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フニャコ先生、コンビを結成する『わが友「有名人」』/フニャコフニャオを探せ④

数多ある藤子F作品の中から、作者の分身(?)であるフニャコフニャオを探していく大型企画「フニャコフニャオを探せ」の4本目の記事である!

これまで、フニャコフニャオ先生が登場したエピソード4本を紹介した。この4本は2本ずつ対になっているお話であると解説した。

「ドラえもん」『まんが家』
「新オバケのQ太郎」『天才教育』
→ 将来何になるか考えて、漫画家を目指すことになるお話
「ドラえもん」『あやうし!ライオン仮面』
「バケルくん」『ファイターZ』
→ 次号の続きを書けなくなるフニャコ先生の苦闘

漫画がテーマとなる作品では、フニャコ先生登場の頻度は高い模様である。詳しいことは下記の記事にて・・。


さて本稿では。現在僕が確認できている中で、フニャコフニャオが最も古くに登場したエピソードを見ていく。

「パーマン」『わが友「有名人」』
「小学四年生」1967年8月号/大全集4巻

本作の主役はコピーロボット。みつ夫がコピーロボットを使って有名人をコピーして、自分の友だちだと言って自慢していくお話である。

「パーマン」は日常における他愛のない一コマを描くギャグ篇と、敵と対決したり、事件を解決するヒーロー篇に分類できるが、コピーロボットを使ったドタバタものは、ほとんどが前者である。

コピーロボットの特色を書いた記事はこちら。本作についても、既に若干触れている。


お話は野球でみつ夫が三振するところから始まる。チャンスを潰してしまったみつ夫は、カバ夫たちに「みつ夫じゃなくてパーマンがいてくれたらな」と嫌味を言われ、「仕方がないパーマンを呼んでくる」と言って立ち上がると、敵チームから「パーマンを出すなら試合を止めるぞ」とけん制される。

「相手が普通の人間なら誰でも負かせてやる」と言われたので、「巨神軍の玉選手でも負かすか」と言い返すと、「三振に取ってやる」と反論。玉選手が本当に来るわけがないと高を括っているのである。

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みつ夫は「じゃ連れてくる」と言って、家へと戻る。そしてコピーロボットを持ち出して、玉選手の家へと向かう。なぜプロ野球選手の自宅を知っているかは不明だが、玉選手は自宅の庭でユニフォームを着て素振りをしている。

玉選手の外見は、ヒネリもなく、ずばり巨人軍の王貞治選手。王選手は1962年から13年間連続でリーグホームラン王を続けた球界最高峰の名打者である。若い方には監督しての顔の方が有名かもしれない。1964年には日本記録となる55号のホームランを放った、世界のホームラン王である。

本作が発表された60年代後半は、子供が好きな3傑を表現する流行語として、巨人・大鵬・卵焼きと言われた時代。その中心にいた選手が王貞治なのであった。


パーマンは玉選手にコピーの鼻を押させて、玉選手の身代わりのでき上がり。みつ夫の友だちとして、玉選手のコピーを野球の試合に連れて行くと、カバ夫たちも相手チームも大騒ぎとなる。

憧れの玉選手にボールを投げる少年は夢心地。チョンと軽やかな一本足打法でホームランされると、「光栄だ」と言って感極まる。勝ったカバオたちも大喜びだが、負けたチームも大満足して試合は終了となるのであった。

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カバ夫やサブに「玉選手が知り合いとは驚いた」と感心されたので、いい気になったみつ夫は「たいていの有名人なら知っているね。誰か会いたい人があったら言いたまえ」と調子に乗る。

すると早速、カバ夫が家へとやってきて、プロレスラーの加馬選手に是非会いたいとお願いしてくる。みつ夫は「ああ僕の古い友だちだよ」と嘘自慢する。

みつ夫はカバ夫の依頼に応えるべく家を出ると、みっちゃんが走ってきて「あなた顔が広いんですってね」と嬉しいことを言ってくる。「まあね」と得意顔のみつ夫。


みっちゃんが会いたい人は少女スターの星野スミレだという。スミレちゃんは、ご存じパー子の正体だが、「旧パーマン」(1960年代連載のパーマン)ではその真相は読者に明かされていなかった。

ちなみに「少女スターの星野スミレ」という言い方は、本作の一カ月前に発表されたスミレ初登場回『女の戦い』でも同様の表現をされている。そのあたりのことは下記の記事に詳しい。


