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美術品を心から愛する男『千面相とペカソ』/新パーマンVS怪人千面相②

パーマン最大のライバル怪人(怪盗)千面相。名前の通り変装の名人で、わざわざ犯行予告を出して美術品を盗み出そうとするプライドの高い男である。

パーマンたちは「旧パーマン」の頃から幾度も挑戦を受けて、そのたびに何とか負かしてきた。特に「新パーマン」の初登場となる『怪人千面相と黄金像』では、パーやんとの出し抜き合戦が見応えのあるものだった。

その記事はこちら・・。


本作では、千面相がリベンジとばかりに、新たな犯行予告を書いた挑戦状をパーマンに送りつけてくる。見所は、前回に引き続き、千面相の神出鬼没な変装テクニックや、千面相に真っ向知能で対抗するパーやんの攻防となろう。さらに、なぜ千面相の意外な(?)一面も見ることのできる作品となっている。


『千面相とペカソ』
「てれびくん」1983年12月号/大全集7巻

本作はいきなり本題から入る。怪人千面相からパーマン宛てに、平浜美術館が所蔵するペカソの「マドンナ」を今夜十二時までに盗み出すという犯行予告の書かれた手紙が届く。

「マドンナ」は、ペカソの中でも傑作と言われる何億円もの価値のある名画ということだが、パッと見、「ピカソ」を少々劣化させたような抽象画である。

美術館の警備は厳重で、夜になると特殊合金のシャッターで完全に閉ざされる特別室に置かれている。室内には防犯ベルが設置され、絵の額縁自体が金庫になって壁に埋め込まれている。ガラスは防弾ガラスになっており、壁を壊さないと取り出せない。

この厳重な設備を見聞きして、「いくら千面相でも手が出ないかも」と、パーマン、パー子、ブービーは安堵する。すると、遅れた現れたパーやんが、「その考えは甘い」と指摘する。そして、

「千面相は魔法使いや。やると言ったらやる男や」

と、パーやんにしては少し気合いが入った違和感のある物言いをする。


パーやんに強めに注意されて「すんまへん・・」と関西弁で反省するパーマンたち。そんなパーやんには、妙案があるらしい。それは、

・千面相は「12時までに」と言っている
・それまで千面相の手の届かない場所に置いておけばいい
・パーマン1、2、3号で絵を預かって空を飛べばいい

なるほど、美術館の警備をかいくぐれても、パーマンが空で守ってしまえば手を出せない。グッドアイディアである。

なお、パーやんは千面相と対決するために、ピカソの部屋で待ち伏せするつもりだという。


パーマンたちが館長から「マドンナ」を預かる。すると美術館のスタッフが駆け込んでくる。なんと大型ブルトーザーが特別室の外壁に向かって突き進んでくるという。

先ほど館長が壁を壊さないと取り出せないと言っていたが、まさしく千面相がその手段を取ろうとしているのだ。そうはさせるかと、絵は館長に任せてパーマンたちは現場へと向かう。


ブルトーザーは外壁に迫ってくるが、パーマンたちが間一髪横転させる。ところが、その中は無人・・・。一方、千面相を待ち受けていたパーやんは、急に「ムハハハ・・・」と笑いだし、マスクを取ると千面相が現れる。

前回の『怪人千面相と黄金像』ではブービーに扮装していたが、今回は宿敵でもあるパーやんの姿を変えていたのである。そして千面相は、館長を殴って気絶させ、まんまとペカソの絵を奪取してしまうのである。


さて、本物のパーやんは一体どこにいるのか。パーやんは本来の受け持ちである大阪で事件があり、そのために集合が遅れていたのである。パーやんが美術館近くまで飛んできた時には、すでに警察車などが物々しく道路封鎖をし、「変装に気をつけろ」と掛け声が飛び交っている。

パーやんはパーマンと合流し、何の騒ぎが尋ねると、有無を言わさずにパーマンが顔に掴みかかってくる。パーマンからしてみると、本物のパーやんなのか千面相なのか確かめたかったのである。


パーやんはペカソが千面相に奪われたことを聞くと、「それはそれは」と妙に落ち着いた反応を見せる。そして「ほなら、その平浜美術館に行きまひょか」と言い出す。とっくに逃げ出しているとパー子は反論すると、ここでパーやんの頭脳が開陳される。

「これだけの事件なら、すぐ非常線が張られるくらい、千面相にはわかってますやろ。さしあたりどこかに隠れて、警戒が緩んだ頃逃げるつもりに違いない。手近な隠れ場所と言えば、美術館の中」

見事な推理である。こう考えると、ヒーローに必要なのはスーパーパワーだけではないんだなあと思わせる。


パーマンたち4人は美術館にとんぼ返りし、天井裏から床下まで徹底的に探すことに。しばらく捜索すると、隠し部屋のような場所で千面相を発見する。パーやんの推察は見事に正解だったようだ。

ところがパーマンが捕まえようとすると、「待て」と千面相。彼の手には劇薬の入った瓶があり、この薬を掛けると絵は一瞬で黒焦げになると脅してくる。

パーマンが手も足も出せないのをいいことに、千面相は30分以内に逃走用のヘリコプターを用意しろと要求してくる。すると、パーやんがすっと千面相の目の前に降り立つ。「近寄ると名画が台無しになる」とパーマンたちは、千面相に接近するパーやんを注意する。


ここでパーやんは意外にも、「やってもらおうやないか」と千面相を挑発する。これには、「何!?」と驚く千面相。そこでパーやんは、千面相の心の内を見事に読んだ説得を始める。

「君にはそんなことできまへん。なぜなら心の底から美術品が好きやから。偉大な芸術を尊敬する男やから。名画を傷つけるなんて、とても・・・」

パーやんはズンズンと千面相に近づいていき、劇薬を持った腕を掴む。千面相はがっくりと膝を落とし「吾輩の負けだ!!」と降参の意を示す。

千面相は、前回の『怪人千面相と黄金像』で、パーやんの実家である金福寺に、パーやんたちも知り得なかった国宝級の黄金像が眠っていることを調べ尽くしていた。

パーやんはこの時、わざわざ誰も知らないお宝を世に出そうとする千面相を見て、芸術品を愛する男だと見破っていたのかもしれない。いずれにせよ、千面相の心理を突いた、見事な対応であった。


さて、本件は解決したが、思わぬ副産物を残してしまう。それは、パーマンたちが、それぞれ千面相の変装じゃないかと疑心暗鬼になってしまったということだ。実際にブービーとパーやんに扮しているので、今後パーマンやパー子に化ける可能性は十分にあり得る。

まあ、空を飛んでいればさすがに千面相ではないことは分かりそうなものだが・・・。


さて、千面相は本作の行動を見ていても、案外いいやつではないかと思わせるものがある。旧パーマンの頃からも、どこか憎めないキャラクターではあった。

そんな千面相の良い人柄がわかるエピソードがあるので、次稿でそれを追ってみたい。


「パーマン」考察中。


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