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タイムマシンものの大傑作!『電光豆剣士』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉕

少し先になる予定だが、藤子先生の十八番(おはこ)となるテーマの大特集を準備している。そのテーマは、ズバリ「タイムマシン」だ。

タイムマシンが、単なる過去や未来への移動手段として使われるだけではなく、いわゆるタイムパラドックスものもあるし、タイムマシンの存在自体を問うよな哲学的なお話もある。

確固たる確証もないのだが、藤子先生は、もはや全ての「タイムマシーン」のパターンを試してしまったかのように思われる。それほどに「タイムマシーン」をテーマとした作品は膨大に存在し、バリエーションも豊かだ。


さて、そんな「タイムマシン」ものが初めて描かれたのはいつなのか。初期作品は今読むことのできない作品も多いので、100%確実かと言われると困るのだが、僕の知る限り本稿で取り上げる作品が、初登場である。


ということで、「藤子F初期作品をぜーんぶ紹介」シリーズ第25弾は、そんな記念すべき「タイムマシン」ものの第一弾『電光豆剣士』をお届けしたい。


『電光豆剣士』「漫画王」1957年11月号別冊付録

本作は藤子F先生が23歳の時の作品。掲載誌「漫画王」では、56年~57年の間に、48ページ位の別冊付録用に書き下ろした作品を多数発表している。当時の子供の需要があったのか、「漫画王」掲載作品は、ほとんどが時代劇、しかも剣戟を含むアクション作品だった。

「SF+日常」マンガのイメージの強いF先生が、時代もの活劇を量産していた時期があるという事実はあまり知られていない。その後のキャリアを考えると、得意なジャンルであったようにも思えない。あくまで編集部からの発注に基づいた作品群だったと考えられる。

しかしそんな時代劇の発注に対して、才気煥発な藤子先生は、自らの描きたいテーマを時代劇フォーマットに盛り込んで、とてつもない傑作を仕上げている。その代表的な一本が本作である。


ストーリーは簡単に言えば、真田十勇士の世界に昭和32年の少年がタイムスリップして、徳川対豊臣の戦さに加担するというお話である。

現代人が戦国時代にタイムトラベルして活躍するというモチーフは、「戦国自衛隊」「群青戦記」「信長協奏曲」等、今でこそ珍しくもないが、昭和32年の発想としてはかなり飛び抜けているように思える。


主人公の男の子は、忍術使いの猿飛佐助に憧れている平凡な中学生(高校生かも)。本編中に名前は出てこないが、ばったり出会った怪しげな科学者から、自分が猿飛佐助なのだと告げられる。

科学者の家に行くと、そこには50年かかって完成させたという巨大な「時間機械=タイム・マシン」がある。なかなかうまく操作できないようだが、350年前の時間を捉えることに成功したという。科学者は少年にタイムマシンの実験台になって欲しいと頼んでくる。

350年前と言えば、江戸幕府開府直後の時代。関ヶ原の戦いは家康の勝利に終わったが、まだ大阪城を中核に豊臣家が勢力を残しており、全国平定には至っていない時代である。

科学者の言うには、少年はその時代に活躍した猿飛佐助なのだという。当然、さっぱり話が理解できない少年。

科学者は無線電話とタイムベルトを少年に渡す。最初の移動は「タイムマシン」を使わなくてはならないが、過去から現代に戻ってきたり、もう一度過去に行く際には「タイムベルト」で移動可能ということらしい。


半ば強引にタイムマシンに押し込まれ、少年は350年前へと遡っていく。落ちた先は、なんと徳川家康の上。豊臣のスパイだと勘違いされ、牢獄に放り込まれてしまう。

すると牢には先客がいる。剃髪で大柄な男は、真田幸村の家来、三好清海入道であった。後に真田十勇士の一人とされる戦国武将である。ちなみに猿飛佐助も真田十勇士の一人。

三好は家康が大阪城を間もなく総攻撃することを主君に伝えなくてはならなかったのだが、捕まって身動きができないままなのである。


そこで少年は三好を連れて、「タイムベルト」を使って一度昭和32年に戻り、電車で真田幸村のいる九度山(今の和歌山県北部)に移動し、再び戦国時代へと舞い戻る。初めての昭和の風景を見た三好は、少年を天狗だと言って驚くばかり。

