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Qちゃんのドタバタ火の用心『放火魔がくる』/通り魔と放火魔②

子供たちの日常を舞台にした作品が多い藤子F作品では、当然のことながら日常の身近な事件が描かれることが多い。

思いつく限りで挙げていくと・・

誘拐・強盗・押し売り・通り魔・放火・泥棒・ピストル・ライオン逃亡・・。

藤子ワールドは事件てんこ盛りなのである。


さて、この数ある事件・犯罪ものの中から、「通り魔と放火魔」と題して、4作品をまとめて紹介していくシリーズ。本稿はその第二弾。

前稿では、「通り魔事件」の代表作である「パーマン」の『通り魔は二度と出ない』を考察した。この作品に影響を与えたと思われる実際の通り魔事件(未解決)を紹介し、少年犯罪をどのように取り締まるかというテーマにも踏み込んでいた点を明らかにした。

我ながら良い記事に仕上がったので、是非ご一読のほど。


さて本稿では、「放火魔」をテーマとした作品を見ていく。ただ、こちらは感動的なドラマとは縁遠い、非常にナンセンスなバカ話となっている。事件を笑い飛ばす方向性の作品である。

「オバケのQ太郎」『放火魔がくる』
「週刊少年サンデー」1966年49号/大全集5巻

まずは「放火」事件が、今どのようなことになっているのか、様々なデータから検証してみたい。

我が国は、木造建築が主体であったから、江戸時代の頃から放火については非常に重罰が処されてきた。現在でも刑法108条の「現住建築物等放火」では、

「放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」

と記載されており、極刑も視野に入れた重罪という位置づけである。


最近の放火事件と言えば、昨年(2021年)12月に発生した「大阪新地のビル放火事件」や、2019年7月の「京都アニメーション放火殺人事件」が衝撃的で、それぞれ25人・35人以上の犠牲者を出している。

こうした凶悪事件の印象が強いが、放火自体の件数は年々減少傾向にあり、2017年までは「放火」が火災原因の一位だったが、以降は2位以下となっている。(総務省・消防庁「令和元年版 消防白書」)

ちなみに2020年のトップ3はタバコ・たき火・こんろだった。

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ところが減ったとはいえ、2019年だけでも放火は2,700件以上発生しており、これに放火の疑いを加えると4,500件以上が放火によるとみられる火災が発生している。つまり「疑い」まで含めれば、まだ放火が出火原因の一番なのである。
(総務省・消防庁・2019年(令和元年)の「放火及び放火の疑いによる火災の損害状況」)


次に、放火の実態、放火犯の特徴などについて。

色々と調べてみたが、アルソックのHPがとてもよくまとまっているので、気になる方はこちらをご参照下さい。(手抜き)


ちなみに、放火事件を調べていく中で「昭和54年警察白書」において、興味深い記載があったので紹介しておきたい。

放火は、他の火災原因と異なり、月別発生の偏りは見られず、年中発生する。時間帯では0~5時に多く発生する。人々が寝静まった後での犯行が多い。

放火犯の89%が男性
これについては、白書では以下のような記載があった。

放火は、従来女性型犯罪といわれていたが、放火被疑者の性別をみると、圧倒的に男性が多く、女性被疑者の比率は11.0%と53年の全刑法犯の女性被疑者の比率19.1%を大きく下回っている。

放火犯=女性という言われ方をしていた時代があったのが意外である。

また放火犯の動機については以下の記述がある。

連続放火犯では、「火事騒ぎを起こすため」、「世間に対する不満」、「火の喜び」というような通常人では考えられない動機で放火を行っているのが目立っている。

これは今と逆の感覚で、世間に対する不満で犯罪は起きるものという認識すらある。昭和と令和では、犯罪に対する考え方が大きく変化していることがわかる。


さて、放火の知識については以上にして、本作を見ていこう。

Qちゃんの住む町では近頃放火魔が現れて火事が増えたので、近所で交代で夜回りをすることになった。なぜか成り行きでQ太郎が大原家を代表して、警備に就くことになる。

夜警の本部は防犯会長の家。Qちゃんがその家に行くと、先にドロンパも来ている。彼も神成家の代表となったらしい。そしてもう一人、よぼよぼのおじいちゃんが来ている。息子夫婦が忙しいので引き受けたらしいが、大げさな咳やくしゃみをするので、結局夜警はオバケ二人が引き受けることに。

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見回りの時間は午前0時から二時間おきに計三回。町内隅々を回るという。先に紹介した「警察白書」にも犯行は0~5時の間が多いとなっていたので、この見回り時間の設定は妥当なものである。

