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最後の「藤子不二雄」共作『仙べえ』/追悼・藤子不二雄④

安孫子先生がお亡くなりになり、何か一つ心の支柱が折れた気がした。

藤子不二雄のコンビ解散からもう30年以上経つわけだが、その間、安孫子先生が健在だったことで、「藤子不二雄」ブランドが現在進行形でいられた気がする。

しかし、安孫子先生が逝ってしまい、僕の中ではついに「藤子不二雄先生」がお亡くなりになる日が来たのだと思えた。だからこそ、思っても見ないようなショックを受けたのかも知れない。


二人で一つのペンネーム藤子不二雄。しかし合作で描かれた作品は案外と少ない。オバQ以降はたった8作しかない。そして、本稿で紹介する作品は、最後の合作となる「仙べえ」である。

「仙べえ」は、「オバQ」の系譜に連なる、異世界キャラが平凡な男の子の家庭に住みつく「定着型」作品となっている。「定着型」と「放浪型」についての解説は、こちらの記事もご参照下さい。


「仙べえ」
「週刊少年サンデー」1971年37号~1972年3+4合併号

「仙べえ」は、夏休みから冬休みまで、全20回という短期間の連載だった。掲載誌の「週刊少年サンデー」は、創刊号から「海の王子」という合作を連載させていた、藤子不二雄にとって縁の深い雑誌である。

安孫子先生の「ビック1」や、藤子不二雄完全合作の「オバケのQ太郎」、藤子先生の「パーマン」「21エモン」「ウメ星デンカ」と、割と間髪入れずにサンデーで藤子作品が連載していた。

「仙べえ」は、「ウメ星デンカ」以来、約二年ぶりのサンデーでの連載作品であった。


物語構成は「異世界」から人間界にやってきて「定着」するタイプで、藤子不二雄お得意のもの。特にA先生は「怪物くん」から「ウルトラB」まで、何作もこのパターンを使っている。

本作は、まだ見習いの仙人「仙べえ」が、小学生の峯野モヤ夫の家に居候することになる。勝手に住みつこうとするのだが、これにはきちんと理由がある。仙べえは、明治時代に「仙人になる」と言い出して消えた、モヤ夫のひい爺さんの兄だったのである。

計算すると既に108歳。さりげなく白いひげを生やしているが、ぱっと見は子供のよう。仙人の世界ではまだまだ未熟な存在らしく、使える仙術もたいしたことがなかったり、失敗したりする。


藤子Fと藤子Aの合作ということだが、本作については役割分担が一部明らかになっている。藤子F先生がストーリーと背景を担当し、作画を安孫子先生が担っている。コマ割りやネームをどちらが担当していたかははっきりしないが、当時のF先生の過密スケジュールを考えると、画に関するほとんどが安孫子先生だったと想像できる。

藤本先生は、本作連載当時、自身の代表作「ドラえもん」を毎月4本、「新オバケのQ太郎」を10本、加えて「ドビンソン漂流記」や「ポコニャン」も連載していた。この他に短編なども執筆していた、超多忙期にあたる。

なので、合作とは言え、週刊連載の作品にがっちりと入り込むことは不可能だったと思われる。逆に、毎週きちんとストーリーを生み出していたことが驚きだ。


藤子不二雄両先生は、常に一作は合作をしていたいという意識があったようで、オバQ以降も、何かしら共著作品を生み出してきた。

しかし物理的に超多忙となった藤子先生に、共作の余裕が無くなってしまった。「仙べえ」は、そうした限界ギリギリのタイミングで奇跡的に成立できた最後の合作なのである。


以下、本稿では全20話のいくつかを抜粋してポイントだけ記しておく。そう、個人的な備忘録である・・!