350年前に戻って「真田十勇士」の一人穴山小助と合流し、幸村の元へと帰還する。真田家は豊臣の恩を忘れず、打倒家康で動き出す。少年は、自分のことを「猿飛佐助」と名乗る。なので、以下佐助と呼んでいきたい。

幸村の息子、真田大助と対面する佐助。ここで分かりやすく、家康対豊臣家の対立構造の説明を受ける。この手の状況説明が、F先生は抜群にうまい。


佐助は昭和の人間なので、大阪城での戦いで豊臣家が滅ぼされることを知っている。それを呟くと、聞き捨てならないと三好は怒る。しかし冷静沈着な真田大助は、佐助の不思議な能力からすると本当の事を言っているのだと理解する。まことに聡明な人物である。

その上で大助は言う。

「しかし、例え負けるのがわかっていても、僕たちは豊臣家に味方するつもりだ。僕たち一族はずっと豊臣家の世話になってきたからね」

この主従関係・義理人情の世界が、思わずグッとくる。佐助もほだされ、自分も味方に加えて欲しいと願い出る。佐助は、自分の知っている歴史にあがなおうというのである。


この後徳川の忍者と戦ったり、大阪城へ向かう道すがらで合戦をしたりと、活劇の見せ場が盛り込まれていく。

佐助は、タイムベルトを使って、現代に戻って、もう一回過去へ行くという行動を繰り返す。これによって、戦国の人々にとっては、佐助が消えたり、出てきたりを繰り返しているように見えるという仕掛けである。


佐助の「忍術」によって、無事真田軍は大阪城への入城に成功する。そして、佐助は大胆にも徳川家康の前に再び現われ、「降伏しろ」という幸村からの伝言を告げる。

佐助の登場に慌てふためく家康。首を取るチャンスもあったのだが、戦いまで預けておこうと剣を収める。・・・思えば、これが歴史を動かす最大のチャンスであった。


慶長19(1614)年11月、大阪城。いわゆる大阪の陣が始まろうとしていた。

歴史上では、冬の陣では決着がつかず一度和平が成立し、その半年後の夏の陣で大阪城は陥落する。

果たして、佐助が加勢した大阪の陣はどのような結末を迎えるのか。・・この手の歴史ライムトラベルものの、真骨頂ともいうべきシーンである。


大坂冬の陣では、徳川軍は50万の大群を率いてやってくる。大阪城では秀頼公を中心に、真田幸村と真田十勇士のメンバーが抗戦の準備を整える。さあ、いよいよ合戦だと思った矢先、佐助に異変が起こる。

なんとタイムマシンが不調となって、現代の世界に強制的に引き戻されてしまったのである。大事なところで戦線離脱となった佐助。科学者は必死にタイムマシンを修理するが、刻一刻と時間が過ぎていく。

そして修理は完了するのだが、時代が半年先にずれてしまったという。つまり、今度タイムマシンで向かう先は、冬の陣が終わり、次の夏の陣の時期ということになる。


佐助は落城してないといい、と願いながらタイムマシンに入る。

・・・残念ながら、大阪城は火の手に包まれている。遅かったのだ。佐助を見て、徳川軍は豊臣川の残党と思って襲い掛かってくるが、「「みんなのかたきだっ」と剣を振り回して撃退する。

戦火を進むと、真田大助が倒れている。既に息も絶え絶えで、佐助を見ると「残念だ」と呟いてこと切れる。佐助は大助を抱きかかえて号泣する。


現代。刀を差した佐助が帰還する。

「間に合いませんでした・・・」

がっくりと肩を落とす佐助。そして博士は語りかける。

「そうか・・・仕方ないさ。歴史を動かそうとしたのが無理だったんだな」

歴史を変えようとした佐助。しかしそれは叶わなかった。それはまるで、歴史の変革を許さない「何か」が、タイムマシンを故障させたようにも思える。


「タイムマシン」を使った藤子作品は数多いが、大別して、歴史が変わるケースと変わらないケースとがある。本作は歴史が運命論的に仕組まれているという設定に基づくお話であった。

ハッピーエンドとも言えない読後感が、何とも切ない傑作だと思う次第である。


「初期作品」紹介やっています。


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