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追悼:藤子不二雄A 「まんが道」を全うした大いなる作家

2022年4月7日午前、つまり本日朝、藤子不二雄Aこと、安孫子素雄先生がお亡くなりになった。先月10日に米寿を迎えられたばかりのことだった。

正直強いショックを受けた。てっきりこのまま普通に100歳くらいまでは生きるのかと思っていた。藤子F先生の時もそうだったが、突然、好きな人はお亡くなりになる。


縁あって藤子Fノートを書いているが、子供の頃の藤子体験とは、F先生とA先生のコンビで一人の「藤子不二雄」体験に他ならない。

今では信じられないことだが、僕自身、「ドラえもん」も「忍者ハットリくん」も二人の合作であるとなんら疑いなく思っていた。

画のタッチが違うじゃないかと言われれば全くその通りなのだが、その場合もお二人のどちらかが絵を担当しているに過ぎない、という認識だったのだ。

なので、お二人がコンビ解消すると聞いた時、「ドラえもん」はF先生で、「怪物くん」がA先生だったと聞いた時、僕には膝から崩れ落ちるほどの衝撃が走った。

裏切られたとまでは言わないが、コンビ解消という発表は、熱を帯びていた藤子不二雄愛がクールダウンしていく大きなきっかけとなってしまったのである。


時は流れ、成人し上京すると、突如として藤子愛が復活を遂げる。古本屋に出入りするようになり、まだ読んでいなかった「藤子不二雄」作品の収集が始まった。

F作品が大好きだったが、A作品も同じくらい大好きだった。ずばり言えば、一番好きな漫画家は藤子F先生で、二番目が安孫子先生である。


簡単だが、代表作を振り返ってみる。

「忍者ハットリくん」

安孫子先生の代表作だが、僕としてはF先生との合作だった「オバQ」の流れを最も汲む作品だと考えている。異界からやってくるのがオバケではなく、忍者だということだ。

しかし、実際には本作の方がアイディアとしては先で、安孫子先生はオバQと並行して本作を連載させていた。こうして考えると、オバQのアイディアは、安孫子先生の発案とするところも非常に大きかったのではないかと想像できる。

忍者の常識と現代のそれとのギャップで笑かしてくれる、ドタバタコメディ一直線の物語である。キャラクターも、オバQと符合するように、弟(シンゾウ)やライバル(ケムマキ)、そして小池さん(先生)も出てくる。

アニメも面白かった。「なんでもかんでもニンニン」とか「○○でござる」とか、アニメ映えする作品だった。

映画では「パーマン」と合体した作品が2本作られている。今でいう「アベンジャーズ」ばりに興奮したものだ。今、見ることが叶わないので、是非とも再上映をして欲しい。


「プロゴルファー猿」

ハマった。

僕が住んでいた田舎は、とにかく人気のない広い場所があったので、子供のころから父親のお古のゴルフクラブを持って、毎日のようにゴルフをしていた。「猿」を真似して、ドライバーとアイアン(クリークのつもり)とパターだけで疑似コースを回ったりした。

荒唐無稽な技が出てくるが、プロテストを受けるなどのリアリティもあり、実際のルールにも忠実だった。

登場人物たちが魅力的だった。特にミスターXが送り込んでくる刺客たちの個性が際立っていた。安孫子先生は、藤子F先生との合作「海の王子」で敵キャラを担当されていたが、外見的にも内面的にも敵を描くのが上手だったし、才能を大いに発揮されていた。

今でも読みだすと止まらない作品の一つである。


「魔太郎がくる!!」

友だちの家で初めて読んだ日の事は今でも覚えている。藤子不二雄と聞いて、のほほんとした漫画をイメージしていた僕は、いきなり第一話から自分を苛めてくるクラスメイトを仕返しに殺してしまう展開に大打撃を受けた。

途中からは切人との対決などになって怖さが和らぐが、序盤のクラスメイトの居なくなり方は凄まじいものがある。


「怪物くん」

恐ろしいことに、安孫子先生は「ハットリくん」、「オバQ」と並行して、「怪物くん」も同時連載をしていた。

こちらも上2作と構造は似ているだが、怪物のライバルが出てくるような展開が多く、悪いキャラクターを描かせたら天下一品のA先生の良さが際立っている作品のようにも思う。

手足が伸びる、変身できるなどのスーパーパワーと、「坊ちゃん」とオオカミ男たちに甘やかされる子供っぷりの二面性が、とっても魅力的であった。


「まんが道」

これは簡単には書くことができない。人生のバイブルだし、今でも読みだすと涙が止まらない。何なら今晩は、まんが道を全巻読んで眠りたい。

いずれきちんと記事にします。


「少年時代」

「少年時代」は、少年時代に読んで、眠れなくなった。何て言うか、僕の子供のころは、ああいうヒリヒリした人間関係が確かに存在していた。他人事に感じられなかったのである

中年時代真っ盛りの僕だが、今でも本作を読むのは、当時を思い出しそうで躊躇してしまう。


「シルバークロス」

一番好きかもしれない。

既に一度記事にしているので、こちらをご覧くださいませ。


他にも、いまだに自分の理解が及ばない快作「ビック1」、キテレツなキャラ造形に衝撃を受ける「黒べえ」、藤子不二雄ランドのお楽しみだった「ウルトラB」など、忘れ難い作品も多い。

藤子Fノートでは、藤子A作品についても、今後記事化を進める所存です。何卒宜しくお願いします。


トキワ荘仲間はほとんど鬼籍に入られた。きっと天上世界で、酒を飲んで、ラーメン食べて、「ンマー」と声を上げているに違いない。

そして、藤子不二雄が、四半世紀ぶりに再会していることを想像して、今夜はお二人を偲びたいと思います。



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