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『大宇宙へGO!!』/21エモンと行く宇宙旅行ハンドブック<太陽系外惑星①>

21エモンの夢は宇宙パイロットになって、大宇宙を冒険すること。前回の記事では、夢への第一歩として夏休みを利用した宇宙旅行の道程を追った。

ルートを確認しておくと、地球→月→小惑星群→ケレス→木星(ガニメデ)と最初の月へのロケット代以外は、見事に無銭旅行に成功している。

かなりの珍道中だったが、旅の話を聞いたガールフレンドのルナから感激され、21エモンは「次は小型ロケットを買って太陽系の外へと旅立つのだ」と大きな目標を持つのだった。

その後、ゴンスケの錬金術を利用して小型ロケットを買わせて、再びモンガーとゴンスケと共に宇宙旅行へと旅立つことになる。まずは出発前夜の様子を少し見てみよう。


『大宇宙へGO!!』「週刊少年サンデー」1968年47号

まずは、毎度のことだが、パパは猛反対。その理由が、複雑な親心によるものであった。少し長いが引用する。

「わしが恐れているのは・・・あの子が宇宙の魅力に取りつかれることだ。宇宙のパイロットを一生の仕事にしたいと言い出したらどうする? ホテルの跡取りなんか嫌だと言い出したらどうする? つづれ屋はわしの代で消えてしまうんだぞ! 四百五十年の歴史を誇るつづれ屋がつぶれるんだぞ」

パパは歴史ある稼業を息子に引き継がねばならないという使命感を強く持っているのだ。

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一方、ロケットのスポンサーであるゴンスケは、その立場を利用してわがまま三昧。何かといえば「別のパイロットを雇う」などと言い出して21エモンを困らせる。

そしてゴンスケは自分の名前を書いた幟(のぼり)をロケットに付けると言い出してモンガーと大喧嘩。あくまで金を出しているのは自分だと主張する。それを聞いた21エモンはついにキレる。

「お前は本当に宇宙に行きたいのか? だったらもう金のことを言うな。お前ひとりでできるような生易しい旅じゃないんだぞ。この3人が力を合わせてやり遂げなくちゃならないんだ。喧嘩なんかしてる暇はないんだ。今後チームワークを乱すようなわがままは、一切許さないからな!」

さすがのゴンスケも「ワカッタダ」と納得する。その様子を見ていた20エモンは息子の成長に感心する。

「あいつ、いつの間にあんなにしっかりしたかな。ついこないだまで赤ん坊だったような気がするのに・・・」

20エモンの感慨は、おそらくF先生自身の経験しただろうリアリティに満ちている。ママは「子供はいつかは自分の足で歩き始めるもの」とパパに語り、ついにパパは「行かせてやるか」と宇宙旅行を認めるのだった。

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『トイレ騒動』「週刊少年サンデー」1968年48号

ついに宇宙へと出発した21エモンたち。飛行は行き先をパンチしたカードを差し込むだけの全自動で、運転などをするわけではない。

ということで暇を持て余し、何をするかで喧嘩が始まってしまう21エモンたち。すると、21エモンは強烈な尿意に気がつき、トイレを探すが船内に見当たらない。何とゴンスケがイモ畑にするために、トイレ装備を外していたのである。

すったもんだで火星に辿り着いて事なきを得たが、前途多難な旅の始まりとなったのだった。

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『ゴンスケ船長』「週刊少年サンデー」1968年49号

冥王星に辿り着く21エモンたち。そこから長距離通話を使ってパパやママに連絡を取るのだが、この料金が5600円掛かってしまう。ゴンスケはここから金の亡者ぶりが復活。

電話料金は払わず(地球払い)、ロケット整備の間のホテル代もケチろうとする。地球で約束したにも関わらず、カネカネとうるさいゴンスケと21エモンはまたも大喧嘩に発展し、21エモンはパイロットのストライキを起こす。

それならばとゴンスケは、いかにも柄の悪い地域に出て、いかにも怪しいパイロットを雇い入れる。21エモンたちに対しては「倉庫でなら連れてってやる」と完全に上から見下すのであった。

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翌日、倉庫に身を隠していた21エモンとモンガー。ロケットが出発したようだが、下手くそな操縦で飛行が全く安定していない。倉庫から出て見ると、ゴンスケが操縦かんを握っている

案の定、夕べ雇った船員は金だけ持って消えてしまったという。ぐちゃぐちゃな飛行の中、21エモンの世話にならないというゴンスケ。ゴンスケが心を入れ替えるまでストライキだと言い張る21エモン。その間で困るモンガー。

ついにゴンスケが「心を入れ替えて素直になる」と謝り、21エモンは「ロケットそうじゅう入門」を読んでロケットを安定させようとするのだった。

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その後もゴンスケはお金に煩い性格は直らないが、ひとまず3人で一致して旅をする体制が整った。そしてここからは、ついに太陽系圏外へと飛び出し、まだ知らぬ星を巡っていくことになる。

F先生の想像力は、ここからが本領発揮となる。


『ノッペラ星の押し売り』「週刊少年サンデー」1968年50号

次の行き先を決める3人。ゴンスケは全財産を騙し取られてすっかり意気消沈。モンガーは故郷であるササヤマ星を主張するが、銀河の果ての星なので遠すぎる。そこでパンチカードを見ないでシャッフルして機械に入れて、行先を偶然に任せることにする。

