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オバケ5人でお芝居すると・・『大あばれ人魚姫』/藤子Fの演劇しよう⑤

子供たちをメインの読者としている藤子作品では、子供たちの身近な世界が少し不思議に描かれる。その中で、演劇やお芝居についてのエピソードが数多く発表されている。

子供たちにとって「演劇」は、実は毎年の学芸会で取り組む身近な話題であって、藤子先生はそこにきちんと目を向けているのである。

そういうことで、「藤子Fの演劇しよう」と題したシリーズ記事を続けているが、本稿はその第五弾となる。


これまで様々な作品からお芝居ものを選んで紹介してきたが、本稿では「オバQ」のオバケ仲間たちでお芝居を作ることになる、何とも楽しい作品があるので、こちらをたっぷりと見ていくことにしたい。

なお、「オバケのQ太郎」は60年代の「旧」で一度お芝居ものを描いており、既に記事化しているので併せてお読みくださいませ。


「新オバケのQ太郎」『大あばれ人魚姫』(なんにでもばけちゃうよの巻)
「小学六年生」1971年11月号/大全集3巻

子供たちは学芸会の劇では、舞台に立って役者をやりたくて仕方がないもの。

ところが意に反して裏方となっていた正ちゃんは、同じような思いの友だちを集めて劇団を作ったという。

何でも仲間に入りたいQちゃんは、「僕も出るよ」と申し出るが、「オバケが出たら怪談になっちゃう」と笑われてしまう。

ちなみに前回記事にした『ぼくが主役だ』でも、同じような始まり方をして、劇の仲間に入れろとQちゃんがゴネて、参加することでグチャグチャとなったお話である。

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バカにされたQ太郎は、O次郎、P子、ドロンパ、U子を「重大な話がある」と言って呼び出す。珍しくオバケ全員集合である。

Q太郎は正ちゃんたちにバカにされたことを共有し、悔しいのでみんなで化けて出てやろうと提案する。ドロンパは、それはくだらない、こっちも芝居で対抗しようと皆に持ち掛ける。

オバケには化ける力がある。これを利用して、本格的な芝居をする劇団を作ろうというのである。確かに、これは面白いアイディアである。


ドロンパの家(神成家)に5人集い、まずは演目を決めることに。出てきたアイディアは・・

・ドロンパ→「ジョージ・ワシントン伝」
・U子→柔道もの「姿三四郎」
・Q太郎→「ウルトラ仮面」
・O次郎→「バケラッタ(桃太郎)」

ワイワイガヤガヤと意見はまとまりそうもないが、P子が意見を求められ「人魚姫はどうか」と提案する。悪くないか・・という皆の反応を得て、演目は「人魚姫」に決定

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次は配役(キャスティング)である。主役に名乗り出るQ太郎だが、人魚姫に化けられず却下。先に王子を決めようとするが、ここでもQちゃんが手を挙げて、またもワイワイガヤガヤと始まってしまう。

すると今度はO次郎がクジを作ってきて、これで公平に決めようということになる。その結果は・・・

・人魚姫→U子
・姉人魚→ドロンパ
・王子→Q太郎
・魔法使い→O次郎
・王女→P子

あまり重要ではない役を引き当てたドロンパだけが苦い顔をする。

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さて、いよいよストーリーを演じていく。

第一幕・第一場、海底。
雰囲気を出すため、魚に化けて泳ぐオバケたち。ドロンパはこれでもかと目立った模様の魚に化けて泳ぐ(空を飛ぶ)。唯一化けられないQ太郎は、服の口を縛って提灯アンコウに「変装」する。

さあ、人魚姫がここで登場。U子がドロンと化けると、姫のイメージからは遠い分類不明の魚オバケの姿となる。

みんなの評価は「不気味」「太りすぎ」「シッポがフグで頭がタコ」「ダメラッタ」と散々。U子は腹を立てて、「だから姿三四郎にしようと言ったのに」と、Q太郎を投げ飛ばす。

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P子が参考にしてと絵本を持ってくる。体型はスマートになったが顔がU子のまま。彼女曰く、「主役が自分だと分からなきゃつまらない」とのこと。

