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デンカ(10才)のお妃探し『シンデレラのゲタ』/ウメ星デンカとナラ子の場合①

藤子作品の中で最も過少評価されているのではないかと思うベスト1は、「ウメ星デンカ」である。

連載期間が一年ちょっとと短く、大ヒット作だった「パーマン」と「ドラえもん」の間で描かれたことから、あまり目立ってもいない。てんとう虫コミックスも全3巻しか刊行されてない。

しかしながら学年誌6誌で同時連載され、「週刊少年サンデー」でも約半年掲載された。全133話発表されているが、これはきちんとしたページ数のある作品では、「ドラえもん」「オバQ」「パーマン」に次ぐ4番目の多さとなっている。半年間だったが、テレビアニメ化もされている。

さらにキャラクターが魅力的である。デンカを始め、国王・王妃・侍従のベニショーガに、召使ロボットとしてゴンスケも登場する。異世界の住人が平凡な家庭にやってくるという藤子F先生お得意のパターンの中で、「ドラえもん」にも引き継がれる「ひみつ道具」が使用される構成となっている。

つまり、他の藤子作品と全く引けをとらない作品なのである。


しかしながら、僕のnoteでは「ウメ星デンカ」はこれまで9本の記事を書いてきたが、これが残念なことに、ビュー数の伸びが極めて鈍い。現時点で平均値を上回る記事は一つもないことから、検索エンジンから飛んでくる方が少ないのだろうと想像できる。

そんな世間一般の注目の当たりずらい「ウメ星デンカ」なのだが、ここで果敢に記事化をしていくのが、藤子Fノートなのである! そして今回は、「ウメ星デンカ」の中でも知る人ぞ知る、というかほとんど知られていないキャラクターについて掘り下げていく。

そのキャラクターについては、これから数本の記事の中でじっくりと紹介していくが、デンカの将来の筆頭お妃候補であり、二人の恋路(?)も描かれている。すなわち、恋愛エピソードと言っても良い。

この企画については、当初は「藤子恋愛物語」シリーズの中で記事化を考えていたのが、とても1~2本では魅力を語り切れないということで、単独シリーズとさせてもらった。

ビュー数が伸びないことは覚悟の上。けれど、紹介するべき作品やキャラクターは、しっかりと掘り下げて、文章に落とし込んでおくべきと、考えたのである。


『シンデレラのゲタ』
「週刊少年サンデー」1969年10号/大全集3巻

さて、前講釈が長引いてしまったが、今回取り上げるキャラクターは、「ウメ星デンカ」の超パワフルキャラのナラ子である。「週刊少年サンデー」などに全7話のみ登場するレアキャラでもある。

ナラ子はデンカたちの侍従であるベニショーガの娘で、普段はプロキシマ星に母親と共に住んでいるのだが、今回フラッと地球に遊びに来たという。この設定から、ベニショーガは地球に単身赴任をしていることがわかる。

自分のことを「ぼく」と呼ぶおかっぱ姿の女の子で、強引かつ天邪鬼な性格で、デンカは初対面で「これ女の子?」と思わず聞いてしまう程のガサツさを見せる。

しかしながら、ナラ子も中身はまだ小さな女の子で、色々と思うこともあるようだが、それについては今後の記事で明らかにしていきたい。

ちなみにナラ子というネーミングだが、勘の良い人はすぐに気づいたと思うが、「奈良漬け」から取られている。「ウメ星デンカ」では、梅干し・紅生姜・福神漬けなどと、お漬物から転化させたキャラクター名となっているのだ。

本作はナラ子初登場のお話となる。最後まで正体を隠したままの構成なので、本作ではナラ子の活躍を見ることはできないが、見所満載のお話でもあるので、まずはここから始めてみたい。


デンカたちが居候することになる中村家には、太郎という少年がいる。太郎のガールフレンドはみよちゃんという子だが、単純にしずちゃん的なヒロインではない。

これもいずれ記事化せねばならないが、みよちゃんと太郎の間には恋バナみたいなものはほとんど描かれず、専らロボットのゴンスケがみよちゃんのことを好きになってしまう。

そんなみよちゃんが、ここのところベニショーガに監視されていることに気がつき、デンカと太郎に抗議をしてくる。「いやらしいじいさんだ」ということで、注意に向かう二人。

一方のベニショーガはみよちゃんの写真を王様と王妃に見せて、「デンカの婚約者候補として調査をしている」と報告している。デンカはまだ10歳、気が早すぎると王様たちは反応するが、ベニショーガは二人に対していつ婚約したかを問う。

すると王様が8歳で王妃は5歳の春だと言う。何とも早熟な二人だが、ここからしばし二人は初対面でお互いに一目惚れをしたことを回想し、愛を確かめ合う

改めてベイショーガにみよちゃんの調査報告を聞くと、本人はなかなか良いものの、家柄が今一つという。「せめて元男爵くらいでないと・・」と時代錯誤なベニショーガなのであった。