そしてウォーブ(ワープ)するため超空間へと入っていく。

超空間は何もない空間なのだが、一人その中で浮いている人間、地球人を発見する。男の名はO・シウリという洗面器のセールスマンで、20世紀からの残り物を無銭旅行で売り歩いているのだという。

いつの時代でも売れそうにない商材(洗面器)で、やはり商売はうまくいっていない様子。そこで「オラにはイモも金もない」と嘆いているゴンスケの話し相手となるのだが、次の星で洗面器セールスを二人でやろうと盛り上がったようである。

金儲けの算段がついて元気を取り戻すゴンスケ。カネかイモが必要なのである。

超空間を抜け出し、目的地が「ノッペラ星」だということが明らかとなる。O・シウリはそこは駄目だと大慌て。彼の言うには、ノッペラ星人は

・気難しい
・きちんと挨拶しないとぶっ飛ばされる
・挨拶は相手の顔をなでる
・顔と背中を間違えると大変な失礼になる
・顔を洗わないので、洗面器も売れない

だという。このくらいの特徴なら問題無さそうだが、着いてわかったのは、ノッペラ星人は真ん丸のボールのような形をしていて、どこか頭か背中か見分けがつかないのである。

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そしてさっそく入国管理官の背中を撫でて、遠くまですっ飛ばされる21エモン。早々に撤収しようと21エモンが言い出すが、ゴンスケはあくまで洗面器を売るのだといって町へと飛び出していく。

その間待合室でお茶でも飲もうということで、カフェ店員のノッペラ星人に挨拶をすると、また頭ではない部分を撫でてしまったようで、遥か遠くまでぶっ飛ばされてしまう。

撫でた場所はヘソだったようだが、この星のしきたりでは最高の侮辱にあたり、死刑にされても文句が言えないのだという。怒り狂ったノッペラ星人に追いかけられ、たまらずロケットへ逃げ込む21エモンたち。

ゴンスケもギリギリ合流してくるが、なんと洗面器は完売させたという。ボール状のノッペラ星人に、洗面器を無闇に転がらない地球の椅子だと言って売ったのである。商魂逞しいゴンスケ、次作で再び金の亡者となるのだが・・・。

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「21エモン」の宇宙旅行編では、太陽系外のまだ見ぬ惑星を巡るわけだが、書き手からすれば、自由にアイディアを広げることができる

藤子先生がこのパートで注力していくテーマが二つある。
一つは「価値観の違い」。ノッペラ星では宇宙人の外見もさることながら、挨拶の価値が独特であった。挨拶一つで死刑になり得るという世界観を描き出した。

もう一つのテーマは「SF的な環境」である。地球と全くことなる文明や生活環境を描き出すことになる。

次なる星は、「SF的な環境」がメインテーマのお話だ。


『炎の星』「週刊少年サンデー」1968年51号

次の目的地は「惑星大百科」から面白そうな星を探すことに。目をつけたのは「レイダンボー星」という双子星で、太陽を中心に二つの星が極端な楕円形を軌道する。

大百科によると非常に文明的で人も親切なのだという。しかし大百科のその続きはページが破られてしまって読めない。モンガーが鼻もないのに鼻をかむために破ったのだという・・。

大百科の続きが気になりつつ、レイダンボー星を目指すことに。その間、ゴンスケは洗面器のセールスマンに残っていた食事を高値で売りつけ、セールスマンは去っていく。再び金の亡者となるゴンスケに、21エモンは言葉が出ない。

超空間を抜けてレイダンボー星が見えると、突然星へとロケットが落っこちてしまう。燃料が切れてしまったのだ。


親切な人々の住む文明都市を期待して、町へと繰り出す21エモンたち。ところが町はシーンとして人の気配がない。乗り物も全て空っぽで止まっている。ご飯を食べたいと嘆く21エモンに、ゴンスケは金があるから次の星で買ってやると言い出す。

「金さえあれば何でも買える」とゴンスケは豪語するが、21エモンは燃料切れでこの星から飛び立てないと忠告し、慌てて3人で人を探すことに。ゴンスケは金ならいくらでも払うと言い続けているが、原子力電池が切れかかり動けなくなる。

モンガーの透視でもこの星には誰も見つからない。さらに、気温がぐんぐん上昇していくことに気がつく。太陽が近づいているのである。とても熱さに耐え切れず、耐熱構造のロケットの中へ逃げ込もうとするが、ロケットが着陸していた地面が柔らかくなって海に変化する。

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モンガーのテレポートで宇宙船には逃げ込めたが、海の中へと沈み込んでしまう。すると間一髪、レイダンボー星人たちがロケットで飛んできて、21エモンたちを助けてくれる。

ここで明かされるレイダンボー星の秘密。

・星の軌道は極端な楕円形なので、太陽に近づいたり遠ざかったりする
・レイダンボー星人は暑くないと生きられないので、双子星のうち、太陽に近い方を選んで行ったり来たりしている。

親切なレイダンボー星人から燃料と食料を譲ってもらう21エモンたち。対価が必要だと考えるゴンスケは、お金を払おうとするがレイダンボー星人は受け取らない。ここでゴンスケの名言。

「困るだ! 取引はきちんとしないと、気持ちが悪いだ」

あくまで商売人気質のゴンスケなのであった。


さて、長くなってしまったので、本稿はここまで。
さらにディープな星々を巡り、F先生の文明論が明示されるお話になっていく。


藤子先生のSF考察やっています!


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