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『そして銀河系No.1!!』/21エモンと行く宇宙旅行ハンドブック<太陽系外惑星②>

夏休みを使って木星までの宇宙旅行をやり遂げた21エモンたち。続けて小型ロケットを入手し(スポンサーはゴンスケ)、いよいよ太陽系外の未知なる宇宙へ飛び出していく!

ここまでの道程を簡単に振り返っておく。

・旅行に反対していたパパが息子の成長を願って送り出す
・出発してトイレが取り外されていることに気がつく
冥王星でゴンスケと対立。そして和解?
・超空間で洗面器のセールスマンと出会う
ノッペラ星で価値観の違いを知る
レイダンボー星で特殊な環境を知る

記事はこちら2本。


藤子先生がこの宇宙旅行編で描きたかったことは大きく2点ある。

ひとつが星によって価値観が異なるという点、もうひとつが星によって環境が異なるという点である。ともにSF作家・藤子Fの真骨頂ともいうべき部分で、まさにセンスオブワンダーに溢れている。

「21エモン」は未来のホテルを舞台にした日常系作品として始まったが、宇宙に舞台を移す中で、藤子先生のSF魂に火が付いたと考えている。

具体的に、僕たちが当たり前のように思っている価値観や、当然のように享受している生活環境を、ガラリと一変する世界を描き出してみたいというSF的欲求である。

しかし藤子先生も語られているように、「21エモン」は思っていたようにウケず、連載が終了することになってしまう。せっかく膨らんだSF魂の行き場がなくなってしまったのである。


しかし宇宙に飛び出した21エモンと同じく、F先生のSF熱はもう止められない。「21エモン」が終了して一年内に、意図的に本作を焼き直した「モジャ公」の連載を開始する。そして21エモンとしか思えない見た目の主人公が思わぬ価値観の逆転を経験する『ミノタウルスの皿』の発表するのである。

特に『ミノタウルスの皿』は、これを皮切りに100本以上のSF短編集が執筆されていくきっかけとなった作品で、藤子Fの作家史においても非常に重要な作品だ。

その意味で「21エモン」の宇宙旅行編は、藤子先生のキャリアを大きく転換させる位置づけと考えて良いだろう。


それでは、宇宙旅行の続きを見ていこう。

『ウッシシ密輸団』「週刊少年サンデー」1968年52号

銀河系六大都市の一つ、バカデッカ・シティのホテルの1234号室。21エモンは両親に向けて旅の手紙を書いている。早く町の見物に行きたいゴンスケとモンガーはイライラと待つ、という所から始まる。

21エモンは手紙を書くのに集中し、何度も書き損ねては何を書くか考えあぐねている。その背後では、ウッシシという麻薬の密輸団による取引が行われるが、21エモンは全く気が付かないまま、事件が解決してしまうというようなギャグ篇となっている。

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『銀河系No.2の星』「週刊少年サンデー」1969年1号

次に目指すは銀河系で二番目に科学文明が発達した星・ボタンポン星。ここでは藤子先生が想像しうる、最先端の科学技術が描かれる。

この星では町中に人が出歩いていない。ロボットだらけの世界となっている。着いて早々、ゴンスケがイモ屋の場所をロボットに尋ねると、ショートして壊れてしまう。この星では食料といえば合成食品なので、機械では解決できない難問だったようだ。

ボタンポン星人は体の必要な部分だけを分離させて日常活動を送っている。外出するときは、目と口だけで出歩く。

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彼らは二本足で歩く21エモンを見て「野蛮人」だと蔑む。優れた科学技術を持ったボタンポン星人は、他の星の人間を普段から野蛮人呼ばわりしているのである。

21エモンたちはお土産を探していると、ガイドポール(野蛮人用)が、この星の住民は全ての用事が部屋に座ったままボタンを押すだけで済んでしまうので、商店はいらないと解説する。そして、

「他のみじめな程度の低い科学の遅れた、野蛮な星と違うのです」

と失礼な追い打ちをかけてくるのだった。


退屈な21エモンたちの前にリアルな人間が現われ、動く椅子に乗ってどこかへと移動している。年寄りばかりで全く生気を感じられない退屈そうな人ばかり

21エモンたちも退屈なので、一緒についていくことにする。すると移動中の老人から、この列は0次元に向かっているのだと聞く。はたして、0次元とは何か?

・ボタンポン星では医学が発達し何千年経っても人間が死なない
・2000年も生きれば飽き飽きしてくる
・生きることに飽きた者が入る場所
入ると何もかもきれいさっぱり無くなる

21エモンたちは危うく消されてしまうところであった。

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この0次元が本作最大のポイント。藤子作品では「海の王子」や「UTOPIA」などで存在が消滅してしまう0次元というネタは登場していた。本作では生きることに飽きた人々が自ら0次元に向かうという、恐ろしいアイディアに仕立て上げている。


『そして銀河系No.1!!』「週刊少年サンデー」1969年2号

ボタンポン星人に散々野蛮人呼ばわりされて機嫌を損ねた21エモンは、それならばと銀河系で最も科学技術の発展したボタンチラリ星を次の行き先に決める。

ボタンポン星人ですら野蛮人扱いされ、とても感じが悪いのでもう何百年も行った者がいないのだという。既にバカにされっぱなしの21エモンは、堂々と恥をかいてやると開き直るのであった。

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ボタンチラリ星では人間がもの凄いスピードとパワーで動き回っており、話しかけても止まってもくれない。一方、猿人が人間の言葉を喋り、21エモンたちを野蛮人だと呼んでくる。

