

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本作のポイントは、犯人捜しをしているのび太が犯人だった、という点にある。このパターン、昭和生まれの僕などは「ポートピア殺人事件」のヤスを思い出すが、実は他のF作品の探偵ものの頻出パターンでもあるのだ。意外性のある真犯人を考えた時に、犯人を捜している人物が犯人でした、というのは、手っ取り早く意外性をもたらせてくれる。どうやらF先生はこの意外性が大好きだったのではないかと思われる。

次回でそのあたりをさらに検証していきたい。

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