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「少女」1956年『どろぼうと天使』他2本/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介⑭

光文社から1949年2月から63年3月まで刊行された少女向け月刊誌、その名も「少女」は、藤子F先生の初めての単独連載となった「ゆりかちゃん」(54年12月~)を皮切りに、57年3月くらいまで多くの短編や連載を掲載した雑誌である。

本稿では「藤子F初期作品をぜーんぶ紹介」の第14弾として、「少女」に1956年内に発表された短編3本を一挙に紹介する。

3作とも芯の通った可憐な少女が主人公で、短いページ数ながらも数奇な運命やドラマに巻き込まれるお話である。読者である少女たちの心をドキドキさせたに違いない。

主人公の少女は真っすぐな性格ではあるが、相手役だったり敵役で登場するキャラクターは、二面性を持っていたりして、単純明快な役どころではない。ドラマよりもキャラクター性でサプライズを与えることを意図した3作ではないかと思う。

一作ずつ丁寧に見ていこう。

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『泣きだした王さま』「少女」1956年1月号

5ページ58コマの作品。

主人公は少女ユリア。兄のユリアスと共に隣の町まで買い物に行き、その帰り道に、好戦的なジラゴ王の軍勢が自分たちの町を攻めようとしているところを目撃する。

軍勢の勢いから明日の夕方には町に着いてしまう。兄妹はその前に何とかして食いとめられないか思案する。

その様子を魔法の水晶で伺っていた魔法使いが、作ったばかりの薬を試すチャンスと二人に接近し、ジラゴ軍を追い払う代わりに薬を飲むよう要求していくる。そしてその薬の効用とは、飲むとブタになるというものであった。

二人は断るが、代わりにジラゴ軍に捕まってしまい、自分たちの町まで道案内をさせられることに。二人はわざと迷子になる計画を立てて実行するが、薬を飲ませたい魔女が邪魔してくる。

その後兄が捕まってしまい、ユリアは魔法使いの薬を飲むことを条件に、戦いを止めさせるようお願いする。すると魔法使いは、どんな悪者も心優しくなるという琴の音を聞かせて、ジラゴ王を「わしは悪いやつだ」と反省させて泣かせてしまう。

戦いは終わり、兄も解放される。「約束通りに薬を飲む」とユリアが申し出るが、自分の琴の音を聞いたせいか、魔女も薬を捨てて泣き出してしまい、「あんたたちの勇気と優しさには負けたよ」と言って、魔法の国へと帰っていってしまうのだった。

タイトルとなっている『泣きだした王さま』が、作品の本質とは全く違うことに驚く。本作に限らないが、藤子F作品の作品タイトルについては、あまり凝ったものにならない傾向を感じる。あまりタイトルに頓着していないのだろう。


『どろぼうと天使』「少女」1956年12月号

7ページ80コマの作品。

舞台は湖のホテル。主人公のまりはホテルの女中をしている美人さん。このホテルに二人の天使が降りてくる。目的はこのホテルで死ぬ二人を天国と地獄に連れて行く仕事のためである。

命を落とす一人目はホテルの客である老人で、インテリ風だが実はギャングの親玉である。警官に撃たれ死んだ後、地獄に連れて行かなくてはならない。天使としても嫌な役目である。

もう一人亡くなるのは、主人公のまりである。火事で命を落とし、こちらは天国行きである。まだ少女なので、天使から見ても可哀そうである。

そんな設定でお話が始まり、二人の一晩の数奇な運命が交錯していくサスペンスなストーリーとなっている。

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ホテルの支配人が横暴な男で、自分の悪口を言ったボーイを殴ったり、病気となっている女中仲間のゆみ子に医者を呼んでくれなかったり、悪口を聞いていたまりに寝ずに大量の皿洗いを命じたりする。

夜中にホテルの金庫からお金を盗み出そうとしているギャングの親分は、いい人だと思わせて信用させるために、ゆみ子に医者のプレゼントを贈ったり、まりの皿洗いを手伝ったりする。

