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ウソの痛み『未確認飛行物体?』/藤子Fの嘘つき物語⑦

嘘から始まる物語。・・・本当の事ではない出来事が語られるので、当然ドラマは生まれがち。

藤子作品では「嘘」は物語のスパイスとして、あらゆるジャンルにおいて扱われてきた。「藤子Fの嘘つき物語」と題して、その中の一部となる作品を連続して紹介してきたが、本稿では一応の最終回とさせていただきたい。


「エスパー魔美」『未確認飛行物体?』
「まんがくん」1977年/大全集1巻

本作はエスパー魔美の10作目に当たる作品で、「嘘」というテーマに真正面から取り組んでいるお話である。だがまずはその話題の前に、本作の「エスパー魔美」全体の中の位置づけを確認しておきたい。


「エスパー魔美」は、第1話から13話目くらいまでは、緩やかな連作形式になっていて、徐々に魔美の能力が確立し、キャラクターなども固まっていくシリーズ導入時期にあたる。

魔美の超能力にだけに焦点を当てると・・
第1話でテレポートの能力に目覚める
第5話でテレキネシスの能力も開花
第6話で高畑からテレポート・ガンを貰う
第9話で困った人の念波をキャッチする

と、少しずつ超能力のレパートリーを増やしている。第10話となる本作では前回で会得した念波が、物語の根幹に関わってくる。


大体10話までで超能力は出揃うが、ここからもう一つのテーマが始まる。それは、エスパーであることが世間にバレたらどうなるのか、という「魔女狩り」についてのお話である。

本作のラストでは、空飛ぶ謎の少女という証拠写真を撮られてしまうが、次の第11話目でも同じような謎の少女という話題をマスコミに提供する。そして第12話『魔女・魔美?』において、絶体絶命のピンチに陥ることになる。

本作は9話を受けたお話でもあり、11話・12話にも繋がる回でもあるのだ。


さてさて、前置きはここまでにして、以降中身に入っていきたい。

学校が終わり、魔美は、いつものようにクラスメイトの富山君にレコードの誘いを受けるが、用事があると言って聞き流す。そして家へと一直線。用事というのは、腹ペコで何かを食べたいというのだ。

ところが、前作『どこかでだれかが・・・』で会得した能力、救いを求める人からのベルの音をキャッチしてしまう魔美。仕方なくベルの元へテレポートすると、なんと学校へと逆戻り。


そこでは、クラスメイトの石部と番長が中心となって大勢でワイワイしている。魔美は「困っている人はどなた?」と輪に入っていくが、番長は「今面白い話をしているところだ」と答える。ただ、隣の石部はそれほど笑っていないように見えるが・・。

で、何で騒いでいるかというと、石部と番長で、5日前に心を合わせてUFOを呼び寄せ、写真を撮ったのだという。魔美はUFOと聞いて飛び上がる。


そして石部の写真を持って高畑の元へ向かう魔美。UFOの出現から消え去るまで7枚の連続写真で収められている。魔美は高畑が喜ぶと思って借りてきたのだが、高畑はウーンと唸ったあと、写真をポイと放り投げる。

「トリック写真に興味はないな」

魔美は、証拠もなしにトリックだと決めつける態度は良くないとおかんむり。そして写したのは石部だと言うと、高畑も「あのクラス一まじめ人間が?」と驚く。

高畑は写真を再度手に取るが、「どう見てもトリックだ」と意見を曲げない。「トリックとも呼べない幼稚なニセ写真」だと。そして、不自然なところが少なくとも三つあると吐き捨てる。

魔美はさっぱりわからないが、高畑が

「一目見りゃわかるだろ、バカでもアホでも」

と言ったものだから、魔美は自分はバカ以下なのか、と怒って帰ってしまうのだった。


ここまでで、石部たちが撮った写真がニセモノで、彼らはUFOを呼んだとウソをついていることがわかる。なぜなら、「魔美」において高畑君の見識は絶対的に正しいからである。(途中で考えを変えることはよくあるけど)

すっかり寄り道して、お腹が鳴る魔美。帰宅して何かを食べようと戸棚をチェックするとカップ焼きそばが目に入る。ところが、コンポコが魔美にすがり付いてくる。今朝ご飯をもらえず、魔美以上の空腹に飢えているのだった。

コンポコにご飯をあげて、いよいよ自分の番。ところが、そこへまたまたベルの音。飢え死にさせる気!?と激怒しながらも、結局ベルの発信源に向かうエスパー魔美。


そこは石部の家。番長もいて、何やらテレビ局の人間らしき人と打ち合わせをしている。魔美は「またあの二人だわ」と驚いていると、逆に突然現れた石部が魔美に対して不審がる。

何とか誤魔化し話を聞くと、石部たちが話しているのは、サクラテレビのディレクターで、テレビ番組の中で念力によってUFOを呼び寄せるのだという。「すごい」と驚く魔美。・・が、魔美の頭の中には、困った人のベルの音が、強くなったり弱くなったりしながら鳴り続けている。これは一体何なのか?


