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元祖音痴キングは・・Qちゃん!『歌手になりたい』/音痴選手権①

藤子Fワールドには、極端に歌の下手クソな音痴が大勢登場する。そう、ジャイアンだけではないのである。

そこで何回かに分けて、藤子作品のはた迷惑な音痴キャラクターを紹介していきたい。シリーズ名は「音痴選手権」。その第一弾は、とっても有名なあのキャラクターから・・。


『歌手になりたい』「オバケのQ太郎」
「月刊別冊少年サンデー」1965年5月号/大全集2巻

音痴=ジャイアンのイメージを持つ人は多いだろうが、ジャイアンが登場する以前の音痴キングは、オバケのQ太郎であった。

初めてQちゃんがもの凄い歌が下手だとわかったのは、連載開始間もない『ハイキングに行こう』(1964年28号)だった。Qちゃんと大原家で山へハイキングに行くのだが、そこで歌でも歌おうということになり、オバQが高らかに歌いだす。

「おいらオバケだ、オバケだよー!! おなかのそこまでオバケだ~」

自分がオバケだと言っているだけの歌詞で、音階は不明。この声を聞いた正ちゃんたちは、「ひどい音痴」と言って逃げ出し、歌を聞いた鳥たちは次々と目を回して落ちてくる

Qちゃんは自分の歌がひどいとわかったのか、この後、山で大騒ぎしている連中のラジオに入り込んで先ほどの即興歌を歌い、撃退させていた。


しばらくQ太郎の歌は封印されていたが、本作『歌手になりたい』にて、突然歌手になりたいと言い出して、歌の練習を始めてしまう。完全にQちゃんの音痴をフューチャーしたお話である。


急に家で歌い始めるQ太郎。パパにはお経に聞こえ、正ちゃんはブタが呻っているように思え、ママは家の中でサイレンが鳴り出したと勘違いする。とても「歌」とは思えない「音声」だが、Qちゃんは練習して歌手を目指すのだと決意を固めてしまう。

Qちゃんの害悪な歌声に嫌気が差して、ママ以外の家族は外出してしまう。残されたママは、せめて表で歌ってくれと懇願し、Qちゃんは屋根の上で練習を続けるのだが、パトカーが来てわめくのは止めろと注意される。Qちゃんの歌声で、気分を悪くして病院に何人も担ぎ込まれているのだという。

Qちゃん俄(にわか)に自分の声が酷いとは信じがたい。理解してくれる人がいるはずだということで、公園で休んでいる老人を見つけて歌を聞かせる。きちんと聞いてくれているようだったが、単に耳が遠いだけであった。


Qちゃんはここで「のどじまん」に出演して全国の人に聞いてもらおうという大胆な作戦を立てる。いきなりTV局の収録現場に飛び入り参加して、大怒号を披露。放送局にはQちゃんの歌でテレビが故障したとのクレームが殺到する。

ここでようやくQちゃんは、自分の歌声が酷いと認める。それでも諦める選択肢のないQちゃんは、一流の歌手に弟子入りして、本式に歌を習おうと考える。

Qちゃんが向かったのは、人気絶頂の歌手・舟本風夫の自宅。舟本風夫は、この当時大人気だった舟木一夫をモデルにしている。舟木一夫は、1963年に「高校三年生」でデビューし、瞬く間にスターダムにのし上がった青春スターだった。

舟本は弟子は取らないと拒むが、強引に歌を聞かせることになるQ太郎。しかし、「怒鳴ってばかりでなく歌え」「体に悪い声だ」と、舟木もお手上げ。そして、「絶対に歌手になれない」と断じる。


しかし周囲が否定すればするほど、対抗心を燃やすオバケのQちゃんは何が何でも歌手になる夢は諦めないと決意を新たにする。Qちゃんの取り柄は、持ち前のガッツなのだ。

そこで何とか声をよくする方法はないかと考えて、卵を飲めば声に良いという噂があったことを思い出す。卵10個を買い、大胆にも殻ごと口に入れるQ太郎。

効いているように思ったQちゃんは、誰もいない空き地で試しに歌ってみる。すると、これまでと違って「ピイ」とかわいい声が出る。「ピヨピヨピヨヨピヨピヨ」とさらに歌い続けるのだが、・・そう、これは卵からかえった10匹のヒヨコが、Q太郎の口の中で鳴いていたのである。


さて、ここからは「オバQ」ならではの、意外な方向へと話が伸びていく。

Q太郎の歌を聞いて、「歌手の素質がある」と声を掛けてくる男が現れるのである。男は自称有名歌手の落目太郎。・・・名前一発で売れていないことがわかる。

落目は10年前までは人気絶頂だったが、今は落目となってボロアパートに一人住まい。まだ希望は捨てていないようで、放送局から出演依頼がくるに違いないと思っている。するとそこへNHKの人が尋ねてくる。「そらきた」と言って出迎えると、ラジオの聴取料(今の受信料)が溜まっているという催促だった。


次にまた誰かが訪ねてくる。別の借金取りかと思いきや、お寺で葬儀屋の寄り合いがあるので余興で歌ってくれという営業の依頼であった。これはこれで立派な仕事依頼だと思うが、「たまの頼みが余興か」と嘆く落目。

とは言え、この仕事を効果的にするために策を練る落目。Q太郎に(紙)テープを買わせて、歌っている間に景気よく投げ込むよう指示。(テープの代金はQちゃんが立て替え)

さらに、前座でQ太郎に歌わせて、最初に酷い歌声のショックを与えて、後から出てくる自分の歌声をより上手く聞かせようと画策する。しかし、策士は策に溺れるのが世の常・・。


Q太郎が出てきて、お寺にオバケはピッタリと喜ばれるが、あまりの酷い歌声でお客たちは失神してしまう。無理やり起こして、今度は落目の歌う番。盛り上がっていないので、Q太郎は買ってきたテープを投げ込む。

ところがこのテープは紙ではなく、セロハンテープ。ベタベタにグルグル巻きにされ、別の形でお客さんに大うけとなるのであった。


落目にもクビとなったQちゃん。するとそこに、さらなるスカウトマンが現れる。テレビに出演して欲しいのだという。どこでそういう話になったのだろうか? 嬉しくなったQちゃんは、正ちゃんにテレビに出ると自慢の電話を入れる。

Qちゃんへの依頼は、マンガ映画への吹き込みとのこと。声優での出演である。

ところが、収録を終えて局から出てきたQちゃんは、「あんなの出るんじゃなかった」と落ち込んでいる。帰宅後、「テレビに出るんだって」と正ちゃんに話しかけられるが、「あんなの見なくていい」と素っ気ない。

午後八時。Qちゃんはテレビを隠そうとする。すぐにバレて、家族みんなでQちゃん出演の番組を見ることに。流れ出したのは、ガマガエルが歌う映像。Qちゃんが求められた役は、音痴のガマガエルだったのだ。

「ピッタリだ、なかなか良い」と大原家には大好評。すっかりいじけるQちゃんなのであった。


音痴というキャラクターを出すのであれば、大げさな描写は必要不可欠。藤子作品においては、その大げさぶりが群を抜いていて、思わず笑ってしまう。

Qちゃんの桁違いの音痴っぷりは、この後満を持して登場するジャイアンの歌声に通じていく。ただし、「ドラえもん」における音痴はジャイアンだけではない・・。そんな話を次回紹介したい。



「オバQ」考察やっています。


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