それらは悪さのための演技のはずなのだが、金庫破りの現場を見られたまりに対して、手荒なことはせずにそっと金庫の中に閉じ込める。とても完全な悪党には思えない親分さんなのである。

金庫から金を盗み出し車で去っていく親分と子分の男。ところがホテルが火事になってしまい、親分はまりのことが気がかりとなって、引き返そうとする。ところが反発した子分に撃たれて、車から落とされてしまう。

ヨロヨロとホテルに戻り、火事の中に突っ込んでいって、金庫内のまりを救出する。

「許してくれ、わしは本当に悪いやつだった」

とすっかり改心して、自分の命を犠牲にしてまりをホテルの外まで連れ出して、その場で死んでしまう。

予定と異なり、まりは火事から生還し、親分は仲間に撃たれながらも一人の少女を救って絶命する。天使たちはこの親分を天国へと連れて行くことにする。昇天しながら、まりの心配をする親分であった。

本作もタイトルがあまり芯を食っていないが、心優しきギャングに心洗われる一作である。主人公が終始真っすぐな性格で、相手役・敵役が心変わりをしていくという展開は、初期F作品では頻繁にみられるパターンの一つである。


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『えり子のしあわせ』「少女」1957年新年増刊号

7ページ82コマの作品。
作中にコマ数は81コマと書き込まれており、一コマ番号が抜けている。また吹き出しのみでセリフが入っていないコマもある。

主人公は毎度ながら真っすぐな心を持つ女の子、えり子貧乏画家のおじいさんとアパートの屋根裏に住んでいる。かつて捨てられていたところを、おじいさんに拾われて、以後家族のように暮らしてきた。

えり子はある日、京子という女性と見間違えられて豪邸に引き込まれ、きれいな服に着替えさせられる。京子の父親にも間違えられるという瓜二つ具合である。

誤解が解けて京子の部屋に呼ばれると、そこで自分も持っている母親の写真が飾られているのに気がつく。京子のパパは、えり子が小さい頃行方不明となった京子の姉ではないかと思い、えり子が持っているという写真を見せて欲しいと頼むのだった。

夢見心地で帰宅するえり子。家では待ちかねたおじいさんが「えり子が去ってしまう夢を見た」と言って抱きついてくる。その姿を見て、えり子は自分の本当の家族を見つけたかも、という話を切り出すことはできない。

血縁はないが家族同然に過ごした者への愛情と葛藤というテーマが浮き彫りとなるが、これは初期短編の「ライオンとこじか」にも通じていよう。

おじいさんを思い、実の家族の元へは戻らないと決めるえり子。パパと京子が家を探し当てて、おじいさんにも事情を全部説明するのだが、その上でもえり子は「おじいさんと一緒に暮らすのが幸せ」だと言い張る。

えり子は家の中でしばらく一人で考える時間が与えられる。

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その間、外に出ていたおじいさんも葛藤していた。優しいえり子は身寄りのない自分のことを気にかけてくれる。しかしそれは彼女にとって正しい選択ではない。

そこへ、かつて美術学校の生徒だったと思われる青年とばったり出くわす。立派な青年の姿をみて、一芝居を打ってくれるようお願いする。それは、偶然に自分の行方不明の息子が帰ってきたので、これからは息子の元で暮らすと言って家を出て行くというお芝居であった。

えり子は自分を心配させまいとするおじいさんのウソであることをすぐに見抜き、後を追うがもう姿は見えない。泣いているところをパパと京子に声を掛けられて、説得に折れて車に乗り込む。

その様子を陰から見ていたおじいさんは、「これでいいんだ」と呟く。青年が自分の家に来るよう誘うが、それもきっぱりと断ってしまう。「一人でも立派に生き抜いてみせるよ」と宣言して、トボトボと雪の町へと消えていくおじいさんなのであった。

ストーリーを書き終わって、再度「ライオンとこじか」に似ていることを実感する。是非、気になる方はこちらの記事も読んでみてください。


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