魔美は気が狂わんばかりに、高畑にヘルプを求める。高畑は魔美から石部たちの話を聞いて「思った通りだ」と全てを見抜いた様子。高畑は言う。

「詳しい事情はわからないけど、彼はウソをついている。ウソをつきながら、良心の痛みを感じているんだ。それが、ベルの音の正体さ」

そして、トリック写真の「3つ」の不自然な点を解説する。

①UFOが完全なシルエットだということ
空気の乱反射があるので、逆光の写真であっても必ず微妙な立体感が出るはず。つまりこれは薄っぺらな切り抜きである。

②UFOの大きさが一定
連続撮影したものなら、様々な大きさに写る。これは同じ切り抜きを同じ距離で撮ったもの。

③UFOの見かけの形が一定
UFOの位置によって見かけは変化する。7枚とも同じはおかしい。

これらから、「グラスワーク」という典型的なトリック撮影の手法であると高畑は推定する。ガラスに絵を張って空をバックに撮ったのだろうと。

何度も食べる機会を奪われてきた魔美は、石部をとっちめてやると怒るが、高畑は、ちょっぴり有名になってみたい気持ちもわかるだろう、ということで、放っておこうと提案する。


魔美は帰宅し、待望のカップ焼きそばをがっつく。このシーンを読むたびにカップ焼きそばが食べたくなってしまう。

人心地ついた魔美は、カップ焼きそばのパッケージを手に取る。UFOと印字されており、シルエットが空飛ぶ円盤にそっくりだと気がつく。

ちなみにカップ焼きそばUFOは、日清から1976年5月に発売された商品で、現在は「U.F.O」と表記されている。本作が1977年の作品なので、藤子先生は、発売したばかりのカップ焼きそばのパッケージを見て、トリック写真のアイディアが思い浮かんだのではないだろうか。


その夜、ベルの音で目を覚ます。仕方なくテレポートで向かうと、またまた石部の家。石部は、番長と電話をしており、もう本当の事を打ち明けたいと泣きついている。石部は苦しくて、ご飯も食べられず夜も眠れないという。

しかし番長は、「最初にニセ写真を撮ったのは石部だ」と脅す。「今さら打ち明ければ、一生大ウソつきのレッテルが付いて回る」と。

魔美は話を後ろで聞いていて、石部に「そんなわけだったの」と話しかける。石部は本当の事を語り出す。

・最初は焼きそばのカップにピンポン玉をつけて二階から吊るして、四月バカ用にトリック写真を撮った。
・しかしその場面を番長に見られて、写真を取り上げられ、勝手に本物としてテレビ局に送られてしまった。
・テレビのディレクターは喜んで、もっとないかと催促してきた。
・番長に脅され、仕方なく前の写真を切り抜いて「グラスワーク」の手法でニセ写真を量産した。

しかし石部は言う。脅されたからだけでなく、世間を騒がせて有名になりたい気持ちもあったと正直に告白する。本音をきちんと言えることから、根本的にはイイヤツなのだということがわかる。

石部は頭を掻きむしると、母親が声を掛けてくる。魔美はとっさにテレポートして姿を消す。「お前この頃おかしいよ」と母親は心配するのであった。


ついに放送の日。屋根の上で石部と番長が座り、念力でUFOを呼ぶという段取りである。本番直前となり、石部は震えだす。番長は横で「余計なことをしゃべりやがるとただじゃおかねえ」と石部を脅す。

「ワイドスペシャル UFO!!これが本物だ!!」という番組がついに始まる。まずはスタジオにて、石部の撮った写真を、東京現像所技術部長の永象さんがネガの鑑定をする。

二重露出の可能性を聞かれ、それはないと答える永象。しかし、グラスワークの可能性について言及をしようとすると、時間の都合か、話は打ち切られて、「専門家も太鼓判」と締めて現場にカメラが切り替わってしまう。

このあたり、テレビのいい加減さがよく描かれている


ついに石部と番長は、UFOを呼ぶべく目をつぶって念じ始める。レポーターが「来るか来ないか」と煽っていく。時間が経ち、石部がもがき苦しむ。そしてスックと立ち上がる。もう嘘をつき続けることはできない・・!

「聞いてください」と石部が声を上げると、そのタイミングで空の向こうからUFOが飛んでくる。「ほんとうにやってきました!!」と飛び上がって興奮するレポーターと、驚きふためく石部と番長。

UFOはフラフラと離れて行く。それは、魔美が現場から少し離れた屋根の上で、カップ焼きそばとピンポン玉のUFOを操っているのであった。これで石部の罪の意識は薄らいだに違いない・・。

魔美は、一件落着ということでテレポートで家に帰る。しかし・・

魔美が飛んでいる様子は、「空飛ぶ少女」としてバッチリとカメラに収められており、後日テレビで大騒ぎとなってしまう。これこそ、本当のUFO(未確認飛行物体)だと・・。

このラストが、次回・次々回の伏線となるのである。


本作は世間を騒がせたいとウソをついてしまった真面目な少年の、良心の呵責をテーマとした作品である。嘘が本当になってしまう点は、普通はあまり許されない展開なのだが、事前に少年のピュアさがきちんと描かれているので、ウソがバレなくて良かったね、という感想が浮かんでくる。

ま、一番酷いのは、人を脅して有名になろうとした番長なのだが・・。


さて、「ウソ」の物語の紹介はひとまずここまで。まだあるので、折をみて記事にします。




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