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高畑の夢は消える『友情はクシャミで消えた』/考察エスパー魔美④

noteでは、「考察エスパー魔美」として、設定が固まっていく第1話から第3話までをじっくりと検証してきた。宜しければ以下のリンクからお目通し願いたい。

第1話:「エスパーはだれ?」

今回は第5話『友情がクシャミで消えた』を考察するが、本作で初回からの伏線は全て回収し、いわゆる「設定回」はこれで終了となる。

先にこの回のポイントを列挙すると…

①瞬間移動(テレポーテーション)に次いで、重要な第二の超能力、念動(テレキネシス)が発動
②魔美を誘い続ける男、富山くんの部屋の中が公開!
③新たな伏線・陰木さん初登場
④高畑は自分がエスパーでないことを知り、魔美との友情も決裂!?

こうして並べると、本作もかなりの重要な回ということがわかる。


タイトル通り、魔美の大きなクシャミから物語は始まる。ママがこの日はお休みで、風邪薬を飲みなさい、あと宿題もやりなさい、と小言を言われる。渋々部屋に戻って机に向かうが、またクシャミをしてハナを垂らす。思わずティッシュ、と口にすると、ティッシュの入った箱が魔美の手元へと飛んでくる。

テレキネシスの能力がいきなり開花したのである。その後、鉛筆・ノートも飛んでこさせるが、重い電気スタンドは思うように動かせない。そして筆箱を飛ばした時、またしてもクシャミをすると、筆箱からパカッと中身が飛び出してしまう。

これは一体どういうことなのか? 魔美は、またしても高畑の頭脳を頼ることにする。ママの目を盗んで二階からロープで降りて抜け出すというエスパーあるまじき行動を取る。本当はテレポートしたいところなのだが、テレポートの種であるコンポコが、隣の家のスピッツの所へ行ってしまっているからだ。

ママに黙って出ていった魔美、隣家の犬とベタベタするコンポコ。これらは、物語後半への重要な伏線となっているので注目しておきたい。

魔美は高畑に超能力のことで聞きたいと家に上がるが、高畑はすっかり超能力に飽きている様子。というのも、魔美がいないと超能力がうまく発動しないからだ。魔美はこれまでは、早く自分がエスパーだと言わなくてはと思っていたはずだが、本作ではそういうことを忘れて、自分がいるから実験のチャンスだと高畑を急き立てる。

強引に高畑にテレキネシスをするように勧める。無理だという高畑に対して、本を飛ばして、高畑のやる気に火を付ける。高畑は気をよくして、色々なものを動かしてテレキネシスの実験を行う。そして浮かせた椅子がクシャミとともにバラバラになるのを見て、これはどういうことのなのか、高畑は考え出す。

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熱心に思考する高畑を見て、魔美は

「今、彼の天才的頭脳は、目まぐるしく回転しているのだわ。何かを真剣に考えこんでいるときの高畑さんて素敵!!」

前回の稿で高畑のラブストーリーではないと明言したが、まだ可能性があったりするのだろうか?

高畑が出した答えはこうだ。

物体を一つの方向に移動させるのが「テレキネシス」
移動の時間をゼロにすれば「テレポーテーション」
同時に多方向の力が働ければ「念分裂」
クシャミをすれば、思考が乱れて念分裂が起こる。

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いよいよエスパーとしての力、展望が見えてきた。高畑は喜んで、祝杯を挙げようと言い出す。

高畑は言う。

「ずーっと空想し続けてきたんだよ。もし僕が超能力を持てたらって。きっと何かができると思うんだ。社会のために役立つようなことが!」

正義感溢れる高畑の性格が良く表れているように思う。

魔美は、このタイミングで自分がエスパーだと打ち明けなければならなかったのかもしれない。けれど、お手伝いするわ、と深く考えずに相槌を打ってしまう。

そこに、魔美のクシャミ。垂れる鼻水。いや~んティッシュと、声を出し、遠くのティッシュ箱からティッシュ一枚を飛んでこさせ、そのまま手を使わず鼻をかんで、ゴミ箱へ。

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高畑は、この一連の動きで全てを理解する。

「こんな簡単なことにも気づかずすっかりいい気になって。僕はなんてバカなんだ!」

高畑は自らを殴って言う。

「帰ってくれないか。僕はね、ウソが嫌いなんだ。ウソをつくのもつかれるのも」

積み上げてきた友情がクシャミで壊れる瞬間である。

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魔美は騙す気はなかったと弁解し、高畑はそれは理解しつつも、自分のうかつさが許せない。当分、魔美とは会いたくないという決別宣言をする。

魔美は、あなたに助けて欲しい、と申し出るが、高畑は投げやりに答える。「平凡な普通の人間がエスパーを助けるなんてありっこない」と。すっかり、魔美と距離を置こうとする高畑なのである。


別れた魔美は、偶然のテレポーテーションによって、第一話から魔美を誘っていた富山くん(今回初めて名前が判明)の家に飛んでしまう。富山はレコードコレクションを魔美に聞かせたくて仕方が無かったのである。魔美は矢野顕子をリクエストするが、富山はニューミュージックは嫌いということで、ベートーベンの「田園」を聴くことに。そして、魔美はやがて、寝てしまう・・。

一方の高畑は、第二話で魔美とポーカー対決をした妙子が遊びに誘いに来て、公園へとデートに行く。でも、堅苦しい話題しか出せない高畑に、妙子は言う。「あの子のことで頭がいっぱいなんでしょ、佐倉魔美」

顔を真っ赤にして否定する高畑だが、妙子は「あんたって絶対に嘘をつけない人なんだ!」と完全に見破られているのである。


魔美は、富山の家で深く寝てしまい、慌てて家へと帰るのだが、家の中は誰もいない。そこへ隣人の陰木さんがコンポコを連れて登場(まだこの時点では名前はない)。雑種のコンポコをメリーちゃんに今後近づけないで欲しいと言う。奇怪な子が生まれることを想像して身の毛もよだつとかなり失礼なことまで添えて。

この陰木さんとのやり取りは、しばらくの間続くのだが、いずれ陰木さんのエピソードだけを抜き出して考察する予定である。


魔美のパパとママは、いつの間にか居なくなって帰ってこない魔美を心配して、外を捜し歩いていたのだった。どこへ行っていたか問い詰められた魔美は、高畑くんのところへ宿題を聞きに行っていたと嘘をつく。

魔美のママは魔美の言うことが信用できず、高畑の家に裏どりの電話をしてしまう。魔美くんがそういうんですか、と電話口の高畑。

絶体絶命のピンチに、高畑は言づける。本当だと。僕にできることがあったら、いつでも力になる、と。

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ウソが嫌いでウソをつけない高畑が、魔美のために初めてウソをついたのだった。喜びのあまりテレキネシスで自らを浮かべる魔美。

ハクション。派手なクシャミとともに、ビリビリとなる魔美の衣服。念分裂が発動してしまったのである。

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本作は、テレキネシスを登場させて、高畑にその仕組みを解説させた上で、自分がエスパーではないことを気付かせるという組み立てとなっている。そこに「ウソ」と「クシヤミ」というキーワードを配して、さらに念分裂という、ほとんど今回しか使わないような超能力も導入して、非常に多層的なストーリーを構築している。

第一話からの伏線を回収し、高畑との新しい関係を構築させている。また、陰木さんという新たな火種も仕込んでいる。相変わらず、凄い情報量を短い分量の中に仕込んでしまうという、F先生の短編能力の高さをまざまざと見せつけられる、そういう一本ではないかと思う。

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