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またまたドラえもんの原点みっけ!「ベレーのしんちゃん」/ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品⑩

「ベレーのしんちゃん」
「ディズニーランド」1965年3月~1966年8月号(全18話)

本作が連載されていた期間は、ちょうど「オバケのQ太郎」が大ブレイクして、「週刊少年サンデー」や各種学年学習誌等、最大12誌で連載をしていた時期となる。

そんな忙しさの最盛期に、なぜ本作を書いたのだろうか。勝手な想像だが、藤子先生がオバQでやれていないことを描きたい思ったからではないかと考えている。


「オバケのQ太郎」は、ご存じの通り、Qちゃんやドロンパなど、オバケのキャラクターが織りなすナンセンスコメディの色合いが強い作品だった。

藤本先生だけでなく、安孫子先生も得意としていた、異界から人間世界にやってきたキャラクターが、毎回騒動を起こすというパターンである。言い換えれば、キャラクターを起点としたドタバタコメディである。

一方で「SF=少し不思議」な作品を得意とする藤本先生は、キャラクターではなく、何か不思議な道具が日常に持ち込まれ、それが騒動を引き起こすというパターンを好む傾向にある。ひみつ道具起点のコメディである。


毎月10本以上もキャラクター起点の物語を考え続けた藤子先生は、ある種の息抜きとして、別の得意パターンの作品を描きたいということで、「ベレーのしんちゃん」を執筆することにしたのではないだろうか。


さて、「ひみつ道具起点の物語」と言っても、実はこちらも大きく2つのパターンが存在する。一つは異能力者が持ち込んできた道具を与えられるパターン、もう一つが自ら作り出してしまうパターンである。

前者の代表例が「ドラえもん」「ウメ星デンカ」であり、後者が「キテレツ大百科」「てぶくろてっちゃん」である。


では、「ベレーのしんちゃん」はどちらのパターンなのか。

ぱっと見、父親が不思議な道具を毎回作っているので、「自ら作り出すパターン」と言えそうである。けれども、主人公のしんちゃんは、パパが作った道具を使って毎回いたずらをしており、キャラクターとしてはのび太に近い。つまり「ドラえもん」型のパターン作品と考えても良さそうである。

元々、作り出すか、与えられるかで区別するのが間違っているのかもしれないが、本作の構造は「ドラえもん」であり「キテレツ大百科」でもあるという、藤子先生らしさが全開のお話を言えるように思う。


それでは長い前置きで恐縮だったが、「ベレーのしんちゃん」がどんな作品なのか、もう少し詳しく解説しておこう。

本作は「ディズニーランド」という講談社から発刊していた雑誌で、全18回に渡って連載された。「ディズニーランド」では、本作の連載後、「てぶくろてっちゃん」が4話だけ掲載されている。

ちなみに、「ディズニーランド」の「てぶくろてっちゃん」は、講談社の学年学習誌に連載していた作品と同名タイトルだが、登場人物がなぜか異なっている。


登場人物について。

主人公はタイトル通り、いつもベレー帽を被っている少年・しんちゃんである。作中に本名が出てくる場面は確認できなかった。前述したが、彼は父親の作ったひみつ道具を借りて、騒動を起こすのび太タイプの男の子である。(のび太ほど愚かではないが・・)

しんちゃんのパパが、毎話不思議な道具を発明する重要人物なのだが、名前は出てこない。「ドラえもん」におけるドラえもん役のキャラクターだが、どこか間が抜けていて、のんびりとした雰囲気を醸す。

家族には他にママがいて、少し口うるさい性格のようである。

連載の終盤になって、しんちゃんとパパのライバルが登場してくる。こんの博士という男で、しんちゃんのパパの同級生で、小学生の頃から何かと喧嘩を吹っ掛けてきていたらしい。

こんの博士の息子は、何かとしんちゃんにちょっかいを出してくる役柄で、見た目はスネ夫やキザオに似ている。名前はずるお。絶対に我が子に命名しない名前の持ち主である。



それでは全18回において、どんなひみつ道具が出てくるのかを簡単に紹介していこう。後の「ドラえもん」に出てくる超有名なひみつ道具の原点となるものも登場してくるので、ご注目いただきたい。


「ロボライト」1965年3月号

記念すべき第一話。扉絵では「かがくコミック」と銘打たれている。この表記は途中で消え、後に「かがくまんが」という名称に変更されている。いずれにせよ、「科学」をテーマと位置付けているようである。

本作でパパが作ったのは、光を当てると何でも動くようになる「ロボライト」。バットとグローブに当てれば一人でに野球を始めたり、ラジコンに当てれば勝手に空を飛ぶ。

本作の時点で、パパが道具を作る → しんちゃんが勝手につかっていたずらする という流れを作り上げている。


「おてがら」1965年4月号

本作では一本目から少しパターンを変えて、パパが動物のロボットを作ろうと試行錯誤しているうちに、しんちゃんがパパが見捨てた部品を集めて、オットセイロボットを作りあげてしまう、という「お手柄」話である。

本作ではパパは、少し頼りないキャラとして描かれており、「パパは天才」などにも近い感じ。


「ふんわりガス」1965年5月号

名前の通りガスを掛けると人や物が浮かぶという道具をパパが発明する。ドラえもんでは「ふわふわぐすり」という錠剤薬が出てきたが、少し似ている。

いたずらっ子のしんちゃんは、ガスを使って家具を浮かしたり、家ごと空に飛ばそうとしたりする。


「まっすぐき」1965年6月号

腰をのびる機械を作ってくれという老人のオーダーに従って、ママのアイロンから着想を得た「まっすぐき」を完成させる。しんちゃんは、だったら最初からまっすぐなものを「まっすぐき」に入れたらどうなるか、試してみることに・・・。


