宇宙ロマンたっぷりの快作!『ふしぎなほしのぼうけん』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉜
藤子F先生の初期作品(ここではデビュー作から「海の王子」が始まるまでの短編量産期間の作品を指している)を、片っ端からご紹介をしているシリーズ記事の新作。
早いもので、この記事で32(+2)本目となる。現在はラストスパートとなる1958年の作品群をご紹介中である。
改めて1958年は藤子F先生にとってどんな年であるかを確認すると、藤子先生24歳の年にあたり、主に講談社の学年別学習誌(たのしい〇年生)と「漫画王」の付録において、中編作品を毎月のように発表している。
1957年までは少女漫画も描いていたが、この年は一本も描いておらず、主に幼年向け・少年向けの作品を描いている。ジャンルとしては、世界名作の漫画化、SF冒険もの、時代劇ものがほとんど。
また藤子大全集では読めないが、絵物語「タップタップ」シリーズの挿絵をずっと担当している。(単行本化を望む)
今回この記事を書くにあたって、本作(『ふしぎなほしのぼうけん』)前後の作品ラインナップを見てみると、ほぼ同時期に「火星」を舞台、もしくはテーマとした作品が並んでいることに気がついた。
本作も火星に向かうお話なのだが、他にも『あきおくん火星へ行く』(「たのしい三年生」1958年7月号)、『火星から来た少年』(「漫画王」1958年8月号)と、ちょっとした火星ブームなのである。
さらに、本作の主人公も「あきおくん」で、『あきおくん火星へ行く』と名前も被る。(初期作品ではあきおの名前はちょいちょい登場する)
ただ残念なことに、他の二作品は、大全集未収録の作品であり、内容がどこまで似ているかは確かめることができなかった。こちらも、どうにしかして単行本化して欲しいものである。
さて、本作について詳しく見ていこう。
内容は凄くシンプルで、あきおくん他4人の宇宙パイロットたちが人類初の火星探査に向かう途中、望遠鏡でも見えない小さな真っ黒い星に引き寄せられてしまう、という筋書き。
この謎の星には、謎の生物がいて・・・というハラハラドキドキする冒険譚となっている。
特徴は主人公のパイロットであるあきおとその友人ごろちゃんが、どう見ても小学生(しかも低学年)であること。「なぜ子供?」と思わざるを得ないのだが、子供向け作品の主人公は同年代の子供でなくてはならないという藤子先生の考え方が反映していると考えられる。
この頃の作品は、章立てになっているパターンが多く、本作もそうした形式となっている。各章のタイトルとページ数は以下。
それでは各章の詳細を綴る。
① こうもりのおばけだ
本作のプロローグの部分で、設定と人物の紹介、その後に繋がる不穏当な雰囲気も出している。
世界初の火星探査機が、目的地火星まであと10日。そんな日のお話。
乗組員は全員で5人。
・あきお
・あきおと瓜二つの男の子ごろちゃん、説明がないがあきおの弟かもしれない
・隊長と思しき初老の男性(隊長)
・唯一宇宙パイロットっぽい風貌の男性(リーダー)
・怖がりなうらなり
ビビりのうらなりが、窓の外にコウモリみたいな顔を見たと言って大騒ぎする。宇宙空間に生物が生存できるわけないので、何かの見間違いだと思う他の面々。
少し気分が落ち込んだあきおたちに、リーダーが宇宙遊泳に誘う。宇宙船外に出て、しばし無重力状態を楽しむ。この場面では、子供たち読者に、無重力の楽しさや、不思議さをきちんと描いている。
② まっくろな ほし
宇宙ロケットから煙が出てきたので、船内に戻る三人。突然エンジンが故障したらしい。するとそれでもロケットは動き出す。その先には、望遠鏡でも見えない小さくて黒い星があり、そこに引き寄せられているのである。
③ だれかがぼくらをねらってる
さあ、ここからが本作の本番。黒い星に不時着し、せっかくなので星を探検することに。すると遠くから大きな石が飛んできて、ロケットにぶつかる。何者かが投げてきたのであろうか?
何やら不気味なので、エンジンを修理してこの星から出ようということになる。あきおくんが見張りをすることになり、外へ出ると、向こうの岩陰で何かが動いている。
勇気のあるあきおがサッと走っていくと、誰もいない。ところが、その背後から怪しい手が伸びてくる・・・。
「わあっ」と大きな声が船内にまで聞こえてくる。他のパイロットたちが外へ出ると、あきおの姿がない。明るくなったら、探しに行こう、それまでにロケットを直しておこう、ということになる。
④ でたっ かいぶつが
日が昇る。昨日からお腹が痛いと言っているうらなりを留守番にして、ごろちゃん、隊長、リーダーの三人であきお捜索に出発する。
怖がりのうらなりは、厳重に戸締りをするのだが、何者かがロケットの周囲を取り囲んでいることに気がつく。そして、扉がギギギと動き出す・・・!
と、ここで「はなしはかわって」、他の3人。岩場で鳥のような足跡が続いているのを見つけて、追ってみることに。すると、あきおの手袋が見つかる。つまり、あきおは鳥のような何者かにさらわれたのだろうか。
急いでその先に走っていくと、ドロロンドロロンという太鼓のような不気味な音が聞こえてくる。すると、岩場の上の方に無数のコウモリのような化け物が蠢ているのが見える。
そして、大量のコウモリがこちらに襲い掛かってくる。最初、宇宙空間でうらなりが見たというコウモリは、奴らであったのだ。
何とか走ってロケットまで戻る3人。ところが船内では、うらなりがコウモリのような化け物に捕まってしまっている。そして3人にもガスが吹きかけられ、体が痺れて動けなくなってしまう。
⑤ みずうみの中から
さあ、ここがクライマックス。
コウモリ型の化け物は太鼓を持ってドロロン・・と鳴らしている。それはまるで人食い人種を想起させる。4人は縛られて岩場の奥に連行される。その最深部で、巨岩が扉のように開き、中の洞窟へとさらに連れて行かれる。
するとそこは大きな地底湖。コウモリたちは、湖面に向かってお辞儀をしている。まるで、そこが崇拝の対象であるかのように。そして、サアッとコウモリたちは逃げ出してしまう。
湖の中には、コウモリ人たちも恐れる何者かがいるに違いない・・・。すると湖面が盛り上がり、頭を出したのは、なんと恐竜! いかにも藤子先生っぽいアイディアだが、何とこの恐竜は、ロボットであった。
口を開けて「バア」と姿を見せたのは、あきおと、別の初老の男性。この男が恐竜型のロボットを作った人物であった。隊長は、男の顔を見て、ずっと前に火星探査に出掛けて行方不明となったグロロ博士だとわかる。
グロロ博士もロケットが壊れてこの星に流れ着いていたのだという。そしてコウモリ人たちから身を護るために怪物ロボットを作ったのである。コウモリ人たちは、黒い星に住む宇宙人で、星間引力を利用して空気のない所も飛ぶことができる恐ろしい生物だという。
ということで、こんな星は早く脱出するに限る。恐竜ロボットでコウモリたちを蹴散らし、無事にあきおたちのロケットまで到着。そして星を抜け出すことに成功する。
さあ、再出発。
あきおたち5人と、新たに仲間に加わったケロロ、じゃなかったグロロ博士と共に、人類初の火星探索に乗り出すのであった。
1960年代は宇宙時代の幕開けだったわけだが、1958年に描かれた本作はそんな果てしない宇宙へのロマンを感じさせる、非常に勢いのある良作ではないかと思う。
今読める初期作品を紹介しています。
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