ドロンパ(姉人魚)とU子(人魚姫)のやりとりがあって、人魚姫は地上を見に行くことになり、ここで第一幕は終了である。


第二幕は海の上。
王子(Q太郎)が船に乗って現れる。O次郎が船に化けてQ太郎を乗せ、それを見た人魚姫(U子)は、

「まあなんて素敵な・・・不細工な王子様」

と悪口を言う。しかも「私は嘘が付けない」と余計な一言を添えて。


そこに嵐が発生、船が揺れる。王子が海に落ちる段取りだが、Q太郎は「僕は泳げないんだ」と言って揺れ動く船に乗り続けて、船酔いしてしまう。『ぼくが主役だ』でもそうだったが、Q太郎はお芝居なのに、現実世界とごちゃごちゃにしてしまうタチらしい。

人魚姫が船にあがり、「空気投げ」で王子を海へと投げ飛ばす。U子はどうしても柔道がやりたいようである。

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続けて魔女登場のシーン。O次郎が化けるのだが、なぜか桃太郎の姿に。O次郎は「桃太郎」を演じたくて仕方がないのである。

人魚姫はO次郎が化けた魔女に、「足を下さい」とお願いする。すると「バケラッタ」と答える魔女。Q太郎によると、「お前のかわいい声をもらうぞ」と言ったらしい。O次郎はいちいちセリフを通訳しなくてなならないのだ。


人魚姫と王子は仲良く城で暮らす日々。Q太郎が現実と混ざってデレデレしている。ところが、王子は突然隣国の王女と婚約してしまう・・・はず。

現実とお芝居の境界線があいまいなQ太郎は、「僕そんなことしない、U子さんが好きなんだ」と筋書きを無視した発言をして、演出担当のドロンパを怒らせる。

Q太郎はさらに、P子(隣国の王女)は僕の妹だぞ、と発言。わかっていると言いつつ、お芝居と現実が相変わらず分離できないでいる。

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黙ってこのやりとりを聞いていたU子は「姿三四郎をやりたい」と最初の想いがムクムクと頭をもたげて、近づいてきたQ太郎を、「トエーッ」と投げ飛ばしてしまう。

ドロンパは、ムードもあったもんじゃないと、段々やる気を失っていく。そこへ、正ちゃんたちから電話が掛かってくる。参考のためにオバケ劇団を見学にくるという。いわゆる冷やかしである。

完全に皆の中心となったドロンパは、きちんとやらないと恥だと言って、もう一回芝居を立て直す。


ラストシーン。
王子が結婚したので、姫は泡となって海に消えなくてはならない。人魚姫の前に、姉人魚が姿を現われ、アドバイスを送る。姫は助かるためには、ナイフで王子を一突きにして返り血を浴びなくてはならない

本当の「人魚姫」では王子を刺すことができなくて、泡となる道を選ぶのだが、U子人魚姫はそのままナイフで王子を突き刺そうとする。さすがに何をするんだと怒るQ太郎に、U子は反撃して首を絞める。

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ここでみんなの堪忍袋の緒が切れる。ヤメラッタとO次郎。

正ちゃんたちがひやかしにやってくる。部屋を覗いてみると、オバケたちはめいめいがやりたかった役に変身して、思い思いが大騒ぎ。P子はふて寝をしている。

「なんの芝居だ、こりゃ?」

と、いつものように混沌としたエンディングを迎えてしまうのであった。

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「オバQ」の持ち味は、一直線にバカが突き進むストーリーにある。特に60年代に連載された「オバケのQ太郎」では、Qちゃんが単独で暴走するお話が多かったのだが、70年代の「新オバケのQ太郎」ではオバケ仲間が集団でオバカな方向へと進んでいく

本作では、5人の主要オバケが総登場して、それぞれの個性を発揮するのだが、あまりに個性的すぎて、一致団結の必要がある「劇団」は、見事に崩壊してしまう。

5人のオバケがそれぞれに見所のある本作は、「新オバQ」の中でもかなり秀逸な一本であるように思う。


オバQ考察、他にもたくさんやっています。


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