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『木星は地獄だ!』/21エモンと行く宇宙旅行ハンドブック<太陽系>

21エモンはホテルマンの将来を約束させられているが、まだ若く、無限に広がる夢がある。彼は宇宙パイロットになりたいのである。

シリーズの序盤からそういう意思が散見されていたが、『なみだの真珠』の回で「宇宙探検隊」というテレビ番組をみて夢が燃え上がる。まずは夏休みを使って宇宙旅行をしたいと言い出してパパを困らせる。

そして涙が真珠となる宇宙人から大量に真珠をゲット。首を縦に振らない両親をあの手この手で説得して宇宙へと旅立つ。その際に、無銭旅行を決め込んで真珠はごっそり家族の元へと置いていく。

モンガーと二人で行くはずだったが、ゴンスケまで付いてきてしまい、いきなりロケット代を追加徴収されてしまう。(『宇宙は招くよ』

色々と思惑と誤算が重なる中、21エモン・モンガー・ゴンスケは宇宙旅行へと出発する!

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本稿から数回に渡って、「21エモン」の後半戦「宇宙旅行編」について記事にしていく。宇宙が舞台となり、それまで日常をベースにしたギャグマンガから、一気にスペースSFへと昇華していく。

「宇宙旅行編」は藤子先生のアイディアが冴え渡り、読み応え十分。残念ながらネタを残したまま「21エモン」の連載が終了してしまい、藤子先生は消化不良を残したが、それは「モジャ公」へと引き継がれることになる。

それではまず第一回目として、太陽系の星々を巡る夏休みの宇宙旅行を描いたシリーズ全6話の見所を一気に紹介する。


『月世界にて』「週刊少年サンデー」1968年34号
ラビット観光のバスで巡る月の観光名所:
①月世界一の名勝、オニール橋
②アポロ11号の月面初着陸記念碑
③ベイリ火口(底が地下資源研究所になっている)
④コペルニクス市(地下広場は空気がある)

④の地下広場では、観光に来ている藤子不二雄両名の姿が見える。

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急きょゴンスケが旅に割りこんできたので、コペルニクスに着いた時点で資金は底をつく。そこで、地球から持ってきた「きみにもできる 宇宙無銭旅行」(スカンピン著)を参考に、ヒッチハイクで木星を目指すことに。しかしその本の内容は・・・

ロケットにただで乗る方法:
①「パイロットになるべし」
②「お金持ちと友だちになるべし。おだてて自家用ロケットを買わせるべし。たぶんただで乗せてくれるべし」
③「最後の手は密航である。見つかると元の星へ送り返されるから、うまいことやんな」

非常にバカバカしい内容で、モンガーは「落語じゃないか!」とツッコんでいる。

無銭旅行を諦めようと思った瞬間、21エモンは閃く。無銭旅行ガイドの③を応用し、木星から月に降り立とうとしているロケットにテレポートして、木星から密航してきたと嘘をつくのである。そうすれば、送り返すという名目で木星へと行くことができるというアイディアだ。

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『密航者』「週刊少年サンデー」1968年35号

不慣れな掃除をさせられながら木星へと向かう21エモンたち。ところが船長が出てきて、木星警察に引き渡すので倉庫に閉じ込めておくと言い出す。たまらずテレポートで客室ゾーンへと逃げ出す。

一等客室のゾーンで友人のカメキチと偶然出くわす。優雅に木星旅行中らしい。カメキチとすったもんだしているうちに、船員たちに見つかってしまったので、宇宙服を着て船外にテレポートする。そこにも警備ロボットが追ってくるので、たまらず小惑星へとテレポートする。

カメキチはこの後の珍道中で再登場を果たすことに。。

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『宇宙漂流』「週刊少年サンデー」1968年36号
小惑星群:火星と木星の間に散らばり、直径150キロ以上の大きなものは約20個、1キロそこそこのが三万個、小石や砂粒程度のものは何十億あるか数知れない

真空状態なのでヘルメットを取ることができず、持ってきた水や食料を取ることのできない21エモン。このままでは餓死してしまう。対照的に宇宙生物のモンガーやロボットのゴンスケは、空気を気にせず小惑星で陣取りごっこなどをして遊んでいる。

星を削ったりしていると、なぜか音楽が聞こえてくる。死期が迫っていると感じた21エモンは、最期に一口水を飲もうと、ヘルメットを取ってしまう。が、なんとそこには空気がある!