そこにデンカと太郎が帰ってくる。婚約の話をしていると聞いたデンカは「コンニャク」と聞き間違う。「差し当たりガールフレンドと考えてくれ」と言われるが、まだ10歳の子供であるデンカは、「そんなものよりグローブを買って欲しい」とねだる。グローブを持っていないからと野球の仲間に入れてもらえなかったからである。

ねだられた王様は「グローブは高いぞよ。婚約者で我慢しなさい」と頓珍漢な返答。かつての王族も今はただの居候生活なので、グローブを買うお金がないのである。

なにはともあれ、みよちゃんに興味なしと判断したベニショーガは、広く候補者を集める手立てを研究すると言って、部屋から飛び出していく。今回のテーマは、デンカのお妃候補探しというわけである。


さて、ベニショーガは真っ先に目をつけたのが「シンデレラ」。ベニショーガは絵本を手に、地球の書物と呼んでいたが、シンデレラを参考に舞踏会を開いて、お妃候補を募ろうというわけである。

なお、本作で挿入される「シンデレラ」の場面は明らかに藤子F先生のタッチと異なる少女漫画風であるが、こちらを描いたのは当時のアシスタントの志村みどり氏。「ドラえもん」の白ゆりの女の子を描いたことで知られる方である。

本作が収録されている藤子・F・不二雄大全集の「ウメ星デンカ」3巻の巻末解説に志村さんのミニインタビューがあって、かなり興味深いお話が語られているので、こちらもチェックをオススメしたい。


王様と王妃も「いい話だぞよ」と賛同し、王様が会場探し、ベニショーガが候補者を集めることにする。途中ベニショーガが、みよちゃんとすれ違い、つけ回していることに抗議を受けるのだが、「お気の毒だがあなたは失格です。縁が無かったのですな」と相手にしない。

一方の王様は、デンカが野球をやっていた空き地近くの倉庫から、スッパッパという超能力で、荷物を次々と窓の外に飛ばしている。倉庫の様子を見にきたデンカだったが、飛んで火に入るなんとやらで、無理やりに貴族の服を着せられて大舞踏会に参加させられてしまう。


ベニショーガは「星の王子さまが出席するパーティ」という触れ込みで、町の女の子たちを次々とナンパする。サン・テグジュペリの王子様をイメージした、4名の候補者がパーティ会場(倉庫)へと集ってくる。

しかしデンカの姿を見て、一斉に失望する。「ハンサムというよりヘンサムだ」などと捨て台詞を吐いて4人はさっさと姿を消す。「地球ではデンカはモテませんな」とベニショーガ。完全にもらい事故で傷つくデンカなのである。


ところが全身を布で覆っている謎の女の子が一人残っている。ベニショーガは声を掛けた記憶はなく、顔を見せてくれとお願いすると「いやあよーだ、イー」と子供じみた拒否。「しつけがよろしくないようで」とベニショーガは語るが、これはオチへと繋がる伏線セリフである。

かくして二人だけの舞踏会が行われる。覆面の少女は「可哀想だから残ってやったんだよ」とかなり言葉遣いが悪い。デンカは嫌々舞踏に付き合いつつ、「こっちこそいい迷惑だい」と憤慨する。

デンカからすれば、全く興味のないお妃候補探しに付き合わされ、さらにヘンサムだの、仕方なく残ってやっただのと悪口を聞かされる始末。それは不機嫌にもなろうものである。


ここで勝手に使っていた倉庫の管理人が抗議に現れる。たまらず窓から逃げ出すデンカたち。倉庫の中に入ってきた管理人は、中がスッカラカンなのに驚き、残されたゲタを見つけて、これを落としたヤツが犯人だと確信し、警察に通報する。

このゲタは王様の履いていたものだが、あたかもシンデレラのガラスの靴のように重要な手がかりとなり、警察に王様たちは咎められてしまう。「履物が証拠になるとはシンデレラそっくりだぞよ」とはしゃぐ王様・・・。

倉庫にみんなで戻ると、いつの間にか外へと積んでおいた荷物が倉庫内に収められている。誰かが好意で戻してくれたようだ。

すると覆面をすっぽり被っていた女の子が、「バー、ぼくだよ」と言って姿を見せる。すかさずベニショーガに抱きついてくるのだが、彼女こそベニショーガの一人娘のナラ子なのである。

この時点では詳細が明らかではないが、ナラ子は普段はプロシキマ星という星で母親と暮らしているよう。「仲良くしようぜ」とデンカを豪快に突き飛ばすナラ子に、デンカは思わず「これ女の子?」と疑問を唱えるのであった。


なお、プロシキマ星というのは、最も地球から近いとされるケンタウロス座のプロキシマ星のモジリと思われる。ちなみにパーマンが留学に向かったスーパー星(バード星)はプロキシマ星だと明言されており、もしかすると、ナラ子はウメ星が爆発後、スーパー星に身を置いているのかもしれない。


さて、まだまだ何者かよくわからないナラ子。既に強烈キャラの片鱗は見せているが、この先さらに突飛な言動で、周囲(主にデンカ)を翻弄していく。次回、ナラ子が主役のお話を見ていきたい。



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