『仙べえ登場!!』(1971年37号)

「仙べえ」の設定が明らかとなる回。峯野家は、他の藤子マンガと異なり、裕福な家庭である。スネ夫のように金持ちぶりを見せて、友人に面倒くさがられている。モヤ夫には姉もいる。田舎の山林を住宅公団に買い上げられたので、小金持ちとなって家を建てたことも明らかとなる。

急に現れて、強引に住むついてしまう仙べえ。警察を呼ぼうかと思ったところで、父親が「あの人はここに住む権利がある」と慌てだす・・。

と、いいところで、第二回に続く。


『仙べえのおいたちは・・・?』

第一話からの続き。この回でも、仙べえの事実が判明していく。明治7年に撮影した写真が見つかる。そこには若かりし頃の仙べえの姿。当時10歳で「仙人になる」と家を出てそれっきり行方不明だったという。

世捨て人だったので、ネコから世の移り変わりを情報収集。初めてみたテレビを「神通鏡」だと言い張り、自分が住んでいた洞窟を映し出すと。。そこはダムの底。故郷がダムに沈んでしまうという設定は、藤子F先生っぽいアイディアである。

さらに仙人として未熟であることも判明。特に見物人がいると、いいとこを見せようとして失敗してしまうのだという。仙人らしからぬ俗っぽい悩みが秀逸である。


『クーラー大騒動』

仙術の世界では、クーラーは「妙気筒」と言って大気を熱くも寒くもできるという。そこで、真夏なのにクーラーから熱風が出るようにしてしまう。そこへモヤ夫のガールフレンド、竹子さんが遊びにやってくる。

この竹子さんは、可愛い女の子ながら強気で、それほど性格はよくない感じ。竹子に涼しくなる暗示を掛けて家に招き入れる。仙べえを紹介されて、バッグの中を透視させるのだが、それに対する仙べえの答えは、

「ピンクの花もようのレースつき・・」

とパンツを見られてしまうのであった。この透視ネタは、この後も何度も登場する。


『ペットちゃん大あばれ!』

いじめっ子の出羽口が初登場。


『木の葉換金術Part.1』

モヤ夫は、出羽口と学校の裏山で決闘をすることになり、何とか仙べえの協力を取りつけるのだが・・。名前だけ登場していたモヤ夫のガールフレンド「静江さん」「千秋さん」の姿が初登場。


『木の葉換金術Part.2』

木の葉をお金に変える術がうまくいかない仙べえ(お金を木の葉に変えることはお手のもの)。術の力を増すと言う月下の夜に訓練するのだが・・。


『台風よ来い!』

風来の術で台風を呼び寄せ、家を壊そうとする仙べえ。うまくいかないので、逆に「無風の術」を使うと、巨大な台風が進路をこちらへと向けてしまう・・。


『面くい鳥もわかってる』

仙べえには久佐米仙人という仙人仲間がいることが判明。久佐米が飼っていた面くい鳥が、仙べえの元へとやってくる。面くい鳥の言うには、久佐米仙人の修行場所が分譲別荘地になって山を降り、子孫の家の屋根裏に住んでいると報告を受ける。

この面くい鳥は、美人を見ると「イカース」と鳴き、普通の顔だとソッポを向き、見るに耐えない顔だと猛然と襲い掛かって突っつくという・・。

姉と母親は「イカース」、竹子はソッポを向かれるのだが・・。ちなみにオチはドラえもんの「めんくいカメラ」と同じである。


『なつかしの久佐米仙人』

仙べえは久佐米仙人に再会するため、大阪へ。通天閣近くの家の屋根裏に住んでおり、内職をして何とか居候させてもらっているという惨めな状況に・・。


『仙べえだらけ』

「山彦の術」で仙べえが大勢現われてしまう。


『死午鬼参上!!』

仙術で呼び寄せた軍長のような鬼、死午鬼。


『愛しの竹子さん』

竹子さんに好かれたいモヤ夫。わざと嫌われるように仙術をかけてもらうが、寄りによって本当に術がかかってしまい、まんまと嫌われてしまう。


『仙べえパーティーに行く』

倍率の高い竹子さんのXマスパーティーに参加できることになったモヤ夫。そして、当然のように付いてきてしまう仙べえが、パーティーを無茶苦茶に。


『さようなら 仙べえ』

涙無くしては読めない感動的な最終回なのだが、いずれ予定している「最終回特集」で詳しく紹介する。


F先生のよくまとまっているアイディアと、勢いのあるA先生のタッチが、うまいこと調和した作品となっている。

本作を最後に「合作」は終了してしまうのだが、最後にこのような傑作が生みだされたことは、もっと世間に知ってもらいたい



藤子不二雄作品の考察やっています。


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