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見た目完全に猫、されどスーパー宇宙人「スーパー=キャッティ」/藤子F初期絵物語①

藤子Fノートは、「藤子・F・不二雄大全集」で読むことのできる作品を全て記事にすることを大目標に掲げている。我ながら無謀な計画である・・。

その中では「ドラえもん」などの良く知られた作品だけではなく、一般的に未知の作品、例えばキャリア初期に描かれた短編なども対象している。

僕自身、大全集で初めて存在を知った作品、読むことのできた作品が多く、偉そうに解説できる立場にはないのだが、これらを読んだ感想や考えたことをきちんと記録しておくことが大事だと考えている。

こうした考えのもと、これまで「藤子F初期作品をぜーんぶ紹介」、「ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品」、「初期SFヒーロー漫画」といったシリーズに区切って、あまり知られていない作品を積極的に記事化してきた。

本稿では、上に加えた新シリーズとして「藤子F初期絵物語」シリーズを立ち上げたい。


藤子先生が、短編や短めの連載を中心に作家活動をしていた20代の頃、「絵物語」というジャンルで作品を多数発表している。絵物語とは、藤子先生とは別の方が書いた文章に、藤子先生が挿絵を付けていく構成の作品となっている。

絵物語は、安孫子先生との合作につき大全集に収録されていない作品を含めると、全部で10作品以上描かれている。文章は、久米みのる(穣)先生が最も多いが、江戸川乱歩が執筆した「怪人二十面相」もある。

このシリーズでは、大全集に収録されている4作品を取り上げる予定。本稿ではまず、「スーパー=キャッティ」という作品を見ていきたい。



「スーパー=キャッティ」
「たのしい三年生」1959年4月号~1960年3月号
「たのしい四年生」1960年4月号~5月号

「たのしい三年生」「たのしい四年生」は、講談社が小学館の学年別学習誌に対抗して発刊された雑誌群。藤子先生は最初は講談社との繋がりが強く、20代後半くらいまでの主戦場であった。

特に「たのしい三年生」では、
1957年9月号~「タップタップのぼうけん」
1958年4月号~「タトルくんのぼうけん」
と絵物語の連載があって、その次に描いたのが本作なのである。

ちなみに「スーパー=キャッティ」に次には「名犬ラッシー」、その次が「かけろセントール」と続いており、藤子先生の主戦場ぶりが確認できる。(その直後廃刊してしまうが・・)


ここで「文」を担当された久米みのる(穣)先生についても一言添えておきたい。

久米みのるは藤子不二雄ファンの間では有名な作家で、多くの絵物語の文章を担当したり、漫画原作を書いている。

本業としては、海外児童文学の翻訳・翻案をメインに活動され、単発ものだけでなく、モーリス・ブラウンの怪盗ルパンや、コナン・ドイルの名探偵ホームズなどのシリーズものも得意としてきた。

「スーパー=キャッティ」は、宇宙からやってきたスーパー猫ちゃんと少年少女の冒険を描くお話で、続きが気になる構成や思わず笑ってしまうユーモアが特徴的。藤子F先生のカワイイ絵柄タッチとの相性が抜群なのである。


「スーパー=キャッティ」は全部で14回連載された。お話としては全5話で、一本のお話を2~3回に分けて掲載している。その後の「ロケットけんちゃん」などの「初期SFヒーロー漫画」に通じる連載形態である。

全5話のタイトルを並べておくと・・・

『キャッティ登場』1959年4~6月号
『海賊ドラゴン博士』1959年7~9月号
『スポーツ星からの使者』1959年10月~12月号
『スーパー勉強機』1960年1月~3月号
『ブラック=キャッティ現る』1960年4月~5月号

本稿では、第一話となる『キャッティ登場』を詳しく見ていき、「スーパー=キャッティ」の概略や、その魅力について大いに語りたい。


『キャッティ登場』
「たのしい三年生」1959年4~6月号

主人公は、春男とよし子の仲の良い兄妹(多分)、そして二人がたまたま拾った猫で、実は遠い星で生まれたというスーパー=キャッティである。多分兄妹だと書いたのは、春男が兄でよし子が妹といった明示がないからである。

キャッティは人間の言葉が話せるだけでなく、空も飛べるし、透視などの超能力も使える。まさしくスーパーなキャット。ただ、完璧な生物という訳ではなく、おっちょこちょいな面もあったりして、少し抜けたヒーローなのである。


第一回では、まず兄妹とキャッティの出会いが描かれる。

二人がカワイイと思って野原で拾ってきた猫が、熱々のシチューを平然と飲んだことから、猫舌ではないからと、おばあさんから化け猫呼ばわりされてしまう。

獣医さんに相談に行こうと二人で出掛けると、よし子が車に轢かれそうになってしまう。そのピンチを救ったのが、拾った猫。猫は突如人間の言葉を喋り出し、自分はスーパー=キャッティだと名乗る。

拾った犬(イチ)が急に喋り出す「のび太の大魔境」を彷彿とさせる流れである。

さらにキャッティが車のトランクを透視すると、何とどこかの国の王女が閉じ込められていることが発覚する。たまたま遭遇した車をたまたま透視したら王女が捕まっているとは、凄まじい偶然である。