21エモンとモンガーは町を目指して、遥か遠くまでテレポートしていくことにし、ゴンスケはジャングルでイモ探しをすることにする。

21エモンたちはマンガ13回分の移動をして町へとたどり着くが、人間は相変わらず相手をしてくれないし、無数にあるボタンをチラリと見ても全く作動しない。


一方のゴンスケはイモを探してあちこちに穴を掘って歩くが、そこに走り回っていた人間が落ちてしまい、拾い上げようとすると猿人たちに止められる。

猿人の長老がゴンスケにボランチラリ星について説明をしてくれる。要点は下記の通り。

・穴に落ちたのは人間ではなくロボットで、自分たちがボタンチラシ星人
・ロボットは先祖が作ったもの
・200年前太陽黒点の異常で電子頭脳が狂って、ボタンが働かずロボットも勝手に走り出した
・人間は長い間機械に何もかも任せていたので、体も頭も弱くなっていた
・何もかも手に負えなくなり、原始時代に逆戻りした

ここでは行き過ぎた機械文明によって人間自身の体力知力が弱体化した世界が描かれている。後の「みきおとミキオ」などでも登場するF先生得意のパターンである。

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ゴンスケは軽くジャンプしただけでもスーパーマン扱いされ、1+2を3と答えて神さまではないかと驚かれる。そして21エモンたちが戻ってきた時にはゴンスケ大明神として崇め奉られていたのだった。


ちなみに本作が描かれた1968年の春に映画「猿の惑星」が公開され、センセーショナルなラストシーンが、映画ファン、SFファンを唸らせた。当然映画ファンの藤子先生が見てないはずがなく、本作にも少なからず影響を与えているものと思われる。


『しあわせの星』「週刊少年サンデー」1969年3号

次の行き先はゴンスケが選ぶことになる。お馴染みの「惑星大百科」を読んでいると巨大イモの産地として有名なデカンショ星を見つけ、ゴンスケは大興奮。「おらはいくだぞ。なぜならイモがそこにあるからだ!」と登山家のようなセリフを吐く。

ただし事典には気になる表記もある。

旅行者は立ち寄らない方が宜しい。なぜならば、旅行者がみんなデカンショ星に住みついてしまうからである。デカンショ星はそれほど居心地の良い星なのだ

不穏で不安な文章であるが、21エモンたちは自分たちの意志があれば住みついたりしないだろう、ということでデカンショ星へ向かうことにする。

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デカンショ星では笑顔で快く出迎えてくれる。ただし皆、人形をおんぶして歩いており、人間が何かをしゃべろうとすると人形がチューという音を立てる。明らかに何か様子がおかしいのである。

ゴンスケは住民にイモのありかを尋ねるともう作ってないという。ゴンスケは諦めきれずどこかへ探しに行ってしまう。

21エモンとモンガーは引き続き散歩をしていると、珍しく悲しそうな顔の人が座っている。その男は小声で「早く帰りなさい」と言ったかと思うと、ここは楽しい星なので「いつまでもいてください」とニコニコしだす。やはり様子がおかしい・・。

すると警官が話しかけてきて、幸運の守り神であるハッピーをただで上げるので是非おんぶするように言う。地球のへのお土産にしようと警官の案内に付いていくと、人形たちが大勢蠢いている


ここで種明かし。人形と思っていたものはハッピーという生物で、人間におぶさって奴隷としてコントロールをしてくるのである。逆らうとチューと脳みそを吸い取ってくるという横暴さ。

モンガーがテレポートしても離れず、悲しい顔するなしゃべるなと命令していくる。そこへ博物館で見つけたという種イモを持ってゴンスケが現れる。21エモンはハッピーに気付かれないように、ゴンスケを逃がそうと試みるがイモで舞い上がったゴンスケには理解してもらえない。

すると、物陰から光線が当てられ、ハッピーたちは眠りについてしまう。現れたのは首なし人間! 後について来いということで追っていくと、首なし男がハッピーについて語り出す。

・ハッピーは殺しても離れない
・もともと他の星の生物だったがデカンショ星征服を企て全住民に取りついて星を占領した
・電波や交通機関を押さえられ、宇宙連合警察の救助要請もできない
・逃れる方法はただ一つ、寝ているうちに電子頭脳を作って神経を繋いだうえで首を切り落とすこと

首切断の手術をしてやろうと言われるが、当然それを断り、何とかしてロケットで脱出を試みることにする。テレポートでロケットに戻り発進しようと思ったところでハッピーたちが目を覚ます。

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ゴンスケ含めて交戦状態となるが、ハッピーはロボットに対しては力が通じず、ゴンスケによって剥がされ、放り投げられる。その瞬間にモンガーがハッピーたちを船外へとテレポートさせる。21エモンは警察に通報し、デカンショ星は救われることになる。


さて旅を続けようとする21エモンたち。ゴンスケはデカンショ星で入手した巨大な種イモを畑へと植える。彼の目的は達成されたのである。するとそのイモはすぐに急成長を始めてどんどん巨大化する。

果たしてこのロケットはどうなってしまうのだろうか??

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と、本稿はここまで。次の行き先はこの宇宙旅行の最後の目的地となる。と同時に「21エモン」の最終回エピソードにもなる。

このFノートでは先々に全てのF作品の「最終回」を一挙大特集することを計画しており、そのタイミングで21エモンの旅の大団円も記事にする予定である。


「21エモン」の考察たくさんやっています!


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