しかし、季節は真冬。さすがのオバケたちも寒くて仕方がない。ここから、見回りをどっちがするか、Qちゃんとドロンパの駆け引きが始まる。

ドロンパは交代で見回ろうと提案し、先にQ太郎の番だと決めて本部に戻ってしまう。3回の見回りなので、最初に担当する方が一回多くなる。Qちゃんはそれに気づいてやる気を無くし、空を適当に周回して一度目の見回りを終えてしまう。

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戻ってくるとP子が温まるようにとおしるこを差し入れてくれる。Qちゃんは食べると眠くなってしまい、次の番がきたら起してくれと寝転がるのだが、すぐにドロンパに起こされて次の見回りの番だと嘘を付かれる。(まんまと騙される)


さて、ここからが「オバQ」ならではのナンセンスギャグの本番

「火の用心」と声を出しながら拍子木を打てば良いと指摘されたので、「火のよーじん」と大声を出すと、近所から「やかましい」と大ブーイング。Qちゃんからすれば好きで声を出してないのに、うるさいと言われるのは腹が立つ。

真面目にやってても聞いてもらえてないんじゃないかと思い、小池さんの家の中に入りこんで「火の用心!!」と声を掛けるが、「うるさいバカッ出ていけ!!」と激怒される。そりゃま、当たり前・・。

ちなみにこの時の小池さんの枕元にはポットと食べかけのラーメンが置かれている。夜食だったのだろうか・・。そして、ヌードル柄の掛布団が気にかかる。

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自分だけ寒いのを我慢しているのだと腹を立てたQ太郎は、やけっぱちで「火事だァ」と大声を出すと、近所中から「火事はどこだ」と水を持った人たちが出てくる。そして嘘だとわかると、水をQちゃんに掛けて帰っていく。かえって冷えてしまうQ太郎・・。

そんな中、怪しく物陰でマッチを擦っている男がいる。帽子とマスク姿で、Qちゃんが声を掛けると、「ギクッ」と反応する。登場した瞬間に、明らかに放火魔とわかる。Q太郎以外は・・。


ここからは、放火魔とそうとは知らないQ太郎との攻防が行われていく。

タバコに火をつけようとしていると男は言い訳するが、タバコは持っていないという。これで犯人とわかりそうなものだが、Qちゃんは「タバコならあるよ」と言って、タバコ屋さんに連れて行って無理やり店主を起こしつける。

仕方なく放火魔は「新生ひとつ」と、怒るタバコ屋のおばあさんからタバコを買う。ちなみにこの「新生」とは、日本専売公社(今のJT)から発売されていた銘柄の一つ。戦後復興の意味合いからその名が付けられた商品で、2018年までに販売が停止してしまった。

放火魔は「新生」を吸うと、Qちゃんは濡れて寒いのでその火にあたらせて欲しいと言う。放火魔は、だったらたき火をすればいいと言い出し、「あの家なんかどうだい」を指で示す。Qちゃんも、思わず

「それは温かくて良さそう・・・エーッ」

とノリ突っ込み状態に陥る。

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「それは冗談」と、放火魔はそこら辺の板を剥がしてきて、たき火を起こす。内心では「できることなら建てたまま燃やしたかった」と物騒なことを考えている。

Qちゃんは火にあたって気持ちよくなって寝てしまう。Qちゃんに徹夜はもともと無理なのだ・・。放火魔はそれを見て、「さあ仕事にかかろう」と放火に向かう。


ドロンパとおじいちゃんは、Q太郎の帰りが遅いと見回りに出てくるが、ちょうど放火魔が、ゴミ捨て場に火を放って逃げ出しているところに出くわす。ドロンパはすぐに追いかけるが見失ってしまう。

一方、たき火の脇で寝ていたQちゃんに、たき火が移ってしまう。アチチチとなるが、Qちゃんは寒さ対策なのか、何とこの日は服を二枚重ねしており、火のついた一枚を脱いで、遠くへ投げ捨てる。

すると、これがスポッと放火魔の体を包み込む。黒焦げとなってしまう犯人を見て、Qちゃんは「あ、マッチのおじさん」と、最後まで放火魔だと気が付かなかった様子。

何はともあれ、Qちゃんの活躍で連続放火魔を捕まえることができた。

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おじいちゃんからは、「きっと明日の新聞に大きく載るよ」と誉められる。嬉しくなってしまったQちゃんは、明日まで待てないということで、

「放火魔は捕まりました。安心して寝て下さあい」

と、ジャンジャンとドラを鳴らして大アピール。うるさくて寝られやしないご近所なのであった。


「放火魔」と「通り魔」の話を一本ずつ見てきたが、全く作風が違うことに改めて驚かされる。感動作もあれば、本作のようなバカ一直線のお話もある。この幅広さが藤子作品の大いなる魅力なのだ。


「オバQ」の紹介・考察たくさんやっています。


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