王女を乗せた自動車が走り去ってしまったので、キャッティは壊れた車を見つけて修理して、後を追う。追うと言っても、キャッティが車を後ろから押すのであるが・・・。

ところでこの部分、文章ではいつの間にか壊れた車が修理されてしまうが、そこを藤子先生が絵で補足している。文と画の見事なコラボレーションが、そこかしこに見られるのが、本作の最大の特徴である。


その後キャッティの活躍で王女の奪還に成功、悪者たちは警察に突き出して、王女は春男とよし子の家に連れていく。この時、王女も一緒に警察に匿ってもらえば良かったのでは・・・と思ったりするのは無粋である。

王女から自分を誘拐したのは「よくばり博士」という欲張りな悪者で、王女のダイヤの首飾りを狙っていることを聞く。ここでやはり警察に通報すれば良かったのだが、「大丈夫だよ僕たちが守っていてあげる」と家に置くことに。

いつ悪者が襲ってくるとも限らないが、キャッティは眠くなったので少し寝ると言い出す。何かあればすぐに起こしてくれと告げて・・・。

ところが、その二時間後、窓ガラスが割れて、ゾウの鼻が伸びてくる、王女の体に巻きつき、そのまま外へと引っ張り出そうとする。春男がキャッティを起こそうと髭を引っこ抜くのだが、全く反応しない。

・・・と、ここで次号へ続くとなって、初回が終了する。ここまで9ページ、20章立てで、絵が表紙プラス26カットといった具合である。


続く第二回では、結局キャッティが目を覚まさぬまま王女が攫われてしまい、春男と「この怠け猫め」とちょっとしたいざこざとなる。キャッティは、案外マイペースなのである。

王女を捕まえたゾウの鼻のような装置をつけた円盤型の自動車を、春男たちが追いかける。かなり迫るのだが、よくばり博士に乾物屋の鰹節をブンブンと投げられて、キャッティはそれに飛びついてしまう。

キャッティは、宇宙から来たヒーローではあるが、かつお節が大好物な猫であることには変わりがないようである。このように、キャッティは何かと間が抜けている点が、ユニークなのである。


キャッティの犬のような効きのいい鼻で、よくばり博士を追い、山のてっぺんの隠れ家を見つけ出す。すったもんだあって、潜入することができたのだが、食いしん坊のキャッティとそれに釣られた春男が、ご馳走の詰まった冷蔵庫の中に入ってしまい、まんまと閉じ込められてしまう。

よくばり博士の罠にハマった春男とキャッティ。一人用心深かったよし子が身を隠すと、博士たちがやってきて、冷蔵庫の温度を南極並に下げると言い出す。

大ピンチの中、これまた次回へ続く。第二話は、扉を入れて10ページ、22章立てで、絵のカットは27カットと表紙。大体一話目と同じ分量であるようだ。


第三回は冷蔵庫に閉じ込められた春男とキャッティを、よし子が電気スイッチを見つけて助け出すことに成功するところから。春男は寒がっている程度だが、キャッティは「こちこちになって死んだようです」と書かれてしまう。

藤子先生の絵では、キャッティが凍ってしまった描写に、春男のセリフで「アイス=キャッティだ」という吹き出しが付けられている。文章と絵で分かれている構成だが、絵の方にも時おり補足的に吹き出しがつくのが、本作の特徴であるようだ。


キャッティは一時間ほどベッドに寝かしてあげると、そこで簡単に復活。さらにそのベッドはよくばり博士のベッドだったらしく、博士が寝にやってくる。この辺の展開は少々雑である。

キャッティをただの可愛い猫だと油断した博士の鼻に噛みつくキャッティ。鼻を食いちぎるぞと脅して、王女の閉じ込めている場所を聞き出して、救出に成功する。

キャッティも間抜けな部分がある猫だったが、敵側も相当な抜け具合である・・。


この後追ってくる悪者たちとの追跡劇になっていくのだが、何と途中で王女がいなくなってしまう。文章を読む限り、王女が逃げたとか助かったというような描写が出てこないのである。

文章では触れていないが、絵の方では逃げ終えたカットに王女の姿も描かれる。ただし、その後帰国したとか、今度こそ警察に引き渡された、というような描写は一切ない。

雑というか、かくもおおらかな展開なのである。


ちなみに第一話は春のお話だったのだが、第二話の『海賊ドラゴン博士』では夏の設定となる。第三話は季節不明だが、おそらく順番から秋だろう。第四話はお正月(冬)である。

掲載誌の発売に合わせて季節を作品に取り入れていく藤子スタイルが、既にこの時点で確立している点には注目しておきたい。


さらに注目点を上げれば、本作のキャッティは、異世界から来た不思議な猫、しかもちょっとおっちょこちょい、というキャラ設定から、「ドラえもん」を想起せざるを得ない。

のび太に相当する春男は、勉強はあまりできないようだが(通信簿で3)、体育は5ということで、その後のダメ少年の系譜とは全く別である。久米先生と藤子先生の考え方の違いがその点からもわかって興味深い。


さて、「スーパー=キャッティ」は、他にも面白いエピソードがある。特に第三話目となる『スポーツ星からの使者』は、タイトルからしてユニークな仕上がり。

宇宙に旅立つという藤子マンガらしさもありつつ、スポーツ星でスポーツ対決となる・・・という発想は、藤子的ではない。このように絵物語では、文を担当される方と、藤子先生の毛色の異なる合作の面白さが大きな魅力の一つと言えるだろう。



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