この小惑星群は、アステロ団地という分譲団地ならぬ分譲星で、あたりは空気で満たされており、星の中をくり抜いて住居としているのだった。

一人の住民に木星行きのロケットが出ているケレス星へと宇宙ヨットで送ってもらう。

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『星ゴロたち』「週刊少年サンデー」1968年37号
ケレス:小惑星群(メインベルト)で最大の星。直径は作中では770キロ。実際は945キロと観測されており、準惑星に分類される。

ケレスでは旅行者にたかる星ゴロがたむろしている。星ゴロはもともと宇宙旅行者だったが、無計画のためどうにもならなくなっていた人々である。彼らは捕まると強制収容所へと送られる存在である。

21エモンも警察に星ゴロではないかと怪しまれ、たまらず逃げ込んだのが、つづれ屋とうり二つの貧乏ホテル・くずれ屋だった。つづれ屋同様、自動ドアが壊れ、エスカレーターは錆びつき、室内は蜘蛛の巣が張っている。

21エモンが外出している隙に、大勢の星ゴロたちが21エモンの友人を語って大パーティを開いてしまう。そのパーティー代を請求されてお金が無いことがバレ、パスポートを取り上げられる。

するとパスポートに記載してあった「東京・つづれ屋」の表記によって、くずれ屋の父子は20エモンの従弟であることが判明する。運良くこれで収容所行は逃れた。

くずれ屋の息子に強制収容所はどういう場所か聞くと、旅費を貯めるまで朝から晩まで働かされるらしい。仕事内容は木星の鉱山で金属水素を掘るというもの。21エモンは木星に行けてお金も貰えると聞いて、自ら警察に電話して無銭飲食したのですぐ捕まえに来るようお願いするのだった。

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『木星は地獄だ』「週刊少年サンデー」1968年37号
木星:
半径71,390キロ、太陽系最大の惑星。
気圧が地球の何万倍以上。
気温は雲の上ではマイナス130度、地表は大変に高温。注意すべきはアンモニアの嵐と底なしのメタンの沼
木星の強制収容所:
寝床は木星の月・ガニメデ。ここから毎日木星に通って金属水素を掘る。21エモンのお気楽な予測と異なり、生きて出られるのは3人に1人と噂される過酷な場所。

21エモンたちは想像を超える地獄の作業場へと送り込まれる。遠くからは観光バスが「木星抗夫」だと気軽に紹介している。21エモンとモンガーは巨大な宇宙服だけ残して、観光バスへとテレポートする。するとまたしてもカメキチとばったり出くわしてしまう・・。

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『ニセ監察官』「週刊少年サンデー」1968年38号

嫌なヤツの典型であるカメキチは、21エモンがツアーのバスに乗っているのが信じられず、乗客数を数えるよう添乗員に告げる。

21エモンが抜けた宇宙服が仕事をしてないということで電気ショックを与えられるが、その様子を撮影している男がいる。邪魔だと帽子を21エモンに被せてそのままどこかへ行ってしまう。

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添乗員が乗客を数えているので、モンガーは数を合わせるために関係ない二人を宇宙服の中へとテレポートさせる。それがカメキチと撮影をしていた男である。

ツアーバスはガニメデの地下都市へと戻る。乗客の中にまたまた藤子不二雄の両氏と、ウメ星デンカの姿もある。ウメ星デンカは、この時新連載として始まったばかりであった。

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21エモンが被った帽子は、監察官のものだった。監察官は、木星の強制収容所内で違法な人権侵害が行われているという噂を聞いて、調べに来ていたのだった。21エモンは帽子のせいで監察官と間違われて、恭しく収容所へと案内される。

収容所では21エモンの代わりに捕まってしまった本物の監察官が、違法な電気ムチを当てられる。図らずも人権侵害の現場に立ち会ってしまったようだ。

監察官と間違われた21エモンは、所長から賄賂で口封じを持ち掛けられるが、拒否して21エモンとバレてしまう。するとモンガーが本物の監察官を独房から出してきて、悪徳所長たちを捕まえる。

収容所は今後人間らしい待遇を約束され、21エモンは監察官と一緒に地球に帰ることになる。ただし、ゴンスケは一人木星に残されていたので、拗ねて帰ろうとしないのであった。

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今回の旅をまとめると・・

・8月11日にロケットで月に向かう。その日は野宿。
・密航者のフリをして木星行きのロケットに乗り込む。
・小惑星群に逃げ出す。
・ケレスで無銭飲食のふりをして木星の強制収容所へ。
・収容所に調査にた監察官と地球へ帰る。

この珍道中をギャラクシーホテルのルナに説明すると「子供一人でそんな大冒険をするなんて素晴らしい」と感激され、21エモンは調子に乗って「次は小型ロケットを買って太陽系を飛び出すのだ!」と息巻くのだった。。

ということで、次回は太陽系外に旅立った21エモンたちの姿を紹介する。


「21エモン」他、色々なF作品を考察しております。


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