「ことばで動く車」1965年7月号

本作からは、初出掲載誌にはサブタイトルが出てこないのだが、大全集において付けられたものを書いていく。

タイトル通りにマイクに向かって話すと、その通りに動いてくれる究極の自動車をパパが作り上げる。免許のないパパだが、これさえあればドライブができる。さっそくしんちゃんを乗せて町へと走り出す・・。

指示を出せば、水の上や、屋根の上を跳ねて進むことも可能。そんな自動車に、しんちゃんは「アメリカに行きたい」と吹き込んでしまう・・・。


「00かばん」1965年8月号

「00かばん」という背負っている人の言うことを聞いてくれるという万能なリュックのお話。「00かばん」という名前の由来は、スパイグッズのギミックが魅力的だった「007」から取られているのではないかと考えている。

いじめっ子を振り払ったり、泥棒と対決して空を飛んだりと、しんちゃんの活劇が見られる一作である。


「大きくなる機械」1965年9月号

小さい口にモノを入れると大きな口から、大きくなって出てくる。逆に大きい口に入れると、小さくなって出てくる。そんな機械に、しんちゃんは自ら入ってしまい、小型化。

小さくなったしんちゃんは、おもちゃの車で運転したり、ネズミと対決したり、大きなケーキを食べたりと、「のび太の宇宙小戦争」に代表される「ドラえもん」のスモールライトを使った原点のような作品になっている。


「ロボット=ポスト」1965年10月号

切手狙いの手紙泥棒を捕まえるべく、ポストの形をしたロボットを作るパパ。泥棒逮捕の瞬間を見たいということで、ゴムのポストの着ぐるみ?を着て、しんちゃんは現場へと向かう・・。


「わかがえり機械」1965年11月号

30分だけ若返ることのできる「ワカクナール=マシン」を作ったパパ。パパはこの機械で少年になり、しんちゃんは赤ちゃんへと姿を変える。若返るのだが、知能や運動能力は元のままというところがポイント。


「本物になる機械」1965年12月号

想像したものが飛び出してくるという、かなりチートなアイテムが登場。後先考えないタイプのしんちゃんは、西部劇が見たいと想像してガンマンを出してみたり、海のことを考えて大量の海水を出したりする。

そして、藤子作品の定番である、恐竜も登場。「隙あらば恐竜」が合言葉の藤子F先生らしい展開である。


「近道ドア」1966年1月号

タイトルからも想像できるように、本作でパパが作ったのは「どこでもドア」と全く同じ機能を持った「近道ドア」である。全作品を網羅できている自信はないが、「どこでもドア」っぽいものが初めて登場したお話かもしれない。

「近道ドア」を使って、いなかのおじさんの家に行ったり、アメリカやアフリカにも行ったりする。アフリカではライオンに追いかけられ、ドアをくぐって動物園の檻の中へと誘き入れることに成功する。


「プラボール」1966年2月号

プラボールという体を包み込んでくれるという風船のようなものを作り出すパパ。プラボールの中にいれば、水も平気だし、殴られても痛くない。ただし、熱の弱いという弱点があって・・・。

本作では一回限りのガールフレンド、ちゃこちゃんが登場する。


「ロボットつみき」1966年3月号

組み立てるとロボットのように動き出す、ロボットつみき。この積み木でヘビを作ってパパを縛り上げ、しんちゃんは家来のロボットを勝手に作る。すると、そのロボットつみきが、暴れ出す・・。


「モグ1号」1966年4月号

本作で、ライバルとなるこんの博士と息子のずるおが初登場。パパが作った万能乗り物の「モグ1号」に乗ってドライブしていると、こんの博士とずるおの乗ったクラブ三号というカニをモチーフにした乗り物に襲われる。

一度は劣勢に立たされるが、地面を潜って逆襲して返り討ちに合わせる。しかし、ライバルこんの博士は、そんなことでは諦めきれず・・・。


「こいのぼりのヘリコプター」1966年5月号

本作でもこんの博士とずるおが登場。しんちゃんが、こいのぼりのヘリコプターに乗って空の散歩をしていると、羨ましく感じたずるおがこんの博士に同じものをリクエスト。

しかしこんの博士はこいのぼりの中に風船を詰め込み、扇風機を渡して使って空を行き来する道具を作り出す・・。


「空とぶテント」1966年6月号

どこでもキャンプできる「空とぶテント」を使って、野球場へ。そこでずるおと、ひみつ道具(リモコンボール、リモコンバッドなど)を駆使した野球対決となる。空とぶテントがあまり活躍しないお話であった。


「水中おしゃぶり」1966年7月号

水の中に入っても呼吸できる「水中おしゃぶり」を咥えて、海底に沈んだ宝船を探しにいく、しんちゃんとパパ。宝を見つけ出すのだが、後を追ってきたずるお親子に、そのお宝を奪われてしまう・・。


「スピードリング」1966年8月号

時間の流れを加速させる「スピードリング」を使って、宿題をあっという間に終わらせるしんちゃん。走っても凄いスピードが出るため、それをみたずるおが、リングを欲しがる。

電柱にぶつかって気絶した隙にリングを奪われてしまうが、リングを使い過ぎたずるおは、よぼよぼの老人の姿になってしまう・・。似たようなお話が、「ウメ星デンカ」にあった。


本作を改めて精読し、「ドラえもん」要素をダイレクトに詰め込んだ作品であることがよくわかった。この作品を、超多忙な「オバQ」ブームの中で、ある種の箸休め的に、楽しく描いていた先生の様子が目に浮かぶ。そんな作品である。


マイナー作品も全部解説!


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