スミレに会いたいとみっちゃんに言われたみつ夫は、「ああ、僕の仲良しの。僕が来いって言えば飛んでくるよ」と調子に乗り、

「こないだも一緒に食事してね、モリソバ奢ってやったよ」

と、すぐにバレそうな嘘をつく。なぜモリソバと言ったのか・・。どうせご飯を奢ってあげるのなら、もう少し豪勢な食事にしたらどうだろうか。

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みつ夫は、「僕もファンだ」と言って、カバ夫の依頼をすっ飛ばして、スミレちゃんの自宅へと向かう。スミレ宅は都心とは思えない大豪邸で、枯山水のような庭や広いプールもある。しかも家では女中が出迎えてくれる。

星野家はもともと資産家だったのか、スミレちゃんの稼ぎで家を買ったのかは不明である。

スミレは家ではなく、公園で写真撮影をしているとのこと。早速向かうと、ファンたちに取り囲まれて、サイン攻めにあっている。コピーのボタンを押してもらおうとするのだが、間違えてファンの子をコピーにしてしまい、みっちゃんをガッカリさせる。

本作はここから、みっちゃんがスミレちゃんに会いたいと言い続けて、それが全く叶わないという筋立てとなっている。

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カバ夫に「プロレスラーの加馬を待っている」と、せっつかれて先にこちらを満足させると、再びスミレちゃんが撮影している公園へと向かう。

ちなみに加馬選手は、ジャイアント馬場がモデルだろう。ジャイアント馬場は、奇しくも王貞治選手同様、巨人軍のプロ野球選手だったが、あまり活躍できずにプロレスラーに転身。日本人離れしたスケールの大きいレスラーとしてすぐに頭角を現し、本作が発表されたあたりではもう一人のスター、アントニオ猪木とタッグを組んで人気を博し、BI砲などと呼ばれていた。

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公園では星野スミレが引き続き写真撮影をしていて、ちょうどニッコリ片手を上げたポーズ中だったので、その指先を利用してコピーのボタンを押させる。

みっちゃんの家に連れていくのだが、呼び出している間にスミレちゃん大ファンの三重晴に見つかり、しかも鼻を押されてロボットに戻ってしまう。みよちゃんはまだスミレに会えない。


今度こそスミレちゃんと思っていると、妹のガン子に見つかってしまい、漫画家のフニャコフニャオに会いたいと要望される。フニャコ先生の名前が初めて登場したシーンである。

ガン子は「私だけの漫画を描いてもらう」と強欲ぶりを見せる。そしてテストの0点を取ったことをママにばらすと脅して、またもスミレちゃんは後回し。

フニャコ先生の家に行くと、編集者に締め切りが過ぎていると急かされているフニャコフニャオが、Fワールドで初めて姿を見せる。風貌はF先生とA先生を組み合わせたもの。ベレー帽とパイプと背格好がF先生で、表情はA先生という感じだろうか。

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本作当時は、藤子不二雄は「二人で一人のコンビ漫画家」として知られ、子供たちは二人が一緒に手分けして作品を描いていると信じ込んでいた。よくA先生が「ドラえもん」書いてくれと子供たちにせがまれて、下手くそな絵を描いていたという逸話がある。

本作のフニャコフニャオは、そうした藤子不二雄完全合作の一般的イメージ通りの風貌に設定されているように思われる。

パーマンはフニャコフニャオにコピーの鼻を押してもらう。すると当然ながらフニャコ先生がもう一人現れることになり、編集者もビックリ。そして、

「天の助けだ、こっちの先生にも書いてもらう」

と言って、コピーのフニャコ先生を捕まえる。そして二人のフニャコフニャオで作業開始。するとコピーのフニャコは「漫画家ってやってみると面白いね」と満足気。

「これからもズーッと合作しないか」

と本物のフニャコと意気投合。図らずもコンビ作家フニャコフニャオの誕生なのである。

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本作で初登場したフニャコフニャオは、いつも締め切りに追われている自らの分身として、今後何度も藤子作品の中で登場していく。常に忙しかった藤子F先生のもう一人の自分が欲しいという望みが、本作のアイディアに繋がっていったのではないかと推察されるのである。


フニャコフニャオ特集は、もう少し続きます。


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