無人星でサバイブ!『宇宙冒険児』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉘
「藤子F初期作品をぜーんぶ紹介」シリーズでは、今でも読むことのできる藤子F作品をデビュー作から、片っ端に解説していくという貴重な(?)試みに挑戦中。
富山での投稿生活から、上京してトキワ荘に住み、原稿を大量に落とす事件を潜り抜けながら、少しずつ実力を蓄えている様を、ほぼ時系列に沿って紹介している。
前回までの記事で1957年までの作品をほぼ紹介し終えた。本稿からは1958年、藤子F先生24歳の作品を取り上げていく。なお、藤子先生は1960年頃からは連載漫画中心となるので、いよいよこのシリーズも先が見えてきた。
初期の短編量産時代では、藤子先生はいくつかのジャンルを描き分けている。それが、
編集者からの発注に応える形ではあるが、実に幅広いジャンルを手掛けている。
特に①少年向け科学冒険SFの作品群は、手塚治虫先生の影響を色濃く受けているが、その後の藤子作品ではあまり描かれないジャンル。僕としてはかなり貴重な作品的位置づけだと認識している。
本作はそんな①少年向け科学冒険SFジャンルのど真ん中となる作品である。
舞台は月と地球の往来が活発になっている未来。月から地球に向かうロケット・ロビンソン号が事故を起こし、乗客だったフミオとヒデオ、宇宙探検家クラーク博士、そして一人の男の4人がロケットに取り残される。そして未知の星に流れ着き、サバイバルをすることになる・・・というお話。
この時期の作品は章立てになっているので、まずはそれをまとめてみよう。総ページ数は扉絵入れて48ページとなっている。
それでは、簡単に各章のストーリーを追ってみよう。
オープニングとなる章で、今後の冒険を予期させる導入篇となっている。
主人公は月に半年間旅行していた少年の二人組、フミオとヒデオ。子供だけで半年間も旅をするというあり得ない状況だが、不思議と疑問を抱かずに読み進めることができる。
二人は月と地球の定期ロケットであるロビンソン号に乗り込んでいる。ロケットの中では「まるで船にでも乗っているようですな」という会話が出てきて、科学の進歩が急速に進んでいることが伺える。
ヒデオがロケットの深部から妙なうなり声が聞こえるということで、フミオと一緒に音源に近づいていく。すると扉があり、その前に一人の男が立っている。この男、重要人物なのに作中で名前が出てこないので、「男」として進めていく。
男は扉の奥のうなり声は、未知なる生物だと見抜き、フミオに扉を開けようとするのだが、取っ手が通電してるようで、ビリビリッと感電して気絶してしまう。
すると「そこへ開けてはいかん」と言って、老男性が現れる。この男性は扉の奥の怪物の存在を認めるが、開ければ大変なことになると告げる。
続けて第二章では、事件が発生する。
老男性は、宇宙探検家のクラーク博士で、40年ぶりに地球に帰るのだという。出発の時は27歳だったので今は67歳ということになる。冒険に一区切りをつけての帰還であるらしい。
するとロケットに異変が起こる。第一章に登場した男が扉を開けたようで、怪物が出てきて警備隊と交戦状態になってしまう。警備隊は苦戦して思わず爆弾を投げ込み、ロケットに穴が開く。
乗客たちは宇宙服を着て宇宙ボートで次々脱出していくのだが、少年二人とクラーク博士は取り残されてしまう・・。
なお、この章ではまだ怪物の姿を敢えて見せていない。
ロビンソン号に残された三人。そして怪物を逃がした男も気絶して倒れている。ロケットは地球から遠ざかっていく。博士によると今回暴れた怪物は、ヒドラ星を探検した時に捕まえた生物であるという。博士は怪物を乗せたことを後悔する。
本作におけるヒドラ星のモデルはどこかはわからない。余談ながら、2005年に発見された冥王星の衛星にヒドラという名前が付けられた。
ロビンソン号は宇宙の漂流を続け、見たことのないガスの厚い星に不時着する。気温・気圧などは地球とさほど変わらない。
フミオと男で食料を探し、食べられそうなものを集めてくる。博士とヒデオでエンジンを調べるが、人間一人を乗せるので精いっぱいの予備エンジンが一つだけ生き残っている。
男は自分だけ逃げようとするのだが、ロケットに隠れていたヒドラ星の怪物に襲われてしまう。ロケットには近づけず、この星で暮らしていかなくてはならない・・。
怪物の触手のようなものがここで初めて描かれるが、まだ全体像を見せない。
木を組み立てて家を作る4人。するとヒデオが突然苦しんで倒れてしまう。酸素ボンベの酸素が無くなってしまったのだ。残る三人の酸素もあとわずか。もうすぐみんな死んでしまうが、先着順にお葬式をしようということになる。
ヒデオのマスクを外し、地面を掘って横たえる。安らかに眠れと祈り、フミオが泣きながら土を被せる。・・・すると土を顔面に浴びたヒデオが、ペッペッと言って起き上がる。
なんてことはない、この星には地球同様の酸素で満ちていたのである。夜になって、いつしか空の厚い雲は晴れている。きれいな夜空にうっとりしていると、ム~ンム~ンと怪物の鳴き声が聞こえてくる。この星を歩き回っているのだろうか。
本作のクライマックス章。初期の藤子作品では、最終章で一気に物語が展開することが多く、それまではあくまでクライマックスまでの序章に過ぎない。
星での生活が始まる。昼は食べ物や薪を集め、時々探検旅行をする。野球場やプールを作り、「宇宙オリンピック」を開く。何だか楽しい暮らしのように思える。
しかし夜になると、地球を懐かしんで、夢を見るのであった。
フミオがあるアイディアを思いつく。ロケットから無電機を持ち出して、地球に助けを求めようというのである。しかしロケットには怪物がいる。危険覚悟で、ヒデオとロケットを目指す。
遠くから見ると、ロケットには怪物の姿が見えない。ここがチャンスとばかりに、フミオはロケットの中へと入っていき、ヒデオは外で見張りに立つ。無事に無電機を確保するが、あたりは嵐になっている。
強風の中森の家に戻るが、途中怪物の足を引き摺った後が、家の方向へと続いている。そして家に戻ると、博士と男の姿がない。怪物にやられてしまったのだろうか。
ムーンムーンという化け物のうめき声が聞こえ、その先に二人は向かうと、岩場の影から怪物が姿を見せる。ついに全身が明らかになった怪物は、巨大な蜘蛛の生き物で、何本もの長い脚で攻撃してくる。
逃げながらフミオが機銃を打ち込むと、ダダンと爆発し、怪物を見事撃退。この大きさの鉄砲で死ぬわけがない・・・と思っていると、後方から戦車が現れる。
怪物は戦車のロケット砲で退治したのであった。そして戦車から博士が飛び出してくる。なんと星に探検隊がたどり着いたというのである。
そして急転直下、探検隊の大きなロケットでこの星を脱出。地球に無事帰還を果たすのであった。
本作の最大の見所は、不時着した星での暮らしの部分だろう。怪物の存在が緊張感をもたらす一方で、スポーツをしたり探検したりという楽しい一面も描いている。
壮絶になりがちなサバイバルを、実に生き生きと前向きに描くさまは、藤子F先生が少年期から熟読していた少年冒険小説を彷彿とさせる。
地球に帰れるぞ、とわかったところからたった一頁で地球にたどり着いてしまうラストの展開の早さも特徴的だが、これはあくまで無人星での冒険がメインとしていることの現われでもある。
貴重な初期作品を紹介しています。
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